全知は距離を詰められない   作:甘さかな

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2話後編です。

ヒマリはどうするのでしょうか…

甘さかなのスタイルとして前置きはダラダラしないと決めております。

それではどうぞ。


2話後編

 

 

生徒はほとんど帰っており、学園棟の窓の明かりはほとんど消えていた。

 

通路沿いにある街灯が降り頻る雨を照らしながら点々と道を映し出している。

 

何人か下校中の生徒がヒマリに気付き慌てて傘を差し出してきたが、ヒマリはそれを断った。

 

怪訝そうな顔をしつつその場を後にする生徒たちを見ながら、ヒマリは夜のミレニアム自治区を徘徊し始めた。

 

今やヒマリの衣服はビショビショだった。が、ヒマリはそんなこと意に留めていなかった。

 

 

 

真っ直ぐ家に帰るつもりはなかった。

 

 

帰りたくなかった。

 

 

今までにないくらいぐちゃぐちゃになってしまった心をどうにかしたかった。

 

 

この気持ちがなんなのか、知りたくない。

 

 

 

知ってはいけないと止めるのだ。

 

ミレニアム最高級の超天才が、明星ヒマリを止めるのだ。

 

 

 

 

そして気付く。

怖いのだ。私は。

 

 

 

 

自分が自分じゃなくなるのが。

 

 

私は超天才で圧倒的美少女で病弱な、ミレニアムサイエンススクールの最高学位「全知」を誇る唯一無二の存在でないと、いけないのに。

 

 

 

 

 

 

あぁ私、こんなにも

 

 

 

 

 

「…………あなたはなんと言いますか、リオ」

 

「こんな私を……笑うでしょうか」

 

 

 

雨粒がヒマリの上に打ちつける。

 

少女は行く当てもなく彷徨い続けた。目的はない。

 

行き着く場所は必要としていなかった。

 

 

 

このままどこへでも行ってしまおうか、ヒマリはそう思った。

 

そうすれば諦めもつくだろう。

 

ミレニアムの事などどうでもいい。

 

 

でも、でももしそうするなら最後に一目、あの人に会いたい。

 

あの人と他愛のない話で笑い合いたい。

 

だって私はーー

 

 

 

 

「ヒマリ⁈⁈⁈」

「何してるのこんなとこで⁈ヒマリ⁈」

 

 

「(あ…先生だ……)」

「せんせ………」ガクッ

 

 

「ヒマリ⁈しっかりして!」

 

 

ヒマリは無意識のうちに、シャーレの近くまで来ていたのだ。

 

 

仕事終わりで帰路についていた先生はどしゃぶりの雨の中傘も刺さず徘徊するヒマリを見つけた。

 

明らかに様子のおかしいヒマリに声をかけようと近寄るとヒマリは先生の顔を見るが早いかその場に倒れ込みかけた。

 

間一髪先生はヒマリを抱き抱えたが、その体温の高さに驚いた。

 

ただでさえ弱いのにのに長時間雨に打たれたヒマリの体はとうに限界を超えており、高熱が出ていたのだ。

 

先生は車椅子を近くの軒下に移動させ、ヒマリを抱き抱えたままシャーレまで全速力で走った。

 

 

 

 

 

 

目が覚めるとヒマリは一瞬、自宅のものとは違うベッドの感触に違和感を覚えた。

 

視線で辺りを見回すとなんとなく知った光景が目に入る。そこは見覚えのある場所だった。

 

そう、ここはシャーレの仮眠室。ヒマリも当番で徹夜になりそうな時はここを使ったことがあった。

 

 

ヒマリは頭を持ち上げようとしたが、その時初めて自分の倦怠感と節々の痛みを感じた。

 

考えてみれば当然で、前日の雨で体が冷え切っていたヒマリはしっかり風邪をひいていた。

 

 

身を捩って起きあがろうとすると足元に重たい感触があった。

 

違和感を感じたヒマリはただでさえ不自由な重い体を懸命に使って起き上がって見てみると、そこに居たのは氷枕を片手にスゥスゥと寝息を立てる先生だった。

 

どうやら看病中に寝落ちしてしまったらしい。

 

服は着替えておらず、湿ったスーツを着たままだった。

 

 

ヒマリはそんな先生を前に自責の念を抱かずには居られなかった。

 

自分の行動が先生に心配をかけてしまったことを悔やまずには居られなかった。今すぐ先生に謝りたい。

 

しかしその気持ちと同じ、いや、それ以上に目の前にいる人への感情が爆発しそうになっているのをヒマリは感じていた。

 

 

 

あぁ、今伝えて仕舞えばどれだけ楽だろうか。

一人の女性に私がなれるならどれだけ幸せだろうか。

 

 

 

「………ひどい人です、先生は」

 

思ってもいないことを言ってみる。

 

 

 

「先生の、せいなんですよ?」「私がこうなってしまっているのは」

 

言いたくない言葉を言ってみる。

 

 

 

目の前の人は気持ちよさそうな顔で寝ている。

 

 

 

今なら、言える。

 

 

 

私にも。

 

 

 

 

 

「……………先生」

 

 

 

 

 

 

「……………………………………き、です」

 

 

 

聞こえてなかったかもしれない。届いていないかもしれない。

 

でも、今はこれで良いと思うのだ。

 

ちょっとずつでいい、私は、[[rb:明星ヒマリ > ただのおんなのこ]]になる。

 

 

 

「ふぅっ」ボスッ

 

 

 

張り詰めていた気持ちの糸が緩んだのかヒマリは再度ベットに倒れ込み、もう一度眠りに落ちた。

 

 

その顔は熱にうなされていた昨日とは違い、幸せの笑みを浮かべている。

 

 

 

 

 

一方先生はと言うと

 

 

「……………///////////」プシュウウゥゥゥ~

 

 

 

目は閉じていながらも湯気が出るくらい真っ赤になっていた。

 

 

 

二人がその後昼過ぎまで寝ており各所からの鬼のような連絡が来ていたのにてんやわんやするのはまた別のお話。




この世界の先生は本編先生ほど鈍感では無い設定です。

ヒマリの恋はこっから加速します。
見守っていてください。

ではまた。
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