魔法少女世界で怪人をやる話   作:筑紫満天星

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第八話【角と蹄に賭けて!シカ娘の野望!】


第四話 取引

雨雲を避けて低空を飛ぶ。

眼に入る雨粒が煩わしいけど無視する。

ピンと張った羽毛は水を弾き、この程度の雨で重くなることはない。

羽搏きの度に加速し、散らした水滴を置き去りにする。

 

見えた。

空からでも目立つ楕円型の扁平な建物。

お爺ちゃんのいる競技場だ。

一気に高度を下げる。躊躇う暇は無い。突入する。

 

 

 

結果から述べると、お爺ちゃんは無事だった。

 

怪人の狙いはお爺ちゃんではなく競技場の方だったらしく、ボクが駆けつけた時には観客席に巨きな身体を縮こめて、窮屈そうに座っているだけだった。

素朴な麦わら帽子に怪しげな黒丸眼鏡。顔半分を覆うわさわさの白髭は自前。派手なアロハシャツがよく目立つ。いつもの変装セットは見つけるのがとても簡単だ。ボクに気づいたのか、わざとらしく被り直してみせた麦わら帽子がちょっと傾いてる。元気そうだ。

 

観客席では下っ端戦闘員たちが監視をしていたので真っ先に潰した。人質をとっているつもりだったんだろう。こいつらは心臓(コア)を持たず、食べるところがない。テキトーに捨て置いてOKだ。

 

観客がパニックを起こさなかったのは良かった。

みんな椅子にしがみついたまま、嵐が過ぎ去るのをじっと耐えるように動かず、全く邪魔にならなかった。えらいぞ、褒めてあげる。なんだよ、サインならやらないぞ。えっいらない? そっかあ。

 

猛禽の脚で握り潰した“だったもの”を最上段から放り投げる。それは段々の通路を転がり落ち最前列のフェンスにぶつかって動かなくなった。似たようなものがそこら中に散乱している。ちょっと雑だったかな。まあいいや、スピード重視スピード重視。

 

フェンスの先には緑の芝生が敷き詰められたレース場があり、5体の怪人に囲まれた独りの魔法少女がいる。黄色の、鷹の精霊を宿した魔法少女、鷹羽音(タカバネ)エリカだ。一方的に攻撃されていたのか彼女だけボロボロで地に片膝をつき、衣装も髪も濡れた芝生で汚れている。

 

怪人の方は、4本足のケモノ胴に2本腕のヒト胴がくっ付いたいわゆるケンタウロス型だ。分かれた蹄にピンと立った短い尻尾。ド派手に真っ赤なドレスと赤い鞭。巻き巻きの金髪ツインテールドリル。その頭には雄々しく聳える一対のツノ。ウマじゃない。性別不詳のシカ怪人だ。

 

それが全部で5体。色違いのドレスと型違いのツノを並べて鷹羽音エリカの周囲を踊るようにぐるぐると回っている。特に赤いシカの勝ち誇った笑いと口元へ添えた右手が鬱陶しい。なんだそのポーズ。お嬢様か?

 

他の魔法少女の気配はない。隠れているわけでもなさそうだ。単に近くにいなかったのだろう。独りじゃ何も出来ないのが魔法少女の弱点なのに、正義の味方は大変だなあ。

 

この間も逆叉(サカマタ)サツキが大型犬の怪人に単独で籠絡されて敗北寸前だったじゃないか。もふもふに包まれたあのふにゃふにゃ顔は良い見世物だったけど、少しは学習した方がいいと思うな。

 

うんうんと独りごちていると、流石にこちらに気づいたのかシカの赤い奴が鞭を振り回して地団駄を踏み始めた。裏切り者とか、食人鬼とか喚いている。心外だなあ。

 

にこやかに手を振ってあげると、顔まで真っ赤にして鞭を振り上げ、ボクの方へ向けて指揮棒のように振り下ろした。

 

号令一下。

 

4色のシカが弾けるような跳躍でボクに向かって襲いかかる。やっぱり赤い奴がリーダーらしい。統率の取れた複数の怪人と戦うのは初めてだけど、あのシカは手痛い見落としをした。油断したのだろう、それまで無抵抗だったのだから。

 

赤いシカの足元で黄色の影が立ち上がる。背中に雷光を纏う翼が展開し、羽根の如く拡散し、やがて全ての魔力が右手へと凝縮する。

 

 地から天へ。

 

【雷を操る魔法】。

 

紫電漲る一撃は振り抜いた拳の先から迸り、極太のビームとなって赤いシカを空の彼方へと撃ち出した。シカは、星になった。

 

雲が割れ、雨が上がる。陽光が差し、濡れた芝生と魔法少女の姿を照らしている。

 

輝きと共に振り返った鷹羽音エリカの笑顔とvサインを、特大の歓声が迎えた。

 

 

 

業腹なことに、4色のシカ怪人は食べ損ねた。

あろうことか鷹羽音エリカが奴らを庇ったのだ。

話によると、シカ怪人たちの目的は『ウマばっかりズルい、シカだって目立ちたい』というだけで、今回はやり方を間違えてしまったが、必ずしもヒトに害を為すものではないらしい。もう一度だけチャンスを上げたい、と熱弁されたがそんなものはボクの食事には関係がないことだ。

 

拒否しようとすると、鷹羽音エリカはポシェットから1つの携帯端末を取り出した。それにはある重大な録画データが保存されていて、その取引のためにボクは捕食を諦めるしかなかったのだ。

 

わ!バカ!!再生するな!!撫でられて嬉しそうだあ!?そんなわけあるかっ!!!いいから停めろ!お前たちも見るんじゃない!!しっしっしっ!!!

 

いいか、ちゃんと消せよ!約束だからな!嘘ついたらハリセンボン呑ませるからな!!尻尾からだぞ!!!

 

ううぅ、覚えてろお!

 

教会まで逃げ帰ったボクは少し泣いて、帰宅したお爺ちゃんに褒められ毛繕いされるまで不貞寝を決め込むのだった。

 

**

 

「ツバサちゃんとお友達になれたよぉ」

「凄いです!そんな方法があったんですね!!次はワタシも!!!」

「・・・・・・同情するわ」

 

 




魔法少女は敵を殺さないので赤いシカ娘も生きています。多分。

お爺ちゃんのビジュアルはプトレマイオス(fgo/老人の姿)をイメージしています。デカい。賢い。フクロウっぽい(?)。


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