【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ!   作:まさきたま(サンキューカッス)

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58話「お姉ちゃんが、料理対決すると聞いて」

 

「イース、ただいま軍団秘書として着任しました! よろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしくお願いします、軍団長のタケルです」

(おのず)は参謀長のベルカだ。よろしく頼む」

「一言芳恩! このイース、粗忽者ながら頑張ります」

 

 翌朝、兵舎に向かうとイースさんが来ていた。

 

 朝一番からあいさつに来たようだ、やる気十分だな。

 

「これはこれはリシャリ殿下! 本日より、お世話になります! 磨穿鉄硯、頑張ります」

「素晴らしい気概ですわ。期待しておりますわよ」

「お任せください!」

 

 イースさんは俺に駆け寄ってきて、元気いっぱいに頭を下げた。

 

 背は俺よりずっと高いのに、子犬みたいな印象の人だ。

 

「そして、そのですね」

「ああ、図書館の件でしょう? 司書には話を通しておきました、今日からでも利用できるはずですわよ」

「ありがとうございます! 感謝感激!」

 

 今日から王宮図書館に出入りしていいよと伝えると、イースは嬉しそうに頬を紅潮させた。

 

 タケルたちのため、存分に知識を蓄えてくれ。

 

「これが許可証ですわ。王宮の受付にこれを見せれば、案内してくれるでしょう」

「ありがとうございます!!」

 

 俺から許可証を受け取ると、イースは矢のように走り去ってしまった。

 

 よほど、王宮図書館が楽しみだったらしい。分かりやすい人である。

 

「して、リシャリ殿下はどのような要件だ? 昨日でスカウトは終わったと思うが」

「それはですね、タケルにベルカ。今日はレストランに行きませんか?」

「はあ……。それは一体?」

 

 イースが出ていった後で、俺は二人に改めて話しかけた。

 

 一緒に飯行こうぜ、飯!!

 

「分かりました。つまり打ち上げ、と言うことですか?」

「いえ、料理の担当者を雇おうかと思いまして」

 

 俺は姉上の助言に従い、調理が出来る人材をスカウトすることにしたのだ。

 

 そう伝えると、二人は納得した顔になった。

 

「どうせなら、兵士も美味しい食事を食べたいはずでしょう?」

「ふむ、つまり糧食管理官か。自も賛成だ」

「料理人って、そんなに重要なのですか?」

「ああ、大事だぞ。メシが上手いと士気が上がり、脱走が減る」

 

 サリパ軍では兵士に大鍋で煮たスープが配給され、乾パンなどを浸して食べるそうだ。

 

 料理人の腕が良ければ、兵士もきっと喜ぶだろう。

 

「して、どうやって料理人を雇うのだ?」

「知り合いに、頼み込んでみますわ」

 

 今から行く予定のレストランは、経営者と顔見知りだ。

 

 俺からの頼み、となれば融通を利かせてくれるかもしれない。

 

「兵士の美味しい食事のため、行きますわよ!」

「了解だ、殿下」

 

 俺は社交ドレス(いくさしょうぞく)を身にまとい、タケルとベルカを引き連れて。

 

 首都で最も大きなレストラン、『ヴァイオレット・リストランテ』へと出向いた。

 

 

 

 

 

 サリパ国内の飲食業界を牛耳る豪商、ヴァイオレット。

 

 彼は各地にいくつも系列店を持っており、そのすべての店が高い評価を得ている。

 

 その秘訣は、買収した料理店同士でレシピとノウハウを共有させたこと。

 

 前世でいう、フランチャイズ展開に近い経営を行っていたのである。

 

 これにより高級店は、より高い技術とノウハウで美食を追及することが出来て。 

 

 庶民も手の届く値段で『美食』を楽しめるようになった。

 

 その味の評価は高く、王宮のパーティにもしばしば料理提供を依頼することがある。

 

 彼のお陰で、サリパの食文化は大きく発展したと言えるだろう。

 

「失礼いたします。ヴァイオレット様にアポイントをお願いしたリシャリ・サリパールですの」

「これは、リシャリ姫殿下。お話は伺っております。貴賓室で少々お待ちください」

 

 そして俺はヴァイオレット系列で、一番豪華なレストランに足を運んだ。

 

 サリパの主産業である畜産物をふんだんに用いた肉料理を堪能できる名店だ。

 

 だがお値段も相応で、一度の食事で平民一週間分の給料が飛ぶという。

 

「これはこれは。お久しぶりでございます、リシャリ殿下」

「ヴァイオレット様、ご無沙汰しておりますわ」

「本日もまことにお美しく、リシャリ様」

 

 到着してまもなく、ヴァイオレットさんが挨拶に来た。

 

 彼はまだ齢は三十代後半だそうが、老成した雰囲気を持っていた。

 

 落ち着きすぎていて、国王(ちちうえ)よりも年上に感じることもあった。

 

「して、この私めに何かご相談があると聞いていますが」

「ええ。恐縮ながら、話にお付き合いいただければ」

 

 今日は食事ではなく、相談があると前もって伝えていた。

 

 そのせいか、珍しくヴァイオレットさんの緊張が見て取れた。

 

「────現在の情勢、国難に当たって御身の力をお借りしたいのです」

「ふむ。私めのようなしがない街商人に、何をご希望で?」

 

 ヴァイオレットさんは優秀な男だ。

 

 ジケイ兄上やルゥルゥ姉上ほどぶっ飛んではいないが、経営手腕を見る限り天才だと思う。

 

 何ならこの人を、経済担当大臣にスカウトしたいくらいだ。

 

 平民を大臣にしたら反発がすごそうだから無理だけど。

 

「私に、人を推薦して欲しいのですわ」

「……人ですか?」

「ええ。私の近衛軍で働きうる、優秀な料理人を集めていますの」

 

 俺のそんな要望に、ヴァイオレット氏はきょとんとした顔をした。

 

 交渉の内容が、思っていたものとは違ったのかもしれない。

 

「貴方は商人なのでしょう? であれば、人を売ることも出来るのではなくて」

「ほほう……」

「無論、それなりの謝礼金は用意しておりますの。どうか、お力をお借り出来ませんか」

 

 おそらく、今の情勢を鑑みて資金援助を頼みに来たと思ってたのかな。

 

 そっちもお願いしたいが、今日は人材集めが優先だ。

 

「料理人は平民であってもよろしいのですか?」

「無論ですわ、私の近衛軍は平民を中心に編成する予定ですの」

「ほほう、それは大胆なことをなさいますな」

 

 人材は宝だ。優秀な料理人を手放すなど、彼にとっても痛いだろう。

 

 だからなるべく誠実に、こちらから頭を下げてお願いしよう。

 

「ただ、申し訳ないのですが。ウチのコックたちを、はいそうですかと差し上げるわけには」

「やはり、難しいですか?」

「少なくとも、主力級の料理人は難しゅうございます。修行中の者をお貸しするくらいであれば何とか」

 

 まぁ、レストランの主力料理人を差し出すわけにはいかない、というのは当然だ。

 

 修行中の料理人を紹介して貰えるだけでも万々歳だろう。

 

「それでも是非、お願いしますわ」

「分かりました。それでは、なるべく良い人材を紹介いたしましょう」

 

 俺はヴァイオレットさんの申し出を了承し、料理人を紹介して貰うことにした。

 

 彼の系列店で修業している人なら、おいしい料理を提供してくれるはずだ。

 

「では、リシャリ様。軽食をご用意しておりますので、しばしご歓談ください」

「ご丁寧な対応、感謝いたしますわ」

 

 俺は頭を下げて退室するヴァイオレットさんを見送った。

 

 出してもらったサンドイッチと紅茶を、タケルやベルカと楽しんだのだった。

 

 

 

 そしておおよそ、二時間後。

 

「リシャリ殿下。とりあえず二名ほど、候補者を見繕いました」

「おお、お早い対応感謝しますわ!」

 

 ヴァイオレットさんは再び、恭しく礼をして部屋に入って来た。

 

 その背後には、二名の女性の姿があった。

 

「ほら、二人とも。ご挨拶しなさい」

「どうも、リシャリ殿下。お初にお目にかかります、スカーレットと言います」

「私は、マーガレット、と申します」

「よろしくお願いしますわ!」

 

 ……女性か。と、ベルカが残念そうに小声で呟いた。

 

 軍隊に連れていく訳だから、できれば男性が良かったのだろう。

 

「軍人になっていただくわけですけど、このお二人で大丈夫ですか」

「承知しております。この二人であれば、どうこき使って頂いてもかまいません」

「いえ、そんな訳には」

 

 二人とも、まだ若い。おそらく、十代だろうか。

 

 どちらも見目麗しく、美人と言って差し支えない風貌だった。

 

 この年頃の娘を軍に、ってどうなんだろう。親が聞いたら卒倒するんじゃないの?

 

「お二人のご両親には、話はしているのでしょうか?」

「そこも心配ございません。二人とも、私の娘でございます」

 

 ところがどっこい。ヴァイオレットさんが連れてきたのは、二人とも自分の娘であった。

 

 ……軍隊だよ!? 死ぬかもしれないんだよ、良いの!?

 

「それぞれ嫁入り修行として、十年ほど当レストランで修行させた自慢の娘です」

「は、はあ」

「どちらでも、気に入った方を連れて行ってください。二人とも納得させております」

 

 これは、アレか。サリパへの忠誠度を測られているとか、そういう誤解をしているのか?

 

 無理に娘を差し出さずとも、軍に仕官してくれる人で良いんだけど。

 

「あ、あの。本当に実の娘さんを頂いて、よろしいんですか?」

「ええ、もちろん。どちらかをリシャリ殿下の近衛軍に登用して頂けるわけでしょう?」

「ええ」

「つまり、婚姻の面倒もリシャリ殿下に見ていただけるのでしょう?」

「あー……。そ、その通りですわ」

 

 ヴァイオレットさんはニコニコと、笑いながらそう言った。

 

 俺がスカウトしたなら、婚姻も面倒を見るべきというのは正論だ。

 

 俺なら、貴族の側室くらいの縁談は用意できる。

 

 すると平民の豪商でしかなかったヴァイオレット財閥は、貴族の後ろ盾を得ることができる。

 

 ────つまり『娘を差し出すから良い縁談を用意してくれ』という遠回しな交渉だ。

 

 うへぇ、その展開は考えてなかったな。

 

「見ての通り、気風の良い自慢の娘でして。殿下のお眼鏡に適うと思いますよ」

「たしかに、美しい娘さんですわ」

「マーガレットは、物静かながら美人で真面目。スカーレットは歌が上手くて、お客さんに喝采を浴びます」

「おー、素晴らしいですわ」

 

 だが話を聞く限り、二人とも悪い人材ではない。

 

 料理が上手くて美人で気配りが出来て、歌もうまいとなれば士気高揚にはもってこいだ。

 

 俺が二人の顔を見比べると、ニコニコと笑って会釈してくれた。

 

 対人能力も、問題がなさそうである。美人だし、縁談は纏めやすかろう。

 

「ではヴァイオレット様、彼女たちの料理を味わわせていただけませんか」

「ええ、もちろん。さあ二人とも、料理を作ってきなさい」

「「はい!」」

 

 ヴァイオレットさんは流石だな。

 

 俺の急なお願いに応え、自家の利益もしっかり確保してきたか。

 

「タケル、ベルカ。それでは、料理が出来るのを待つとしましょうか」

「了解した」

「……あ、あの!! 失礼します!」

 

 二人のどちらを雇うべきかの料理対決(コンペ)が、行われようとしたその時。

 

 俺たちの滞在する貴賓室に、少女が慌てて駆け込んできた。

 

「シガレット!」

「お、お、お初にお目にかかります! リシャリ殿下!」

「何の用だ、お前は呼んでいないぞ!」

 

 少女は部屋に入るなり、ヴァイオレットさんに怒鳴られてビクっと震えた。

 

 年齢は、俺の一つか二つ年下くらいだろうか。

 

 フワフワとしたウェーブ髪の、気弱そうで優し気な娘だった。

 

「お、お姉ちゃんたちが、仕官をかけて料理で対決をするって、聞いて」

「お前には関係ない話だ、早く退出しなさい!」

「あ、あああの!! リシャリ様、リシャリ姫殿下! ど、どうか」

 

 そんな彼女は、父親の制止も聞かず俺の前に跪いた。

 

 そして震える声で、

 

「わ、私もその候補に入れてください! 私に、どうか国の役に立てるチャンスをください!」

「シガレット!!! 黙りなさい、早く部屋から出ていけ!」

「リシャリ殿下。どうか、どうか!! やる気は、姉二人に負けません!」

 

 その少女は一生懸命に、傅いて懇願を始めた。

 

 ふむ、察するにこの娘もヴァイオレット家の娘さんかな?

 

「私は末っ子だから、いつもこういう場に呼んでもらえなくて」

「それ以上喋るな!」

「姉二人にも虐められて、無視されて、もうこんな生活は嫌なんです」

「申し訳ありません! リシャリ様にこれ以上、無駄な時間を取らせるな!」

 

 乱入少女シガレットは、まもなく父親に口をふさがれ羽交い絞めにされた。

 

 姉二人は、そんなシガレットを呆れ顔で見つめていた。

 

「むむ、むむむ~!!」

「娘の無礼、誠に申し訳ありません。すぐに下がらせますので」

「いえいえ、志が高いのは結構ですわ」

 

 シガレットさんはそのまま、部屋の外に連れ出されそうになっていた。

 

 だが目線でずっと、『挑戦させろ』と訴えている。

 

 うーん、どうするかなぁ。

 

「そのお方も、ヴァイオレット様の子供ですの?」

「ええ。シガレットは末っ子で、未だ十三歳の若造でございます。見ての通り粗暴で品位に欠け、リシャリ様の部下にはふさわしくないかと」

「ふむ……」

「ほら、お前は呼んでないのだ。早く下がれ」

 

 末娘シガレットは、そのままウェイターに掴まれて部屋の外へ引っ張られていった。

 

 確かにシガレットさんは、士官するには礼儀作法など足りないものが多そうだ。

 

「よし、よろしいでしょう。シガレット、貴女もこの食事対決に参加しなさい」

「リシャリ様!?」

「スカウト候補は、多いに越したことはありません。それがやる気のある方なら、なおさらですわ」

 

 しかし俺はシガレットに、そう言って微笑みかけた。

 

 ヴァイオレットさんは動揺し、彼女は目を輝かせた。

 

「それでよろしいですか、ヴァイオレット様」

「いえ……ですが、その」

「分かっておりますわ。この審査において、彼女の無礼を問うつもりはありません」

「……リシャリ殿下が、そこまでおっしゃるのであれば」

 

 とはいうものの、ぶっちゃけ俺に彼女を雇う気はなかった。

 

 シガレットは、まだ若い。士官への作法もなっていない。

 

 若すぎるが故の暴走だろうが、だからこそチャンスは与えてやるべきだ。

 

 親の命令で仕官の機会を失っても、彼女は納得しない。

 

 理不尽に道を狭められたと、他責思考に陥るだけだ。

 

 それより姉と対等に戦って敗北する方が、将来の糧になるだろう。

 

「き、機会をいただきありがとうございます! どうぞ、よろしくお願いします!」

「頑張ってくださいね、シガレットさん」

 

 そう言って、俺の前で手を叩いて喜ぶ彼女を。

 

 ヴァイオレットさんは、苦虫を噛み潰したような顔で見つめていた。

 

 

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