気がつくとボクは温かな水の中に浮かんでいた。
奇妙なことに息ができる。
圧迫する水がお腹の大穴を止血している。
染み込む魔力がボクを生かそうとしている。
これは
その引き絞った弓の先で
助けないと。
起きあがろうと水を掻いて、自分の腕が細くなっていることに気づく。翼が無い。脚もだ。猛禽の鋭い爪も逞しい指も無くなっている。音が遠い。視野が暗い。裸の、か弱い、ただそれだけの人間がそこにいた。
そうか。ボクはもう、必要ないんだ。
「無数の
お爺ちゃんが呪文を唱えると手に持つ結晶が煌めき、衝撃波が起こる。獅子丸アキラと鷹羽音エリカが弾き飛ばされ、逆叉サツキの放った矢が掻き消される。地下空間が激しく鳴動し、地面や天井に罅割れが走る。
「だとしても!そんなものは!!諦める理由になりません!!!」
大霊脈に向かうお爺ちゃんの行く手に、獅子丸アキラが再び立ち塞がった。いや、何度でも、なのだろう。目を凝らしてよく見れば、彼女の赤色のバトルドレスは既に激しく破れ、汚れ、煤けてしまっている。ただ爛々と燃え続ける大きな瞳の輝きだけは揺るがない。
「大霊脈と究極結晶の衝突が生み出す莫大なエネルギーは、なるほど、次元跳躍さえ可能にするのでしょう。だけどその余波だけでこの街は消し飛ばされる。そんなこと許しはしないわ」
「大好きなこの街は、この街のみんなは、私たちが護るんだ!」
似たような光景が何度か繰り返された。打ち倒され、立ち上がるたびに、魔法少女たちは傷つきぼろぼろになっていく。それでも、決して諦めることはしない。
でもそれはお爺ちゃんも同じことだ。
お爺ちゃんは故郷に帰ると言った。その為に究極結晶が必要で、だからボクを
お爺ちゃんはずっと家に帰る為に戦って、今ようやくその手段を手に入れた。諦められるはずがない。
だけど。
帰るってことは、いなくなるってことだ。
いなくなるってことは、もう会えないってことだ。
ああ、それは嫌だな。
お爺ちゃんが嘘をついていても、一緒に過ごした時間は嘘じゃない。おっきくて、本が好きで、楽しくて、優しくて、ちょっと厳しいお爺ちゃんは嘘じゃない。
ボクはまだ、ずっと一緒にいたい。
「それが『キミの願い』だね」
いつの間にかボクの目の前に白くて半透明な小さい梟が浮いていた。
「初めまして、
「ずっと『キミの願い』を待っていた。『誰かの願い』を叶える姿は美しいけど、短い人生それだけじゃ物足りないだろう? 魔法とは心の力。心からの願いこそが少女に魔法の力を齎すのさ」
梟の姿が白く輝く宝石に変わる。
手を伸ばし、そっと握りしめる。
「さあ謳え魔法少女、『キミの願い』を!」
帰って欲しくない。お別れにはまだ早い。離れ離れは嫌だ。また3人で美味しいご飯を一緒に食べたい。もっと笑って欲しい、怒って欲しい、褒めて欲しい。
ボクはお爺ちゃんと一緒にいたい!
たとえそれがお爺ちゃんの願いに背くことであっても!
「変身!」
胸の奥から魔力が湧き起こる。
それは全身に充満して傷を癒やし、体外に溢れ出すと力場となる。ボクを護っていた水球は内から弾け、裸の身体にバトルドレスが形成されていく。
ぴったりと張り付く黒のインナー、細身の白いブレザータイプにふわりと揺れる短めのスカート、長い両袖は翼状、膝上のロングブーツは猛禽の鉤爪を思わせる形状をして、胸元の大きなピンクのリボンには白く輝く宝石が収まっている。
それは人造真珠。人類の叡智と貪欲の光。
ドレスのアクセントに黒の刺繍が施され、仕上げに星の耳飾りが装着される。凛と鳴る音のあと、感覚が澄み切って視界と聴覚が帰ってくる。
梟の精霊を宿した白色の魔法少女。
【夜を操る魔法】を持つ白森ツバサ。
ボクは4人目の魔法少女になった。
ありがちな追加戦士設定。
なぜお爺ちゃん(巨漢)をヒロイン(?)ポジに置いてしまったのか自分でも分かんないですけど次回最終回です。
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