地上でコルドとタピオンがヒルデガーンとの戦いに向かった頃。
あの世、その中でも地獄と呼ばれる場所でも激戦が繰り広げられていた。
「ギャリック砲!」
戦いを繰り広げているのはベジータ、そして戦う相手はジャネンバだ。
ベジータの放った攻撃はジャネンバの手に持つ剣によって両断され、2つに分かれた気功波が遠くで大爆発を起こした。
「げひゃひゃひゃ!」
「ちっ、くそったれめ!」
ジャネンバはその姿を変貌させており先程の丸っこい巨体の姿から打って変わって、普通の人間サイズとなりスリムな体型となっている。
超サイヤ人3に変身したベジータに己の不利を悟るとジャネンバは自らの肉体を変化させたのだ。そこから状況は一転、先程まで有利に戦えていたベジータは逆に苦戦を強いられることとなった。
ジャネンバが剣を振るうたびにその軌道上に斬撃が飛び、距離を無視してそこらかしこが切り裂かれる。その軌道を予測し、ベジータは斬撃を回避し続けるが避けきれなかった斬撃に体を少しづつ切り裂かれていく。
「ならばこいつはどうだ! だだだだだだだだだだ!」
ベジータが反撃に複数の気弾を放つ。その気弾は斬撃を搔い潜りジャネンバへと殺到する。ジャネンバは己に向かい来る複数の気弾に向けて手をかざす。すると気弾が消滅、ベジータが驚愕に目を見開いていると消えた気弾がベジータの真上から降り注ぐ。
「なっ!?」
真上から降り注ぐ己の攻撃を咄嗟に回避するベジータ。その隙を突いてジャネンバは腕を伸ばし、ベジータの足を掴むと滅茶苦茶に振り回す。
振り回され、何度も地面に叩きつけられるベジータ。自由の利くもう一方の足で己の足を掴むジャネンバの手を蹴りつけてなんとか脱出する。
解放されたベジータ、しかし間髪いれずに拳が眼前に迫りくる。ジャネンバはその場を動いておらず、空間を捻じ曲げて自分の拳をベジータの目の前に送り込んだのだ。
あまりにも常識を外れたジャネンバの攻撃方法にベジータは顔面にジャネンバの拳をくらってしまう。
「がはっ…!」
まさにクリティカルヒット、ダメージも積み重なっていたこともありベジータの超サイヤ人3が解除される。そこにジャネンバは容赦なく追撃を加える。
「イヒッ…、ガアッ――!」
口を大きく開けたジャネンバからエネルギー波が放たれる。迫る巨大なエネルギー波がベジータを呑み込もうとした時、瞬間移動で現れた悟空がベジータを担ぎ、攻撃の範囲内から逃れた。
閻魔界で体力の回復を待っていた悟空がベジータの苦戦を見かねて救援にやってきたのだ。
「カ、カカロット…、いったい、何の真似だ…。助けなど不要だ!」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇ、来るぞ!」
間一髪のところでベジータを救出した悟空。
新たに現れた獲物にジャネンバはニタリと残虐な笑みを浮かべた。外見も合わさり、その姿はまさに地獄の悪鬼羅刹。
ジャネンバは悟空とベジータを纏めて切り裂いてしまおうと剣を振り上げ2人に飛びかかる。剣が振り下ろされる瞬間、悟空が己の額に両手をかざした。
「太陽拳!」
「ギッ!? ギャアアアアアアアアア!」
「ベジータ、こっちだ!」
悟空の太陽拳、強烈な閃光にジャネンバは視界を奪われた。
唸り声をあげながら苦しむジャネンバを置いて2人はこの場を離脱する。そして少し離れたところにある剣山、地獄の針の山の中に身を隠した。
気を消しながら様子を窺う悟空とベジータ。
「ジャネンバの奴、とんでもねぇ強さだ。このまま2人で戦っても勝てるかどうか…」
「ジャネンバだと? ああ、奴のことか。フン、それよりも貴様と2人で戦う? ふざけるな! 俺はそんなのは御免だ!」
悟空との共闘に激しく難色を示すベジータ。
「でもよ、オメェだってもうボロボロじゃねぇか。オラだってまだ体力が回復してねぇ。このまま一人で戦っても勝ち目なんか…」
「…奴には超サイヤ人3でさえ歯が立たんのだ。今の俺達が2人で戦っても勝てる相手ではない」
ベジータの言うことは尤もではある。超サイヤ人3の力を大きく上回るジャネンバを相手に今の消耗した2人が共闘したところでどうにかなるわけではない。例え2人の体力が全快だったとしてもどう転ぶか分からない強敵なのだ。
「だったらどうすんだよ!」
「ちっ、そんなこと俺が知るか」
打つ手の無い状況、打開策も思い浮かばず沈黙が流れる。その沈黙をベジータが打ち破った。
「…そもそも貴様は何故こんなところにいる。魔人ブウの復活を阻止しにバビディのもとに向かったのではなかったのか?」
「ああ、そういえば説明してなかったな。実は…」
閻魔界でほんの少しだけ顔を合わせた2人だがあの時は状況を説明している暇はなかった。故にベジータはこの時、初めてあの世とこの世の現状を詳しく知ることとなる。
悟空達の身に何が起きたのか、そして今の状況を知ったベジータが焦りを見せた。
「なんだと!? ならばまだ地球は…」
「そうだ、ブウとヒルデガーンはまだ暴れてる。それにこの地獄の有様をみたろ? 地獄の亡者が一人もいねぇ。ジャネンバの奴が全員地球に送ってやがんだ」
悟空とベジータ、それに悟飯、地球の戦士の中でも特に強力な戦士の殆どがあの世を動けないでいる。だというのに地上は敵で溢れかえっているのだ。
「コルド一人でどうにかなる敵の数じゃねぇ。ジャネンバを倒して一刻も早く地上に戻らなきゃなんねぇのに方法がないんじゃあ…」
「………………いや、ある」
「へ?」
状況を知ったベジータは考えを改める。何せ自分が命を捨ててまで守った家族の身に再び危険が迫っているのだ。ジャネンバを倒し、すぐにでも地球を救いに向かわなくてはならない。
だからこそベジータは思いつく中でも最も気に入らない提案を己の好敵手に告げることにした。
「な、なんだよその方法って!?」
「……………フュージョンだ」
「ふゅーじょん?」
ベジータの提案、それはフュージョンにより2人が合体して戦うというもの。それはベジータにとって苦渋の決断ではあったが確実にジャネンバを葬り去る事の出来る最善策だ。一刻も早く地上に戻りたい一心でベジータはこの方法を悟空に告げた。しかしここで問題が発生する。
「ちっ、コルドから聞いていないのか。詳しい説明は省くが2人の戦士が合体して大幅にパワーアップする合体技だ」
「そういえば前にコルドがそんなこと話してたような…」
その問題とは悟空とベジータの合体が必要な事態が来るとコルドが想定していなかったこと。つまりコルドは悟空に対してフュージョンのことを話しはすれど体得させるに至っていなかったのだ。
一応彼を擁護しておくとフュージョンを悟空に教えるつもりはあったのだ。そのためにも実物、つまりゴテンクスを見せた方が早いと考えていた。しかし曖昧な記憶によるフュージョンの伝授は難航し、思いのほか時間がかかってしまうこととなった。気がつけば天下一武道会の開催が近づいており練習の時間がとれなかったのだ。
加えて当時のコルドは戦力的にブウとの戦いを少し甘く見ていたところも大きい。事実、相手がブウ一人であればこの戦いは呆気なく終わっていたのだ。しかしそうはならず、そのつけが今この場に回ってきたのだ。
「確か2人でまったく同じ動きをする技だったよな」
「ああ、気に食わんが奴を倒す方法はこれしかないだろう」
「どんなポーズだったか教えてくれっか?」
「な、なんだと!? 貴様、覚えてないのか!?」
悟天とトランクスのフュージョンの練習は主にカプセルコーポレーションで行われていた。そのため悟空はそのポーズをあまり見る機会がなかったがベジータは別だ。
奇妙な動きをする自らの息子と息子の友人を遠巻きに眺めることが多かったためベジータはフュージョンポーズをかなりの精度で記憶している。
しかしその動きを他人に見せるのには激しい抵抗があった。
「しょうがねぇだろ。オラ、あんまりその技の事知らねぇんだ。ほら、早くしてくれ」
「ぐっ……! く、くそったれが、やむを得んか…!」
断腸の思いでベジータが悟空にポーズを教えようとした時、無数の光の破片が2人に降り注いだ。
「ぐぁっ!?」
「し、しまった、見つかった…!?」
高速で降り注ぐ光の雨あられに針の山はみるみるうちに崩壊し、悟空とベジータは隠れる場所を失うことになる。
崩れゆく針の山から飛び出した2人の前にブロック状に分解されたジャネンバの肉体が構成されていく。突然目の前に現れた敵に困惑する2人、そんな彼らにジャネンバの凶刃が振り下ろされようとして…
突如、ジャネンバの動きが静止した。
「ギィッ!?」
「な、なんだ…?」
「悟空さん、ベジータさん! 何か作戦があるのでしょう! 私が時間を稼ぎます、早くお行きなさい!」
現れたのは界王神、しかしその姿は悟空の知る物ではなかった。髪と背丈が伸び、服装も違うものになっている。まるで界王神に付き人であるキビトの特徴が合わさったかのような姿だ。
しかし悟空とベジータの危機に界王神が駆け付けたのは確かだった。
時は少し遡る。
界王神界で悟飯が老界王神の儀式を受ける傍らで界王神は水晶に映し出された地獄の光景を見ていた。
「ま、まずい…。このままでは悟空さんもベジータさんもやられてしまう…!」
水晶の中では悟空とベジータがジャネンバに圧倒されているところだった。2人とも消耗し、逃げ隠れている状況を聞いた悟飯が焦りを見せる。
「そんな…! 老界王神様、まだ儀式は終わらないんですか!?」
「落ち着け、パワーアップが済むまでまだもう少し時間がかかる。それだけお前さんの潜在能力が凄まじいということじゃ。少しでも早く終わらせたいなら心を落ち着かせ、儀式に集中するんじゃ」
「そ、そんなこと言ったってこのままじゃお父さんとベジータさんが…!」
「そうです、ご先祖様。このままでは2人ともやられてしまう!」
「よく見てみろ、あやつら、何かするつもりじゃ」
老界王神に促され界王神が水晶を覗くとちょうどベジータが悟空にフュージョンを提案しているところだった。しかしジャネンバの強襲によりすぐにそれどころではなくなってしまう。
追い詰められた悟空とベジータを見て界王神が立ち上がった。
「もう我慢できません! キビト、私を地獄に連れて行きなさい!」
「い、いけません! 界王神様をあのような危険な場所にお連れするなど…」
「ただこの場で彼らを見ていることしかできなくて何が神だ! やられてもいい、私は彼らを助けに行きます!」
悟空達の援護に向かおうとする界王神に老界王神が待ったをかけた。
「落ち着かんか、お前さんが行っても邪魔になるだけ…、だがまぁあやつらに助けがいるのも事実か。しゃあない…、おい、地獄に向かう前にその耳飾りを使え」
「耳飾りって…これを? いったいどうやって…?」
「その耳飾りはポタラといってだな、そいつをお互いの耳に付ければたったそれだけで合体できる。大幅にパワーアップしてな」
「ほ、本当ですか!? ならすぐにこれを悟空さん達に…」
「待て待て、これはあくまで神のアイテム。人間同士が使った時どうなるかは儂にも分からん。そいつを使うのは孫悟空達じゃない、お前達だ」
「「え!?」」
視線で界王神とキビトを指す老界王神。困惑する2人を置いて老界王神は説明を続ける。
「ただし、このポタラを神々が使えば二度ともとに戻ることができん」
「なっ、二度とですか…!?」
「うむ、まぁ神々以外同士が使った時は分からんが…、とにかくお前さん達が合体すればもうもとに戻ることはできん。それでもいいならポタラで合体し、あいつらを助けに行くがええ」
動揺する界王神、しかしすぐに落ち着きを取り戻してキビトに語りかけた。
「キビト、無茶な頼みかもしれません。しかしここは敢えて頼みます。この危機を乗り越えるためにも私と合体して欲しい。貴方の力が必要なのです」
「…界王神様、私の役目は界王神様に仕え貴方の助けとなることです。例えそれがどのようなことでもこのキビト、貴方の従者となった時から覚悟はできております」
「感謝します、キビト」
2人の決断は早かった。少しのやり取りを終え、2人は迷いなくそれぞれのポタラの片方を取り外した。その途端、2人の体が引き寄せられ、光に包まれた。
光の中から1人の男が現れる。
「これは…、これがポタラの力…!」
「さぁ、早く行け。今のお前さんなら多少は奴とも戦えるはずじゃ。ただし、くれぐれも死ぬんじゃないぞ。お前さんが、界王神が絶対に死んではならんことはよく知ってるはずじゃ」
「勿論です、ご先祖様。それでは行ってきます!」
すぐさま界王神界から姿を消す界王神。キビトの能力で地獄へと瞬間移動したのだ。
そして悟空とベジータに襲い来るジャネンバに界王神は割って入ったのだ。
「え、あ、あんた界王神様か!? なんだか随分と変わっちまったな…、それに気も大きくなってる、いったいどうやって…?」
「話は後で、急いでください! そう長くは持ちませんよ!」
「わ、分かった! 行くぞ、ベジータ!」
ジャネンバの動きを金縛りで拘束しながら界王神は悟空に自身が時間を稼ぐことを説明する。突如現れた界王神、しかし悟空は界王神がジャネンバを相手に戦うことができると判断するとすぐにベジータを連れて離脱した。
「ギギギ…ガァ!」
「くっ、やはり一筋縄ではいきませんね…!」
金縛りによる拘束を力任せに振りほどくジャネンバ。
自由を取り戻したジャネンバとポタラによる合体で大きくパワーアップした界王神が向かい合う。
「しかし私にも意地がある。界王神として少しでも役に立って見せますよ!」
周囲にキューブ状の鉱石、カッチン鋼をいくつも浮遊させ、ジャネンバを迎え撃つ。
界王神の決死の時間稼ぎが始まった。