【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ! 作:まさきたま(サンキューカッス)
「では盟約通り、ヤイバンへ侵攻を開始しましょう。サリパ王」
「おお、ありがとうございます。ジャルファ王子」
ヤイバン主力軍がサリパに姿を見せた。
この報告により、デケン帝国は重い腰を上げる決断を下した。
「軍の規模や詳細は、本土で話しましょう」
「了解しましたぞ」
その決断に、
ジャルファ王子と固い握手を交わし、その決断に感謝した。
かくしてデケン帝国によるヤイバン併合作戦が、ついに実行に移されることになった。
「リシャリ姫、声を掛けても良いですか」
「ジャルファ王子!」
その日の晩。
ジャルファ王子は晩餐会で、俺に笑顔で話しかけてきた。
「ヤイバン侵攻の話は聞かれましたか」
「ええ。王子の決断に、感謝しておりますわ」
「私も貴女の力になれてうれしい。ただ、名残惜しいですがこれでお別れです。リシャリ姫」
交渉が終われば、後は帰国するだけ。
恐らく、俺がジャルファ王子と話す機会はもうないだろう。
「貴女との会話は楽しかった。……こんな情勢でなければ、もっと話したかった」
「光栄ですわ、ジャルファ王子」
ジャルファ王子は名残惜しそうな顔で、俺の手を握った。
少し残念な気分なのは、俺も同じだ。
俺もジャルファ王子との会話は楽しかった。
虫の話題にはかなり花が咲き、趣味も合う相手だと感じた。
それが例え
「いつかまた、
「ええ、大歓迎ですわ」
ジャルファ王子は最後まで、王子としての仮面を外すことはなかった。
属国とはいえ、他国の姫である俺に弱みを見せることはなかった。
「さよなら、リシャリ姫。麗しの、サリパの王女」
「またお会いしましょう、ジャルファ王子」
俺にとって初めて『腹を割って話せなかった男』ジャルファ王子。
彼は別れ際、恭しく俺の手の甲にキスをした。
……美形なだけあって、とても様になっていた。
「不肖ながら、
「またパウリック殿に護衛して頂けるのですか。これは心強い」
国王とジャルファ王子はデケン帝国の馬車に乗り込み、朝一番に出発していった。
二人は同じ馬車に乗り、パウリックに護衛されデケンに向かうらしい。
馬車で
「……行ってしまいましたか」
「名残惜しそうね、リシャリ?」
二人の出発は、サリパ王族総出で見送りをした。
王子が去って少しだけ、残念な気分になる。
馬車と護衛騎士が見えなくなったころ、気付けば俺は小さくため息を吐いていた。
「もしかしてー、リシャリはああいうのがお好み?」
「まぁ、そうですかね? 確かにもう少し、ジャルファ王子と話してみたかったですわ」
結局俺に、ジャルファ王子の腹の内は読めなかった。
……だけど虫談議の時などは、心から笑っているように見えた。
恋愛感情はないが、友人が去ってしまったような寂しさを感じたのだろう。
「ルゥルゥ姉上的には、どうなのです?」
「悪くないわよ、有能そうな王子だったし。ちょっと胡散臭いけど」
ルゥルゥ姉上的にも、ジャルファ王子は全然アリらしい。
少なくとも頭は良さそうだし、美形で武闘派という点でもお眼鏡にかなったらしい。
「ま、私らとは身分的に釣り合わないけどね」
「そうですわね」
ただ、王子の婚約相手としては俺達は現実的ではない。
俺も姉上も、属国の姫。デケン的には、田舎の地方領主の娘でしかない。
側室はワンチャンあるかもしれないが、本妻扱いはあり得ないだろう。
「ま、これでまたいつも通りね」
「また社交界と稽古の日々が戻ってきますわ」
ジャルファ王子が旅立ったということは、日常が戻ってきたということ。
退屈な授業と、花嫁修業と社交パーティを繰り返す日々が戻ってくる。
「あーやだやだ。明日からまた忙しくなるわ」
「今日が最後のお休みですものね。姉上はどうお過ごししますの?」
「ジケイとお茶会するわ。あのサボり魔にしては珍しく働いたみたいだし、褒めてやろうかと思ってね」
「なるほど」
「アンタも来る?」
実はルゥルゥ姉上とジケイ兄上は、とても仲が良い。
天才同士で話が通じるのか、規則破り常習犯同士で気が合うのか。
あのジケイ兄上も、ルゥルゥの前では甘えた言動をすることがあるのだという。
「ちょっと遠慮しておきますわ~」
「あ、そ」
ルゥルゥとの時間は、ジケイ兄上にとってのガス抜きになっているのだろう。
俺はこう見えて、空気が読めるんだ。
「じゃ、気が向いたら顔を見せなさい。じゃーね」
「お疲れ様ですわ、姉上」
そして俺はジケイとお茶会に行くルゥルゥを見送った。
姉上がお茶会をしているとなると、俺は暇になるな。
「では私は、久々に庭遊びでも……」
「おーい、リシャリ様!」
なので、久しぶりに王宮の庭で遊ぼうか、と考えていた矢先……。
ぱたぱたと、困った顔のメイドさんが駆け足で近寄って来た。
「リシャリ様に、面会の要請がございまして」
「私に?」
「それが、二人組の平民なのです」
二人組の平民の面会要請があったという。
俺に平民の知り合いなど、多くない。
「名前を出せば分かるから、繋いでくれと」
「はぁ、どちら様ですか」
となると、その二人の正体は……。
「リシャリ殿下の、おなり!!」
「失礼しますわ」
俺はドレスを整えて、王宮の客間へと足を運んだ。
それは窓のあるお洒落な部屋で、白いクロスが掛けられたテーブルが設置されている。
俺がメイドに囲まれて、優雅に部屋に入ると、
「ひさしぶり、おうじょ」
「あらあら、お久しぶりですわ!」
周囲を王宮騎士に囲まれ、居心地が悪そうなベルカとルリちゃんが座っていた。
面会を求める二人組の平民とは、やはり彼らだった。
「どうも、ご機嫌麗しゅう。お二人ともお元気そうで何よりですわ」
「……お前、本当に王女様だったんだな」
「どういう意味ですの」
久々に会ったベルカは、相変わらず失礼だった。
ギロっと王宮騎士が怖い眼をしていたので、俺は気にしてないと手を振っておいた。
「お二人は、どうしてここに?」
「ブユルデストでの功績を評するからって、呼び出されたんだ。さっき、凄い額の報酬を貰った」
「にいさん、柄にもなく緊張してた」
話を聞くと、どうやら褒賞を渡すべく二人は首都に呼び出されたらしい。
俺の口添えもあったからか、ベルカはそれなりの褒賞を貰ったそうだ。
人を誘拐しておいて、まったく良い身分である。
「貰えるものは貰っておきなさい。ちゃんと、部下の皆と分けるんですよ」
「無論だ」
ただ彼らが、二年間もブユルデストを守り抜いた戦果は確か。
俺の誘拐という罪を差し引いても、報酬を貰うに値する行動ではあった。
「あと
「ほほう」
「装備も支給してもらえるらしい。これが正直、一番助かるな」
功績を認められたのは、ブユルデスト自警団の全員だった。
ぶっちゃけ彼らは精鋭である、寝かせておくのは勿体ないからな。
「あと次の領主が決まるまで、自が代行してブユルデストを治めることになった」
「おお、ベルカが領主になるのですね」
「……一時しのぎだ。すぐ、他の貴族を遣わせるとさ」
この国では、領地を持つという事は貴族になることを意味する。
王宮騎士になったタケルは『貴族と同等の権威』を与えられているだけで、貴族ではなかった。
龍殺しの功績で領地を与えられれば、初めて正式に貴族となる。
「正式な領主になれなくて残念ですか?」
「いや。正直、興味などないから助かった。
「貴族になりたくないのですか?」
「故郷を守るためであれば、政治だってこなす覚悟はある。だが、自には向いていないだろう」
領地の経営は、ただ戦う能力が高いだけではうまくいかない。
ベルカ自身も、その辺の身のほどは良く知っているようで、
「恥ずかしながら、
「気持ちはわかりますわ! すごーく面倒くせぇのですよ、あれ」
「お前は出来なきゃダメだろ、王族」
まぁ、それはそう。でも苦手なもんは苦手だ。
「そういうのは、得意なヤツに任せればいい。自が首を突っ込んでも、足を引っ張るだけだ」
「ではベルカさんは、貴族になるつもりはないと」
「勘弁してくれ。……地方自警団の長が、なんで領地を貰わねばならんのだ」
ベルカは本心から、そう言っているようだった。
……多分、そもそもが貴族嫌いの節があるのだろう。
「結局、今まで通り我々がブユルデストを守っていくだけだ」
「おきゅうりょうを貰えるようになったのは、うれしい」
「確かにな。装備に回す予算が増えたのが、今回の最大の報酬だ」
ベルカに地位と予算を与え、そのままブユルデストを守ってもらう。
その後、領地経営に関してはちゃんと後任の貴族を派遣する。
まぁ、妥当な処置ではないだろうか。
「あー……、じゃあどうしましょうか」
「何を悩んでいる、リシャリ」
「いえ、ちょっと。いや、もう伝えちゃいますか」
つまりベルカには、今後ブユルデストの防衛を一任するわけで。
軍事機密ではあるが、彼には前線の状況を伝えておくべきかもしれない。
「ヤイバン軍の主力部隊が、ドラズネストに来ているそうです」
「む、何だと。ヤイバン主力軍というと、まさかレヴィグダードが?」
「そのレヴィグダードですわ」
とりあえず、話せる範囲のことは伝えておこう。
敵軍の動きだけなら、教えても問題にならんはずだ。
「ただレヴィグダードは、タケルに敗れたそうですが」
「ま、そうだわな。おかしいよなアイツ」
「タケルはすごいですわ。デケン帝国にも『龍殺し』はいるそうですが……。向こうで最少討伐人数は五人だそうです」
「当り前だ。というかデケンの『龍殺し』の称号って確か……」
「え、何かあるのですか?」
「いや。……まぁそうだな、教えぬ方がよさそうか」
龍殺しの話になると、ベルカは少しだけ微妙な顔をした。
何だ? 何か、俺が勘違いしてることがあるのか?
「何にせよ、タケルに真っ向勝負で勝てる奴は、この世には存在しない。そこは断言してやる」
「真っ向勝負では、ねぇ」
そんなベルカの物言いに、少しだけ引っかかった俺は。
「真っ向勝負でない場合、ベルカさんなら勝てますか?」
「……タケルはあの性格で、言葉も通じるしな。手を選ばなければ勝てる」
「というと」
「アイツ、かなり騙されやすいタイプだろう」
卑怯、汚い、卑劣の権化であるベルカなら、タケルはなんとか出来ちゃうらしい。
そもそもルリちゃんの隠密能力が、タケルにぶっ刺さるだろうしな。
「ちなみにですけど。レヴィグダードの娘さんが、タケルに正面から喧嘩を売ったそうです」
「可哀想に。肉片も残るまい」
「ところがタケルの打撃に耐え、手傷すら負わせたそうで」
「……なんだと?」
ただ、ヤイバンにもタケルに準ずる力の持ち主がいる。
それを伝えると、何故かベルカはクスクス笑い始めた。
「ふふふ、そんな化け物がこの世に存在するわけないだろう! 馬鹿にするな王女」
「マジですけど」
「えっ」
じゃあタケルは何やねん。
「冗談なしの、本当ですわ。レヴィグダードの娘には注意なさい」
「こ、心得た。この世にはおそろしいやつがいるもんだ」
まぁ犠牲者ゼロで二年も防衛したお前も、そこそこ恐ろしい奴だけどな。
タケルのぶっ飛び具合で、何か霞んで見えるだけで。
「タケルやロウガさんがそう負けるとは思いませんが。万が一があった場合、ブユルデストの防衛をよろしくお願いします」
「ああ、任された。言われずとも」
そんな俺の頼みに、ベルカは力強く首肯した。
彼の故郷を守りたいという気持ちは、信用できる。
「あと聞いていいか、リシャリ王女」
「何でしょうか」
「デケン帝国の動向はどうなっている? 動いてもらえるよう、打診はしているのか」
あー、やっぱりそこを気にしてきたか。
教えてやりたいのはやまやまではあるが……。
「さぁ、そっちは良く知りませんわ~」
「……。まぁ、分かった」
ごめん。そこはさすがに国家機密なんで断言できないのよ。
ベルカを信用していないのではなく、コンプライアンスに関わるからだ。
「おーっほほほほほほ」
「まぁ、
「そういうことですわ」
俺の遠回しなリアクションで、ベルカも察してくれたっぽい。
もしデケンが動かないなら、俺はベルカにはっきり告げただろう。
聡い男は、微妙なアクションでも十分伝わるからやりやすい。
「今日はお二人の顔が見れて、ハッピーでしたわ。よければまた、顔を見せに来てくださいまし」
「ああ」
彼に伝えるべきことは、この辺で良いだろうか。
俺にできることは、あまり多くない。権力を使って情報を集め、適切な人物に伝えていくのみ。
そして戦いが始まったら、タケルやロウガ、ベルカたちの活躍を祈るだけ。
「ベルカさん。ちょっとはサリパを、好きになってくれましたか」
「……お前が守る国、という意味で。守っていたくはなった」
ベルカは去り際に、ちょっとだけ顔を赤くして。
「その、なんだ。色々あったが、リシャリ殿下には感謝している」
「ほう?」
ぽつりと、そう呟いた。
「ありがとう」
「どういたしまして、ですわ!!」
その後二人は正面から一礼し、部屋を去った。
……ベルカは、案外ツンデレ気質なのかもしれんな。