【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ! 作:まさきたま(サンキューカッス)
平民嫌いの、騎士団長パウリック。
平民であるというだけでタケルに因縁をつけ、無実の人を投獄した『絵にかいたような極悪人』。
だが結論から言うと、この男は……。
ぶっちゃけかなりマシな部類の貴族だった(サリパ王国比)!!
「我が王の意、汲み取れず申し訳なく思いまする」
「むーむむむ」
今回の一件は、俺が自ら
やはり国王の命令を、騎士団長が独断で無視していたのは問題であった。
そこは俺も良くないと思うし、パウリックが反省すべき点であろう。
しかしパウリック以外の貴族も、平民を差別しないかと言えばそんなことはない。
町娘に手を出したり休みなく働かせたりと、平民を奴隷のように扱う貴族は少なくなかった。
それどころか許可なく追加の税を掛けたり、賄賂に手を染める貴族もいるらしい。
父は
ただでさえサリパ国は弱小なのに、政治もダメダメなのである。
こんな状況だからこそ、父も平民雇用を決断したのだろう。
「そんなヤツに騎士団長は務まらない!」
「即行で解任すべきだ!」
そんな貴族たちの中、パウリックは貴重な『清廉潔白で忠義に厚い』貴族だった。
平民を見下す悪癖こそあるが、王宮警備の仕事はほぼ完ぺきで、賄賂や不正を頑として受け取らない。
実力も本物で、タケル以外に負けたことはない。
パウリックは数少ない、
「いかなる処分を受けても、恨みはいたしません」
「んー……!! んんんーーー!」
なので、報告を受けた父上はとても困った顔をしていた。
確かに、パウリックのしでかした罪は重い。
だが彼を騎士団から解任しても、ろくなことにならないからだ。
もっと
「王の命令を無視するなど、許されない不祥事だ!」
「パウリックを、謹慎させるべきだ」
「あー、えー……」
そう、圧倒的にマシなのだ。
選民意識が強すぎる点を差し引いても、まともに仕事してくれるパウリックは貴重すぎる。
そもそもこの男に、悪気は一切なかった。
『武術大会優勝者に騎士団試験受けさせてやれ』という命令が『騎士団入りを目論む平民を炙りだして、釘を刺せ』と脳内変換されていただけで、国王への忠誠心は曇りなし。
だから、
「いや、パウリックも良い歳だ。法の重みを示すために処刑してもいいかもしれない」
「彼の財産を没収し、国庫を潤わせようじゃないか」
パウリックの不祥事を聞き、後ろ暗い秘密を持つ貴族たちは嬉々として糾弾を始めた。
騎士団長は、罪を黙っておく代わりに『賄賂をせしめる』事が出来る美味しいポジションだ。
そんな地位が空くかもしれないのだから、糾弾しない理由がない。
「……我が娘、リシャリよ。今のパウリックの言葉は事実なのだな」
「はい、ですわ」
俺がタケルを庇うのは、サリパ王国にとって必要なことであった。
あんな
だけどパウリックが重要な人物と気付かず、好き放題にやっちゃったのは俺の反省点だ。
もっとパウリックの顔を立て、タケルを受け入れさせる道もあったはずだ。
「あー、娘リシャリよ。これはお前が見抜き、告発した事件だ」
「はい」
「そこでお前に問おう。この一件、どう決着をつける?」
サリパ王国のためにも、絶対にパウリックを退役させるわけにはいかない。
だがこのまま法に照らして裁くと、王命に背いたパウリックの解任はやむを得ないだろう。
「これはお前の、王族としての資質を問う試練でもある」
「はい」
それを分かったうえで、
しかも視線で『分かってるよな?』と訴えながら。
「お前の意見を聞かせろ、リシャリ」
「……承りましたわ」
すぐにピーンと、俺の空気読みスキルが発動した。
────おそらく彼を解任させない、『皆が納得できそうな罰則』を提案しろと言ってるのだろう。
「私の意見なので、過去の判例にはそぐわないかもしれませんが」
「かまわん、言ってみろ」
「まずはかつて、無実の罪で投獄した平民たちに謝罪をしにいくべきですわ」
「ふむ」
国王が、法を軽視するわけにはいかない。
かといって、国王が裁きを下すなら法に則らねばならない。
「王族である私も同行し、彼と共に頭を下げるとしましょう。そして賠償を行い、国の信用を回復すべきと思います」
「確かに、それは大事であるな」
ならば俺に『王族の試練』という形で、みんなが納得できそうな罰を提案させればいい。
その試練を採用することで、パウリックを守ろうという魂胆だ。
「パウリック様も自ら、民へ謝罪と賠償をする。それが誠意でありましょう」
「
「いえ。罪には、罰も必要ですわ」
とりあえず思いついたのは、被害者への謝罪行脚だ。
今まで投獄された平民はもう釈放されているらしいので、こちらから出向いて謝るのだ。
プライドの高いパウリックには、それなりに堪える罰だと思うが……。
今の
「して、その罰とは」
「そうですわね。どうせなら、国益となる罰がよろしいかと」
「国益となる罰、とな?」
とはいえ、繰り返しになるが俺は凡人だ。決して、賢い人間ではない。
皆が納得する罰なんて、咄嗟に出てこない。
俺が思いついた罰は、『俺の趣味』が大きく絡んでいる内容であった。
「不肖ながらこの私リシャリは、サリパ王国の為にある研究をしたいと思いまして」
「……はあ?」
うん。
実はやってみたかったのだが、メイドさんとかには頼めなかった実験がある。
そしてこれはパウリックにとって、とても残酷な刑罰になる。
「今、我が国の主産業である畜産は、つねにケツキリムシの虫害と戦っております」
「う、うむ」
「ですが国家として、その虫害対策に費用を投じておりません」
サリパ王国にも国営研究所は存在するが、基本的に『軍事研究』がメインである。
畜産や農業など、内政技術は後回しにされているのが現状だ。
その理由はちょくちょく、お隣さんが国境を荒らしに来るからである。
我々は、東側のデケン帝国と『同盟』関係を結んでいる。
属国のような扱いではあるが、デケン帝国とは友好的な関係だ。
……だからこそ、デケンを恨んでいる西の大国『ヤイバン』から敵視されてしまっている。
ヤイバンの国土はデケン帝国ほど大きくはないが、7~8サリパくらいの大きさはある。
ヤイバンに攻められて窮地になったら、デケン帝国が助けに来てくれる約束ではあるが……。
しっかり国防に予算を投じないと、一瞬で叩き潰されるのだ。
「畜産業を守り、国民の食料供給を安定化することこそ、サリパ王国の未来を守る一手となりましょう」
「うむ、まぁそうであるな」
だが食料の生産力こそ、国家の基礎と言って差し支えない。
ケツキリムシに寄生された家畜はやせ細り、ろくな肉にならないと聞く。
主産業である畜産にも、国費を投じて研究しても良いのじゃないかと思う。
なので、
「ケツキリムシの生態を知るため、肛門から寄生する状況を観察したく……」
「!?」
「パウリック様にご協力を頂ければ、と」
……ザワっ! っと。
その俺の発言の後、会議の空気が一変した。
「お前さぁ!! お前さぁ!!!!」
「痛ェですわ!!」
会議の後。
サリパ国王であるパパは、俺の頭蓋をゲンコツでグリグリしていた。
「なんちゅー罰を提案してくれやがったんだ、お前!」
「ぐええええええ」
「パウリックを辞めさせられないから、乗ったけどさぁ!」
サリパ国王は白髪交じりの、ちょっと老けたイケメン男性だ。
俺の美少女フェイスは、この父の遺伝子が大きいと思う。
「罰にしても、もうちょっとあるだろ! 百叩きとか、鞭打ちとか!」
「だってそんな暴力的な罰、思いつかなかったのですもん!」
「お前の罰の方が残虐だ!」
そして会議場では『国王モード』で、厳格に振舞っている父だが。
ひとたび王宮に戻ると、だいぶ砕けた性格になる。
「パウリックがあんなに顔真っ青にするの、初めて見たぞ!」
「だって、害虫の生態観察や研究は、ちゃんと国益に……」
「なるかもしれんが、パウリックで実験してやるな!」
父は再び俺の頭を、グリグリと圧迫した。
めっちゃ痛いのでやめて欲しい。
「でもまぁ、皆が納得する罰だ。王女の前で尻を出さないといけない時点で、尊厳にかかわる」
「そんなつもりは……」
「寄生されたら腹痛に悩まされるし、少なくとも切れ痔にはなる。軽い処罰とは誰も思わん」
父は死ぬほど恐ろしそうな顔で、プルプル震えていた。
……うーん、もし寄生されても虫下しですぐ治せるんだけどなぁ。切れ痔に効く軟膏もあるし。
ケツキリムシ被害が多い民間では、もう治療法が確立している『よくある被害』なのだ。
だが虫に縁がない貴族たちには、恐ろしい刑罰に見えたのだろうか。
「というか仮にも王女が、あんな提案するな! 虫好きなの知ってるけどさぁ!」
「痛ぇですわー!!」
「お前が変な性癖持ってると、勘違いされかねんぞ!」
怒りを思い出したのか、父が再び俺の頭をグリグリした。
……めっさ痛ぇ。
「他言無用のお触れを出したけど、噂になったら困るだろう」
「……噂、ですか」
「もし
「あー、確かに。……あ痛たたたた、痛ぇですわー!!」
俺は研究したかっただけなのだが、確かにヤベー王女と思われるかもしれん。
反省だ。
「あ、あのー」
「む、お主が噂のタケルか?」
頭をグリグリされて悶える俺を見て、心配そうにタケルが声をかけてきた。
ナイスだ、何とか父を説得してくれ。
「ふーむ、その歳でパウリックに圧勝するか。分からんものだな」
「は、はい。光栄です、陛下」
「お主には期待している。リシャリをよく守ってくれよ」
「はい、命に代えても」
父はそう答えるタケルを見て、にこやかにほほ笑んだ。
平民出身の王宮騎士は、父にとっても望むところなのだ。
「そしてタケル、お主には貴族と変わらぬ立場を与える。周囲にいちいち媚びへつらわずともよい」
「え!? そんな、僕なんかが」
「能力があれば、平民であろうと相応の立場を与える。そんな噂が広まれば、腕に自信のある者がサリパに集まってくるだろう?」
「……」
「だからタケルよ、貴様は王宮騎士として恥ずかしくない振る舞いをせよ」
前世には『隗より始めよ』の諺があったが、父は一人でその理に辿り着いていた。
有能な部下をしっかり厚遇すれば、その噂を聞いた有能な者が士官に来る。
それを繰り返せば、国に賢人が集ってくるのである。
だから父は平民を騎士団に入れ、厚遇したがったのだ。
「サリパは優秀な者を求む。タケル、お主はその一人めだ」
「は、はい」
「我が国はもっともっと強くなる、くれぐれも精進せよ」
これが
人材の重要さを理解し、教育の発展にも力を入れている。
しかも愛想がよく、デケン皇帝から自治を任されるほど外交は上手い。
……アホ貴族だらけのサリパが滅びていないのは、父の力が大きいんじゃないかなと思う。
「分かりました。リシャリ様の為、命を賭して尽くします」
「うむ。あ、ただし娘に変なことするなよ」
「へ?」
ただ、この名君にも悪癖があるとすれば。
「悪いが娘には、それなりの相手を用意しなければならん。縁を結んで意味がある相手をな」
「は、はあ」
「恋愛ごっこの範疇なら好きにすればいいが、ぶち込むのはNG……」
「おーっほっほっほお下品ですわ!」
「ぐわぁ!!」
ちょっとばかし、年頃の娘に対するデリカシーがない点である。
「いやだってリシャリ、吐血しながら訓練所に駆け込んだって聞いたぜ? それって、そういうことじゃねぇの?」
「違いますわクソボケお父様。あんなの見たら、誰だって止めに入りますわ」
「いいかタケル君、娘に騙されちゃいかんぞ。リシャリの見てくれは可愛らしいが、中身は……」
「お黙り下さいませクソボケお父様」
王として育てられたからか、お父様にデリカシーという言葉はない。
例えば幼児の頃、困らせてやろうと『子供はどうやったらできるの』と聞いたことがあるのだが……。
その後、母上に頬を張り飛ばされたのが印象的であった。
「もう行きますわよ、タケル。お父様にこれ以上、構っている暇はありませんわ」
「い、良いんですか?」
「良いんですのよ、あのクソボケお父様なんてこんな扱いで」
父の言動にイラついた
このクソボケ父にして、この
「あんな父より、早く打ち合わせをしなければなりません」
「……打ち合わせ、ですか?」
「ええ」
『最近娘が冷たい……』と嘆く父を尻目に、俺は部屋から退出した。
外で待機しているあの人を、あまり待たせるわけにはいかないし。
「パウリック様と実験の打ち合わせ、です」
「……」
ケツキリムシの生態は、未だに謎に包まれている。
俺がその生態を解明し、多くの人間の肛門を救って見せる。
蝶よ花よ……ではなく、『虫よ草よ』と育てられた俺の実力を見せてやるぜ。
「おおー、これは大発見ですわ」
ちなみに、その後。
俺は観察を重ね、ケツキリムシが『温度』と『匂い』で肛門を知覚していると突き止めた。
尻を近づけただけだと反応に乏しいが、実を出したり屁をこくと突進してくる。
寄生の成功率を上げる為か、肛門が開いた瞬間を狙う習性になっていたのだ。
これを上手く利用すれば……?
「お父様! ケツキリムシを捕らえる罠を考えましたわ!」
「はぁ、じゃあ開発してみなさい」
その性質を利用し、俺は宮廷魔術師で『堆肥の匂いを温風で吹き付ける魔法具』を作成した。
広範囲に便の匂いを、体温ほどの温度で吹き付けるのだ。
するとケツキリムシたちは、面白いように魔法具に向かって突進してきた。
後は地面に虫取り網を設置し、近づいてきたケツキリムシを一網打尽にして終わり。
『全自動ケツキリムシ捕獲器』が、完成した瞬間であった。
「……これ、かなり駆除の効率よくないか?」
「でしょう!? 我ながら、素晴らしい発明ですわ」
「うーん、本当にリシャリの研究が役に立つとは」
その後に俺はいろいろ研究を重ね、構造を最適化していった。
そして、それなりに安価で量産できるよう改良した。
「だがこの魔道具、量産する価値はあるか?」
「ケツキリムシに悩まされていた人は多いので、みんな喜ぶと思います」
「ふーむ、そうか……」
この魔道具は税金を投じて量産し、安く買えるようにした。
虫害が減れば生産力が上がり、税収も増える。
だからサリパ王国としては、早く普及してくれた方が得なのだ。
「因みにリシャリ様。この魔道具、なんて名前にしますか?」
「そうですわね」
ありがとうパウリック。彼の肛門のお陰で、我が国の畜産業は大いに発展することとなった。
この魔法具のお陰で、ケツキリムシの虫害を大幅に抑えることが出来そうだ。
予想される利益は、かかった開発予算の倍以上になるという。
国家研究としては、これ以上ない大成功と言えるだろう。
「……『パウリック』で行きましょう」
「御意」
俺は成果の犠牲になった英雄を称えるべく、魔道具を『パウリック』と名付けた。
彼の功績は未来永劫、称えられるべきだと思ったから。
そしたら後日、騎士団長から抗議状が届いた。