先に言っておきますが今回はヒマリメインじゃないです。
すいません
次回からまたちゃんと出てきます。
それではどうぞ。
今日の当番の生徒を待ちつつ先生は一人、パソコンに向かいながら物思いに耽っていた。
最近はミレニアムに足を運ぶことがめっぽう多くなった。
スケジュールを組む時も何かと理由をつけてミレニアムに行こうとしている自分がいた。
言い訳をするとシャーレは結構多忙なので案件が多いのだ、そう。結構。
そう言いながらも理由は自分でも分かっていた。
ヒマリに会えない時も少なくないが、それでも良かった。
ヒマリとの距離が近いのが、幸せなのだ。
最近は毎日のようにモモトークが来るので四六時中ソワソワする羽目になっていた。
そのせいで手付かずの仕事がだんだんと溜まってしまっており、そろそろ本腰を入れてやっつけてしまわないとと思っている今日この頃の先生だった。
にちゃにちゃ笑っていると急にオフィスのドアが開いた。
ウィン
「うわ、なにこの量」
「どんだけ溜めたの…」
入ってきたのは今日の当番に当たっていたミレニアムサイエンススクール三年、ヴェリタス副部長の各務チヒロだった。
先生は申し訳なさそうに手を合わせながら言った。
「ごめん…ちょっと溜めすぎちゃったんだ」
「今夜も…多分徹夜になるんだけど…大丈夫?」
「はぁ……」
チヒロは一瞬嫌な顔をしたが
「いいよ、頑張ろ先生」
すぐにいつもの凛々しい顔に戻りちょっと笑うとそう言った。
こういう時のチヒロは本当に頼りになる。
チヒロとこういうシチュエーションになる事は今回が初めてではなかった。
だから先生も頭が上がらないのだ。
チヒロはいそいそとデスクに座ると気が遠くなるような書類の山とシャーレ宛のメールにうんざりしつつ、それらに取り掛かり始めた。
ーーーーーーーー
そろそろ日付が変わる。
チヒロのおかげでやっと底が見えてきたがそれでもまだまだ終わりは見えない。
「……完徹……かなぁ……」
とボソッと溢すとそれまでパソコンに向かってカチャカチャやっていたチヒロがこちらの方をバッと振り向いた。
そして
「ダメ、いったん休憩」
と言うと椅子にのけぞった。
「先生もいったん終わり、こんなの続けてたら煮詰まっちゃうよ」
「う、うん」
「私、コーヒー淹れてくるよ」
「ミルクなし、だよね」
「うん、ありがとチヒロ」
先生もキーボードから手を離す。
そしておもむろにモモトークを確認した。
「…………んー………」
そこに求めていた通知がないのを見るとため息をつき、天井を見ながら椅子でぐるぐると回った。
「先生、どうぞ……って何してるの…」
「ありがと、見ての通りだよ」
「………見てもわからないけど」
当然である。
そしてチヒロは開いたままのモモトークの通知に気がついた。
「うわ先生…色んな人から依頼のモモトーク届いてんじゃん」
「ちゃんと見ないとダメだよ…ちょっと貸して」
「あっ」
「大丈夫、生徒とのやりとりまでは見ないよ」
「どれどれ…」
刹那。
チヒロは見ていた。
一人だけピン留めされたアカウントを。
よく知ったアイコンを。
更新時間は今日だった。
未読のモモトークを確認しながら頭の中はその事で埋め尽くされ、もはやモモトークの内容は視界に映っているだけだった。
やっぱり、そうなんだ。
薄々気づいていた。
最近ミレニアム内で先生を見かけることが心なしか増えた。
それは嬉しいことだったが同時に気がかりな事でもあった。
先生はどこかに行ってしまうのではないか。
あの日、あの光景を見てから心の奥ではそう思っていた。
「……ねぇ…チヒロ……?」
虚な目でモモトークを見つめるチヒロに先生は声をかけた。
あの一瞬でもチヒロなら気づいてしまっただろう。
自分の胸の内を正直に話すべきか、しらを切るべきか先生は迷っていた。
するとチヒロは不意に顔を上げこちらにやって来た。
「あのさ、先生?」
「今何か私に伝えたい事、ない?」
「ちっチヒロ……」
「ごめん先生」
「私、見ちゃったんだよね」
「………………」
ポス
チヒロは膝にその腰を下ろしてきた。
今までそんな事をするチヒロを見たことがなかったのでドギマギしていると
「先生、今だから…言うけど」
「私………じゃダメ………かな」
「えっ…………」
「確かに私は…ハッカーとしては部長に勝てないかもしれない」
「でも先生に対する気持ちは、部長にだって負けてない…はず」
「…チヒロ………」
「先生が望むことなら…なんでもしてあげれるんだよ…?」
チヒロとの距離が近い。
「それに…ほら」
近い。
「む、胸だって……部長よりずっと……」
私は、決めたのだ。
「チヒロ」
チヒロの肩を持ち、そっと距離を空けた。
「…………な、なーんてね」
「冗談だよ冗談!もしかして、本気にしたんだ?」
「気をつけたほうがいいよ?先生。部長そういうとこ結構敏感だし冷められちゃうかも知れないよ?」
「チヒロ」
「?」
「何?先生」
「私は、ヒマリが好きなんだ」
「………」
「隠しててごめん、私はダメな先生だね」
「でもありがとう、チヒロ」
「これからも、頼りにしてるよ」
欲しかったのは、この言葉じゃなかった。
私が欲しかったのは。
「………グスッ」
「ずるい…よ先生……」
チヒロは小さく嗚咽を漏らした。
「うん…ごめんね、」
「なんで先生が謝るの…?」
「うん…なんでだろうね……」
チヒロは柄にもなく泣き続けた。
コーヒーはとうに冷めてしまっていた。
ーーーーーーーー
チチチと小鳥のさえずりが聞こえる。
「あぁ……」
仕事は片付いたが結局予想通り貫徹してしまった。
意識が朦朧としている。
「……寝よう………」
休憩室に行こうとすると
「先生、おはよ」
自販機で買って来たコーヒーを手にしたチヒロに声をかけられた。
「…おはよう、チヒロ………」
「結局完徹しちゃったね…体調は?」
「元気だよ、それより」
「それより?」
「今日一日、私に付き合ってよ」
「………え」
「最近ヴェリタスのあれこれで忙しくてさ、やりたいこといっぱいあるんだよね」
「だから先生、今日だけでいいからさ」
「私に付き合ってくれない?」
まっすぐ先生の方を見つめる。
その視線に答えるかのように先生は
「ふふっ」
「今日だけと言わず、チヒロが望むならいつでも喜んで!」
そう言ってパッと笑った。
あぁ、やっぱりこの人はずるい人だ。
でもこれで。
「決まり」
「じゃあ、一時間くらい休んだら出発するよ」
「いっぱいあるんだよね、行きたいとこ」
チヒロは完徹したとは思えないほど元気だ。
今日は寝る時間は…なさそうだ。
やれやれと首を振るとチヒロはニッと笑いかけてきた。
その笑顔は今日の天気に負けないくらい晴れていた。
最後のセリフの正体はチーちゃんでした。
次回から急加速します。
一体どうなるのでしょうか…?
ではまた。