全知は距離を詰められない   作:甘さかな

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3話です。

先生が今度は悩みます。
どうなる事やら…

それではどうぞ。


3話前編

 

ーシャーレオフィスー

 

 

 

 

「う〜〜〜〜ん…………」

 

 

「はぁ……………………」

 

 

雨上がりカラッと晴れた昼下がり、デスクでパソコンに向かいながらため息混じりに難しい顔をしている男が一人。

 

彼は悩んでいた。

 

仕事量に悩まされているのはいつもの事だが今回はものが違う。

 

 

早々と体調の回復を見せたヒマリを心配しつつ家に送り届けてからと言うもの、彼の頭の中はその事でいっぱいになっていた。

 

 

 

「………どうしよう」

 

生徒たちの中にも何人か、私に並ならぬ感情を抱いてくれている子がいるのは何となく気づいていた。

 

しかし今回のように直接声に出して伝えてきた生徒はヒマリが初めてである。

 

嬉しいと思う反面、この事だけで意識するのはおかしいと自分を言い聞かせるのだが、そう思えば思うほど、薄目で見たあのヒマリの顔が脳裏に張り付いてはなれないのだ。

 

 

 

「……………困ったなぁ………」

 

 

 

「さっきからどうしたんですか?先生?」

 

「手が止まってしまっていますよ」

 

シッテムの箱が起動し、様子のおかしい先生を心配するアロナとプラナがひょこっと顔を見せた。

 

 

「ん?あぁごめんね、何でもないよ」

「ただちょっと考え事を…」

 

 

「むむむ……考え事…ですか!」

 

「私達に手伝えることはありますか、先生」

 

「そうです!私たちに何でも聞いてください!きっと先生のお役に立てちゃいますよ!」

 

 

「ありがと、アロナ、プラナ」

 

「でもこれは私自身の問題だからね、私が結論を出さないといけないんだ」

 

「だからアロナとプラナに頼むことは今のところ」

 

 

ショボ~~~~~ン

 

 

「あぁっごめんごめん!」

ずるい顔をするOSに先生は弱い。

 

「そうだね…例えばの話だよ?」

 

「例えばアロナ、プラナが…凄く大切にしている人から…その」

 

「『好きです』って………言われちゃったら…二人はどうする?」

 

 

 

二人は驚いた顔をした。無理もない、この子達には荷が重すぎる質問だ。

 

 

しかし二人は顔を見合わせ頷くと

 

 

 

「もちろん!私もだいだいだいだいだぁ〜い好きですよ‼︎‼︎って伝えると思います‼︎」

 

「私も、そう思います」

 

珍しくプラナが首を激しく縦に振っている。

 

 

「い、いや私は大切にしている人からって…」

 

 

「え?」

 

「そ、そうですよアロナ先輩。早とちりはいけません」

 

「じゃ、じゃあ先生はその人の事、好きじゃないんですか…?」

 

 

「そういうわけじゃ、ないんだけど…」

 

 

「じゃあ先生なら何て言うんですか?その人に」

「アロナ気になります!」

 

「プラナも、気になります」

 

 

「え?私は」

 

「…私は……」

 

 

 

あれ?

 

 

 

 

「?」「先生?」

 

 

 

私は何て、

言うべきなんだろう。

 

直接好意を伝えられるなんて今までなかった事だった、からではない。

 

 

 

わからないのだ。

 

 

 

自分が生徒を導く立場にある人間であることは重々承知だった。

 

いざそういうことになってしまった時にどうすれば良いか、分かっていたつもりだった。

 

 

でも

 

 

それは都合のいい妄想だった。

 

何も私は分かっちゃいなかった。

 

 

ダメな大人だ。私は教育者失格だ。

 

離れないと、ヒマリから。

 

 

彼女のためにも。

 

 

 

ごめん、ヒマリ。

 

 

 

「先生?」

 

「先生、どうされましたか」

 

 

「いや、何でもないよ」

「ありがとう、アロナ、プラナ」

 

 

そう言って画面越しで二人を撫でてやる。

 

 

 

答えが聞けていないことに二人は不満そうだったが、すぐに顔が綻んでしまった。

 

二人を見ながら先生はもの悲しげな笑みを浮かべた。

胃がキリキリと痛んだ。

 

 

 

 

そして

 

その日送られてきたヒマリからのモモトークを、先生は無視した。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

ヒマリはミレニアムの一室、ヒマリで言うところの「隠れ家」でスマホの画面と睨めっこしながら教室の中をウロウロしていた。

 

先生に話しかけたいとは思っているが、いざ強く意識し始めると恥ずかしさが先行し、なかなか切り出せない。

 

ミレニアムの天才病弱清楚系ハッカーといえど弱点はあるものです…仕方ありません、えぇ…などとブツブツ呟き口だけはスラスラ動くことにもどかしい思いが加速する。

 

 

そういえば私は先生自身のことを詳しく知らない。

 

今まで何気なく接してきた時に、どうしてもっと先生のことを知ろうとしなかったんだろう…私としたことが。

しかし後悔先に立たずである。

 

 

 

「…よし、こうなったら……!」

 

ヒマリは手持ちのデバイスをフル稼働し先生の情報を炙り出そうとした。

 

 

 

「………………」

 

 

そして、やめた。

 

 

 

先生の前では、一人の少女であると先日決めたばかりではないか。

 

自分の力で、自分の足で歩かないといけないのだ。

 

 

 

………………

 

 

「まぁ私、歩けないんですけどね」

 

 

「〜〜〜〜〜ッッッ」バンバンバン

 

自分で言って自分でツボっている。アホである。

 

 

 

 

ヒマリはその後ネットの情報を頼りに、拙いながらも男性とはどう言う生き物でどう付き合っていけば良いのか、どうすれば喜ぶのかなどといった疑問を晴らしていった。

 

17歳にもなって未だに恋愛初心者なヒマリにとっては知らないことが多く、長いことヒマリは画面に釘付けだった。

 

 

そしておもむろにモモトークを開くと何やら短くとも長くもない文章をポチポチと打っては消し、打っては消しを何度か繰り返した後、

 

 

「ふぅ…………」

 

 

と深呼吸を一つし

 

 

「ふんっふんっふんっ」スッスッスッ

 

 

と言いながら何やら画面に向かって素振りをし始めた。

…どうやら送信ボタンを押すのに勇気がいるらしい。

 

 

 

そして多すぎる素振りを終えた後ついに

 

 

 

 

ピコッ♪

 

 

 

「うぅ……送ってしまいました………」

「先生はどう思うでしょうか……?」

 

 

 

【こんにちは、先生。連日の雨が嘘みたいな良い天気ですね。こんなに晴れていますのでどこかに行ってみたい気分なのですが、生憎エイミは今日は居ないのです…先生、ミレニアムまで来てくれませんか?いつもの教室で待ってます。】

 

 

頑張って考え抜いた文。読みやすい字数、目的をはっきりさせる。エイミには居ないことになってもらった。

 

早く読んでもらいたい、そう思った。

 

 

 

ヒマリは口でスマホを隠しながら暫く悶えていたが、気を紛らわそうとお気に入りの演歌を聴いたり昼寝をしようと目を閉じてみたりタロット占いをしてみたりした。

 

しかし意識の片隅にはずっとモモトークがあった。

 

 

その後モモトークの通知が来るたびに心躍ったヒマリだが、来たのは企業からの依頼だったりヴェリタスのメンバーからの他愛無いメールだった。

 

 

 

そして

 

 

 

結局、日が暮れるまでヒマリは待ち続けたが先生からの返信は来なかった。

 

眩しすぎるくらいの西日が差し込む教室に一人、顔に暗い影を落とした少女が寂しそうな顔でスマホの画面を見つめていた。

 

 

皮肉にもバッテリーゲージは西日の色をしていた。




甘さかな、曇らせが好きなので癖が出てしまっています。
しかしちゃんと晴らすので安心してください。

続きが気になるようでしたら今すぐ後編を見てください。

ではまた。
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