いよいよ先生とヒマリがいい感じになりだします。
それではどうぞ。
次の日、ヒマリは起きるが早いかベッドの上で昨日の先生の感触を思い出し一人で真っ赤になっていた。
溢れる笑みが止まらない。
「ふふっ」
「うふふっうふふふふふふふふ」
側から見ればただの変人である。
「はぁ………」
「先生と、ハグ………してしまいました……」
ベッドから起き上がりながらヒマリは自分の両腕を見つめる。
先生の胸の、背中の感触が鮮明に思い出せる。
首元にかかった熱い吐息がまだそこを温めているようだった。
昨日の自分がまだ信じられない。
あの後先生とシャーレに帰ってから、込み上げてきた恥ずかしさのあまり家まで送るよという先生を振り切り逃げるように帰ってしまったのだ。
不自由な体を器用に動かし、支度をしながらヒマリは想いを巡らせる。
先生を心配する気持ちで一杯で結局昨日、先生がヒマリを避けていた理由が聞けずじまいだった。
しかしヒマリの心にかかっていた雲はすっかり晴れていた。
あの瞬間、二人は繋がっていた。
ヒマリにはもうわかっていた。
先生も私と同じなのだ。
下手くそで、不器用で、自分の気持ちに鈍感で、だから。
だから私たちは似たもの同士だった。
ヒマリは鏡に写るミレニアムの天才美少女に、心に映る想い人に話しかける。
「ふふっ」
「覚悟してくださいね♪」
ーーーーーーーー
ヒマリは隠れ家にいた。
特に予定はなかったがヒマリは待っていた。
と言っても今日は待ち合わせている人は居ない。
しかし、信じて待っていた。
そして
ガララッ
「や、ヒマリ」
「天気がいいね、出かけないかい?」
「…もう」
「随分と遅いですね、先生?」
「この明星ヒマリを待たせるとは…先生も意地悪な人です、本当に」
拗ねた口調になりながらその顔は笑っていた。
「へぇ」
「今日はミレニアムの超天才清楚系美少女ハッカーじゃないんだ?」
先生はいつも自信たっぷりに自画自賛するヒマリの意外な自称にちょっと驚いたようだった。
「……はい」
「勿論、私はミレニアム最高級の孤高の天才で超有能美少女ハッカーです、が!」
ヒマリはいつもの調子で捲し立てた後小さく、しかし今度ははっきり聞こえる声で言った。
「私も………一人の乙女、ですので」
「……!」
「…ははっ」
先生は少し笑うと、車椅子に手をかけた。
「ヒマリ」
「?」
「知ってるよ」
「ずっと、前からね」
「…はい」
今のヒマリには、この距離感が心地よかった。
ヒマリは車椅子を押す先生がいつもより近くにいるように感じた。
ーーーーーーーー
ミレニアム自治区につながる道に差し掛かった時、前方に見覚えのある人影を二人は見つけた。
両手に重そうな荷物を抱え、ミレニアムタワーの方に向かっている。
エイミだ。
ヒマリは数日前のやりとりや先生へのメールの誘い文句を思い出しエイミと顔を合わせるのを躊躇った。
しかし時すでに遅し
「お、あれは…」
「お〜いエイミ!」
「そんなに一杯荷物抱えてどこに行くの?」
エイミの顔が荷物の横から覗く。
「あ、先生」
「それと……部長」
エイミと目が合いヒマリは一瞬ビクッとしてしまう。
「あ」
その時先生の手がヒマリの肩にそっと置かれた。
先生の手を感じ落ち着きを取り戻したヒマリは再びエイミに向き合う。
エイミがあんな態度をとった理由も今ならわかる。
臆病な私を気づかせてくれてありがとう。
天邪鬼な私に寄り添ってくれてありがとう。
不甲斐ない部長でごめんなさい。
ヒマリが口を開きかけた時、
エイミは微笑んで
「ヒマリ先輩」
ヒマリは喉元まで出かかっていた言葉をのみこんでしまった。
「は、はい?」
「気づいたんだね」
あぁ
私は幸せ者だ
「エイミ」
「私はエイミに言わなければならない事が」
「いいんだよヒマリ先輩」
「私だってあんなことしたし、おあいこだよ」
「ごめんね」
言わせてしまった。謝らなければならないのは私の方なのに。
「エイミ…」
「あ、そういえば私、エンジニア部の荷物運び手伝ってたの忘れちゃってた」
「ごめん部長、先生」
「続きはまた今度聞かせてね」
「じゃ〜ね」
「あっちょっと………」
エイミはわざとらしく言い残すとひょいと荷物を抱えて行ってしまった。
再び車椅子を押しながら、難しい顔をするヒマリに先生は語りかける。
「あの日ね」
「あの日?」
「ヒマリがシャーレの近くでびしょびしょになってた日」
「…はい」
あの日の記憶がヒマリの中にも蘇る。
「ヒマリが倒れたあと、大変だって思ってヒマリをシャーレに連れて行こうとしたんだよ」
「その時エイミとばったり出会ったんだ」
「……え?」
「びっくりだよね」
「聞いたらエイミ、ヒマリのことをずっと探してたんだって」
どうやらエイミはあの後ヒマリを心配してヒマリの家までわざわざ向かったらしい。
しかしヒマリはおらず、もしやと思ったエイミはシャーレ近辺を片っ端から探していた所をヒマリを抱き抱えた先生と鉢合わせたのだという。
「エイミ、何も言わずにヒマリの看病を手伝ってくれてね」
「ヒマリの着替えをやってくれたのもエイミなんだ」
w
もちろん見ていないよと顔を赤くしながら言う先生をちょっと冷たい目で見ながらヒマリの心はエイミへの感謝でいっぱいだった。
今回はエイミに完敗だ。
ヒマリはクスリと笑いながら今度なにかあったら私がエイミのために何かしてあげないと、と密かに心に決めたのだった。
「先生」
「ん?」
「そろそろ行きましょうか」
「実は私、行ってみたいお店があるのですが…」
「いいね、行こう!」
「ヒマリとならどこへでも」
「ふふっ私もです、先生」
歩き出す二人。
その日のミレニアムは本当に、いい天気だった。
同刻、ミレニアムタワーの窓から二人を見つめる人影があった。
「……………先生」
「………と、ヒマリ………」
「ふぅん」
最後のセリフ、一体誰なんでしょうか。
気になりますね。
そんな方は今すぐ5話をお読みください。
ではまた。