世界中で戦いが巻き起こる中、ブウを取り巻く事態は進行していた。
コルド達がこの事に気がつかなかったのは魔人ブウが人々を襲うのを早い段階でやめたため、対処が後回しになっていたことが大きい。
本来の歴史通り、魔人ブウが暴れることをやめた一番の要因はミスターサタンとの出会いだ。サタンはこの世界でも同様に魔人ブウに取り入り、ブウの家来となることでこの混沌とした地球で上手く生き延びていた。
その最中、怪我をした子犬をブウが治療したことがきっかけでサタンはブウに人々を襲うことをやめさせたのだ。結果的にサタンはブウを改心させ、地球の脅威を一つ無力化したと言える。
しかしどういうわけか、魔人ブウは再び戦いの渦中にいた。その原因は…
「ば、化け物め…、宇宙最強のフリーザ軍が手も足も出ねぇ…」
「怯むな! 何としてでも奴を討ち取るんだ!」
「おい、おまえたち! なんでオレを攻撃するんだ!」
魔人ブウが戦っているのはあの世から蘇ったフリーザ軍の兵士だ。ブウは自らの建てた家を背に、フリーザ軍の攻撃を受け続けていた。
フリーザ軍が魔人ブウを襲うのには理由があった。
「お、おい、もう逃げちまわねぇか? あんなの勝てっこないぜ…」
「馬鹿野郎! 今ここで逃げ帰ったら俺達はコルド大王様に殺されるぞ! お前も見ただろっ、あのフリーザ様をたった一撃で倒したあの方の恐ろしさを!」
フリーザ軍は先日のコルドの命令を忠実に守り、地球で暴れている者達の鎮圧に取り掛かっていた。
数の多いフリーザ軍を利用して地球を防衛する。このコルドの作戦は意外にも上手く作用し、レッドリボン軍や普通の犯罪者などは瞬く間に捕縛されていった。本来の歴史でブウに対して余計なことをした2人組の悪人も例外ではない。
流石にヒルデガーン相手にはどうしようもなかったが、それでもヒルデガーンの注意を引き、時間稼ぎというこの作戦の目的を見事に果たした。尤も、多くの戦闘員が吸収されてしまい、ヒルデガーンがパワーアップしてしまうという弊害もあったがこれに関しては仕方ないことだろう。
「でもよぉ、あいつ全然反撃してこないぞ? 別に放っておいてもいいんじゃ…」
「いや、俺は見てたぞ。こいつが大きな都市をあっという間に壊滅させるところをな。こんな奴放って帰ったらコルド様の不興を買いかねん、なんとしてもこいつを取り押さえるんだ」
ブウとフリーザ軍の衝突、これは完全にコルドの誤算であった。コルドとしては暴れていないブウに余計な刺激を与えるような真似はしてほしくはない。しかしフリーザ軍からすればブウもコルドの命令による攻撃の対象だ。
せめてコルドが兵士達に随時細かく命令をだしているのなら話は変わったが、コルドが兵士達に命令したのは先日の暴れているものを取り押さえろという大雑把な一言のみ。ボタンの掛け違いが起こるのも無理はなかった。
結果的にフリーザ軍は魔人ブウの制圧にも取り掛かった。しかしブウの圧倒的な強さには歯が立たずに、戦況は膠着状態だ。こうなったのには理由がある。
本来、ブウの戦闘力ならフリーザ軍なんてものの数秒で全滅だ。しかしブウはサタンとの約束により、人を殺すという行為に抵抗があった。故にブウは反撃を最小限の威力にとどめていた。
対するフリーザ軍はコルドの恐ろしさに震え上がり、逃げようにも逃げれない状態になっていた。自らの主、フリーザを一撃で倒したコルドの存在は長年フリーザに仕えてきた兵士達にとって衝撃的なものだったのだ。コルドに逆らうことはフリーザに逆らうことより恐ろしい。実際はそうでなくてもフリーザの部下達にはコルドに対する恐怖が刻み込まれていた。
地球を救うためのコルドの作戦が、サタンのブウとの約束が、図らずともこの状況を生み出してしまったのだ。
そして引くに引けないフリーザ軍が最後の攻勢を仕掛けようとする。
「こうなったら…、お前ら! ここにいる全員で一斉に攻撃するぞ、あの変な家ごと吹っ飛ばしてやれ!」
リーダー格の男がまだ動ける面々に命令する。攻撃を一向にやめないフリーザ軍にブウは苛立ちを募らせる。サタンとの約束がなければとっくに全員を始末していただろう。
その時、ブウが背にしている家の中から、子犬を抱えたサタンが顔を出した。
「あ、あの~、なにやら騒がしいですが…、ブウさん、大丈夫ですか?」
「サタン! 家の中からでちゃだめだ、巻き込まれ…」
「今だ、一斉に撃てぇ!!」
サタンにブウが気を取られたその瞬間、この場のフリーザ軍全員が一斉にエネルギー波を放つ。咄嗟に迫りくる攻撃を弾き返すブウ。一つ一つの威力は大したものではない、だが数があまりにも多い。加えてブウは何かを守りながら戦う、という行為に慣れていない。それはブウの数少ない弱点の一つであった。
その結果、いくつものエネルギー弾がブウの家に着弾する。
「あわっ、あわわわわわ!? い、家が崩れっ…!?」
「サタン!?」
ブウの家は材質こそブウが人間を変化させた特殊な粘土だが特別頑丈というわけではない。フリーザ軍の攻撃によって崩れていく家。咄嗟に子犬を自分の体で庇うサタン、その姿は瞬く間に倒壊する家の中に消えていった。
残ったのは無傷のブウと瓦礫の山、ブウは目の前の光景を呆然と見ていた。
「サ、タ、ン…?」
大切なものを失う、それはブウが経験する初めてのことだった。それが切っ掛けとなり、ブウの中で怒りが膨れ上がる。怒りは邪悪なエネルギーとなり、ブウの体から漏れ出てくる。
初めての体験に苦しそうにうめき声をあげるブウ。
「ぎ、ぎぃぃぃぃぃ……」
「見ろ! あいつ、苦しんでるぞ! 俺達の攻撃が効いてるんだ!」
「よし、このまま攻撃を…」
「あああああああああああああああ!!」
「「なんだ!?」」
ブウの体からあふれ出た煙が、怒りが、もう一人の邪悪な魔人ブウとなり飛び出す。
そこから先の光景を、フリーザ軍は呆然と眺めていた。
突如分離した2人のブウが戦闘を始める。無論、優勢なのは邪悪なブウだ。戦いはお菓子光線を跳ね返された元祖ブウがお菓子となり、邪悪なブウに食べられることで結末を迎えた。
まるで原作を再現したかのようなやり取り、もしこの場にコルドがいれば一連の出来事に運命か、或いは歴史の修正力のような、見えざる力を感じていただろう。
かくして魔人ブウは生まれ変わった。心は邪悪に、体はより戦闘向きのものとなる、本来の歴史通りの変貌を遂げたのだ。
「今度は何だってんだ…あぇ?」
「お前、く、首が…!?」
ブウの変化を見守っていた兵士の首がへし折れる。何が起きたかも分からないまま倒れる男。その側にはブウの姿。魔人ブウが兵士の首をへし折ったのだ。
変化した魔人ブウにはもはやサタンとの約束は頭の中になかった。あるのは怒りのみ、自らの怒りを買ったフリーザ軍の兵士に対して、魔人ブウは心の赴くままに行動を開始する。
「ぎゃあああああああああ、腕が、腕があああああ!!」
「た、助け…、フリーザ様ぁぁぁぁぁぁ!」
惨殺、この光景を一言で言い表すならこれ以上の表現はないだろう。瞬く間に辺りは血の海、大勢いた兵士達は次々と見るも無残に倒れていく。
不幸にも最後まで残った男は魔人ブウによって同胞たちが惨殺されていく光景を目に焼き付けることとなる。
「ち、ちくしょう、コルド大王様にこの化け物、こんなことなら地獄からでてくるんじゃなかった…。今すぐにでも…地獄に戻り、てぇ…よ……」
バタリ、と最後の兵士が倒れる。兵士達は地獄さえもが可愛く思える最悪の記憶と共にあの世に送り返されることとなった。
怒りの原因を殺し尽くした魔人ブウが一人この場に残される。彼が怒りの次に感じたもの、それは…、
「なんで…、なんで俺より強い奴、こんなにいる…?」
困惑だった。
『じゃじゃーん! 正義の死神、超ゴテンクス様、参上!!』
『お、おのれ、このセルが…、こんなガキ共に…!?』
『老界王神様! まだ終わらないんですか!?』
『もうすぐ終わる。しっかり儀式に集中しろ、ここが踏ん張りどころじゃぞ』
『俺は悟空でもベジータでもない、貴様を倒す者だ!』
『ギギギ…! ガアアアアアアアアアア!』
『ここからが本当の戦いだ! 覚悟しろ、ヒルデガーン!』
『ぐおおおおおおおおおおおお!!』
魔人ブウは変化したことで手に入れた気の察知能力で、地上のみならず、あの世も含めた全世界の戦士の気を探知していた。そして感じた戦士の中には、自分さえも大きく上回るほどの力を持った強者が多数いることも把握した。
そのことは魔人ブウにとって許しがたいものだった。
「俺は、俺より強い奴を許さない、絶対に、絶対にだ!」
自分を超える強者の存在に、魔人ブウの中に再び強い怒りが芽生え始める。そしてブウはそれらを超え、自分こそが真の最強になる為にある作戦を思いついた。
「……楽しみだなぁ」
不気味な笑みを浮かべたブウが、場を飛び立つ。今のブウは気を消すこともでき、もはや誰にも見つけることはできないだろう。加えて戦士達は目の前の敵に集中しており、ブウが変化したことにすら気がついていない。不穏な動きをするブウを誰もが見逃してしまっていた。
そして、ブウが飛び立ち、少しして、ブウの家だった瓦礫の山が動きを見せる。ガラガラと音を立てて、瓦礫の山の中からサタンが顔を出した。
「ふぅ、危なかった。上手く瓦礫の隙間に逃れることができたが、もう少しでぺちゃんこになるところだったぜ…」
サタンは生きていた。持ち前の豪運と常人以上の身体能力で倒壊した家の中で生き残ったのだ。そして時間はかかったが、独力で脱出したサタンはノロノロと瓦礫の中から這い出てきた。
「ワンワン!」
「おぉ、よしよしワン公、お前も無事だったか」
勿論、ブウとサタンが助けた子犬も無事だ。崩れる家の中で子犬を庇ったサタン、流石は世界チャンピオンといったところか。
サタンは周囲を見渡す。辺りには倒壊した家と平原が広がっているだけだった。幸いなことにブウによって殺されたフリーザ軍の肉体は殺されたことで消滅、魂だけとなってあの世へと送られた。よってサタンがスプラッタな惨殺現場を見ることは無かった。
「それにしても、いったい何だったんだ…? 魔人ブウもいないし…あいつ、何処にいったんだ?」
「くぅ~ん?」
瓦礫の中にいたサタンはブウの凶悪な変化すら見逃していた。サタンと同じように子犬も首を傾げてハテナマークを頭上に浮かべる。
「何がなんだが分からんが…腹が減ったな。食料も全部瓦礫の中だし…、そういえば近くに街があったな。…行ってみるか」
一人と一匹はのろのろと歩き始めた。奇しくも、その方向は魔人ブウが飛び去った方角と同じものだった。
ブウがたどり着いたのは荒れ果てた都市だ。都市では今も尚爆発と火炎が巻き上がり、戦いが続いている。戦火を広げる張本人達を見つけたブウがほくそ笑んだ。
「いた…、あいつだ…」
ブウの視線の先ではコルドとヒルデガーンが激戦を繰り広げている。と言っても戦いはヒルデガーンがコルドを圧倒しているのが現状だ。
しかしブウにとってこの戦いの優劣なんてどうでもよかった。
「あの男、前の俺が戦った奴だ。あの男の力、あれさえ手に入れれば俺は…」
ブウはどうやって自分が真の最強の座に着くか、ただそれだけを考えていた。そこでブウが目をつけたのは以前の自分がいいようにやられたあの男、つまりコルドだ。
ブウにとってあの巨人、ヒルデガーンも魅力的だったが如何せん知能が伴っていない。下手すれば自分の理性が危ぶまれる。そもそもサイズ的に、そしてあの能力を考えるとヒルデガーンの吸収は現実的でない。
対してコルドであれば十分な知能をもっている。感じる潜在能力もブウのお眼鏡にかなうものであった。
「(あいつを吸収して、あのでかいのも、遠くに感じる大きなパワーの持ち主も、皆殺しにしてやる…!)」
ブウの考えは単純だ。コルドを吸収して自身がパワーアップすること、そして最強でなければならない自分の力を脅かす存在を全て排除することだ。もしコルドだけで足りなければ他の戦士も吸収する、最後に自分が頂点に立っていればそれでいい、それがブウの考えた結論である。
しかし以前の戦いでブウはコルドが油断ならない奴であることは理解している。自分も変化してパワーアップしたが、見ればコルドもヒルデガーンも先日より強くなっている。手を出すタイミングによっては自分が痛い目を見る危険性をブウは理解していた。
そのためにブウはコルドとヒルデガーンの戦いを密かに見物していた。コルドが致命的な隙を晒す、その瞬間をずっと待っていたのだ。