【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ! 作:まさきたま(サンキューカッス)
「初めましてリシャリ様。自分は、ロウガ・スピオと申しマッスル」
「は、はじめましてですわー」
本日は月に一度の、王宮社交パーティの日。
華やかな衣装をきた貴族令嬢が、王宮に集う日だ。
「ひ、久しいわねロウガ・スピオ。元気にしていたかしら?」
「おおルゥルゥ様……、お久しぶりです! この通り、ロウガは元気モリモリでございます!」
大広間には色とりどりの花が飾られ、テーブルには小料理が並んでおり。
会場の窓からは、王宮自慢の華美な庭園が一望できた。
「え、ええ、ならよかったわロウガ。なかなか会えなくて、ごめんなさいね……?」
「気にしていません! ここ最近、ルゥルゥ様はお体の調子を崩していたと聞いておりましたし!」
その社交パーティで、俺たち姉妹の目の前でほがらかに巨漢が笑っていた。
ルゥルゥ姉上の婚約者である、ロウガ・スピオさん(25)だ。
「元気が一番! なのでございます!」
俺もロウガさんと会うのは初めてだったが……。
彼は顔の彫りが深い、筋肉質なゴリマッチョさんだった。
「いやぁ! 今日もルゥルゥ様は実にお美しい!!」
「……」
「その麗しさ、まるで湖に浮かぶ水蓮のようだ」
以前から姉上は、このロウガ・スピオを毛嫌いしていた。
姉上とはノリというか、テンションが違い過ぎて疲れるらしい。
とはいえこの人は、軍の最高権力者スピオ元帥の跡取り息子さんだ。
性格は真面目で、部下からも慕われている快男児。
そして何より、彼はルゥルゥ姉上にゾッコンであった。
「う、うぅぅぅ」
「ど、どうしたのロウガ。いきなり泣き出して」
「この半年、ルゥルゥ様に再び相まみえる日をずっと待ち望んでいました。それが叶って、嬉しくて」
ルゥルゥ姉上は、婚約者をジュウギに変更できないか父上に交渉したそうだが……。
白い目で「まず今の婚約者に話を通せ」と一刀両断された。
……この婚約は、国家と軍との結びつきを強めるという意味がある。好みじゃないというだけで破棄できるほど、軽い婚約ではない。
それにロウガさんからすれば、三回もドタキャンされた挙句、婚約破棄される形になる。
普通は納得できないだろう。
「は、半年も会えなくて、ごめんね? 私のこと、嫌いにならなかった?」
「会えない時間が愛をはぐくむと言います。このロウガ、何も不満はありません!」
「あ、ありがと」
「今、ルゥルゥ様の元気な顔が見れて、満足マッスル! です!」
幸か不幸か、ロウガさんはまだ姉上との婚約に乗り気だった。
三回もドタキャンされたのに、会えたのが嬉しくて仕方がないという満面の笑顔を見せていた。
……この人に「好みじゃないから」と婚約破棄を告げるのは、なかなか辛いだろう。
「なかなか個性的な語尾ですわね、ロウガ様は」
「ええ、『マッスル』は我が軍の標語なのです!」
「標語?」
「戦場では筋肉こそが正義、マッスルあるものが生き残る! なので指揮官である自分が、積極的に発信しているのです」
そもそも王女は、自由恋愛で結婚できる立場じゃない。
相手がヤベーやつならともかく、問題がない男なら婚約破棄は難しいと思う。
「兵の力は軍の力。愛しきルゥルゥ様を守るため、このロウガは努力を惜しみません!」
「あ、ありがとう?」
「安心してください、ルゥルゥ様。自分が一生お守りしますぞ!」
仮にロウガさんが『ルゥルゥ様には付き合いきれない!』と不満をぶちまけているなら、婚約破棄も可能だろうが……。
こんなに好意を押し出されているのに、どの口が婚約破棄を切り出せようか。
「よければルゥルゥ様も、我が軍で少しトレーニングして行きますか? すぐにマッスルになれますよ!」
「……あははー」
────しいて気になる点があるとすれば、彼がスピオ元帥の一族という点だ。
タケルの『
今となっては確かめようもないが、初代スピオ卿の孫である今のスピオ元帥も油断ならない……かもしれない。
「運動は健康に良いのです。自分はルゥルゥ様にはいつまでも健やかに、長生きしてほしいのです!」
「は、はぁ」
「将来、ルゥルゥ様と暮らすお屋敷には、トレーニング器具を完備する予定ですぞ!」
ただロウガさんと会ってみた感じ、決して悪い人ではなさそうだ。
ちょっと個性的で、脳みそがマッスルなだけで。
「…………リシャリィ」
ふと見れば姉上が、涙を浮かべて俺に何かアピールしていた。
助けてくれ、勘弁してくれ、そんな彼女の声が目に浮かぶようだ。
ロウガさんは、姉上の好みの真逆だろうなぁ。
「私がでしゃばるのはこの辺にしておきましょうか。ではロウガ様、ルゥルゥ姉上、私はこの辺で」
「おお。気を遣わせてしまったようで、悪いですなリシャリ様!」
「ちょっ……」
そんな姉上の訴えを無視し、俺はニッコリ笑ってその場を去った。
そして通り過ぎざまに、
「わかっていますわね? 姉上」
「────!」
そう、しっかり釘を刺しておいた。
ロウガさんは確かに圧が強いし、暑苦しいし、好みじゃないのは分かる。
でも勝手な理由で三回もドタキャンしたのはよくない。
ちゃんと姉上自身で、彼と向き合うべきだ。
「では、少し話をしましょう。実は先日、面白い兵士が居ましてな……」
「そ、そう……?」
ロウガさんが生理的に無理なのは仕方ないが、通すべき筋は通せ。
ルゥルゥのワガママで、逃げ続けてはいけないのだ。
「タケル、ちょっと傍で控えていてくださる? 挨拶回りに行きますので、護衛をお願いしますわ」
「分かりましたリシャリ様!」
そんな感じに姉上とロウガさんのキューピッドをしたあと。
俺はタケルに声をかけて、会場に来た貴族へ挨拶に回った。
「リシャリ様! 少しお声を掛けてもよろしいですか」
「ええ、もちろん」
「何たる光栄。いや、本日もリシャリ様はお可愛らしいですな」
「ありがとうございますわー」
社交パーティにおいて、人と会うときは絶対に護衛を控えさせておかねばならない。
王族誘拐を狙うなら、この社交パーティが恰好の機会だからだ。
王族は普段、王宮に引きこもって滅多に街を歩かない。
外部の人間が王族に会えるとすれば、基本的にこの社交パーティの場だけなのだ。
「お久しぶりですじゃ、リシャリ様」
「おお、お久しぶりですわ」
「リシャリ様と結婚できる果報者が、うらやましい。儂がもう少し若ければ」
「いやですわ、侯爵様」
さらに社交パーティ場は、奥まで外部の人間に入られるとマズいので、入り口に近い場所にある。
しかも王宮の外から直接入れるような入り口まで設置されていた。
つまりこの会場は、王宮内で最も侵入しやすい建物なのだ。
だから
「リシャリ王女殿下、本日もご機嫌うるわしゅう」
「どうもですわ」
……まぁ仮に賊が侵入したとして、俺を狙う意味なんてないと思われるが。
俺は王位継承位も最下位だし、政治の実権もない。王族四兄妹の中で一番いらない子まである。
ラシリア王女誘拐の時のような、興味本位のアホ貴族くらいだろう。
「リシャリ様。この私の一輪のバラ、受け取って頂きたく」
「あら素敵ですわー」
とはいえこの社交パーティは大事な仕事なので、参加は必須だ。
この社交パーティは、貴族にとって婚約者探しや顔合わせの場となっている。
王族の権威の前で交渉や婚約などが行える意義は大きいのだ。
「先日は息子がご迷惑をおかけしました。キツく叱っておきましたので」
「いえいえ、こちらこそ虫遊びに付き合わせてしまって」
また時折、揉め事を持ち込んでくるヤツもいる。
小さいころ、『お前との婚約は破棄する!』と宣言する貴族を見たことがあった。
痴話喧嘩だったそうだが、当時の俺は『こういうの本当にあるんだ!』とワクワクした。
「この度は、息子がお世話になったようで」
「これはこれは、ウェット侯爵様! ジュウギ様には期待しておりますわ」
そんな風に社交パーティはトラブルが多いので、ちゃんとルールが敷かれている。
例えば、参加者は誰かれ構わず声をかけていい訳ではない。
挨拶するだけなら問題ないが、ご令嬢を口説く場合は家に根回しが必須だ。
また身分差がありすぎる場合も、口説くべきではない。身分が低い側が、断りにくいからだ。
「リシャリ様は本物の天女であると、ジュウギが褒め称えておりました」
「言い過ぎですわー」
あと女性側から話しかけず、声を掛けられるのを待つべきとされている。
淑女として魅力があるなら、男から話しかけてくるだろうという文化だ。
令嬢が自分からガツガツ男に声をかけて回ると『なんだアイツ……』と思われる。
逆に暇そうにしている令嬢が居たら、声をかけるのが男側のマナーとされているらしい。
「では、またお会いしましょう」
「楽しみにしておりますわウェット様」
とまぁ、それなりに制約が多いパーティである。
姉上が「息が詰まる」と敬遠する気持ちも分からなくはない。
「いやあ! 今日もリシャリ様はお可愛らしい!」
「あらどうもー」
ただ幸いにして、今日のパーティは穏やかだ。
俺は声をかけてきた貴族に相槌を返し、オホホホと笑ってほどほどで別れる。
みんな空気を読んでくれるので、気楽なもんである。
「……リシャリ様。あちらを」
「おや?」
宴もたけなわ、俺も一通りの挨拶回りが終わった頃。
もうお開きかなというタイミングで、タケルが俺に部屋の隅を指さした。
「なぁ、ちょっとだけいいだろ?」
「すみません。不愉快なのですが」
見れば大広間の隅っこの方で、令嬢が迷惑そうな絡まれ方をしていた。
若くて浅薄そうな男が、貴族令嬢に壁ドンして迫っているのだ。
「あのご令嬢、お困りのようですが」
「そうですわね。助けに行きましょうか」
この社交パーティは、王族の主催だ。
つまりこのパーティで不快なことが起きれば、王族の責任。
参加者同士のもめ事に対応するのも、俺の大事な仕事なのだ。
「今、特定の相手はいないんだろう? オレと少し、遊ばないか」
「やめてください。私はそんなに安い女ではございません」
女側はかなり嫌そうな声で、明確に拒否をしていた。
誘うこと自体は黙認されてるが、あれは男側がマナー悪いな~。
「……ちょっとだけ、ちょっとだけ、な?」
「……っ」
女側も抑えているが、そろそろ我慢の限界という感じだった。
俺はタケルに目配せして、助けるようお願いした。
「タケル、割って入ってもらえますか」
「御意」
あのご令嬢は手間暇をかけてメイクして、わざわざ王宮まで出向いてきてくれたのだ。
せっかくのパーティーを台無しにしてはいけない。
王族として、助けに行かねば────
「悪い気分にはさせないさ。オレを信じてくれ」
「いい加減にして、誰がアンタなんかにっ」
そう思ってタケルを先に向かわせ、悠々と声をかける準備をしたあと。
……よく見たら、その娘に見覚えがあるなと気が付いた。
「そこまでです」
誰だったけなぁー、と首をかしげている間に。
ナンパ男の手をタケルが掴み、グイと押しのけていた。
「なんだ、お前?」
「見かねて声を掛けさせていただきました」
タケルに腕を掴まれた貴族は、困惑してタケルを見つめている。
貴族令嬢の方も、ポカンとタケルを見て放心していた。
「お嬢様が嫌がっているでしょう? そろそろ、しつこいのでは」
「おいおい、護衛ごときが邪魔するんじゃねぇよ」
「護衛ですので、来訪者の安全を守るのも勤めです」
あわあわ、と令嬢の口が震えている、
その表情の変化を見て、俺はようやくご令嬢が誰か思い出した。
今日は騎士団の服着てないから、遠目では気付かなかったけど……。
「な、な、なななな」
「お嬢様、ご安心を。これ以上の狼藉は許しません」
「た、たたたタケルがなんで」
あの娘、タケル大好きツンデレ女騎士のポーリィさんじゃん。
……そっか。パウリックの娘さんなら、貴族令嬢として社交パーティに参加してもおかしくないわ。
「な、ななな何でアンタが私を……!?」
「……? お嬢様、後は私にお任せを」
タケルは、そのご令嬢がポーリィだって気付いてるのか?
いや気付いてないな、アレ。余所行きの営業スマイルしてるもん。
「貴女の肌に、傷一つ付けさせはしません」
「ひゃあああ!?」
タケルのキザなセリフを聞いて、ツンデレ令嬢の顔が真っ赤に茹で上がる。
……アイツ、わざとやってるのかね。
「ふーん? なかなかデカい口を利くじゃん」
「……」
「ちょっとばかし、痛い目を見てもらおうかナー?」
ポーリィは顔を真っ赤にして、その場でぱくぱくと口を開け閉めしていて。
ナンパの邪魔をされた男は、イライラとした顔でタケルを睨みつけている。
喧嘩に発展しそうだな。そろそろ俺も声をかけ、仲裁に入るか。
「────愚か者ォォォ!!」
「ぶべらっ!」
そう思って一歩、前へ出ようとしたら。
ものすごい筋肉が突っ込んできて、ナンパ男を持ち上げ叩き伏せた。
「ちょっと! アンタ、いきなり突っ込んで何してるのよ!」
「自分はロウガ・スピオである! 無粋な男は見逃がせマッスル!」
「あーもう!」
続けてルゥルゥ姉上が、ロウガさんと一緒に乱入してきた。
……姉上も、仲裁に来たみたいだ。
「ルゥルゥ様、この一件は自分にお任せください。この男は、我が部下でして! 監督不行き届き、伏してお詫び申し上げます」
「げぇっ! ロウガ卿!?」
「貴様ぁ! 嫌がる女に無粋な誘い、誠に情けなぁい! 心に筋肉が足りん!」
どうやらナンパ貴族は、ロウガさんのお知り合いだったようで。
彼は筋肉を怒らせ、ムキムキとナンパ男を睨みつけていた。
「……」
ロウガさんの知り合いなら、任せちゃうとするか。
姉上が仲裁するなら、上手く収めてくれるだろうし。
それに、
「お嬢様、お怪我はありませんか?」
「あ、う、う。な、ないわ」
……あそこでラブコメしてる二人を邪魔したくないし。
「そうですか。よかった」
「あ、あうー」
せっかく、なんか凄い良い雰囲気なんだ。
俺が乱入したら、ポーリィさんがまた暴走するかもしれん。
ここは空気を読んで、ちょっと二人きりにしてやろう。
そう考えて、俺はニヤニヤしながらその場から離れた。
護衛を付けずに。
「────我は、陰に生きる蜘蛛」
「はい?」
クールに去った俺は、そんな誰かの声を聞いたあと。
「御免」
ふらり、と眩暈がして俺は意識を失った。
「────う、あ」
「ああ、気が付いたかお姫様」
ハッ、と目を覚ますと、青空の下だった。
俺は謎の男に担がれて、見たことのない場所を進んでいた。
「あの護衛、随分と手練れだったな。なかなか隙を見せなかった」
「姫様がフラっと離れてくれて助かったぜ」
俺の口には、猿轡が巻かれていて。
両手足が縛られ、謎の袋に入れられて、運ばれていた。
「あ、あ、え?」
「悪いが、ちょっとばかし付き合ってもらうぜ」
……この人たち、どう見ても国軍じゃないよなぁ。
俺は見たこともない場所を、見たこともない連中と共に、移動しているワケだ。
これは、つまり。
「ホギャアアアアアアアァァァァァァァ!!!」
俺、攫われとる!!!