全知は距離を詰められない   作:甘さかな

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どうも、甘さかなです。

最終話後編です。

最長話になっています。楽しんでください。

あとがきあります。

ではどうぞ。


6話 後編

 

 

12月10日

 

 

ー特異現象捜査部部室ー

 

 

 

 

 

「エイミッもう一度見て下さい!」

 

「後ろ側がよく見えないのですが…変なとこがはねてはいないでしょうか?」

 

 

ヒマリは髪型がきまっているか心配らしく、鏡の前でワタワタしていた。

 

いつも長い髪を横で留めていたが、今日は思い切ってぜんぶおろしてみたのだ。

 

 

エイミは何度も櫛を入れたのにオロオロするヒマリにうんざりし始めていた。

 

 

「部長もう大丈夫だって…」

「そんなにいじったらせっかくきれいにしたのに崩れちゃうよ?」

 

 

「そ、それもそうですね……」

 

 

それでもまだヒマリはソワソワしている。

 

約束の時まで時間はあるが、さっきから何度も時計をチラチラみている。

どうやらかなり緊張しているらしい。

 

 

しょうがない先輩だなぁ、と小さなため息をつくとエイミはヒマリの前にしゃがみ込むとヒマリの両手を自分の手で包み込んだ。

 

 

「エ、エイミ……」

 

暖かい、エイミの体温を感じる。

 

 

 

「部長」

 

部長の手はひんやりとしていた。肌越しに彼女の緊張が伝わってくる。

 

 

 

 

ヒマリ先輩、私の好きな部長はそんな顔をしないよ。

 

 

「ここは特異現象捜査部、だよ?」

 

 

「そんな部長で大丈夫かなぁ?」

 

 

 

ちょっと首を傾げたエイミを見てヒマリは我に帰ったようだった。

 

 

ヒマリはちょっと反り返りながら得意げに言う。

 

「…そんな部長とはなんです?エイミ」

 

「私はミレニアムに咲く一輪の花…全知を誇る超天才病弱系美少女ハッカー、ですよ?」

 

 

「そうだね、そう来なくっちゃ、部長」

 

 

二人は笑い合った。

 

 

エイミは、ヒマリは、この部が大好きだった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

「………じゃあ行ってきます、エイミ」

 

 

「後のことは任せましたよ?」

 

 

まだ時間はあったがヒマリは居ても立ってもいられず待ち合わせ場所に向かうことにしした。

 

エイミは少し寒くなると言ったが、最後まで見栄えを気にしたヒマリはちょっと着込むだけにすることにした。

 

 

 

エイミはコクリと頷くとヒマリに言った。

 

 

「行ってらっしゃい、頑張ってね」

 

 

 

「ヒマリ先輩」

 

 

 

 

 

「……ありがとうございます、エイミ」

 

 

そういうとヒマリは部室を後にした。

 

 

 

 

D.U.に向かう間、ヒマリは胸の高鳴りが抑えられなかった。

 

 

車窓で自分の顔を何度も確認した。

 

あまり触るなと言われた髪をちょっとずついじった。

 

服の小さな毛玉が気になった。

 

 

いつもは満ち溢れている自信が今日に至っては一向に湧いてくる気がしない。

 

 

今思えばそうだ。

 

 

 

 

貼り付けたような長ったらしい自称が今になっては足を引っ張っている。

 

 

全知という重すぎる称号も、一人歩きし続けた過剰評価も、本当は私には必要なかった。

 

 

一人の生徒、どこにでも居るような普通の女の子に私はなりたかった。

 

 

そしてもうその願いは叶ってしまった。

 

 

 

もはや私を縛っているものはない。

 

 

 

だから、ありのままの私になれた今、私は初めて全てを。

 

 

 

 

「ふふっ」

 

「見ていますか?リオ」

 

 

「私は今、最高の気分ですよ」

 

 

 

電車の中、肩を震わせ俯きながら呟くヒマリの口元は笑っていた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

電車を降りると日は傾き、夕陽が辺りを照らしていた。

 

気温が下がり始め、少し肌寒くなってきた。

 

 

予定まであと一時間はある。

 

ヒマリは集合場所で先生を待とうと目的地に向かった。

 

 

 

 

 

 

ヒマリは心のどこかで期待していた。

 

 

もしかしたら、とほんの少しだけ、思っていた。

 

 

 

 

そこには知った顔があった。

 

知ったどころではない顔があった。

 

茶色のコートに白いマフラーを首に巻きながら白い息を吐く愛しい人がそこに居た。

 

 

居てくれた嬉しさと一体どれほど前からいてくれていたのかという申し訳なさが同時に押し寄せてきてしまい、ヒマリの心は一気に乱れてしまった。

 

 

 

「先生…!」

 

 

 

早く気づいてもらいたくて力一杯手を振る。

 

 

それに気づき、こちらに笑顔を向けた先生の鼻は少し赤くなっていた。

 

 

 

「すいません待たせてしまって…」

 

 

「ううん、全然大丈夫だよ」

 

「ヒマリこそ…まだ約束まで結構時間あるのに」

 

 

「……待ちきれなくて……来てしまいました」

 

 

「ふふ、実は私もなんだ」

 

 

頬をほのかに染めながら先生がはにかむ。

 

 

 

夕日に照らされたその顔に、ヒマリはその一瞬息も忘れるほど見入ってしまった。

 

 

先生はぽかんとしているヒマリの手を取ると商店街の方を指差して言った。

 

 

「ヒマリ」

 

「ここで話してるのもなんだしさ」

 

 

「…はい!」

 

 

 

 

ヒマリの車椅子を押そうと後ろに回ろうとする。

 

その時、服の裾が僅かに引っ張られた。

 

 

 

「ひ、ヒマリ…?」

 

 

「先生、車椅子はその、大丈夫…ですので…」

 

「私の隣に、居てくれないでしょうか…?」

 

 

上目遣いでこちらを見るヒマリは少し困ったような顔をしていた。

 

 

先生はその愛くるしさに発狂しそうになったが、顔を背けることでなんとか耐えた。

 

 

「………?」

「どうされたのですか?」

 

 

「………いや、なんでもないよ///」

 

「それじゃあ行こっか」

 

 

ドギマギしながら二人は商店街の方に向かった。

 

 

顔と顔の距離さえも二人はもどかしく思った。

 

 

 

ーーーーー

 

 

この商店街はD.U.の中でもかなり有名な場所で日々多くの人が訪れる。

 

今日も二人以外にも親子連れからカップルまでいろいろな人が楽しそうに行き交っていた。

 

 

商店街はすっかり冬模様で、街灯や植え込みなど至る所に冬を連想させる装飾が施してあった。

 

この通りの中心には大きなクリスマスツリーがあり、クリスマスイブの日には華やかにライトアップされる。

 

それを見に多くの人が毎年この通りに集まるのだ。

 

 

そんな話をしながら二人は商店街のいろいろなところを見て回ってみた。

 

 

服屋に行きお互いがその服を着ている姿を想像したり。

 

 

 

「ヒマリ、この服とか好きなんじゃない?」

 

 

「えぇ?こんなヒラヒラした服…私に似合うでしょうか……?」

 

 

「大丈夫だよ!ヒマリは何を着ても似合うよ!」

 

 

「むむむ……先生はなんでも褒めてくれるので参考にしにくいです…!」

 

 

「あ、あれぇ…?」

 

 

(絶対似合うのになぁ………)

 

 

 

「先生?先生にはぜひこちらの服がお似合いかと!」

 

 

「き、着物じゃんこれ!なんでこんな服がこのお店に…」

 

 

「ど、どうでしょうか先生!」

 

 

「う〜ん…季節柄にもちょっと着物はなぁ…」

 

 

「そ、そうですか……」

 

 

 

(絶対似合うでしょうに……)

 

 

 

 

有名なスイーツを食べてみたり。

 

 

「このお店のミニフルーツタルト、すっごく美味しいって有名なんだよ!」

 

「ちょっと食べてみない?」

 

 

「ほほぅ……では!この私が一つ味わって差し上げましょう!」

 

 

モグモグ

 

 

 

「どう?美味しい?」

 

 

「お、おいひいもなにも、絶品でふ!」

 

「なんでふかこの絶妙な甘はのいひごジャムとカフタードクリームは!」

 

 

「わ、分かったから飲み込んでからしゃべろっか」

 

 

ゴクン

 

 

「し、失礼しました」

 

「とにかく、とても美味しかったです////」

 

 

「ふふふ、良かった」

 

 

 

 

雑貨屋に行ってヒマリの好きそうなものを物色したり。

 

 

「ヒマリヒマリ!」

 

「見て!面白そうなもの見つけたよ!こういうの、ヒマリ好きでしょ?」

 

 

「あら、久しぶりに見ましたね……これは一昔前のシリンダー洗浄機の一部…ですね」

 

 

「え、えぇ…そうなんだ…」

「じゃ、じゃあこっちは?」

 

「これは……おそらくブラウン管オシロスコープの増幅器…ですかねぇ…なんでこんなものが売られているんでしょうか……?」

 

 

「えっと……こういうの欲しい?」

 

 

「これら単体では…要りませんねぇ」

 

 

「だよねぇ…」

 

 

 

その後もいろいろな店を見ているうちに日はすっかり暮れてしまい、さっきまで真っ赤に染まっていた空はいつの間にか真っ暗になっていた。

 

 

人通りがさらに増えてき、ヒマリを連れて歩くには少し窮屈に思えた。

 

長いこと移動していたせいか、少し疲れているように見えたヒマリに声をかける。

 

「ヒマリ」

「ちょっと疲れた?」

 

 

「いえ…このくらい大丈夫です」

 

「それより先生」

 

「街明かりが……」

 

 

道脇に二人で移動し、振り返ってみるとそこにはあちこちに灯る色とりどりの街明かりとそれに照らされた煌びやかな街だった。

 

人々が吐く息が、出店から聞こえる音が、商店街に流れる音楽が、全てが

 

 

「…………きれいですね」

 

 

「…………そうだね」

 

 

違う。

 

 

そう思って隣の人を見る。

 

 

こんな眺めなど遥か及ばぬほど君は。

 

 

 

こちらの方を見たヒマリと目が合った。

 

 

 

 

「…………ぁ」

 

 

 

「ヒマリ……」

 

 

 

お互いが何かを口にしようとしたその時

 

 

 

はらりと白いものが二人の視線の間に割り込んできた。

 

これは

 

 

「雪…………ですね」

 

 

空を見ると大きな綿雪がちらちらと降り始めていた。

 

雪は街明かりに反射し色鮮やかに輝いている。

 

 

先生はしばらくその光景に見惚れていた。

 

 

 

その時、下を向いていたヒマリの体が僅かに震えた。

 

降り続ける雪はヒマリの体にもポツポツとついていた。

 

思えば雪が降るほどの気温だ、寒くないわけがなかった。

 

 

 

ヒマリのコーディネートはこの時期に見合った格好ではなく、それは本人が一番よく分かっていた。

 

少しでも、先生に可愛いと思って欲しくて、いつもなら絶対着ないような服をわざわざ着てきた。

 

出かける前のエイミの忠告を聞くべきだったな、と今更ながら後悔するのだった。

 

 

 

その時、背中にふわっと何かが被せられる感触がした。

 

顔を上げるとそれは先生の茶色のコートだった。

 

 

「せ、先生?」

 

「私は」

 

 

「ごめん、もっと早く気づかなきゃだった」

 

「ちょっとここで待ってて、すぐ戻るから!」

 

 

そう言い残すと先生は人混みの中に消えてしまった。

 

 

 

残された私は先生のコートを着た。

 

さっきまで着ていた先生の温もりを感じる。

 

 

先生の匂いがする。

 

 

「はぁ…」

 

 

ため息が白い。

 

 

「そういえば結局……先生の好きなものが聞けていませんね……」

 

 

ヒマリは先生と過ごす時間があまりにも楽しかったせいで、本来の目的を忘れてしまっていた。

 

先生が帰ってきたら真っ先に聞こう。

 

 

そう思っていると

 

 

 

「ごめん!待ったよね?」

 

 

 

先生が帰ってきた。

 

手には薄い水色のマフラーを持っていた。

 

 

「そんな、待ってなど……」

 

 

「これあげるから……これで結構マシになると思う…ごめん、そんなに遠くにはいけないと思って…」

 

 

 

先生はヒマリの首にマフラーをかけようと前屈みになりながらそういった。

 

 

すると、ヒマリは差し出されてきた先生の手を持って言った。

 

 

 

「……先生」

 

「先生は…この前電話越しに……私に好きなものや欲しいものがないか、聞いてくれましたね」

 

 

 

「?」

 

「う、うん」

 

 

 

「私、欲しいものがあります」

 

 

 

「……何が欲しいの?」

 

 

 

「私…そっちのマフラーが欲しいです」

 

 

ヒマリはそう言って、先生の首に巻かれている方のマフラーを指差した。

 

 

「こ、こっち?」

 

「こっちのマフラーがいいの?」

 

 

「…はい、そっち“が”いいです」

 

 

 

「そっか、じゃあ………」

 

 

 

ヒマリがそう言った理由は分かっていた。

 

 

 

先生は持っていたマフラーをしまうと、スルスルと自分の首にかかっていた白いマフラーを取る。

 

 

そしてヒマリの首にそれをかけようとした。

 

 

 

 

ヒマリと目が合った。

 

 

ヒマリの首に手を回したまま

 

 

 

 

 

先生と目が合った。

 

 

先生に首に手を回されたまま

 

 

 

 

二人の間で時が止まった。

 

 

 

 

 

ヒマリの顔が近い。

 

 

今だ、今だと私が言っている。

 

 

 

 

 

先生の顔が近い。

 

 

今だ、今だと私が言っている。

 

 

「…………せん…せい」

 

 

 

 

 

 

「………誕生日、おめでとう」

 

 

 

 

 

 

二人を止める者はいなかった。

 

 

 

 

ヒマリは先生の首に手を回し、先生は回した手でヒマリを体ごと抱き寄せ

 

 

 

そのまま息をするのも忘れ蕩けるようなキスをした。

 

 

もちろんただのキスでは終わらず、舌を絡ませ、ねじ込み、お互いの口の中を感じ合う。

 

 

降り頻る雪と、人々の話し声と、街の明かりに包まれ、二人は溶けていった。

 

 

 

 

どれくらいの時間が経ったか、どちらからともなく二人は顔を離した。

 

 

 

顔を少し赤くしながらも、潤んだ目でこちらを見ているヒマリに先生は言った。

 

 

「………ヒマリ」

 

 

「…はい」

 

 

「実は、私も欲しいものがあるんだ」

 

 

 

「…………はい」

 

「私も……もう一つ、欲しいです」

 

 

 

「……そっか」

 

 

 

彼女を温める白いマフラー。

 

 

生糸のような白い髪。

 

 

真珠のような白い目。

 

 

透き通るような白い肌。

 

 

そして

 

 

少し赤く染まった頬。

 

 

 

その全てが

 

 

 

「ヒマリ」

 

「先生」

 

 

 

 

「「私は」」

 

 

 

「ヒマリが」

 

「先生が」

 

 

 

 

「「好きです」」

 

 

 

 

雪が降っている。

 

冷たい風が吹いている。

 

 

 

「だからヒマリ、私はヒマリが欲しい」

 

 

「…はい、私も、先生が欲しいです」

 

 

 

雪が二人の肩に積もっている。

 

冷たい風が二人の肌に吹き付ける。

 

 

 

 

「ヒマリ、私のものになってくれる?」

 

 

「……はい!喜んで♡」

 

 

 

 

二人は寒さなどとうに忘れていた。

 

 

 

二人には

 

 

お互いがいるだけで

 

 

それだけで良かった。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

帰り道、先生は手を繋ぎながらヒマリに聞いた。

 

 

「そういえばヒマリ、この前電話で『私としても都合がいい』って言ってたけど」

 

「あれはなんだったの?」

 

 

「あ、あれは…先生の好きなものをプレゼントするためにその事について聞こうと思っていたんです…」

 

 

 

「……そっか」

 

「でもプレゼントならもう貰っちゃったから」

 

 

そう言うと先生はヒマリに笑いかけた。

 

 

 

「……そうですね♡」

 

 

 

ヒマリはより一層強く、先生の手を握るのだった。

 

 

 

 

ーENDー

 

 

 

 

 

 

 

 





〜あとがき〜


こんにちは、甘さかなです。

まずは「全知は距離を詰められない」を読んで頂きありがとうございました。
この作品は作者がふと創作欲に駆られ、なんの前触れもなくヒマリの小説を書こうと思ったことが始まりでした。
そこからどんどん話が発展していき何とか最終話まで書き切る事が出来ました。
毎話のように読んで頂いている皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。
協力してくれた友人Tにもこの場を借りて感謝の意を述べさせて頂きます。

最後にはなりますが、これからもヒマリの話を書いたり、他の生徒の小説を書くことが出来ればいいなと思っておりますので、高評価やブックマーク、コメントなどをして頂けると有難いです。

ではまた。
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