大王転生   作:イヴァ

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力を一つに、コルドに宿る世界の願い

 今のブウを倒す方法は一つしかない。それは奴の持つ実体を消す能力を掻い潜り、再生能力を使わせないほどの致命的な一撃で消し去ってしまうこと。

 そんなことができるのはベジットのようにブウを圧倒的に上回る戦士だけだ。しかしそれほどの力を持つ戦士をおいそれと用意はできない。俺と悟空が合体できれば話は別だが、俺の耳と体格ではポタラもフュージョンも使うことができない。

 

 そこで俺が目をつけたのは元気玉だ。元気玉を直接相手に投げつけるのではなく、自分の身に取り込む。それもただの元気玉ではなく、地球人全員の元気をギリギリまで集めた特大元気玉をだ。

 この方法ならブウを倒すことのできる戦士を生み出すことができるかもしれない。そう考えた俺は皆の協力を仰ぎ、なんとか元気玉を完成させた。

 

 

 そこまではよかった。問題はその次だ。元気玉を取り込む、言葉にすると単純だが実際に行うとなれば話が変わってくる。

 

「があああああああああああああああ!?」

 

 元気玉に飛び込んだ俺を襲ったのは尋常ではない激痛だ。まるで全身がバラバラになるような痛みが俺を襲う。

 

「フハハハハハハ、バカめ! これほどの巨大なエネルギーに飛び込むとは自殺行為だ! 何がしたかったか分からんがそのまま死んでしまえ!」

 

 俺の断末魔の如き叫びを聞いたブウが高笑いを上げる。しかし奴は一つ勘違いしている。

 

「(ち、違う、これは元気玉によるダメージじゃない。俺はこの巨大な元気玉を取り込むことができている…、だが、むしろそれが問題なんだ…!)」

 

 俺の激痛の原因は元気玉のダメージによるものではない。悪の気がないものであれば元気玉を制御することができる。つまりそれは俺が元気玉に悪人ではないと認められた証拠に他ならない。それは嬉しいのだが問題は別にある。

 

「(エネルギーを押し留められない…! 取り込んだそばから体を漏れ出ている、これじゃあ元気玉を全部取り込めない…!)」

 

 元気玉を体に押し込もうとすればするほど傷ついた肉体からエネルギーが溢れ出る。それが激痛となって俺を襲っているのだ。

 制御自体は辛うじてできてはいる。問題はエネルギーを入れる容器、つまり俺の肉体にある。元気玉の膨大なエネルギーを全て取り込む、宇宙随一の頑強さを誇るこの肉体であれば可能だと考えたが俺の想定が甘かった。これほど巨大なパワーを一人の体に押し込めるのは無理があった。

 

「(せ、せめて…、せめて体のダメージさえなければ…!)」

 

 もし俺の肉体が万全の状態であれば話は違ったかもしれない。しかし今の俺の肉体はボロボロ、満身創痍もいいところだ。これでは穴だらけの容器に大量の水を注ぎこむようなものである。もしこの場に仙豆が残っていれば回復できたが、あいにく持ち歩いていた2つの仙豆は既に使用済みだ。

 

 このままでは元気玉が消えてしまう。俺達の今までの戦いも、皆の努力も、何もかもが無駄になってしまう。ブウを倒すことだって到底できはしない。

 

 それだけは避けなくてはならない。

 

「ぐっ、ぬおおおおおおおおおお!」

 

 激痛を訴える体を無視して、無理やり体にエネルギーを詰め込む。詰め込み続ける。しかしそれが不味かったのか、とうとうその時がやってきた。

 

「あ………」

 

 

 俺の中で何かが砕け散る音が聞こえた。

 

 

 同時に視界から色が失われる。

 

 

「(あ、死ぬ)」

 

 死んだことは一度もない、それでも自分がこれから死ぬということがはっきり分かった。体の感覚が無くなり、先程まで感じていた体の痛みの一切が感じられない。今意識を失えば自分は間違いなく死ぬ、そんな確信と共に意識を手放そうとしたその時だった。

 

 

 

 

 視界が色を取り戻す。

 

「な、なんだ? 何が起きた…?」

 

 今にも失われそうになっていた意識も元通り、困惑していると頭の中に声が聞こえてきた。

 

『コルドさん! 3つ目の願いで貴方の体を回復しました! ダメージは全て元通りの筈です!』

「こ、この声は…界王神様!?」

 

 気づけば俺の体のダメージが全て無くなり、万全の状態に戻っている。界王神様が言った通り、ポルンガの最後の願いで俺を全回復してくれたのだろう。

 先程まで俺を襲っていた激痛も感じられない。今の状態なら、万全の肉体であればこの巨大な元気玉を全て取り込めるかもしれない。

 

『コルドさん、貴方は全宇宙の最後の希望です! どうか諦めないで!』

「く、くく、フハハハハハ!」

 

 ついこの状況に笑ってしまう。この願いは元々悟空の為に使われるものだった。それが何の因果か俺に使われ、あまつさえ俺が全宇宙の希望ときたもんだ。これが笑わずにいられるだろうか。

 

「感謝しますぞ、界王神様! そして…」

 

 あまりにも馬鹿げた状況、だがこうなった以上俺が代わりにあの台詞を言うしかないだろう。俺らしくも、そしてコルドらしくもない言い方かもしれないが、今回ばかりは大目に見てもらおう。

 

 

「サンキュー!! ドラゴンボール!」

 

 

 

 

 

 界王神界を照らしていた巨大な元気玉が突如として姿を消した。それは悟空が倒れたことにより元気玉がただ消失してしまった、ということではないことは誰の目から見ても明らかだった。

 なぜなら元気玉が存在していた場所には、光り輝くコルドが佇んでいたからだ。

 

「お、おい、あんた、大丈夫か!」

「あ、ああ……」

 

 悟空はサタンに肩を貸してもらいながら、辛うじて立ち上がる。ブウの妨害によって悟空の体はボロボロだ。それでもその視線は上空のコルドに向けられていた。

 

「へ、へへへ、信じられねぇ。コルドの奴…、あの巨大な元気玉を全部取り込んじまいやがった」

 

 悟空はコルドを見上げながら、信じられないものを見たように、それでいて楽しそうに笑ってみせた。

 悟空にとってあの元気玉を取り込むとは常識を超えた発想だった。通常の元気玉であればともかく、地球中の元気をかき集めたあの規格外の元気玉を体内に押しとどめることは通常の肉体では不可能だ。悟空の、サイヤ人の頑丈な肉体をもってしても現実的ではない。コルドの、全宇宙でも特別頑強な肉体だからこそ実現できた離れ業だ。

 

「これならなんとかなるかもしれねぇ…!」

 

 もはや悟空自身に戦う力は一片も残されていなかった。サタンに肩を借りて立っているのが精いっぱいだ。だからこそ悟空は全てを託して見守ることを決心した。

 不思議で、奇妙で、頼りになるがどこか抜けているところの多い、掴み所のない己の友人の勝利を心の底から願いながら。

 

 

 

 

 そしてコルドに相対するブウもまた驚愕を隠せなかった。

 

「ば、馬鹿な!? こいつは今にも死にかけだったはず、なのに、どうしてこんな!?」

 

 ブウはドラゴンボールの願いでコルドが回復したということを理解していない。ブウからすれば今にも死んでしまいそうだったコルドが急に息を吹き返し、超パワーアップを遂げたのだ。その光景はブウにとって信じがたいものだった。

 

 コルドの体から湧き上がる膨大なエネルギー。気を高めているわけではない、変身をしているわけでもない。ただ自然体でいるだけだというのに圧倒的な存在感がそこにあった。

 ある種の神々しささえ感じさせるコルドの姿に、ブウは最大限に警戒を強めながら構えを取る。

 

「くっ、まぁいい! ならばもう一度痛めつけるまでだ!」

「……信じられん、これが、ワシなのか?」

 

 対するコルドは自身の体を不思議そうに確認するばかりで構えを取る素振りすらみせない。それはブウの神経を逆なでするのに十分な行為であった。

 

「この私を無視だと…? 舐めやがってぇ!」

 

 怒りのままにコルドに拳を振るうブウ。

 

 

 しかしその拳は呆気なく掴み取られることとなった。

 

 

 

 

「なっ、馬鹿な!?」

「……なるほど、これが元気玉を吸収するということか」

 

 ブウの拳を掴みながら、俺はポツリと呟いた。

 

 元気玉を吸収した俺の戦闘力の飛躍は凄まじいものだった。体の奥底から力が湧き上がってくる感覚。少なくともブウと俺の間に存在した隔絶的な力の差は埋められた。今の俺であればヒルデガーンを吸収した幻魔人ブウにだって対抗できる。その確信があった。

 

「は、放せ!」

 

 俺に拳を掴まれたブウが煙のように掻き消え、大きく後退した。やはりいくら俺がパワーアップしたとはいえ、あの厄介な能力を無効化できたわけではないようだ。

 

「元気玉を吸収だと…? そうか、そういうことか。貴様はあの巨大な玉を利用したんだな? 私があの巨人を取り込んで強くなったのと同じ仕組みか…!」

 

 ブウも俺のパワーアップの正体にようやく気がついたらしい。しかし奴の言い方が気に食わないので訂正しておく。

 

「それは違うぞブウ。貴様の下劣な吸収能力と同列に語られては不愉快だ。訂正願おうか」

「何が違うというのだ!?」

「上手く言語化するのが難しいな。何と説明したものか…」

 

 目を瞑り、自分の内側に意識を集中する。すると元気玉に込められていた人々の意思が感じ取れた。平和な日常を踏みにじられ、滅茶苦茶にされた人々の怒りや嘆き。ブウを倒してくれと願う仲間達の祈り。それら全てが俺を突き動かしているのだ。

 

 端的に言えば俺が元気玉を完全に制御したというよりかは、元気玉側が俺に力を貸してくれていると表現すれば分かりやすいかもしれない。

 

「ワシが元気玉を利用したのではない。元気玉が、地球の意思そのものがワシを動かし貴様を討つのだ」

「な、何を訳の分からんことを…!」

「…貴様に説明しても分かるはずないか。気にするな、忘れてくれ」

 

 おそらくブウには一生理解できないだろう。俺一人の力であの特大の元気玉を制御しているのではない。元気玉が、地球と、そこに住む人々、そして仲間達が俺に力を貸してくれているのだ。

 だが、それでも今のブウが強敵であることには変わりない。通常の方法で戦って勝ち切れるか、俺にベジットと同じような芸当ができるかは不明だ。

 

「(考えろ、こいつを確実に倒す方法を…、必ず何かある筈だ……そうだ!)」

 

 その時、俺はとある方法を思いついた。奴を確実に葬り去る、ある方法を。上手くいくかは分からないが、普通に戦うよりかは勝つ確率は高いはずだ。

 俺はその作戦を実行するべく、剣を抜き放ち、構えてみせた。

 

「話は終わりだ。さぁ来い、幻魔人ブウ! この戦いを終わらせてやる!」

 

 剣を構えた俺に対して、ブウも対抗するように剣を構えた。

 

「いいだろう! 君達の相手にも飽きてきたところだ、そろそろ決着をつけようじゃないか!」

「(きた…!)」

 

 剣を手にして飛びかかってくるブウを俺は迎え撃つ。刃と刃が何度もぶつかり合い甲高い音を界王神界に響かせる。

 やはり強い。俺もかなりパワーアップしたがそれでもなお互角、このまま戦い続けても奴に致命的な一撃を与えるのは難しいだろう。現に何度か完全に奴に命中したはずの俺の斬撃もすり抜けてしまっている。ブウは例の能力で俺の攻撃を回避しているのだ。

 

「(だがこれでいい! 奴が剣を持ち出した事、そのことに意味があるんだ!)」

 

 現時点で俺の作戦の一段階目は成功している。俺はどうしてもブウにあの剣を使わせたかったのだ。そのために俺は自らの剣を抜き、大袈裟に構えてみせたのだ。そして俺の目論見通り、奴もまた剣を抜いた。

 

 その時、俺と激しい剣戟を繰り広げていたブウが距離を取り、その動きを止めた

 

「…ククク、やはりそうか。確かに貴様は強くなった、だがベジットと呼ばれていたあの男のような圧倒的な力は感じられん。勝負は見えた、貴様ではこの私に勝つことはできん!」

 

 勝ち誇ったかのようなブウの態度、確かに奴の言う通りこのまま戦い続けても勝機は見えてこないだろう。だからこそ俺は大袈裟に奴を煽ってみせた。

 

「いいや、我々は必ず勝利する! 例え貴様がどれだけ強かろうが、その刃がこのワシに届くことは決してない!」

「戯言を…、ならば次の一撃で終わりだ!」

 

 俺はブウに刃を向け、刀身にエネルギーを纏わせてみせた。そして奴もまた俺と同じように刀身にエネルギーを漲らせる。この一撃で勝負が決まる、誰の目から見てもそれは明らかだろう。

 

 俺とブウの視線が交差する。先に動き出したのはブウの方だ。

 

「最強の幻魔人たるこの私の一刀に沈め、コルドォ!」

 

 剣を振り上げ、凄まじい速度で俺に斬りかかってくるブウ。そんな奴の姿が目の前に迫ったところで俺は、

 

 

 

 自らの剣を手放した。

 

 

 

「な、なにぃっ!? 剣を捨てただと!?」

「(今だっ!)」

 

 剣を手放す、俺の突拍子のない行動に動揺が走るブウ。そして想定外の事態にブウの太刀筋に僅かな乱れが生じたのを俺は見逃さなかった。

 

 

 

 俺は自身に振り下ろされる刀身を両手で挟み、奴の剣を受け止めてみせた。

 

 

 

「しまっ、ぐおっ…!」

 

 真剣白刃取り、それはブウにとって予想だにしない防御方法だったのだろう。慌てるブウ、俺はすぐさま奴の腹を蹴りつけ、奴を蹴り飛ばした。

 結果的に俺の手元には奴の剣が、いや、タピオンの、勇者の剣が残ることとなった。これで俺は作戦の二段階目、タピオンの剣を奪い返すことに成功した。

 

「おのれ! そいつを返せ!」

「返せだと? 笑わせる! これは我が友タピオンの物だ、断じて貴様の物ではない!」

 

 先程奴がタピオンの剣を使った時から俺は静かに怒りを感じていた。この剣はタピオンが振るうべきものであってブウが使っていいものではない。これでブウに奪われた物を一つ取り戻すことができた。

 

「それと、貴様には返してもらうモノがまだもう一つあったな…」

「な、何をするつもりだ…!?」

 

 俺は彼の剣を持ち替え、大上段に構える。先程ブウに言っておいてなんだが、少しの間だけタピオンの剣を貸してもらう。

 タピオンの剣、悟空の作り上げた地球の全てと言っていい元気玉、それら全てが俺に力を貸してくれている。柄にもないことを言うが、今の俺にならなんでもできるような気がした。

 

 今から俺がやろうとしていること、それは普段の俺ならば絶対にできないことだろう。しかし今の俺ならば話は別だ。俺の研ぎ澄まされた感覚は、ブウの体内のとある存在が発する微弱な気を完全に捉えていた。

 

 俺は刀を振り上げて、ブウに斬りかかる。

 

 

「返してもらうぞ、我が友人を!」

 

 

 俺の振り下ろした刃はブウの胸部を深く切り裂いた。

 

 

「ぬぉ!? ば、バカなっ!? なぜ攻撃が当たる!?」

 

 ブウは知る由もないだろうが、無敵の強さを誇るヒルデガーンの能力には2つ目の弱点が存在する。一つ目は攻撃の瞬間に実体化する必要があるということ。もう一つはこの剣、勇者の剣だけは例外。この剣であれば能力を無視して攻撃を当てることができるということ。

 

 俺がやろうとしていたことにはかなりの精密さが要求された。少なくとも自分の剣でカウンターの一瞬を狙いそれを行うことはできなかった。例の能力を無視して奴を斬ることのできる勇者の剣がどうしても必要だったのだ。

 

「くっ、だ、だがこの程度の傷、私にとっては何の意味もない!」

 

 確かにブウの言う通り、こいつの体を多少切ったところですぐに再生してしまう。今付けた傷だって既に再生が始まっている。だが俺にとってそんなこともうどうでもよかった。今の一撃で俺の目的は達せられたのだから。

 

 

 

 俺はブウに向かってピンク色の小さな肉塊を差し出した。

 

 

「これは…、私の体の一部か? いつの間に抜き取ったのか知らんがいったい何を考えて…」

 

 俺の掌に転がされた肉塊を見て怪訝な顔をするブウ。

 俺はブウの体を斬り裂くと同時に、その傷からとあるモノをブウの体から抜き取ったのだ。ブウはまだ気がついていないがこれは奴にとって代えの利かない重要なモノ。そして俺にとっても大切なモノだ。

 

 やがてブウは肉塊の正体を悟ったのか、みるみるうちに顔を青ざめさせた。

 

「ま、まさか、これは…、こいつは…!?」

「言っただろう? 返してもらうと」

 

 肉塊はブウの体内から解放されたことで元の大きさへと変化する。

 

 

 

 そして俺の腕の中に気絶したタピオンが姿を現した。

 

 

 

「我が友、タピオン。確かに返してもらったぞ!」

「な、バカなっ! そんな…、いつの間に!?」

 

 俺がブウの体内から抜き取ったのは奴に吸収されたタピオンだ。普段では捉えることができないほど微弱な気を頼りに、奴の体外から直接タピオンを抜き取るのは至難の技だった。元気玉によるある種の覚醒状態と、彼の剣があったからこそできた芸当だ。

 タピオンを失ったブウが慌てて彼を取り戻そうと俺に飛びかかってくる。

 

「か、返せ! 今その男を失えば私が…私じゃなくなる! ぐっああああああああ!?」

 

 突如、頭を押さえて苦しみ悶えるブウ。タピオンを失ったことで今ブウの体内に残されているのはヒルデガーンのみだ。既に善ブウも排出済み、理性を保つのに必要な存在は奴の体内に何一つ残されていない。全身を崩壊させつつ、甲高い音と共に煙を発するブウ。

 

 俺は苦しむ奴を無視してタピオンを離れた悟空達のいる場所に運ぶ。

 

「うぉ!? い、いつの間に…」

「孫悟空、悪いがこの男のことを頼むぞ。ワシにはまだやることが残っているのでな」

「ああ! 早いとこ決着つけてこい!」

 

 ついでに剣をタピオンに返しておく。この剣は彼が持っておくべきものだ。悟空と、ついでにサタンにタピオンのことを任せて俺はブウのもとにとんぼ返りする。すると苦しみ続けるブウから分離するように、煙のようなものが排出された。

 

 煙はブウから離れたところに集まり、やがて正体を現した。

 

「ぐるるるるるる…、がああああああああ!」

 

 煙の正体はヒルデガーンだ。不安定な状態になったからか、あるいはタピオンを失ったからかは分からないが、ブウは自らの体内にヒルデガーンを押し留めておくことができなかったのだろう。これでブウは吸収していた全てを失ったことになる。

 

「ち、ちくしょう…、こんな、ことが…、私の、無敵の力が…」

 

 解放されたヒルデガーンに向かって手を伸ばしながら苦しみ悶えるブウ。俺はそんなブウを放置して、先程手放した自分の剣を拾い上げながらヒルデガーンに向き合う。

 

「ヒルデガーン、貴様にも随分と苦しめられたが…、それももう終わりだ」

 

 完全体のヒルデガーン、普通に戦えば苦戦する相手だが今の俺であれば確実に葬り去ることができる。奴も俺の変化に戸惑っているのか、憎いはずの俺に対してすぐに襲い掛かってこない。おそらく奴自身も俺に敵わないと、本能的に感じ取っているのだ。

 

「がああっ!」

 

 俺に向かって放たれたこの拳は奴にとって必死の抵抗だったのだろう。しかし今の俺にとっては苦し紛れの悪足掻きに過ぎない。

 俺はヒルデガーンの拳を寸前で回避して奴の拳に剣を突き立てた。そのまま腕を斬り裂きながら奴の顔に向かって駆け抜けていく。驚愕に染まるヒルデガーンの表情、その首元に向かって俺は剣を振りぬいた。

 

「千年に及ぶ因縁。タピオンに代わりこのコルドが終止符を打つ!」

 

 

 一閃。

 

 

 ヒルデガーンの頭部が宙を舞い、地面に落下する。遅れて頭を失った胴体が大きな音を立てながら崩れ落ちた。

 実体を消して逃れる暇もなく首を切り落とされたヒルデガーン。倒れた胴体と切り落とされた頭部はやがて砂のように消えていった。

 

 俺達を苦しめ続けた幻魔人ヒルデガーン、その最期はあまりにも静かなものだった。

 

「これでヒルデガーンは倒した、後残すのは…」

 

 俺は消えゆくヒルデガーンの巨体に背を向けてブウに視線を向ける。

 

「貴様だけだ、魔人ブウ」

「ヒ、ヒィッ!?」

 

 視線を向けた先のブウは既に変化を終えていた。所謂純粋ブウと呼ばれる形態だ。自制心をまったく持たない悪そのものの存在。

 だがそれがどうしたというのか。ヒルデガーンを失い、タピオンも救い出した以上、もはやブウは脅威でもなんでもない。それでも万が一この場から逃げられたら厄介だ。油断も慢心も無し、一撃で倒してしまうことにする。

 

「ア、アア……、ウアアアアアアアアア!?」

 

 俺の意図に気がついたのか、あるいは絶対に敵わないと悟ったのか、ブウは自分が瞬間移動できることも忘れて俺に背中を向けて逃げ出した。

 

 俺は奴に止めを刺すべく、宙に浮かび腕を上げて人差し指を立てた。

 

「ん? これは…」

 

 俺の指先に生成された球体、それは俺の意思に反してどんどんと大きくなっていく。それはいつもの禍々しい黒い球体ではなく、青く光り輝いている。本当はデスボールを放とうとしたのだが、これではまるで元気玉だ。いや、まるで、ではない。きっとこれは俺に力を貸してくれている元気玉そのものなのだろう。

 

「ククク、なるほど。確かにこいつの方が奴を倒すのに相応しい、か」

 

 本来であれば俺は元気玉を使うことはできない、でも今回は特別ということだろう。地球が、そこに住む人々が、仲間達が、元気玉がそれを望んでいる、そんな気がした。

 

「魔人ブウ! これは全地球人の祈りだ、貴様に破壊された地球の叫びだ! 受けてみろ、これが我々の…元気玉だ!」

 

 悟空に代わり、特大の元気玉をブウに向けて投げつける。元気玉はまっすぐにブウに飛んでいき、背中を向けて逃げ惑うブウに見事に命中した。

 

「アアアアア、アア――ア――ァァ―――」

 

 元気玉はブウを呑み込むと爆発、そして光の柱となって天へと昇っていく。壮絶な光の柱はブウの細胞を一片も残さずに消滅させると、やがて静かに消えていった。

 

 あの世さえも巻き込んだ、全宇宙の存亡をかけた戦いがようやく幕を下ろしたのであった。

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