【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ! 作:まさきたま(サンキューカッス)
呼吸するたびに、血の味がする。
「リシャリ様ァ!?」
「王女殿下!?」
「何事ですか!!」
俺が吐血しながら訓練所に入ると、騎士団の人が血相を変えて駆けつけてきた。
そして血の海に沈んだ俺を、ワチャワチャと囲んだ。
「まさか襲撃ですか!?」
「バカな! 王宮の護りは万全のはず!」
「いや……その」
護衛対象が血反吐を吐いて乱入してきたのだ、そりゃあパニックにもなろう。
俺に万が一があったら、ここにいる全員の首が飛ぶのだ。
「治療班! 治療班!」
「大丈夫……ですの……」
近くでは既に、血相変えた
それ、年に数回しか使えないとてもスゴイ奴じゃなかったっけ?
ちがうのだ、怪我ではないのだ。ちょっと全力疾走しただけなのだ。
「儂の残りの余命を全て注ぎ込んででも……!!」
「ちょ、ま、待っ……! 違います、の」
周囲が必死であるのと同じくらい、俺も必死であった。
こんなことに余命なんか使わせられない。
「久々に、走った、から、息が」
「ん?」
ほどなくして。
「ふぅー、一息つきましたわ」
俺は診察を受け、健康であることが証明された。
運動不足という診断に白い目で見られつつ、水を飲んでひと心地付いた。
「まったく、驚かせないでください、リシャリ様」
「おーっほっほっほ。いや、まぁ、ちょっと事情がありまして」
ようやく解放された俺は、キョロキョロと周囲を見渡したら。
チート護衛候補のタケル君が、ギョっとした顔でこちらを見ていた。
「おやー、おやおやおや。そこにいらっしゃる凛々しい殿方は、今年の王宮騎士団の受験生ですわね」
「……え?」
「そこのあなたですわ、どうも初めまして」
俺はタケルに近づき、にっこり笑ってその手を握った。
俺の美少女
「……貴女は。さ、さっきの、庭師、さんですよね?」
「何のことでしょう、おーっほっほっほ」
余計なことを言いかけたので、俺はタケルを睨み付けた。
「王宮内は立ち入り無用。王族と言えど、ラフな姿をしているかもしれません」
「……」
「もし余計なことを知ってしまったなら……?」
やがてタケルの顔は、徐々に蒼白になった。
王女じきじきの『釘刺し』に、ビビり散らかしているのだろう。
「ふふ、ジョークです♪」
「あ、はぁ?」
彼をこれ以上追い詰めないよう、俺はにっこりウインクしてやった。
そして、改めて試験官の貴族に向き合った。
「あ、あの、王女リシャリ様。その男は、その、受験生ではなく」
「あれ、そうですの?」
「私に暴言を吐いた平民でしてェ、今から、逮捕を」
「んー」
俺がタケルに親し気に話しかけたのに、驚いたのだろう。
試験官の貴族は、しどろもどろになりながら言い訳を始めた。
しかし、
「あんな状況になれば、誰でも暴言を吐いてしまうのではなくて?」
「……っ!?」
俺の氷点下の態度で、試験官の言い訳を切って捨てた。
さっきの一部始終を、俺は見ていたのだから。
「こきゅー、こひゅー」
訓練所に到着した直後、俺は過呼吸であった。
ヒューヒューゼーゼーしすぎて、まともに言葉を発せない。
運動適性がないからと、運動をサボった結果である。
「い、いったん、息を整えねばですわ」
こんな状況で乱入したら、王女としての沽券にかかわる。
王族たるもの、優雅たれ。汗だくでヒューヒューしている姿を見られる訳に行かない。
だから息が整うまで、俺は訓練所の入り口に隠れていたのだ。
「……え、ええ、えええ!?」
だというのにタケルはエグい因縁つけられ、逮捕されかけた。
なので俺は慌てて飛び出しつつ、高笑いで息を整えようとしたが……。
うまくいかず、吐血してしまったのが真相であった。
「まさか毎年、騎士団の入団試験であんなことをしていたのですか?」
「い、いえ。ですが、その男は平民ですよ?」
先ほどのやり口は、言語道断であった。
タケルに落ち度はなく、嵌められたに近い状況だ。
俺は声を荒らげつつ、試験官の貴族を詰問した。
「平民であろうと、武術大会で優勝したからには正式に受験資格が認められたのでしょう?」
「優勝したからと言って、所詮は平民ですよ」
「その実力に、平民も貴族も関係ありますか!」
「リシャリ様? そんな出自も分からない平民を、なぜ庇うのです」
しかし男には、悪びれる様子もなかった。
「平民などに、ちり紙ほどの価値もないでしょう?」
むしろ、理解不能な難癖をつけられて困っているような。
『
「私が庇ったのは、平民ではありません」
「では、なぜ」
「知っていますか? 武術大会の優勝者に『王宮騎士団の入団試験を受ける権利』を与えると決めたのはお父様だということを」
その貴族の態度に、俺の怒りはますます高まった。
何せ優秀な平民を起用し、国を豊かにしようと考えたのは……。
俺の父、つまりサリパ国王その人なのだ。
「貴方、まさか父上のご意見に反対するつもりですの?」
「ですが今まで平民が、王宮騎士団に入るなんて前例がありませぬ」
「前例を作るためにそういう制度を導入したんでしょう? 貴方は、お父上の意図を汲めなかったと?」
「いえ、そのような」
「大失態ですわ!」
「うっ」
サリパ王国は、隣の大国『デケン帝国』のご機嫌一つで飛ぶような弱小国家だ。
身分に囚われず、優秀な人材を登用していかないと滅んでしまう。
「それに」
だからコイツみたいなアホが権力を握れば、国が亡ぶのだ。
ここはいっちょ、懲らしめてやらねばなるまい。
「私が見る限りこのタケルは、貴方なんかよりよっぽど強そうに見えますが」
「っ!」
そんな俺の挑発に、試験官の貴族は憤怒した。
平民に言われるのではなく、王族である俺にまで『弱い』と言われたのだ。
その言葉の重みには、大きな差があった。
「いくらリシャリ様であろうと、今の言葉は許せません」
「ではどうするのです」
「ご訂正ください」
キっと、そのアホは俺を睨みつけてきた。
その言葉に対し、俺は微笑みを浮かべ、
「であれば証明してください。タケルと模擬戦をしてくださいませんか」
「……なんですと?」
「もし私が間違っていたならこの場で頭を下げ、訂正しましょう。此度の貴方の不手際も、不問といたします」
そのままタケルの方へ振り返り、ニヤっと笑みを浮かべた。
「王女の権限で命じます。お互いに全力で、ただ己の技量のみで戦いなさい」
「リシャリ、様」
「出来ますね、タケル?」
さあ、おぜん立てはしてやった。
俺の見立てが正しければ、タケルはめっちゃ強い戦士だ。
きっと、このアホ貴族なんて瞬殺してくれるだろう。
そしたらハッピーエンド! 俺は超優秀な護衛をゲット。
「あは、あはははっははは!! なるほどなるほど、流石はリシャリ様」
しかし。
俺の言葉を聞いたアホは、心底嬉しそうに笑い始めた。
「私が浅慮だった件を、そのような言い回しで救ってくれようとしているのですね」
「はい?」
「分かりました。リシャリ様の恩情に感謝し、その平民を惨殺いたします!」
ポカーンとしていると、アホ貴族はノシノシと訓練所の中央に向かって歩いていった。
タケルはそんな彼を、険しい顔で見つめるのみ。
……何でタケルが怖い顔していて、アホがあんな余裕綽々なんだ?
「り、リシャリ様。それはあまりに酷では」
「へ?」
「あんな細い子が騎士団長相手に、勝てるわけないじゃないですか」
……へ?
「あの人、そんなに強いの?」
「我が国で、最強の騎士ですが……」
「実力一本で騎士団長になった方ですし」
その周囲の言葉に、俺の額から汗が吹き出てきた。
え、強いのあのオッサン。最強の騎士って何?
そんな、嘘やろ?
「あの子、死ぬまでいたぶられるだけですよ……」
「かわいそうに……」
……あんな厭味ったらしいのが、我が国最強なの!?
そんなこんなでいきなり始まった、俺ことリシャリ王女御前試合。
東方に見えますは、最近上京してきたばっかりの田舎武芸者タケル君。
装備は平民のものにしては上物で、切れ味より頑丈さに重きを置いた使いやすい一品です。
「準備は良いか? 平民」
「……」
そして西方に見えますのは我が国の誇る最強の男、騎士団長のパウリック・ドン・グリーディさん。
戦えば百戦錬磨、自分の倍も背丈がある化け物を討ち取った力自慢であり、その手には宝剣『ギルデバルド』が握られている。
過去には武術大会で十年連続で優勝し、その功績で国宝『ギルデバルド』が与えられ。
殿堂入りとして、武術大会には参加できなくなっているのだとか。
しかも魔法の方も達者で、この国には10人しかいない『魔力Aランク』というチートおじさんだそうです。
「では双方構えて」
「……」
『騎士団長パウリックの手で殺された』というだけで、最高の名誉と言われる始末。
タケル君がいかに強かろうと、まともに戦って勝てる相手ではないそうです。
「用意……」
違うねん。こんなつもりじゃなかってん。
だってさ、アレが騎士団長とは思わないじゃん!!
なんか言動が、めっちゃ小物臭かったじゃん!!
というか王宮にあんなヤツいたっけ!? 見たことないんだけど!?
「騎士団長の本気が、ついに見れる……」
「国王の間を守護り続けていた、伝説の騎士」
そりゃ見たことねぇはずだわ、俺は立ち入り禁止だもん!
他国へ嫁ぐ俺に見せられない情報、いっぱいだもんね!
「あ、はははは」
「リシャリ様が笑っておられる」
というか、よく考えたらそうだ。
王宮騎士団の入団試験なんだから、そりゃ騎士団長が試験官するわ。
他の王宮騎士がホイホイ従っていることから、騎士団長だと察するべきだったわ!
「リシャリ様、意外と残虐趣味なのかな」
「あんなに可憐な見た目なのに」
「あの平民の子も可哀そうに」
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
俺がめっちゃ悪く見られてるけど、それは最悪どうでもいい。
これでタケル君が死んでしまったら、後悔で頭が変になる。
「……」
……もしタケルが殺されかけるなら、俺が割って入ろう。
そんで王女権限で命乞いして、庇って見せよう。
この件で俺はバカ王女扱いされるだろうが、知ったことか。
俺が調子に乗って作った状況だ、俺が責任を取らねば。
「……」
タケルが、ジッとこっちを見た。
その目は、恐怖か失望か。
「……勝って」
その視線に気づいた時には、すでに言葉を発していた。
俺はその場で身を乗り出し、声一杯にタケルに向かって。
「平民だとか、貴族だとか、そんなものに囚われなくていい」
「試合……、始め!!」
「その実力を示し、貴方は間違っていなかったことを証明してください!」
そう、叫んでいた。
────決着は、一瞬だった。
「へ?」
「なっ」
何が起きたか、俺には見えなかった。
俺に知覚できたのは、試合開始の掛け声と同時に、タケルの姿がブレて消えたところまでだ。
耳をつんざく爆音が響き、砂煙が一直線に舞い上がって。
数秒経って、汚ならしい悲鳴と共に何かが崩れ落ちる音がした。
「え? え?」
「何が、起きた?」
数秒遅れて、土煙と突風が俺の方へ吹き荒れる。
擦りながら目を開けると、試合場にはあり得ない量の魔力が充満し、蜃気楼のように世界が歪んでいた。
「────!」
直後、その場にいた全員が同じ場所に目をやった。
何重にも硬化魔法がかけられている訓練所の壁に、大きな亀裂が入っていたからだ。
「騎士、団長?」
「嘘、嘘!?」
そして。
我が国の誇るチートおじさん、騎士団長のパウリック・ドン・グリーディは……。
「審判さん、どうですか」
「え、あっ」
ひびの入った訓練所の壁端で、自慢の宝剣を真っ二つにへし折られ。
鎧を粉々に砕かれて、血塗れで地面に伏し、失神していた。
「……」
それは1秒にも満たない、一瞬の出来事である。
「……タケルの、勝利です」
そのあまりの衝撃に、目が点になって。
「……はい?」
俺は、しばらく動くことが出来なかった。