目が覚めたのは真夜中だった。
熱は下がっている。制御できない魔力が体を掻き回す苦痛も消えている。病み上がり特有の気怠さこそあるが、1週間ぶりの快眠を終えて気分は穏やかだ。
静けさにぼうっとしているとお腹が鳴った。
サイドテーブルを見れば書き置きが2つ。ひとつにはシスターの走り書きで晩御飯は冷蔵庫に、とある。もうひとつは知らない丁寧な字で
『もう変なもの食べちゃダメですよ』
書き添えられた追伸には思わず笑ってしまった。自分の魔力を変なもの扱いとは。
起き上がって一度伸びをする。
特級結晶はちゃんとボクの体に馴染んだらしい。これまでよりもずっと濃い魔力が全身を循環しているのが分かる。ただし、念じてみても炎は出なかった。ちょっと期待していただけに残念だ。
おヘソの辺りを撫ぜていると、空腹を訴えてまたお腹が鳴った。
食堂に行こう。
晩御飯をあっため直してちゃんとしたものを食べよう。それに、夢じゃなかったならお見舞いのケーキもあるはずだ。楽しみだな。
ベットを這い出たボクは毛布をずるずる引き摺りながら部屋を後にした。
暗い廊下を歩いていると、中庭にお爺ちゃんがいるのが見えた。デッキチェアに深く身を沈めて夜空を見上げている。傍らの小テーブルには半分残った酒瓶とグラス、火を落としたランプと丸めた紙が置かれている。
珍しいな、と思った。お爺ちゃんはボクと違って夜の空が嫌いなようだった。簡単な星座も覚えようとしなくて、以前にボクが教えてあげようとした時も途中で遮られてしまった。
それが今は寂しそうな顔をして、じっと星を見つめている。
北極星から連なる5つ星のくびかざり座。すぐ隣の十字はつるぎ座。その切先に首を差し出すおどりこ座。こねこ座、りくがめ座と並んで、低い空で地表を掃くように見えるのがはねぼうき座だ。
お爺ちゃんの視線を追って夜空を眺めていると三度お腹が鳴った。そうだ、ご飯を食べるんだった。足早に食堂へ向かうボクの視界の端で、お爺ちゃんが涙を拭ったように見えた気がした。
食堂にはボクの好きなサンドイッチと具沢山のホワイトシチューがあった。シスターのシチューはごろっとした野菜が柔らかくなるまで煮込んであってとても美味しい。温まるのを待つ間にケーキを探したところ、冷蔵庫で『あくの』と印字された白い箱を見つけた。しかし、シスターによって封印されている。コレは開けたら怒られるやつだ。
代わりに朝に残したすり林檎の蜂蜜ヨーグルトを見つけた。デザートはこっちにしよう。
あとからお爺ちゃんもやってきたので少しお裾分けをした。
翌日のティータイム。シスターの淹れた紅茶を片手にお見舞いの白桃ショートケーキを頬張っているとお爺ちゃんから重大な発表があった。
先日の廃ホテルの一件で悪の組織に大きな動きがあり、そのおかげで隠されていた本拠地の場所が判明したらしい。それは臨海地区に建つこの街一番の高層建築で、暗渠になった古い河口という大きな霊脈を抱え、表向きは一般の商社を見せかけつつも、今も多くの怪人や武装した戦闘員らが警備しているそうだ。
そして今夜、魔法少女たちがこの本拠地に攻め込む。
ボクもその動きに便乗して乗り込み、残っている怪人たちを捕食。悪の組織を完全に叩き潰して最高最強を証明しろとのことだ。
お爺ちゃんは広げた地図から顔を上げてボクをじっと見る。その目には強い決意と厚い期待と一抹の憐憫が籠って見えた。
ついにお爺ちゃんの
そう受け取ったボクもまた覚悟を新たにし、まだ見ぬ悪の首領を内心でボコボコにやっつけつつ、ふたつめのケーキに手を伸ばした。
そんなボクにシスターがそっと手を重ねる。
え?ダメ?そんなあ。
その細く柔らかな白い指は、赤くなるほどにぎゅっと握られていた。
星座は架空のもの(のつもり)です。
実在のものと被っていたら見逃してください。
思ったより進まなかったので11話くらいで完結予定です。
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