朔矢、第零席としての任務を全うする
水戸郁魅は遠月学園屈指の肉のエキスパートである。
そのため、彼女は自身の選ぶ肉や作った料理に絶大な自信があったからこそ、誰と戦っても勝てると自負していたのだが
「な、何だよ.......コレ」
今現在の彼女は、自身の先輩である生徒.......柿沼朔矢の作った料理(牛肉のしぐれ煮)のあまりの美味しさに衝撃を受けていた。
何故、彼女がそんな状態になっているのかというと.......事の発端はピリピリイライラしていた郁魅を見かけた朔矢が彼女に声を掛けたことから始まった。
郁魅にとって、朔矢はいわゆるチャラい男というイメージがあったために最初はナメ切った対応をしていたのだが
(こんなに美味いしぐれ煮....食べたこと、ない。というか、なんてことないしぐれ煮なのに.......何で、何で)
その態度は朔矢の料理を食べた途端に鳴りを潜め、代わりに彼の作った料理に対する衝撃で脳内が埋め尽くされていた。
「どした?不味かったか?」
そんな郁魅に対し、ケタケタと笑いながらそう尋ねる朔矢。
それに対し、郁魅は
「柿沼、先輩.......もしかして、和食が得意なんじゃ」
と言いかけるが、その言葉に対して朔矢は彼女の唇の前に指を置くと
「さぁて、どうだろうな?」
ニヤリと笑いながらそう言った。
その言葉を聞いた郁魅は顔を真っ赤にすると
(やっぱり....柿沼先輩は只者じゃない!!)
心の中でポツリとそう呟いた。
「てか、そんなに美味かったのか?」
朔矢がそう言うと、コクリと頷く郁魅。
そんな郁魅の様子を見た朔矢は
「なら良かったよ」
彼女に対してニコニコ笑いながらそう言った。
最も、その笑顔は絶対に正体をバラすなよという脅しの意味を込めた笑顔だったので、郁魅がビビったのは言うまでもない。
「俺もさ〜、結構大変なのよ。だから....お口チャックとか出来る?」
朔矢の言葉に対し、郁魅は物凄い勢いで頷くと.......彼に向けてこう言った。
「そ、その....もし、柿沼先輩がよかったら....」
「よかったら?」
「アタシを.......アタシを....弟子にしてくれ!!」
彼女はそう言った瞬間、恥も外聞も捨てたのか....朔矢に向けて頭を下げた。
それは朔矢にとって想定外のことだったのか
「.......へ?」
頭を下げる郁魅を見た朔矢は思わずそう呟いていた。
「ちょ、ちょい待って。ミートちゃんってエリーちゃんの手下だよね?」
「はい、そうですけど」
あっさりとそう言う郁魅を見た朔矢はこう思った、そこは認めるんだな....と。
「俺の弟子になるってことは、エリーちゃんを裏切るってことになるけど.......大丈夫なの?」
朔矢がそう言うと、郁魅は.......真っ直ぐな目でこう言った。
「アタシは....アタシは!!あのしぐれ煮レベルの料理を作るため、そして、真の肉のエキスパートになるためにえりな様を裏切って師匠に付きます!!」
そんな郁魅の様子を見て、朔矢はマジだと思ったのか.......ため息を吐くと、彼女に向けてこんなことを言った。
「君さぁ.......そういうとこはバカ正直だよね」
その顔には、今の彼女に何も言ってもダメなんだろうなという諦めの表情が浮かんでいて
「けど....エリーちゃんを裏切るのなら、俺もビシバシやっちゃうよ?」
それと同時に朔矢はニヤリと笑いながらそう言った。
その言葉を聞いた郁魅は、彼からお許しが出たのだと理解したのか.......姿勢をビシッと伸ばすと
「はい!!」
勢いの良い声でそう言った。
「それからもう一つ。俺の弟子になるのなら.......とりあえず極星寮に来い。話はそれからってことで良いかな?」
「極星寮....」
朔矢の言葉を聞き、そう呟く郁魅。
「お前の噂は十分すぎるほどに聞いている。だからこそ、お前には料理センスの他にライバルが必要ってわけ」
「だからアタシを極星寮に....?」
「そゆこと☆」
キラッとポーズをしながら朔矢はそう言うと、続け様にこう言った。
「そ・れ・に.......俺の得意ジャンルを見抜けるミートちゃんをエリーちゃんの部下のまんまにしておくにはもったいないしね〜」
「......!!」
チャラ男ムーブをしながら、そう言う朔矢の言葉を聞いた郁魅は覚悟を決めたのか.......再び背筋をピンと伸ばしたのだった。
「んじゃ、これからよろしくね〜。ミートちゃん☆」
その後、水戸郁魅は薙切えりなの派閥から離れ......柿沼朔矢という最強の存在の弟子になったのと同時に、極星寮の仲間入りしたとか。
なお、カッキー先輩のおかげで丼研イベは消滅しました。