【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ! 作:まさきたま(サンキューカッス)
最強の戦士タケルに、人生最大の試練とは何かと聞かれたら。
彼はきっと「まさに今この瞬間です」と答えただろう。
─────勇者タケルは、恋をしていた。
サリパの第二王女リシャリ・サリパールに、淡く切ない恋をしていた。
他人に怯えられ、疎んじられて生きてきた少年時代。
そんな彼を孤独から救い上げ、優しく包み込んだリシャリ姫。
平民と王族、決して結ばれるはずのない身分の差。
本来ならば叶うはずのない、心の奥底に秘めた恋。
しかしタケルは、生まれ持った強靭な肉体で武功を立てた。
祖国サリパを何度も救い、功績を認められた。
そしてとうとう、彼はサリパの国王から恋焦がれた美姫、リシャリ・サリパールを娶る許可を得た。
正室、サリパ第二王女リシャリ・サリパール。
側室、ドラズネスト領主メウリーン・ドラズネスト。
この縁談こそ、タケルに用意された至上のご褒美。
ただの平民が武功を上げ、これほどの縁談を結ぶなど前例がない。
この縁談が成立すれば、勇者タケルの英雄譚は末代まで語り継がれることになるだろう。
そして今日。勇者タケルは、リシャリ姫から会食に招待された。
その会食は『メウリーン・ドラズネスト』との顔合わせが目的だ。
「で、ではタケル。会食の場に案内しますわ」
タケルもその会食には、真剣に臨んだ。
メウリーンを側室として娶ることが、リシャリ姫との縁談の条件だ。
だがタケルはメウリーンを側室として、ぞんざいに扱う気はなかった。
メウリーンの『人を見る』ため、真剣に向き合うつもりだった。
そんな真っすぐな思いを持つタケルは─────
「……リシャリ様? と、ところで、その服は」
「さあ! 案内しますわ!! ついてきてくださいまし!!」
想い人リシャリ・サリパールの臍だしミニスカ太もも巫女服を前に、顔を真っ赤していた。
外交において大事なのは、相手の文化を知り、尊重すること。
聞いたところ、ドラズネストにおいて巫女服は『神に認めてもらった証』らしい。
なので縁談の場で巫女服を着ると、結婚が神に祝福して貰えたという扱いになる。
『まぁその神とは、龍神グルデバッハなのだがナ』
『……なるほど?』
露出が多い理由は、布が少ない方が龍神が食べやすいから。
赤と白の派手な色合いは、生贄として認識してもらいやすいように。
この巫女服を自ら着ることでメウリーン一族は、ドラズネストで『絶大な信頼』を得た。
それが転じ、ドラズネスト民の間で巫女服は『統治者の証』と認識されていたという。
『リシャリ姫も、ドラズネストではこの服を着ると良い。それだけで、民が尊重してくれる』
『あ、ありがとうございますわ』
この巫女服をくれたことは、メウリーンの厚意に他ならない。
サリパ的にはちょっと恥ずかしめというか、アレな衣装であるとは認めよう。
だがメウリーンさんは当たり前のように着ているし、羞恥感情はない。
ドラズネストの文化的に、マジに正装っぽいのだ。
……雪精の毛皮で作った防寒具が『至上の贈り物』にも『最悪の敵対行為』にもなる。
ならばメウリーンが主役となる会食の場で、俺が着ないわけにはいかない。
「り、り、リシャリ様、そのお姿は」
「何も……何も、問うなですわタケル」
ただし、その巫女服はおへそが出ていた。
袴の裾は尋常でないほど高く、太腿がいっぱいに露出していて。
ちょっと油断すれば、下着があらわとなってしまいそうだ。
「この衣装に思う所があったとして、口に出してはいけませんわよ」
「いえ、その……、はい! 分かりました!」
「良い返事ですわ、タケル……」
無だ。心を無にするのだ、
ちょっとタケルの視線が、きわどい部分に釘付けになっているくらいなんだ。
ヤツも男なのだ。こんな服を着ていたら、目が行くのはやむも得まい。
「この服はドラズネストの正装だそうです」
「な、なるほど」
「メウリーン様も同じ服装ですわ。文化の違いも受け入れねばなりません」
気をつけて動かないと、下着が見えてしまう。
これでは街中を歩けないので、王宮の貴賓室での会食にした。
ドラズネストの文化を尊重はするが、下着丸出しで歩くのははしたない。
「では、この先の部屋でメウリーン様が待っていますわ」
「……はい」
集中しろ、俺ならできる。
さりげなく太ももを抑え、静かに揺れるように歩行しろ。
視界の端、廊下の遠くにルゥルゥ姉上の姿が目に映った。
唇を掌で覆い、笑いを堪えていた。後で殴りこみに行こう。
「失礼いたします、メウリーン様。タケルを連れてきましたわ」
「うム。御足労頂き、感謝すル」
だが今は、メウリーンさんとの会食だ。
貴賓室のドアを開けると、メウリーンがお辞儀で出迎えてくれた。
「では、席に着きましょうか。メウリーン様、タケル、どうぞお座りくださいまし」
「失礼する」
席順は、タケルとメウリーンがテーブル越しに向かい合い、俺が脇に座る形だ。
今日の俺の役割は『仲人』。司会をして、後はお若いお二人に任せる役目。
メウリーンもタケルも、俺より年上だけど。
「メウリーン・ドラズネストだ。貴方に会いたかっタ、勇者タケル」
「きょ、恐縮です。タケルです……」
二人を引き合わせると、ぎこちなく頭を下げて挨拶を交わした。
社交界に慣れていないタケルは、左右に視線を揺らせている。
時折チラチラ、と助けを求めるように俺の顔を見つめた。
「簡単ではありますが、料理をご用意しておきましたわ」
「うム、ありがとウリシャリ姫」
「では、会食を始めさせていただきますの」
おう、任せとけタケル。こちとら、社交界の経験だけは深いんだ。
見合いをセッティングしたことだって、何度もある。
「まずは、私から簡単にご両名を紹介させていただきます。まずはタケルから」
「は、はい!」
「ご存じとは思いますが、彼こそサリパで一番の戦士ですわ。入団試験の折にはあのパウリックを圧倒し、そこから数々の武功を立て続けた英雄ですわ。龍神グルデバッハ、ヤイバンのレヴィグダード、デケン七英雄アガロンなど倒した敵は数知れず。最強という言葉は、彼にこそふさわしい」
まずは話題を作りやすいように、両名の略歴を紹介する。
こうすることで『タケルの~ってどんな感じだったんですか』と、話が広げやすくなる。
「ただ強いだけでなく、優しい男性でもありますわ。敵であっても考えなしに殺そうとしません。それは勇気がないからではなく、彼は強者であるがゆえに余裕があるということ。強さと優しさを併せ持つ、まっすぐな性根の男性ですわ」
「か、過分な紹介を、ありがとうございます」
タケルの紹介は、こんなもんでいいだろうか。あんまり長々と話すのも違うしな。
さて、次はメウリーンさんの紹介だ。
「続きましてメウリーン様はドラズネストの現領主にして、ドラズネスト家の七代目のご当主です。ドラズネスト家は龍神グルデバッハが暴れないよう、自ら生贄に立てながら領地を守り続けた誇り高い一族です。民たちは、彼女の人徳に心服しているようですわ」
「うム」
「メウリーン様の特筆すべきは、聡明さでしょう。たった一人で領地を切り盛りし、ヤイバンから独立できる情勢を見逃さず、時代を見渡す戦略眼をお持ちです。また知将ベルカに唯一、『戦略で勝利した』指揮官でもあります。その叡智はきっと、これからサリパを支えてくれるでしょう」
改めて考えてみたら、メウリーンさんって一回ベルカに勝ってるんだよな。
まぁ龍神グルデバッハっていうド級の切り札があっての話だが……。
事実だけ見るとブユルデスト防衛戦の時、タケルが間に合わなければ負けていたワケだ。
そのことを聞くと、タケルは感心した表情になった。
「不肖ながら私の方から、簡単に紹介をさせていただきました。では、しばしご歓談いただければと思いますわ」
「ありがとウ」
「ありがとうございます!」
さて、これで話題振りは終わったぞ。
あとは適当に、お互いに質問タイムだ。
俺はニコニコと、笑顔を振りまいて相槌を打てばいい。
「……」
「……」
奥手なタケルから質問を投げる余裕はないだろう。
必然メウリーンさんが主導権を握って、会話してもらう展開になると見た。
俺は余計な口を挟まず、ニコニコと笑っておけば……。
「……」
「……」
そのまま、一分ほど待ってみたが。
タケルもメウリーンさんも、視線を左右に動かして……。
困ったように俺の方を見つめてきた。
「えーっと、あの。何か、お互いにご質問などしてはいかがでしょうか?」
「え、あー、そうだナ」
「は、はい、えーっと」
あの、メウリーンさん? 待ってもタケルからアクションは来ないよ?
その男、超が付くほどの恋愛下手だよ? だからメウリーンさんの方から……。
「きょ、今日は、いい天気、なのカ?」
「いい天気、じゃ、ないでしょうか?」
メウリーンさんは顔を真っ赤に手元を凝視して、ボソボソと呟くだけだった。
……。
「え、えーっと。そうですわね、メウリーン様」
「あ、あア」
あかん、メウリーンさんも恋愛下手だこれ。
何だよ、昨日は自信満々に『策を用意している』とか言ってたじゃん。
知将っぽい雰囲気を出してたじゃん。
「私は普段、ドラズネストの民はどんな生活をしているか気になっていますわ」
「アー……! そうだナ、我らは部族単位で集落を作っていテ」
こうなれば仕方ない、
俺が出張って、話題を振りまくるしかない。
「朝、目が覚めると民たちは
「……龍神が死んでしまっても、その風習は続いているんです?」
「もちろん。この風習は恐れから生まれた『どうか食べないでくレ』という命乞いダ」
「ははあ」
「龍神が死んだ今こそ、民は『復活してモ恨んで食べないでクれ』と熱心に礼拝していル」
「あぁ、なるほど。しっくりきましたわ」
つまり龍神グルデバッハは『祟り神』的な扱いだったんだな。
討伐された今も恐れられ、祈られているんだ。
「まぁ復活してもタケルは負けませんわ。ね、タケル?」
「そうですね。パウリック師匠に鍛えてもらった今なら、一人でも勝てるかも」
「え、タケルまダ強くなってるの?」
うん。ウチの騎士団長パウリックは、タケルの弱点を徹底矯正している最中だ。
パウリック曰く『一年貰えれば仕上げて見せる』とのこと。
つまり来年には、究極完全体になったタケルを見ることができる。
何それ怖い。
「礼拝って、どんな感じにやるんですか?」
「作法は簡単だが……。タケルは、知る必要がなイだろう」
勇気を出したのか、タケルからメウリーンさんに質問が飛んだ。
しかしメウリーンさんは、首を横に振った。
「どうしてですか」
「タケルは祭られル側だ。この縁談の如何にかかわらず、祠を建てる予定であル」
「祭られる側!?」
まぁそうなるよな。タケルが信仰され始めてるって話だったしな。
「民たちの礼拝の対象も、今後はタケルだけになるだろう」
「
「ひぇえええ……」
民たちは元々、龍神の脅威を恐れ敬っていたのだ。
それより強いタケルが、信仰されないはずがない。
「だからこそ私と縁を結ビ、タケルをドラズネスト領主に迎えたイ」
「なるほど」
「権力を可視化する方が、統治しやすくなル」
メウリーンはそんなタケルへの信仰を、政治にも利用する気らしい。
宗教と政治は分けるのが近代の定石だが……。
各部族で集落をつくっている文化レベルなら、それが正解なのかもしれない。
「タケル殿はふんぞり返っていて構わなイ。私はタケルに仕える巫女としテ、貴方に礼拝すルことになるだろう」
「その場合、私も礼拝したほうが良いでしょうか?」
「……リシャリ姫は、そうだナ。一緒に礼拝して貰う方ガ、民に分かりやすイだろう」
分かってきたぞ。タケルは神で、俺とメウリーンは神の妃という立場。
今までグルデバッハでやった統治構造を、受け継ぐ形で統治するんだ。
「リ、リシャリ様に礼拝してもらうなどと、そんな不敬な」
「……ちょっと面白そうですわ」
「何で乗り気なんですか」
いやだって、絶対面白いだろその構図。
民の前でタケルが、美女二人を侍らしてふんぞり返ってるわけだろ?
タケルの顔、カチカチになってそう。
「ちょっとやってみましょう。メウリーンさん、どんな感じでタケルを礼拝するんですの?」
「ふむ。ではタケル殿は、椅子に座っていてくレ」
「え、本当にやるんですか?」
俺は興味本位で、メウリーンに頼んで礼拝を実践することにした。
向こうの文化を知って、かつ、タケルに権威を自覚してもらう。
「礼拝の手順はこうダ。地面に膝をつけ、頭を下げ、祝詞を捧げル」
「ほう……こんな感じですか?」
「あア、その体勢で間違っていなイ」
「あああ、リシャリ様ァ」
礼拝の姿勢は、割とスタンダードな平伏だった。
俺はメウリーンに倣って、厳かにタケルに平伏した。
「リシャリ様が、そんなことをする必要は……」
「ふふ。タケルの功績には、それだけの重みがあるんですわよ」
あの奥手なタケルが、露出の多い巫女服の女性を二人も侍らせている図。
タケルが顔を青くしているのを含め、とても面白い。
ちょっと恥ずかしかったが、このエロ巫女服を着た甲斐があった。
「このまま、祝詞が終わるまデ頭を下げル」
「はいですわ」
そこまでは良かった。
タケルを持ち上げ、いい気分になってもらえたらなくらいの気持ちだった。
「豊穣の大地、天かラ遣わされシ恵みの雨」
メウリーンはタケルに頭を下げたまま、熱心に祝詞を唱え始めた。
俺は
─────そこで、致命的な事実に気が付いた。
「大いなル龍神を打ち倒せシ勇者タケル……」
せり上がった巫女服から覗ける、メウリーンの太ももの奥。
そこには、肌色しか存在しない。
……メウリーンは、この露出の多い巫女服で、下着を着けていないっ!!!
気付いた瞬間、ガラにもなく俺は動揺していた。
この巫女服って下着つけたらダメなやつだったのか、と。
これがどれくらいの不敬なのか、分からないのだ。
下着をつけて巫女服を着ることが、戦争の火種になる可能性はある。
つい先日文化の違いで殺されかけたばかりなのに、同じミスを繰り返してしまった。
こうなっては仕方ない。下着をつけていることをバレないよう、頑張るしかない。
巫女服の裾を握り締め、気を引き締めると……。
突如。近くから、強烈な視線を感じた。
今まで向けられたことのない、野獣の眼光だ。
思わずビクリと身をよじりたくなる、そんな強い視線を向けている人物は……。
「……」
タケルだった。彼は俺に、かつてないほど強い視線を向けていた。
どうしていきなり、そんな目で俺を見るんだ?
ヤツの表情は真剣そのもの。鬼気迫る顔で、俺の太腿を凝視している。
観察しろ。メウリーンが祝詞をあげている間に、タケルの心情を紐解け。
彼はどうして、俺を睨んでいる? 何がタケルをそうさせた?
「……っ」
俺が視線を向けると、とタケルの視線が揺れた。
彼は目を逸らす際に、一瞬、メウリーンの太ももに目をやった。
タケルは真っ赤で、強い困惑が浮かんでいる。
しかし、磁石に吸い寄せられるように、俺のふとももに視線が向いてしまう。
─────そこで、俺はタケルの視線の意味に気が付いた。
同刻。タケルは、人生で最大の試練を迎えていた。
その試練とは想い人、リシャリ姫が露出の多い巫女服を着ていたことだ。
いつも高貴なドレスに身を包んだ彼女が、お臍や太ももを露わにタケルを案内する。
タケルとて、リシャリが無理をして巫女服を着ていることに気づいた。
ならばあまりジロジロ見ないほうが良い。そもそも、今日の本題はメウリーンとのお見合い。
リシャリ姫の露出が多い巫女服に、あまり目を向けないようにしよう。
そう、心に決めていた。
しかしそんなタケルの理性をぶっ壊す、衝撃の事態が発生する。
会食するメウリーンの服装も同じデザインの、露出の多い巫女服だった。
向こうでは正装らしいし、仕方ない。タケルは意識しないよう、会話を続けた。
そして話の流れで、二人がタケルを礼拝する流れになった。
気恥ずかしいが、なぜかリシャリ姫もノリノリで彼を拝もうとしている。
ならば我慢してリシャリ姫のやりたいように、と受け入れたのだが……。
チラリと、メウリーンの巫女服が捲り上がり、太ももの奥まで露わとなった時。
タケルは、衝撃の事実に気が付いた。
……メウリーンは、この露出の多い巫女服で、下着を着けていないっ!!!
頭をぶんなぐられるような衝撃。この女性は痴女なのか?
そこでタケルの思考は、さらに加速する。いや、それは違うのだと。
ドラズネストでは、これが正装なのだ。この巫女服は下着を穿かないのが正常。
失礼なことを考えるな。メウリーンさんは痴女でも何でもない。
─────じゃあ。同じく巫女服を着ている、リシャリ様は?
その考えに至った瞬間、タケルの視線はリシャリの太ももに吸い寄せられた。
当たり前だ。想い人が、履いていない可能性があるのだ。
その『仮定』から生まれる視線の引力は、抗いがたい。
見てはいけない。凝視するのは良くない。そんなことは分かっている。
しかしタケルとて男性。気づけば、リシャリ姫の太ももを凝視していた。
「……」
そして、まもなくタケルは気づく。
彼の主で、人の心を見抜く天才リシャリ・サリパールが……。
全て理解した顔で、冷たい目をタケルに向けていることに。
お見合いの結果。
リシャリからタケルへの好感度が微妙に下がった。
???「下着をつけずに会食したラ、勇者を落とせるナ(必勝の策)」