【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ! 作:まさきたま(サンキューカッス)
とくに何も祭っていない、南の神殿での宣誓が終わった後。
「これにて、軍事協定は成った」
「では、誓の血判を」
俺とヤイバン王は、今日の会談で決まったことを二枚の書面に残し。
お互いに血判を押して、それぞれ持ち帰ることとなった。
こうしてサリパ・ヤイバンの同盟は、口約束から正式なものになった。
「我らヤイバンは、これから貴国を盟友と扱うことを誓おう。貴国が裏切らぬ限り、な」
「我らサリパも、ヤイバンに偽りなき友好を誓いますわ。今後も、両国の発展があらんことを」
無事に同盟を締結出来て、一安心である。
ヤイバン王にその気がないのは分かっていたが、臣下からは殺意が向けられていたので怖かったのだ。
「にしても、信じがたい光景であるな」
誓いを終えて、ヤイバン王宮に帰る道すがら。
ヤイバン王はふと、思い出したようにそう呟いた。
「ヤイバン王?」
「あのパウリックとレヴィグダードが、共に歩む日が来るとは思わなんだ」
ヤイバン王は、パウリックとレヴィグダードを見てそう笑った。
確かに、この二人が戦場以外で会うことなどなかっただろう。
「リシャリ姫、今夜の食事にパウリック殿も同卓してもらえないか」
「パウリックもですか」
「ああ、レヴィグダードと対談させてみたいのだ」
レヴィグダードとパウリックのライバル関係は、国外にも有名だ。
その二人がどんな話をするのか、気になるのだろう。
「ええ、構いませんわ。ですよね、パウリック」
「リシャリ様がおっしゃるのであれば」
パウリックの方を見てみるが、嫌がる様子はない。
レヴィグダードは仏頂面だが、拒否するそぶりは見せなかった。
「では今日は宿敵同士で、過去の戦を振り返ってもらおう」
「おおお」
こうして、歴史に名を残す二人の男の対談が実現した。
かつては戦場で剣を向け、殺し合った二人。今、彼らは何を思うのか。
「凄いことになったぞ……」
「伝説の騎士同士が、ついに」
この対談にヤイバン軍の重臣たちは、興奮した顔をしていた。
かくいう俺も、本音を言うと少しワクワクしている。
パウリックは今、長年の宿敵を相手に何を思っているのか。
「協定の話は退屈だったけど、我慢して良かった」
「あの姫様はどうでもいいが、この対談は見逃せない」
「へへ……、楽しみ過ぎて動悸がしてきたぜ」
なお、俺が頑張って結んだ軍事協定が前座扱いされていた。
まぁ確かに、面白くない話だったと思うけどさぁ。
「何であんなオッサンを連れてきたんだい、リシャリ姫殿下」
ヤイバンの宴席は、立食パーティであった。
テーブルの上に豪勢なヤイバン料理が並べられ、ビュッフェ形式でとっていく形だった。
「おやレヴィさん、お久しぶりですわ」
「ええ、お久しぶりです。で、タケルはどこなんです!?」
俺は頬を緩めて、豪華絢爛なヤイバン料理を楽しんでいたら、
水色のドレスを着た貴族令嬢が、ヌっと目の前に割り込んできた。
「タケルはどうしたの、タケル。殿下の護衛はタケルだろう!」
「あー」
タケル大好きっ娘のレヴィだ。
俺がパウリックを護衛にしたことが、ご不満らしい。
「リシャリ殿下が来るというから、タケルも来ると思ってたのに」
「それは申し訳ありませんでしたわ」
レヴィは戦場の時と違って、可愛らしいローブ風のドレスを着ていた。
水色を基調とした、フリルとリボンのあしらわれた可愛い服だった。
おそらく、社交パーティ用の服なのだろう。
「まさかリシャリ殿下、タケルをボクに取られないために……?」
「邪推ですわ、私は他人の恋路を邪魔するほど野暮ではありませんわ」
実際、邪推である。タケルが来なかったのは、軍の編成上の都合だ。
そう告げると、レヴィは不満げに唇を尖らせた。
「パウリックを連れてきたせいで、おじさんたちが盛り上がっちゃったじゃないか」
「えー、良いではないですか」
「良くないよ、父様をチヤホヤしたらまた調子に乗っちゃう」
レヴィは自らの父、レヴィグダードを見ながらそう呟いた。
真面目そうな性格に見えるけど、意外に調子乗りなのか?
「あの人、酔っぱらうといつも武勇伝を語りだすんだ」
「まぁそれは、武人ならしょうがないのでは?」
「パウリックとの対決の話なんか、もう耳にタコができるほど聞いたよ」
だが身内の語る武勇伝が面倒くさい、という気持ちはわかる。
はぁそうですか、割とどうでもいいというのが娘の本音である。
「でも、パウリックを交えての対談は面白そうじゃないですか?」
「しょうもない言い合いになって、恥をかかないといいけど。父様、心が狭いんだ」
「そうなのですか」
レヴィさんは、このイベントはあまり楽しくないらしい。
俺は愛想笑いで笑みを浮かべ、彼女の愚痴に適当に相槌を打った。
「あ、パウリックが壇上に呼ばれましたね。いよいよ始まりますわ」
「くだらないショーだよ」
「では、行ってまいりますわ。失礼遊ばせ」
俺は護衛の関係上、パウリックから離れられない。
彼と一緒に壇上に登り、聞き役に徹することになっていた。
「ごめんなさいね、パウリック。大仰なことになってしまって」
「いえ。私もあの男と、話をしてみたかったですゆえ」
急遽、宴席の主役になってしまったパウリック。だが、緊張している素振りはない。
俺は彼の手を引き、ヤイバンの重臣たちが見守る壇上へとエスコートした。
そして始まる、対談の時。
二人の伝説の騎士が語った、そのトークの内容は────
「
「
予想外の方向に飛んでいった。
「あの、パウリック? レヴィグダード様?」
「この年になって、井の中の蛙を突きつけられるのはキツいものがある」
「悔しい、悔しいが才能の差はいかんともしがたい!」
対談の最初は、二人の簡単な自己紹介から始まった。
ヤイバン王が司会、俺が聞き手という布陣でお互いの戦歴を紹介して。
「タケルは強い。理解が追い付かぬほどに!」
「パウリック、我が好敵手。お前も苦労していたか……っ!」
「いかにも!!」
いよいよ「お互い、今はどちらが強いか」という話題を振ってみたら……。
「今はもう
「恥ずかしながら、タケルのほうが上であろう」
と、悔しながらに次世代の名前を上げたのである。
そこから、二人の語気は徐々にヒートアップしていった。
「今はまだ未熟ゆえ、隙を突くことはできるが」
「数年もしたら、手が付けなくなるだろう」
タケルやレヴィが規格外すぎて、彼らの自尊心は粉々のようだった。
俺が口を挟めない勢いで、二人は悔しそうに愚痴り続けた。
「悔しいのだ! タケルに手も足も出ない、自分のふがいなさが!」
「レヴィは龍神と一日中戦って無傷だった! どうかしている!」
実はレヴィも、かつて龍神グルデバッハに挑んでいたらしい。
十歳だった彼女はこっそり(悪戯目的で)、ただ一人で龍神の寝床に向かっていった。
そして一日ほど戦い通したが、互いに硬すぎて決定打がなく引き分け。
夜になるとレヴィは眠くなったようで、戦闘中の龍神の背に乗って爆睡したという。
レヴィグダードは戦々恐々としながら、グゥグゥ眠る娘を回収したそうだ。
「「人間じゃないだろう!!」」
ヤイバン産の酒が進み、二人の愚痴はエスカレートしていく。
パウリックは普段、厳しくタケルを指導しているよう見えたが……。
内心では、そんな思いを抱えていたのか。
「レヴィグダードよ、我が友よ。私の一撃で山が吹き飛び、大地が割けたことはあったか?」
「パウリックよ、我が友よ。そのような一撃を、無傷で受けきれると思うか?」
オッサン騎士は二人、盃を交わして嗚咽をこぼす。
あの二人が規格外なのはその通りなので、何もフォローできん。
「ところでパウリック、タケルという男の弱点についてだが」
「……気づいていたか」
「ああ。攻撃を放つ前、わずかに隙ができるな?」
とはいえ、レヴィグダードもさすがに百戦錬磨のようで。
パウリックが指摘していたタケルの弱点にも、気が付いていた。
「あの精神性も大きな弱点だろう。パウリック、貴様どんな教育をしていた?」
「タケルは仕官して数か月しかたっていない。今から鍛えるさ」
「げ、それは聞きたくなかった。そうか、あの強さでまだ新人か……」
つまり、レヴィグダードがなりふり構わなければタケルを殺せるってことだ。
……タケルに早く弱点を克服するよう、手紙を送っておこう。
「ちなみにレヴィグダードよ、貴様の娘レヴィに弱点はないのか」
「貴様も気付いているだろう。水魔法使いの宿命だが、火力に乏しい」
「それ以外の弱点だ。タケルの弱みだけ公開するなど、不公平だろう」
「うーむ、そういわれてもな」
そのままパウリックは、さりげなくレヴィの弱点を探ろうとした。
酔っているふりをして、意外にしたたかというべきか。
だがレヴィグダードもさるもので、
「レヴィは字が汚なくてな。手紙を書かせたら、誰も読めない」
「そういう弱点ではない、と言っているだろう」
「あと面倒くさがりなのも弱点か。水も浴びず下着も変えず、数日は平気で過ごしおる」
「はぁ。婿探しに苦労しそうだな」
最終兵器たるレヴィの弱点を、簡単に漏らしたりはしなかった。
オッサンはお互いに睨み、くっくっとくぐもった笑い声をあげる。
「まぁなんだ。他に娘の弱点に気づいたら、教えてくれパウリック」
「ああ、機会があれば」
レヴィグダードの飄々とした受け答えに、パウリックは苦笑いだ。
そして二人は、その場で握手を交わし────
「……父様? 何で言わなくていいこと言うのカナ?」
「ぐぇぇぇぇぇ……」
公衆の面前で、醜聞を垂れ流されたレヴィは激怒して。
光のない目で父親の胸ぐらを掴み上げ、首を締めた。
※レヴィは水魔法で、服を着たまま身体や衣類を洗浄できます。