【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ!   作:まさきたま(サンキューカッス)

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26話「まっするですわー!」

 

Vooo(ヴォオオオ)……」

 

 巨龍は、全身を赤く輝かせて憤怒していた。

 

 牙と歯茎を剥き出しに、蹴られ凹んだ顔で咆哮した。

 

VaoooOOOO(ヴァォォォオオオオ)!!」

 

 龍の叫びは地響きとなり、砂塵と竜巻を巻き上げた。

 

 数秒ほど遅れ、ヤツの遥か遠くに立っている俺の顔にもパラパラと土埃が届いた。

 

「……お、おい、リシャリ様。アレは何だ」

「アレって、タケルのことです?」

「あの人間は、一体何者なんだ」

 

 龍に天敵はいない。

 

 龍が殺されうるとすれば、基本的に龍同士の争いのみ。

 

 彼らにとって人間は栄養源でしかなく、害意を持つ理由はない。

 

「あの人間、龍を蹴り飛ばしたぞ!? アレは何なんだ!」

「……彼は、貴方と同じですよ」

「同じ?」

 

 だが龍は、タケルを睨みつけて唸り声をあげた。

 

 その紅く光る瞳には、確かな憎悪が渦巻いている。

 

 まぎれもなく龍は、タケルを『敵』と認識していた。

 

「タケルは、私の忠実な騎士ですわ」

「……冗談だろ?」

 

 ベルカはそんな規格外(タケル)と同列に扱われていたと知り、乾いた笑みを浮かべた。 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな化け物(ドラゴン)規格外(タケル)の戦いで、先に動いたのは龍だった。

 

 拳を構えたタケルを見て、龍は翼を広げ空へと舞ったのだ。

 

VaO(ヴァオ)!!」

「む、逃げるか!」

 

 龍は本来、その巨大な体躯で、自在に宙に舞う存在。

 

 さっきまでは人間(おれたち)を狩るため、地上に降りていただけ。

 

Viiiiii(ヴィィイイイイ)

 

 雲一つない青空を、滑るように龍が舞う。

 

 おそらく龍はタケルを脅威と認め、空へと退いたのだろう。

 

 そして、

 

「あの龍、炎を蓄えてやがる!」

「……気温が、凄い勢いで上がっていきますわ」

 

 龍は天高く舞い上がり、喉袋から爆炎を噴き出した。

 

 空を赤く染めるほどの炎をまき散らす龍は、化け物と呼称するにふさわしい。

 

 その熱気で、俺の額に一滴の汗が浮かぶ。

 

VaVavava(ヴァヴァヴァヴァ)……」

 

 おそらく龍は俺達に、炎の嵐を浴びせようとしていた。

 

 タケルが人間である以上、空中の敵には手出しができないと考えて。

 

 遠距離から確実に焼き殺すことを選んだのだ。

 

「……逃がさない」

 

 だが、それは失策だった。

 

 普通の人間なら、確かに空を飛ぶ龍に手出しできなかっただろう。

 

「……(シッ)

 

 だがタケルは羽ばたく龍の真下に、一息に駆けると。

 

 その場で膝を深く曲げ、全身をバネにして垂直に跳び上がった。

 

「落ちろ、トカゲェ!」

VUAAA(ヴああああ)!!」

 

 タケルの掛け声と同時にドラゴンの腹が大きく凹み、火炎は空中で四散した。

 

 そして龍はくすんだ黄土色の吐物を吐きながら、くるくると回り大地に墜落した。

 

 いかなる動物であっても『足元は死角』だ。真下からの体当たりを防ぐ手段などない。

 

 龍はノーガードで、鳩尾をブン殴られたようなものであった。

 

「あ、あ、あ、あり得なイ。龍神様、龍神様ァ!」

「お、押してる、ただの人間が、龍相手に押してるぞ!」

 

 ヤイバン軍も、ブユルデスト兵も、武器を持ったまま呆然と。

 

 二個の怪物による戦いを、呆然と見つめていた。

 

「そんなはずはない、グルデバッハ様が、そんナ!」

 

 墜落した衝撃で、龍の翼は嫌な角度に折れていた。

 

 龍はパニックを起こし、タケルに近づかれまいと尻尾を振り払った。

 

VIYAAAA(ヴぃやああああ)!!」

「甘いッ!!」

 

 だがタケルは尻尾を掴み、ジャイアントスイングのようにブン回し。

 

 龍の巨体は地面へと叩きつけられた。

 

 苦しそうな呻きが、大地へ木霊した。

 

「いいですわタケルっ!! そこですわ!」

「……意味が分からん。なんなら、龍が出てきたときより衝撃が大きいぞ」

「そりゃ龍より、龍を蹴飛ばせる人間の方が珍しいですわ」

 

 その戦いは、あまりに桁違いだった。

 

 下手に手を出したら、無駄死にするだけだろう。

 

 両軍とも剣を置き、ぼんやりと戦いを静観するのみだった。

 

 龍退治がなされるかもしれない、という期待/恐怖を抱きながら。

 

 

 

 

「……うわ、(かった)いなぁ」

 

 しかし。

 

 一見は優勢に見えるタケルだが、内心で困っていた。

 

「僕さっき、本気で殴ったぞ……?」

 

 タケルは先ほど龍の腹を殴った際、体躯を突き破って絶命させるつもりだった。

 

 さっさとトカゲ退治をすませ、リシャリ王女とお話がしたかったのだ。

 

VRYYYYYY(ヴリイイイイイ)!!」

「うわっ、全然効いてない」

 

 しかしタケルの拳は龍の腹で受け止められ、何ならはじき返された。

 

 その後も、本気で地面に叩きつけたりしてみたが……。

 

 龍は痛がる様子こそ見せるものの、平然と立ち上がったのである。

 

「なるほど。これは気合を入れないとだめだな」

 

 タケルが本気で攻撃し、仕留められなかったのは初めてだった。

 

 龍がタケルを脅威と認めたように、彼もまた龍を脅威と認識したのである。

 

VUA(ヴぁあ)!!」

「うっわ! 危ない!」

 

 間髪を容れず、龍の尻尾が大地を抉った。数多の石礫が宙を舞い、タケルへと降り注ぐ。

 

 タケルは飛んで躱したが、小礫が頬を掠めたのか、タラリと血が首筋を伝っていた。

 

「一発入れたら、すぐ離れないとだめだな。距離が近いと避けきれない」

 

 タケルは普通より頑丈ではあるが、所詮は人間。

 

 もし今の石礫が顔にぶつかっていれば、即死もあり得ただろう。

 

 龍は一撃でタケルを殺せるが、タケルは仕留めきれない。

 

 ……これは厳しい持久戦になる、とタケルは悟った。

 

VaOO(ヴァオオ)!!」

「よし、来い!」

 

 だけどタケルは、襲い来る龍を前に。

 

「リシャリ様の騎士が、こんなところで負けるものか!」

 

 自分を奮い立たせるよう、発破をかけて相対した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご無事でしたか! リシャリ様!」

「お、おお! ロウガ様、ご苦労様ですわ」

 

 タケルの到着から、少し時間が経って。

 

 サリパ王国軍ロウガ・スピオが、大軍と共にブユルデストに到着した。

 

「手紙を読んで驚きましたぞ。……ヤイバン軍が攻めてきて、しかも龍までお出ましとは」

「わ、私も驚いていますわ。もう色々と」

 

 タケルと龍は何時間も、息が詰まる戦いを繰り広げていた。

 

 圧倒的な防御力と質量で、タケルを潰そうとする龍。

 

 そこに的確なカウンターを決めて、少しずつ龍の体力を奪うタケル。

 

 その戦いの激しさに手を出せず、両軍とも戦を止めていた。

 

「いや、タケルとやらは素晴らしいマッスルですな。このロウガも興奮が隠せませんぞ」

「そうですわね」

「龍と聞いてこのロウガ、龍殺しスピオの末裔として息巻いていたのですが……。まさかタケル殿が、あそこまでの強さだとは」

 

 そういうとロウガも、軍を停止させてタケルと龍の決闘を見守るよう指示を出した。

 

 それは、タケルを使い捨てにしようという感じではなく……。

 

 手を出すと、足を引っ張ると思ったからだろう。

 

「ああ……何と素晴らしい筋肉。男の中の男とはタケルのことですな! マッスル!」

 

 ロウガはタケルに悪い感情を抱いているようには見えなかった。

 

 むしろロウガは恍惚とした表情で、龍と殴り合うタケルを見つめていた。

 

 ……視線が熱っぽすぎて、ちょっと気持ち悪かった。

 

「……ロウガ様。タケルさんの故郷の話、聞きましたか」

「タケル殿の、故郷ですか?」

 

 少し心配になったので、俺はロウガに尋ねることにした。

 

 かつて初代スピオ卿が、タケルの曽祖父の手柄を奪った可能性があることを。

 

「実はタケルのご先祖様こそ、本物の龍殺しかもしれませんわ」

「それは、どういう……?」

 

 ロウガは一見して好青年だが、俺は彼と深く話し合ったわけではない。

 

 スピオ一族がずる賢い貴族で、嘘を本当にするためにタケルに害をなすかもしれない。

 

 そう考えて、反応を伺おうとおもったのだ。

 

「かつて龍を殺したと名乗り出た、愚かな道化(フーリッシュクラウン)。そのひ孫が、タケルだそうです」

「お、おおお! 何と、そうでしたか! ……いや、納得ですな」

 

 俺の話を聞いたロウガは、目を丸くして驚いた後。

 

 数秒ほど黙り込んで、やがてカカカと笑い出した。

 

「ではやはり、私の爺様の話は本当だったのですな!」

「……爺様の話、とは?」

「私の爺様が初代スピオ卿に、龍をどのようにして倒したのかと聞いた時の話です」

 

 そしてロウガは笑顔のまま、タケルの戦を見つつ、

 

 ちょっと残念そうな顔で、話を続けた。

 

「初代スピオ卿は申し訳なさそうな顔で、『龍は儂が聞いていたほど強くなかった。もしかしたら、手負いだった可能性がある』『その道化とやらが一人で龍を傷つけたとは考えられん。だが儂が仕留めた龍は何故か飛ばず、足を引きずっていた』と」

「……では」

「初代様も、『たった一人で龍を倒した』という道化の言葉は信じていませんでした。ですが、初代様が龍を倒す前に『龍を手負いにした勇者』は間違いなくいたはずだと仰っていた」

 

 そう、正直に話してくれた。

 

 そのロウガさんの顔に、嘘も欺瞞も浮かんではいなかった。

 

「ははははは、見ていますか初代様。貴方は信じられなかったようですが、どうやら一人で龍を傷つけうる勇者はちゃんと存在するようですぞ!」

「ロウガさん……」

「我がスピオ家の四代に渡る名誉は、タケル殿の曽祖父と分けるべきであったのでしょう! この戦を私の目で確かめられたこと、これは運命に違いあるまい!」

 

 彼はそう言うと、掌で顔を覆って。

 

 大きいため息を吐いて、天を見上げた。

 

「四代前の無念、愚かな道化(フーリッシュクラウン)の汚名、このロウガ・スピオの証言で覆しましょう。見れば分かる、タケル殿は誠に、龍殺しの末裔であろうよ!」

「ええ」

「さぁ、ならばこそ勝てタケル! 長きにわたる龍との因縁に決着するのだ!」

 

 ロウガはタケルの過去のことを否定しようとせず。

 

 得心がいったという顔になり、大声でタケルを応援した。

 

「闘いの後のことは我らに任せろ! そこに控えるヤイバン軍は、我が精鋭が粉砕する! ビバ・マッスル!!」

「まっするですわー!」

 

 ……うん。このロウガ・スピオは、信頼のおける貴族のようだ。

 

 国王(ちちうえ)がルゥルゥ姉上を任せたのも納得である。

 

 

 

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