【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ!   作:まさきたま(サンキューカッス)

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番外編「まったく、不本意ではなかった」

 

 突然、デケンからの独立を宣言した神聖ラシリア帝国。

 

 俺はジケイ兄上の命令で、かの国へ友好の使者として旅立つことになった。

 

「タケルは、どちらにいるかご存じですか」

「今、訓練所にいらっしゃいます」

「ありがとうございますわ」

 

 俺は護衛として、タケルをつれていくことを許された。

 

 渋い顔をされたが、タケルはそもそも兵士ではない。

 

 今は非常事態だから戦ってるだけで、外遊する俺の護衛が本来の職務のはずだ。

 

「訓練所ということは、タケルは訓練を?」

「はい。ヤイバン軍の将、レヴィ様と実戦形式の訓練をなさっています。巻き込まれぬよう、気を付けてくださいね」

「分かりましたわ」

 

 神聖ラシリア王国は独立を宣言した直後だ。

 

 治安もまだ、落ち着いていないと予想される。

 

 前のように、誘拐されないとも限らない。

 

 タケルがいるといないとでは、大違いである。

 

「タケル様も、リシャリ様に会いたがっていましたよ」

「そう言えば、最近タケルとお話をする時間が取れませんでしたわね」

 

 それに戦後処理が忙しく、殆どタケルと会えなかった。

 

 彼とゆっくり話が出来るのも、久しぶりだ。

 

「では、行ってまいりますわ!」

 

 今回の戦いでも、タケルは大活躍だったと聞く。

 

 敵将アガロンを吹っ飛ばし、デケン軍の戦意を喪失させたという大戦果だ。

 

 しっかり、褒めなければ。

 

 

 

 

 

「ターケールー?」

「あ、ちょっと近付かないで!」

 

 訓練所は、サリパ王宮のすぐ隣に設置されている。

 

 これは有事に、兵士が駆けつけやすくするためだ。

 

「ボクがぶつけたところ、大丈夫? 痛くない? 跡が残ってない?」

「あー、いや、すごく痛かった、けど。ポーリィのお陰で、もう治ったよ?」

「……そうね。もうタケルの治療は終わったので、離れなさいよ」

 

 そんな訓練場のグラウンドでは、タケルが女の子二人に密着され困り果てていた。

 

 一人はポーリィさん、サリパ最強の騎士パウリックの実娘だ。

 

 そしてもう一人、青いローブを被りダウナーな声色でタケルに甘える彼女は……

 

「うん、やはり良い……。君の力は本物だ、タケルゥ」

「ちょ、だから離れなさい……」

 

 ヤイバンから来た客将。

 

 タケル級の魔力をもつ怪物、レヴィだった。

 

「ちなみにね。ボクの身体、まだ君に半殺しにされた時の傷が残ってるんだ」

「えっ、あ。その、ゴメン」

「痛かったよォ。辛かったよォ……?」

「あの時は敵だったでしょ。つかアンタも、タケルの●●●(タケル)を破裂させたじゃない」

 

 レヴィのローブはボロボロになっていて、所々が土で汚れている。

 

 タケルと激しく戦ったのか、グラウンドも荒れ果てていた。

 

 ……整備するの、大変そうだな。

 

「ほら見ておくれよ、この胸の傷。君に殴られ、肋骨が突き出してしまった時の傷」

「へ? うわあああ、レヴィ!? な、何でいきなり胸をはだけ……」

「傷物にされちゃったんだよゥ、タケルゥ」

 

 レヴィはそんなグラウンドの状況を気にも留めず、ローブをはだけさせてタケルに迫っていた。

 

 うーん。風紀的に大丈夫なのか、これ。

 

「どう責任取ってくれんの?」

「へ、あ、あ……」

「こんのアホ痴女!! 公衆の面前で脱ぎ始めるな!」

 

 レヴィは暴走し、タケルは顔が真っ赤で、ポーリィさんは大慌て。

 

 申し訳ないが、とっても面白い状況だ。

 

「ああ、タケルは不思議な人だねェ。この気持ちが、恋なのだろう?」

「え、ぼ、僕? 恋!?」

「君に付けられた傷を見ると、息が荒く、鼓動が早く、カッカと頭が沸き立つんだ」

「それ殺意じゃない?」

 

 俺はそのまま、少し声をかけずに待つことにした。

 

 面白いから、もうちょっと眺めておこうという気持ちが半分。

 

 割って入って、アホな誤解をされたくないという気持ちがもう半分だった。

 

「すごい、なんて逞しい腕。この腕で、ボクの華奢な体躯をへし折ってくれたんだね……」

「レヴィの防御力、僕の知る限り最強だけど……」

「メンタルも図太すぎてびっくりだわ」

「ああ、なんて不思議な気持ちだ。幸せで、寂しくて、麗しくて、辛い、そんな気持ち」

 

 レヴィもおそらく、感情が整理できていないんだろう。

 

 愛憎が渦巻きすぎて、ゴッチャになっていると思う。

 

「これが、恋!! ああ素晴らしきかな、恋愛!!」

「……え、えぇ?」

 

 ただ彼女は、その殺意と憎悪と親愛を『恋』と認定したらしい。

 

 多分違うけど、本人がそういうのだから仕方ない。

 

「大好きだ、タケル。どうだい、ボクと夫婦になり、ヤイバンに来ないか」

「ちょっ!?」

「こらぁぁぁ!! うちの騎士を引き抜くなぁ!!」

 

 そんなレヴィの一世一代の告白を聞いたタケルは、頬を赤らめるのではなく……。

 

「ご、ごめん、僕はリシャリ様に忠誠を」

「……タケルは、ボクが嫌いかい?」

「え、いや。今は訓練中だし、その話はあとでしよう、ね!」

「うーん、つれないねェ」

 

 顔を真っ青にして首を振り、目を背けた。

 

 ……あ、脈がないっぽい感じだ。

 

「すごいよ、タケルは。こんなにも、動悸が激しくなるのは初めてだ」

「あ、そう、ですか」

 

 水色ローブの少女は、ニコニコとタケルの腕に抱き着いている。

 

 機嫌がよさそうな彼女とは正反対に、タケルの顔色はどんどん悪くなっていく。

 

「じー」

「な、何? ポーリィ、どうかした?」

 

 そんなタケルを、ジトっと睨みつける女性がいた。

 

 とっても不満げな同僚騎士、ポーリィさんである。

 

「別にー。タケルはモテるのねー」

「なんかポーリィの態度が投げやり!?」

 

 タケルLoveな彼女からすれば、この状況は全く面白くないだろう。

 

 イライラと貧乏ゆすりをしながら、無表情に抱き合う二人を見つめている。

 

「タケル。訓練のあと、一緒に食事でもどうだい?」

「え、あ、えっと」

「甘く涼やかで、流水のような蜜月を過ごそう。……ふふ、ふふふ」

 

 どうしよう。そろそろ割って入って、タケルを助けてやろうか。

 

 ヤイバン陣営のレヴィよりか、ポーリィの恋を応援してやりたいし。

 

 万が一にもタケルを引き抜かれたら、この国はおしまいである。

 

「ご、ごめんレヴィ! じ、実はこの後は、その!」

「……用事があるって言うのかい? このボクとの時間を差し置いて、優先すべき用事が」

「えっと、その」

 

 そんな風に俺が一歩、踏み出そうとした瞬間。

 

 タケルがそれより先に、

 

「ごめん! 実は、ポーリィと約束が!」

「えっ」

 

 レヴィを突き放し、ポーリィの肩をグイっと抱き寄せた。

 

「えっ」

 

 少女騎士(ポーリィ)の目が、点になった。

 

「……そんな女との約束なんかいいじゃない。ボクとごはん食べよ?」

「そ、そう言う訳にはいかないよ。だって先に約束したんだし」

「ふーん。ボクよりその女のほうが良いってこと?」

「う、うん。そりゃあそうさ、だって……」

 

 ポーリィを挟んで、言い合う二人。

 

 抱きしめられたポーリィの顔は、みるみる赤くなっていく。

 

「ポーリィは大事な同僚(ヒト)だから!!」

「ひゃっ!?」

「……」

 

 レヴィの語り口調が硬くなり、瞳の色が氷点下に落ちる。

 

 一方でポーリィは困惑し、カチンコチンに凍り付いていた。

 

『え!? え!?? た、タケ……!?』

『ご、ごめんポーリィ……』

 

 レヴィに聞こえないよう、二人はボソボソと会話を始めた。

 

 懇願するように、タケルはポーリィの耳元で何かを言っている。

 

 まあ、俺には読唇術で何を言ってるか丸わかりだったが。

 

『ちょ、それどういう? あの、えっ!』

『お願い、乗って……!』

 

 仲良さそうに内緒話をする二人を、射殺さんばかりに睨みつけるレヴィ。

 

 タケルは、そんな彼女を怯えた目で見て、

 

『あの娘、怖いんだ……。お願い、助けてポーリィっ……』

『……!!』

 

 そう、ポーリィの耳元で懇願した。

 

 

 

 

「ったく、だらしがないわね! ちゃんと断りなさいよ!!」

 

 ポーリィは乗った。反射的に乗った。

 

 彼女は意地っ張りだし、素直じゃないし、暴力的な面もある。

 

「ポーリィ……」

「貸し一つよ、タケル」

 

 だが、困っている人の懇願には弱いらしい。

 

 ましてやタケルは、彼女が内心でいろいろな想いを向けている相手……。

 

「ふーん、君がタケルと二人で? どういう関係なの?」

「どんな関係だろうと、貴女に関係があるかしら?」

 

 彼とそういう仲だと誤解されてしまうような言動は……。

 

 ────まったく、不本意ではなかった!!

 

「キミが……? 君なんかタケルにふさわしくないよ。見るからに、弱っちいじゃないか」

「タケルがどうしてもっていうから、付き合ってあげてるの! ふさわしいとか関係ないわ!」

「仕方なく付き合ってるっていうなら、ボクに譲りたまえよ。彼はボクにこそふさわしい」

「いやよ。貴女に譲ってやる義理はないわ」

 

 タケルを庇うように、ズイと前に出るポーリィ。

 

 額に血管を浮かせ、ポーリィを睨むレヴィ。

 

 両者の空気は、まさに一触即発。

 

 二人に抱き着かれたタケルの顔は、阿修羅マンのようで────

 

 

 

 

「失礼遊ばせ~」

「はえ? リシャリ様?」

「えっ、アッ、リシャリ様!?」

 

 面白すぎるので、もっと眺めていたい気持ちもあったが。

 

 殺し合いが始まるとまずいので、乱入することにした。

 

「レヴィ様、先日はご助力ありがとうございましたわ! おかげさまで、サリパは苦境を乗り切れましたの」

「へ? あ、ああ、どうもリシャリ姫。こちらも、貴国の奮戦に助けられまして」

「タケルもポーリィも、獅子奮迅の働きでしたわ! 王女として、最大限の感謝と栄誉を」

「こ、光栄です」

 

 さすがのレヴィも、王女の目の前で喧嘩を続けたりはしないらしい。

 

 おすまし貴族の顔になり、優雅にスカートを持ち上げて一礼してくれた。

 

 俺も満面の笑みを浮かべ、会釈を返しておく。

 

「いや、その、リシャリ様。これは、違うのでして」

「……タケル?」

「これは、その、事故といいますか」

「くすくす、大丈夫です。分かっていますわよタケル」

 

 二人の女の子に抱き着かれていたタケルは、何故かしどろもどろで弁明を始めた。

 

 安心しろ、別にお前が女誑しとかそんな誤解をする気はない。

 

「タケルの忠誠は、この私に捧げて頂いたのですもの。違いますか?」

「い、いえ!! その通りです、リシャリ様」

「よろしいですわ」

 

 ただ彼の主として、助け船は出しておいてやろう。

 

 俺に忠誠を捧げてることを、いい感じに言い訳に使ってくれい。

 

『……あれ、なに?』

『タケルの本命は私じゃないわ。殿下が真の恋敵よ』

『ふぅん?』

 

 その代わり、遠目でコソコソ俺を睨む女の子二人から守ってね。

 

 ほーら、そんな気がしてたけどヘンな誤解をされちまった。

 

 護衛としての仕事だからね、頼むから守ってね。

 

 

 

 

「という訳で、タケルを護衛にお借りしますわ。ごめんなさい、ポーリィさん」

「……いえ。リシャリ殿下のご命令なら仕方ありません」

 

 その後、俺は二人にタケルを護衛として借りることを伝えた。

 

 何が起こるかわからんからな、国王(ちちうえ)たちの護衛も兼ねるとなるとタケル以外に適任はいまい。

 

「私は、同行できないのでしょうか」

「ポーリィさんが抜けると、王宮の守りが弱くなりすぎますわ」

「……御意」

 

 ポーリィは付いてきたそうな顔だったが、俺の命令に素直に従った。

 

 王宮にはサリオ兄上にジケイ兄上、ルゥルゥ姉上がいる。守りをおろそかにはできん。

 

「タケルがいなくなるなら、ボクもお暇させてもらうとしましょう」

「そうですか、レヴィさん。ではぜひ、見送りの宴席を準備させますわ」

「不要です。だって、その席にタケルはいないのでしょう?」

 

 そしてタケルが俺の護衛として出ていくなら、レヴィは国に帰るようだ。

 

 ────そんなにタケルが好きなのか、この娘。

 

「ああそうだ、リシャリ王女殿下。もし、ボクがタケルに婚姻を申し込んだらどうしますか?」

「何もしませんわ! 受けるも、断るも、タケルが自分で選べばよいのです」

「ですが、タケルはリシャリ殿下の騎士なのでしょう? 彼の婚姻に責任を持つべきでは」

「そうですわね、タケルに困ったことが起きたなら」

 

 俺は怯えているタケルと、困惑しているレヴィの二人を見つめ。

 

 にっこり笑ってこう言った。

 

「私に相談してくださいな、お力添えを約束しますわ」

「リシャリ様……」

「貴方は我が騎士なのです、タケル。貴方の忠誠も、悩みも、等しく私のモノですわ」

 

 俺はふふん、とドヤ顔でレヴィに牽制した。

 

 これは遠回しにレヴィが度を越えたアピールをしたら、俺が出張るぞというアピールである。

 

 タケルと恋愛するのは止めないけど、節度は守ってね!!

 

「では、行きましょうかタケル」

「はい、リシャリ様!」

 

 俺はそう言って、タケルの手を引いて訓練場から立ち去った。

 

 ふぅ、我ながら完璧な大岡裁きだったな。

 

「……こんな感じで良かったかしら、タケル?」

「へ? は、はい。ありがとう、ございます」

 

 タケルは顔を真っ赤にして、嬉しそうに頷いてくれた。

 

 男を取り合う女二人を宥めつつ、いい感じに線引きできたな。

 

「リシャリ様が主で良かったです」

「苦しゅうないですわ!」

 

 別に恋愛感情を否定するつもりはない。

 

 タケルが嫌がらない範囲なら、存分にやってくれ。

 

 

「……殿下はいつも、ああやって持っていかれるのよ」

「なるほど、真の恋敵……」

 

 なんか聞こえてきたけど気にしないでおこう。

 




明日9月5日、書籍1巻が発売です。
よろしくお願いいたします。
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