廃ホテルでの戦いから1週間が経過した。
あの後、
もしも悪の組織がこの特級結晶を手に入れていたら、下手をしたら今のボクよりも更に強力な怪人が造られていたかもしれない、らしい。まあ仮にそうなってもボクは負けないが。
それでもその事態を阻止し、しかも特級結晶をこちらの手中に収められたのはとても大きい成果だとお爺ちゃんは喜んでいる。
偶然とはいえ廃ホテル襲撃の作戦をあのタイミングで提案しにきた
真っ赤な炎を固めたような奇妙なカタチ。
ぽかぽかと熱を発し続ける不思議な特性。
これでずっと強くなれるぞと喜んで丸呑みにした特異な魔力結晶は、意外にも甘くて優しい味がした。
それから1週間。
ボクはずっと寝込んでいる。
診断は食あたりだ。
お腹の中を高熱の魔力が掻き回している。
それはボクの魔力と時に混じり合い、時に反発し合い、一向にひとつの形に収まる気配を見せない。どころか、これまでに融合してきた多種の魔力たちが熱に浮かされてバラバラに蠢き出したとさえ感じられる。
体温は異常に上昇し、ドロドロのマグマが器であるボクの肉体を燃やし尽くし引き裂いて噴き出そうとしているかのようだ。
今なら炎のブレスも吐けるかもしれない。トカゲじゃないんだぞ。
うんうんと唸っていると、いつの間にか誰かがベットの側に立っていた。シスターが氷嚢を取り替えに来てくれたのだろうか。朝に作ってくれたすり林檎の蜂蜜ヨーグルトは美味しかったけど、食べきれなくて残してしまった。ごめんなさい。
誰かがボクの手を握った。
もう一方の手がお臍の辺りをさすってくれると、体が少し楽になった気がする。
シスターとは異なる雰囲気を感じて目を開けると、1人の少女がいた。短く無造作なウルフカットに迷いの無い逆ハ眉、意志の強そうな大きな瞳。ボクと目が合ったその少女は、柔らかく微笑んだ。
「もう大丈夫です!ワタシが来ましたから!!」
声がデカい。病人だぞ。
そこにいたのは赤色の、獅子の精霊を宿した魔法少女。
【炎を操る魔法】を持つ
敵襲かと起きあがろうとしたボクを、獅子丸アキラは優しく制止する。弱々しい抵抗も虚しく、ボクはベットに押し戻された。
見ればいつものバトルドレスではない。ショートパンツに長袖のジャージを着たスポーティな私服姿だ。戦うつもりはないと彼女は言う。
話によると、彼女は店長さんに話を聞いてお見舞いに来てくれたらしい。店長さんって誰だよ。なんでここを知ってるのさ。え?ケーキ?うん、元気になったら食べる。
「魔法はへたっぴですけど、同調は得意なんです。合体魔法のためにいっぱい練習しましたから」
サツキちゃんにはいっぱい叱られましたけど、などと
「繋いだ手を意識してください。心を通わせ想いを伝え、魔力が重なり合ってひとつに繋がるイメージを」
目を閉じると心地よい暖かさがじんわりと伝わってくる気がする。
「うわ、ツバサちゃんの魔力は雑味が凄いですね。何でもかんでも食べちゃうからですよ」
うるさいな。集中できないだろ。
それまでバラバラだった魔力が暖かで力強い魔力に包まれ、折り重なり、溶け合ってひとつにまとまっていく。その柔らかな塊を捏ね回してボクの形をした器に納めていく。こら、勝手に変な形になるな。なんだそれは?鬣?
「大丈夫です。元はワタシの魔力なんですからツバサちゃんならきっと制御できます」
それが魔法のイメージなのか、それとも夢うつつの幻なのか判然としない。熱が遠ざかると同時にふわふわとした眠気が襲って来たせいだ。そういえばこの1週間はまともに眠れていなかった。
「だってワタシタチ!初めて会った日から心通った友達だったじゃないですか!!」
過去を、捏造するな、そんな、事実は、ない。
「・・・・・・助けてくれて、ありがと」
頬を撫でる手に無意識に甘えながら、ボクは微睡みに身を委ねた。
**
ドスッ!
ドスッ!
「・・・・・・」(無言で的を射ち続ける)
「アキラちゃん早く帰ってきて。サツキちゃんが怖いの」
ドスッ!
ドスッ!
バキィッ!!(的が砕ける音)
10話くらいで完結予定です。
感想などお気軽にどうぞ。
2024/12/10 22:34 誤字訂正