「でりゃああああああああ!」
ブウに向かってエネルギー弾を連射するベジータ。その一つ一つは飛礫のように小さなものだが、込められたエネルギーは凄まじいものだ。更に撃ちだされた数も桁外れのもの、その光景はさながらエネルギー弾の雨嵐だ。
そんなエネルギー弾の雨の中を、ブウは優雅に泳ぐように飛び回る。ただ漫然と飛び回っているだけに見えるがブウはベジータの攻撃を全て回避しているのだ。
「ふんふんふ~ん♪」
鼻歌交じりに気楽に飛び回るブウ。今のブウにとってはベジータの嵐のような猛攻を避けることは、そよ風の吹く草原を散歩するに等しい行為なのだ。
「ちぃっ! …フッ」
「ん? これは…」
自分の攻撃をものともしないブウに舌打ちをするベジータ、しかしすぐに不敵に笑った。ベジータの笑みに気がついたブウが立ち止まり、辺りを見渡す。そして気がついた。
ベジータの撃ちだした無数の光弾が宙に静止していることに。
ブウの周囲に浮かぶ光弾はさながら数多の星々のように煌めいている。ベジータはただ闇雲に攻撃を続けていたわけではない。すべてはこの一撃の下準備だったのだ。
「流石の貴様もこいつは躱せんぞ! 砕け散れぇ!」
「………フフッ」
瞬間、ブウの周囲を浮かぶ光弾、その全てが一斉に大爆発を起こす。桁外れの威力だ。もし今の大爆発をまともに食らえばどんな生物であれタダでは済まないだろう。
しかし俺は見逃さなかった。爆発の直前にブウが笑ったのを。
「ベジータ! 後ろだ!」
「な、なにっ!?」
まるで煙のように、いつの間にかブウがベジータの後ろに姿を現した。警戒を緩めなかったからか、いち早くブウの動きに気がつくことができた。声を張り上げてベジータに警戒を促すが、間に合わずベジータはブウに首を絞めつけられてしまう。
「がっ、は、放せ…!」
「今の攻撃、大した威力だったぞ。誉めてやろう。さて、次はこっちからいくぞ?」
ブウの頭部にある尻尾のような触手に首を絞めあげられて身動きのできないベジータ。彼を助けるべく、咄嗟に剣で触手を切り裂いた。ベジータに触れているということは実体があるということ、幸いなことにベジータの救出はすぐに成功した。
「大丈夫か、ベジータ!」
「ごほっ…、くそったれ、余計な真似を…!」
「おやコルド君、次は君が相手かな? そう慌てないでくれ、慌てずともちゃんと全員と戦ってやるさ」
「っ、舐めるな!」
勢いよくブウに向かって俺は剣を振り下ろす。しかし斬撃はブウの体を切り裂くことなくすり抜けた。目の前には変わらずブウがいるというのに、実体がそこには存在しないのだ。
「ククク、やはりこの能力は最高だ。最強の幻魔人たるこの私に相応しい!」
「お、おのれ、攻撃がまるで当たらん…!」
さっきからずっとこの調子だ。ブウに攻撃しても悉く避けられる、いや、当たらないと表現するのが正しいか。間違いなく命中しているはずの一撃も、ブウをすり抜けてしまい意味をなさない。言うまでもなくこれはブウが先程取り込んだヒルデガーンの能力だ。そして厄介なのはそれだけではない。
ブウが手を握り、拳を作った。
「よーし、先の宣言通り、次はこっちの番だ。ちゃんと耐えてくれたまえよ? 一撃で終わりなどと、そんな呆気ない結末は…、面白くないからな!」
「ぐっ! ぬおおおおおお!?」
ブウの繰り出す拳に対し、剣を滑り込ませるように盾にして咄嗟に防御する。しかしその攻撃のあまりの威力が剣を伝わり腕にびりびりと響いてくる。
能力だけでない、ヒルデガーンの力が加算された今のブウは単純な戦闘力も異常だ。おそらく本来の歴史で生まれたアルティメット悟飯を吸収したブウさえも上回っているに違いない。それにヒルデガーンの無敵化能力が備わっているのだ。もう手のつけられる相手ではない。
俺はブウの拳を防いだものの威力を殺しきれず、背後のベジータ諸共に殴り飛ばされた。
その時、吹き飛ばされた俺とベジータにすれ違うように、黄金の龍がブウに向かっていった。龍の正体、それは…
「龍拳ーー!!」
「なにっ!? しまっ…」
悟空の気で構成された黄金の龍がブウを呑み込んだ。
ブウを貫くように拳を振りぬいた悟空が振り返り、結果を確認する。俺とベジータも急ぎ復帰して様子を見守る。
煙が晴れた先にいたのは…
右半身を抉れるように吹き飛ばされたブウの姿だ。
ブウは驚いたかのように、自分の右腕があった場所を見つめている。そしてその驚愕の表情はすぐに笑みへと変わった。笑みを浮かべながら、瞬時に悟空の正面に移動するブウ。
「くっ…!」
「ふっふっふっ、こいつは驚いた。まさか今の私に攻撃を当てるだけでなく、これほどのダメージを与えるとは…だが!」
「ぐわぁっ!」
ブウは右腕を再生させると同時に悟空を殴り飛ばした。勢いよく吹き飛ばされる悟空を俺が受け止める。
「かはっ、なんて威力だ…」
「…孫悟空、奴をどう見る? 我々に勝ち目があると思うか?」
「さぁな、でもまったく攻撃が当たらねぇってわけじゃねぇ。勝てないってことは無いと思うぜ」
悟空の言うことはその通りだ。今だって悟空は奴に攻撃を命中させた。あの能力だって常に無敵ではないのは確かだ。それはヒルデガーンと幾度となく戦った俺がよく分かっている。問題はその能力をブウが持ってしまったことだ。
「無駄だ、君達に勝ち目なんて存在しないことがまだ分からないか! 今の攻撃には驚かされたが私を倒せるほどのものではない。そしてほら、今受けたダメージもこの通りだ」
見せつけるように再生した右腕を動かすブウに悟空が顔を顰めた。
「ちきしょう、今の技、とっておきだったんだけどな。ブウの野郎、平気な顔しやがって…!」
「くそったれ! 殆ど攻撃が当たらない上に、当たったとしてもすぐに再生だと? ふざけやがって、どうやって倒せというんだこんな化け物!」
今の悟空の龍拳、ヒルデガーン相手ならば致命傷を与えていただろう。さっきのベジータの攻撃だって以前のブウ相手であれば細胞一つ残さずに吹き飛ばせていたに違いない。
しかし今のブウ、幻魔人ブウが相手となれば話は別だ。ブウの再生能力にヒルデガーンの実体を消す能力。この組み合わせは凶悪すぎる。桁外れの戦闘力を持つブウの一瞬の隙をついてダメージを与えても、瞬時に回復されてしまっては話にならない。
「(落ち着け、悟空の言う通り完全に当たらないわけじゃない。問題はその威力だ。ブウを一撃で倒せる威力の一撃であれば奴を倒すことはできる…でもそんな方法あるのか!?)」
今のブウを倒せる威力の攻撃なんてあるのだろうか。少なくとも今の悟空の龍拳でさえも威力不足だった。これ以上となると一人ではなく、複数人で力を合わせる必要がある。
それこそセルを倒したときのように、俺と悟空とベジータの3人で一斉に攻撃を仕掛ければブウを倒す威力を持った攻撃を放てるかもしれない。だがそれを奴に命中させるのは不可能だ。何せチャンスはブウが実体をもつ刹那の瞬間、その一瞬に協力攻撃を命中させるなんて現実的ではない。
「(…待てよ、力を合わせる方法は他にもある!)」
その時、俺の脳裏にある方法が思い浮かんだ。
「お前達、フュージョンだ! 前に話したことがあったな? あれなら今のブウだって倒せるはずだ!」
俺の思いついた方法、それは悟空とベジータがフュージョンして、ゴジータとなる方法だ。最強の合体戦士であるゴジータであればブウの隙を突くことも、そして一撃で倒すこともできる可能性はある。しかし、俺の提案を聞いた2人の表情は優れない。
「フュージョン、か。確かにあれならあいつを倒せるかもしれねぇが…そいつは無理だぜ」
「な、何故だ!?」
俺の提案を否定する悟空。その理由を説明したのはベジータだ。
「あの気に食わん合体技は一度使うと1時間のインターバルが必要と言っていたな。俺達は地獄であのジャネンバとかいう奴を倒すのに既にフュージョンを使っている」
「ベジータの言う通りだ、あれからまだ1時間経ってねぇ。フュージョンしたくてもできねぇんだよ」
「な、なんということだ…!」
そういえば悟空達がどのようにしてジャネンバを倒したか聞いていなかったが、確かに奴はフュージョンを使わないと厳しい相手だ。しかしこうなるといよいよまずい。
俺と悟空、あるいはベジータでは体格が違い過ぎてフュージョンはできない。他にブウを倒せる方法も思い浮かばない。
作戦が考えつかず、焦る気持ちがブウに伝わったのか、奴はまた声をあげて笑い出した。
「ハッハッハッ! どうした、もう作戦会議は終わりか? ならとっとと…死ねい!」
「く、来るぞ! がはっ!?」
気がつけば俺はブウに殴りぬかれていた。あまりの速度に反応することもできなかった。
「コルドっ!?」
「この野郎、なんて速度だ…!」
そのまま俺は地面に叩き落される。なんとか立ち上がるが、すぐに俺の側に悟空とベジータも落ちてきた。2人も立ち上がるが、ダメージは大きそうだ。まずい、このままでは確実に負けてしまう。
「ククク、君達の名誉の為に一応言っておくが、君達は決して弱くない。むしろその逆、この私とここまで戦える戦士なんてこの宇宙にそういるもんじゃない。これは誇るべきことなのだよ」
対してブウは完全に勝った気でいる。いつでも俺達を倒すことができるのになにやら語りだした。完全に油断している。だがそれでも俺達にどうにかできる相手ではない。
「君達のような戦士がここで死んでしまうのはあまりにも惜しい。そこで提案がある。もし君達が望むのであれば…ぐぉっ!?」
しかしその油断が仇となったのか、ブウの体が何者かに蹴りつけられて吹き飛ばされていった。
「無事ですか、皆さん!」
ブウを攻撃した者の正体は孫悟飯だ。悟空の道着に身を包んだ彼からは前に見た時よりも重厚な気を感じ取れる。おそらく無事に老界王神様に潜在能力を解放してもらい、アルティメット悟飯となれたのだろう。
「悟飯! そうか老界王神様の儀式が終わったんだな!」
「はい! すぐそこまで界王神様に送ってもらったんです。間に合ってよかった」
悟空の反応からしてもそれは間違いなさそうだ。
「(でもいくら悟飯が加わってもあのブウに勝つことは…)」
悟飯が見違えるほど強くなったことは確かだ。しかし今のブウ相手では心もとないのが事実。先程吹き飛ばされたブウが余裕の表情で戻ってきたの見ると俺の考えは間違いではなさそうだ。
「ほう、君もこいつらの仲間か。そういえば以前の私と会ったことがあったな、もしや君も私と戦うつもりかな? やめておけ、その程度の力ではこの私には到底及ばん!」
「くっ、なんてパワーだ…! 僕も相当強くなったはずなんだけどな…」
気を高めて凄むブウに悟飯がたじろぐ。やはり両者から感じられるパワーはブウの方が明らかに上だ。
「…でも勘違いするなよ。僕が何の作戦も無しにここへやってきたと思ったか?」
「なんだと…?」
「お父さん、これを!」
その時、悟飯がこちらに向かって小さな何かを投げてきた。
「(あれは…まさかポタラか!?)」
悟飯が投げた物の正体はポタラだ。おそらく普通に戦えば勝てないと老界王神様が判断して悟飯にポタラを渡したのだろう。よく見れば悟飯の方耳にもポタラがついている。
確かにポタラで悟飯が悟空と合体すればゴジータ並みの戦士が誕生する。その戦士であればブウに勝てる可能性は十分にある。
期待に胸を膨らませ、放り投げられたポタラに視線を向ける。ポタラはまっすぐに悟空へと向かっていく。そして…
「へ、オ、オラ? え、あ…」
ポタラを掴み損ねた悟空の手に弾かれて大きく宙を舞った。
「ちょっ、お、お父さん!?」
「(何やってんだこいつ!?)」
思わぬ悟空のミスに心の中で突っ込みを入れる。見れば悟飯も俺と同じ反応をしている。図らずとも悟飯とシンクロしてしまったが今はそんな場合じゃない。
「こんな時に何をやってるんだ馬鹿者め!」
「し、しょうがねぇだろ! あんな小さいのいきなり投げられても取れねぇよ!」
「お前も同じことをやっただろう!」
「何のことだよ!?」
ポタラの受け渡しミス、これは本来の歴史でも同じことが起こっていた。だがあれは悟空から悟飯に投げ渡されていた。今回は立ち位置が逆になっているが親子そろって同じミスをしないで欲しい。
ついツッコミを入れてしまったが悟空からすれば訳が分からない話だろう。それに今はそんなことをしている場合ではない。
「いいからとにかく受け止めるぞ!」
「あ、ああ、分かった!」
必死にポタラを受け止めようと、右往左往する俺達。そんな俺達の様子を気にも留めず、ポタラは風に煽られて軌道を変える。その先にいたのは…
「む? なんだこれは…?」
「べ、ベジータさん!?」
ポタラの落下地点にいたのはベジータだった。自分に向かって飛んできたポタラを反射的に受け止めたベジータはそれがなんだか分からずに首を傾げている。
意図しない相手にポタラが渡り驚く悟飯。しかしすぐに気を取り直して大声でベジータに説明を始める。
「こ、こうなったら…、ベジータさん! それを耳につけてください! 僕と合体してブウを倒しましょう!」
「な、なんだと、合体!?」
目まぐるしく変わる状況に頭が追い付かないが、とにかく悟飯はベジータと合体しようとしている。当初の予定では悟空と合体するつもりだったのだろうが、この際そう言ってられないだろう。それにこの世界ではベジータと悟空の戦闘力に差はない。悟飯と彼らのどちらが合体しようが生まれる戦士に力の差はないはずだ。
「ふざけるな! なんでこの俺がカカロットの息子なんかと…、絶対にお断りだ!」
「そ、そんな…!?」
しかしベジータは悟飯の提案を一蹴する。彼の性格的にこうなることは分かっていたが今はそんなことを気にしている状況ではないはずだ。
「何言ってんだベジータ。さっきオラとフュージョンしたじゃねぇか。今更そんなこと気にすんなよ」
「ぐっ…、喧しい! なら貴様がすればいいだろう、俺は合体なんて二度と御免だ!」
「何をやっとるんだお前達! 今はそんなことしてる場合ではないだろう!」
言い争う2人を叱りつける。ブウがすぐそこにいるのにこんなやり取りをしている暇はない。そもそも今までのやり取りはブウも見ているのだ。合体を目論む俺達の作戦は筒抜け、とするとブウが取る選択は考えなくても分かる。
「合体だと? …この私を倒せるとは思わんが、念のため阻止するとしようか!」
「しまっ、ぐっ…かはっ…!」
「ま、まずい、このままじゃ悟飯がやられちまう!」
ブウに顔面を鷲掴みにされて地面に叩きつけられる悟飯。衝撃で砂埃が辺りに舞い散る。
「どうやら合体にはこの耳飾りが必要らしいな」
「くそっ、放せ…!」
「破壊してやるぞ…、貴様の顔と一緒にな!」
悟飯を押さえつけたブウの手が輝きだす。ブウは悟飯の顔諸共にポタラを粉々に吹き飛ばしてしまうつもりなのだ。
その時、悟飯の耳についていたポタラが引っ張られるように動き出す。そして何かに引っ張られるように悟飯の耳を離れていった。
「痛っ、え、ポタラが勝手に…?」
「動き出した!? バカな、いったい何故!?」
独りでに動き出したポタラに驚愕するブウと悟飯。やがてポタラは俺の手に吸い付くように収まった。
「安心しろ悟飯! ポタラはワシが預かった!」
「コルドさん!」
「そして…、受け取れ、孫悟空!」
ポタラを引っ張った力の正体、それは俺のサイコキネシスだ。念力を用いてポタラを悟飯の耳から外して俺のもとに引っ張ったのだ。
なんとかポタラの破壊は妨げた。しかし俺自身がポタラを装着することはできない。なので俺は悟空に向かってポタラを放り投げた。俺の投げたポタラは今度こそ無事に悟空の手に収まった。
「へへ、ナイスだぜコルド! おい、ベジータ、いい争っている暇はねぇ。オラ達でもう一度合体するぞ!」
「ふ、ふざけるな! 貴様とコルドですればいいだろう!?」
「ワシの耳をよく見ろ! したくてもできんのだ!」
俺が自分にポタラをつけなかった理由は俺の耳の形状にある。形状的につけたくてもつけれないのだ。とても耳飾りなどをつけれる形をしていない。
…よく考えるとフュージョンもポタラも使えないとは、不便な体である。
「ちぃっ、させるものか!」
「待て、ブウ! ここは通さないぞ!」
「邪魔をするなぁ!」
悟空達の合体を妨害しようとするブウを悟飯が必死に止めてくれている。今この時、合体が可能なのは悟空とベジータだけだ。
「時間がない、急げお前達!」
「ベジータ、一回も二回も変わんねぇよ! ほら、早く!」
「くそぉ、今日だけで二回もカカロットと合体することになるだと? なんて最悪な一日だ…!」
ようやく覚悟を決めたのか、物凄く嫌そうな顔でベジータは渋々ポタラを耳に着けた。
「いいんだろ、これで!」
「サンキュー、ベジータ!」
そして悟空とベジータの体が引き寄せられるように向かっていく。そして2人の体がぶつかり、光に包まれた。
「(生まれる、最強の合体戦士が…!)」
「なんだ、何が起きた!?」
ブウの表情が驚愕に染まる。悟飯を倒し、大急ぎで駆けつけたようだが一足遅かったようだ。
そして光の中から一人の男が姿を現した。
「よっしゃー!」
男の名はベジット。紛れもなく、幻魔人ブウに匹敵する戦士が今ここに誕生したのだ。