6話は3部構成です。
けりをつけます。
それではどうぞ。
ーヴェリタス部室ー
カチャカチャカチャ
その日ヒマリは大型企業から私に届いた依頼を手伝いに部室に来ていた。
いや、実は少し違う。
手伝う、と言うより依頼が舞い込んだという事を知ったヒマリがヴェリタスの部室にやって来たと思うと自分とチーちゃんで十分だと言い張りコタマや後輩たちをさっさと帰らせてしまったのだ。
今現在、部室にいるのは私たち二人だけであった。
すると
かちゃかちゃと手を動かし続けていたヒマリが急に口を開いた。
「……ねぇチーちゃん?」
「ん、何?」
「ちょっといいでしょうか?」
「うん」
「コホン!」
「こ、これは聞いた話なのですが」
来たな。
しめしめと思いつつ少し肩に力が入った。
「先日、一日体調不良で学校を休んだと聞きましたが…」
「その日D.U区をはじめ色々な場所からチーちゃんと思わしき人の目撃情報があがっているのですが」
「が、学校を休んで一体、なにをっしていたのですかっっ⁇⁇」
「………ふぅん」
「一応誰からの情報か聞いてもいい?」
「そそそそそんなの、誰だって良いでしょう⁈」
「へぇ、そう」
リソースはヒマリ自身だろう。
ここまでは想定通りだ。
先日のあれは一日中先生を振り回せばいつかどこかでヒマリが探すだろう、そう思っての行動だった(まぁそれだけ、ではないのだが)。
「別に何も」
「ちょっと学校行くの面倒になっただけ。そういう事、ヒマリにもあるでしょ?」
「あるにはありますが…」
「こっ今回は!それだけでは無いのです!」
「へぇ」
「チーちゃんが、せ、せ、先生と」
「先生と!一日中!遊んでいたと!いう事です!」
「んー…別に良くない?」
「先生に頼んだら二つ返事で付き合ってくれたよ」
「なっっ!つ、付き合って……⁇」
「うん、買い物とか」
「そ、そうですよね!買い物に!付き合ってもらったんですよね!」
「えぇもちろん分かっていましたとも!このミレニアムが誇る天才美少女ハッカーはもちろん!分かっていましたとも!」
「…………全く」
いつまで経っても浅いところばかり掘り返すヒマリにいい加減焦ったい思いを抱きはじめたチヒロはズイッとヒマリに近寄ると言った。
「ヒマリ」
「そんなに先生のことが気になるんだ?」
「ひゃい⁈⁈」
「いえ私はっっ……」
チヒロに何とか言い訳しようとした
その時
あの日のエイミの顔が脳裏に浮かんだ。
悲しそうな、寂しそうな、あの目を。
あぁ良かった。
私はまた間違えるところだった。
ありがとうございます、エイミ
「私は………」
「先生が、好きです」
「うん」
「知ってる」
「今まで隠しててごめんなさい、チーちゃん」
「いいよ、そんなこと」
隠せていなかったことは伏せておくことにする。
「安心しなよ、先生は取らないからさ」
「そ、そうですか…良かった…」
と、言いつつヒマリは本当ですか?という顔をしている。
チヒロははクスリと笑うと
「で?」
「それで終わりなの、ヒマリ?」
「え?」
「先生のことが好きなんでしょ?」
「好き、だけで終わるわけないよね?」
「わ、私は」
「ヒマリ」
チヒロも必死だった。
自分の気持ちを押し殺しヒマリを応援する気持ちは強かったが、怖気付くヒマリを見ていると嫌な自分が出て来てしまうのだ。
ヒマリといる時の先生の顔をチヒロは知っている。
あの顔を独り占めしたいと思ってしまう自分がいる。
諦めてはいても諦め切ることができなくなってしまう。
だから、本当に仕方なく、仕方なく、頼り甲斐のあるしょうがないヒマリを応援するのだ。
「な い よ ね ?」
「ひ、ひゃい……」
「なんか頼りないなぁ…本当に思ってる?」
「ほ、本当です!」
「本当に本当の本当です!」
「ふぅん…」
「いいよ、別に」
「モタモタしてたら、私が先生のこととっちゃうから」
「ええぇ?」
「だ、ダメです!先生は渡しません!たとえチーちゃんだとしても、です!」
「へぇ?さっきまでナヨナヨしてたのに急にやる気じゃん」
「そんなに先生のことが」
「あぁぁもう!からかうのはよしてください!」
「いくらチーちゃんでもこれ以上は許しませんよ?」
「………へぇ?」
「むむむ……………」
「「先生はわたs」」
「部長たちごめーーーん‼︎‼︎‼︎」
「忘れ物しちゃったーーー‼︎‼︎‼︎」
マキが扉を勢いよく開け入って来た。
「あれ?」
「何かあったの?喧嘩したの?」
「「いいえ(や)、なにも?」」
ーーーーーーーーー
ーミレニアムサイエンススクール敷地内のベンチー
その頃先生はミレニアム内でうろうろしていたハレを捕まえエナジードリンクを奢る条件で相談に乗ってもらっていた。
「えー?」
「ヒマリ部長の…好きなもの?」
「うん、何か知らないかな?」
「うーん…」
「そう言えばあんまり部長の好きなもの知らないかも」
「部長とあんまりそう言う話したことないし…第一部長、普段からプライベートの話あまりしないし」
そう言うとハレはグイッとエナジードリンクを飲み、幸せそうな顔をした。
普段から徹夜してる自分も人のことを言えないが、正直すごく心配である。
「そ、そうなんだ…」
シュンとしてしまう先生を見てハレは当然の疑問を抱く。
「でもなんで急に?先生前までそんなこと聞いて来たことなかったのに……」
「え?あ、あぁ、それは…も、もうすぐヒマリの誕生日でしょ?」
「そうだっけ」
「そうだよそうだよ!」
興奮して思わず声を張ってしまった。
「わ、びっくりした」
驚いたハレは目をぱちぱちっとさせた。
「ご、ごめん…」
「それでヒマリに何か、プレゼントできたらなって思って」
「そ、そうなんだ」
「と、とにかく…部長とそう言う話あんまりすることなかったから私はちょっと力になれないかも」
「ごめん、先生…」
「いや、大丈夫だよ。相談に乗ってくれてありがとう、ハレ」
「う〜ん……ヒマリの好きそうなもの…か」
と、言っているとハレはちょっと難しい顔をした後言った。
「せ、先生…」
「?どうしたの?」
「私の…私おすすめの」
「エナジードリンクをプレゼントするのは…どうかな⁈」
だ、ダメだこりゃ……
その後先生は完全にその気でいるハレを説得するのにかなり苦労した。
ーーーーーーーー
「う〜〜〜ん……………」
その後ヒマリに関する情報を探ってみたものの、そもそもヒマリの存在を知る生徒の数が少ない上に致命的なレベルでヒマリの情報が少なすぎる事実に先生は困り果てていた。
普段からミステリアスなヒマリはプライベートの話をほとんどしないらしく、ヒマリを知る生徒に聞いてみても帰ってくる言葉はみんな「そういえば知らない」だった。
「どうしよう………」
なんとかヒマリとの距離を縮めたい先生だったが、いざとなった今どう行動していいか分からず足踏みするばかりで一向に前進しないのであった。
ピュウ〜~~~
「うぅ寒い……」
冷たい風が吹きだしはじめて先生は季節に見合わぬ薄着をして来たことに気がついた。
キヴォトスはとうに冬を迎えており、吐く息も白くなっていた。
「……んせい」
「先生?」
「うわっ」
「なにしてるの?」
「こんな格好でいたら風邪ひいちゃうよ?」
顔を覗き込んできていたエイミだった。
相変わらずの薄着だが全く気にしていない様子だ。
「あぁごめんエイミ、ちょっとね、考え事を…」
「…先生それもしかしてヒマリ部長のこと?」
「ええぇぇ⁈」
「な、なんで分かったの⁈」
「ふふ、分かるよ」
エイミはニコニコしている。
「あ!」
もしかしたら、と思いエイミに尋ねる。
「エイミ、エイミはヒマリの好きなものとか知らない?」
「ヒマリ部長の好きなもの……?」
「そうなんだ、もうすぐヒマリの誕生日だから何かあげたら喜ぶかなぁって思って」
「好きなもの……好きなもの………」
じっと顔を見てきてたエイミと目が合うが、すぐ目をを逸らされてしまった。
「うーん…私あんまり知らないんだよね」
「占い?とか……かな」
「あ、演歌も好きだよ部長」
そんなものを誕生日に送る先生がどこにいるのだろう。
「エイミもダメ…かぁ」
半日かけて収穫なしとは…とガッカリしていると、しばらく考えていたエイミが切り出してきた。
「あのね、先生」
「?」
「なに?」
「これは私の予想なんだけど」
「ヒマリ先輩は多分、なんでも喜ぶと思うよ」
「え、えぇ?」
「でもやっぱりヒマリが好きなものの方が…いいんじゃないかな?」
「大丈夫、多分重要なのはあげるものじゃないよ」
「あげるものじゃ…ない?」
「うん」
「だからって適当に考えちゃダメだよ、先生なりに一生懸命考えてね」
「だ、大丈夫かなぁ……」
「大丈夫、絶対絶対ぜったい!大丈夫、だよ」
エイミは首をぶんぶんと縦に振りながらふんすと拳を作ってみせた。
よく分からないが、いつも隣にいてヒマリのことをよく知るエイミがここまで言っている、という事実が自分の中に大きな説得力を持った。
そうと決まればこんなことをしている場合ではない。
「………分かった!」
「私なりにやってみるよ、ありがとう!エイミ!」
「うん、頑張れ、先生」
遠ざかる先生の背中を見ていると視界がぼやけた。
私は、ミレニアムサイエンススクール一年の和泉元エイミ。
特異現象捜査部の部員であり、部長の後輩で、ヒマリ先輩の仲間。
才気あふれる生徒が集うこの学校で何の取り柄もない私をそばに置いてくれたのがヒマリ先輩だった。
私はヒマリ先輩の力になりたい。あの人の為なら何でもできる。
だから私はあの日、心の針であの人を刺そうとした。
初めての気持ちと向き合い、おぼつかない足で歩き出そうとするヒマリ先輩に差し出した手をあえて引っ込めようとした。
実際、できた。
できてしまった。
ヒマリ先輩のためだと思ってやったことは、蓋を開けてみれば嫉妬した自分の暴挙だった。
私は心のどこかでヒマリ先輩が気づくのを恐れていた。
しかしあの人はそれすら乗り越えてきた。
不器用で、繊細なのにそれを上回るほどにあの人は強かった。
ミレニアムの孤高の花は、私なんかに敵う存在じゃなかった。
だから私はあの人を支えるのだ。
折れないように、その太い茎に小さな手を添えるのだ。
「先生」
「お願い、だよ」
ぼやけた視界は私には相応しくないほど眩しかった。
先生はどうするのでしょうか、気になりますね。
エイミはもう一度登場します。ほんとにいい子。
ではまた。