【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ! 作:まさきたま(サンキューカッス)
『
この世界の技術は『魔法』に依存しているので、生活必需品の多くを使えないからだ。
料理に火を欲するならば、『火の魔法』を使わねばならず。
用便に水を要するならば、『水の魔法』が必須であった。
かつて原始の時代は、それぞれ属性の魔術師がその役を担っていたそうだ。
しかし技術は発展し『魔力さえ込めれば、主属性以外の魔法でも使える』という
この発明により魔力さえあれば、どの属性の魔法でも使えるようになった……のだが。
この世界には魔力による「水洗式トイレ」が発明されていたが……。
彼らは用を足したあと、いちいち誰かに声をかけないといけないのだ。
必然、見下されて嘲笑われることが多かった。
さらに魔力の才能は、子に『遺伝』するらしい。
低魔力同士の間に生まれた子は、高い確率で低魔力だ。
だから
貴族が平民を差別するように、平民は
……しかも、たちがわるいことに。
両親に魔力があるからといって、子も魔力を持つとは限らなかった。
魔力のある家庭にも『
もし貴族階級に
「すまない、ジュウギ」
ジュウギという青年がいた。
彼は、そこそこの名家の嫡子として生まれた。
顔は美麗、頭脳も聡明で将来を期待され育てられた。
「お前に家を継がせられない。醜聞になる」
「……」
しかし五歳の魔力測定の儀で『
こればかりはどうしようもない、ただ運が悪かっただけ。
「せめてEランクほどでも有ってくれれば」
その日から、彼の扱いは大きく変化した。
ジュウギは家の跡取りという立場を奪われ、許嫁にも縁を切られた。
代わりに弟が跡取りとして、英才教育を受けることとなった。
……低魔力は遺伝するので、ジュウギと結婚したがる令嬢は少ないだろう。
彼を跡取りにしてしまうと、家として縁談の選択肢が狭まってしまうのだ。
実際、低魔力により跡取りを交代するケースは少なくなかった。
ジュウギは魔力の才能がなかっただけで、その立場を失った。
「……ごめんよ、ジュウギ」
ただ彼の両親がジュウギを虐げていたのかというと、そうではなかった。
貴族にとって、名誉こそ大事。だから低魔力のジュウギに、家を継がせられなかったが。
「お前を跡取りにしてやれないが、きっといい縁談を探してくる」
「自棄にならず、立派に育ちなさい」
……両親はジュウギを、子供としてちゃんと愛してもいた。
名誉のためにジュウギに辛抱をさせていることを、申し訳なくも思っていた。
「お前が平民に生まれていれば、まだいくらかマシだったのに」
確かに『低魔力』に生まれれば、貴族でも平民でも差別の対象になるだろう。
貴族の家に生まれた
メンツを気にした親に、勘当されてしまう例も珍しくない。
しかし平民なら『肉体労働担当な!』という扱いを受けるが、家族から追い出されたりすることはない。
平民にメンツは重要ではなく、どんな役割をこなせるかが大事なのだ。
肉体労働は嫌がられる仕事で、その役目をこなしてくれるならむしろ助かるだろう。
……少なくとも、「いないものとして扱われる」貴族社会よりはマシであった。
「何故、私はこんな扱いを受けねばならぬのでしょうか」
そんな境遇だったジュウギは、苦悩し続けた。
跡継ぎの地位を奪われ、使用人から馬鹿にされ、弟にも見下された。
『魔力が少なく生まれただけで、どうして』という怒りが、脳を焦がした。
「父さん。低魔力でも扱える魔道具が出来れば、私の扱いもマシになりますか?」
「ん?」
そんなジュウギはある日、両親にそんなことを相談した。
「それは……なるだろうね」
「むしろ、そんなものを開発出来たら褒め称えられるわ」
「そうですか」
今、魔道具を扱える魔力のラインはEランク以上と言われている。
なのでFランク以下の魔力が馬鹿にされ、差別されているのだ。
「父さん、母さん。私を大学に入れてくれませんか」
「……ふむ」
だからFやGランクでも魔道具を使えたら、差別はなくなるんじゃないかと思った。
またジュウギが研究者として名を上げるのは、家にとっても願ったりかなったりだった。
「研究所は、能力主義。魔力の有無なんかで差別したりしないそうです」
「そうだな、悪くない」
そう考えたジュウギは、差別への抵抗として。
魔力を必要としない、新しい魔道具を研究する決意をした。
そこからジュウギは死に物狂いで勉強した。
幸運にもジュウギの学才は高く、一を聞いて十を知る聡明さであった。
一度聞いたことは二度と忘れないし、数字に明るく四則暗算を軽々とこなした。
そんな彼は王立大学に、主席特待生として入学した。
「ジュウギ、君にこの研究をお願いしたい」
「お任せください、
ジュウギは在学中も、やはり優秀であった。
教授にいくつも研究を任され、画期的な論文をいくつも発表した。
「ジュウギという男は素晴らしいな」
「彼はこの国の宝だ」
その優秀さから、ジュウギの名は大学で広まっていった。
大学は、特別な環境だ。ここでは身分も、魔力量も関係ない。
ただ優秀な研究者であることが、大学でのステータスであった。
「卒業後は、国立研究所に来なさい。君の
「光栄です、教授」
そんな背景もあって、彼は卒業後に自分の『
低魔力ではあるものの、名家の出身で勉学に優れる男。彼は大学で、准教授の立場を与えられた。
こうして自由に研究する権利を得て、満を持して『低魔力でも使える魔導具』の研究を始めたのだった。
『ジュウギ君、ちょっとそのテーマはどうかと思うが』
『それに、何の意味がある?』
しかしその研究は、多くの仲間に非難された。
『上手く行っても、
『一部の人間には売れるだろうが、費用対効果がね』
その研究は、上手くいかないと批判されているのではない。
低魔力しか恩恵を受けない研究など、優先度が低いと判断されたのだ。
『ジュウギ君、よく聞き給え。魔道具を使えない人がいても、国は困らないんだ』
『……』
『魔道具を使わない仕事だって、たくさんあるんだから』
国から予算を貰って研究する場合、『その研究が成功したらどんな利益が出るか』が何より重視される。
研究が上手く行ったとしたら、どんなメリットがあるか。
その研究の成功率はどのくらいか。
それらの要素を勘案して、研究費の予算が組まれるのだ。
『君の優秀な頭脳は、他のことに使ってくれないか』
『時間の無駄だよ。せめて、魔力利用の効率化の研究にしないか』
だから『上手く行っても価値がない』と言われてしまえばどうしようもない。
それは研究職の人間にとって、何より絶望的な批判であった。
『そんな研究に、予算を出せない』
『研究費は自前で賄うなら、勝手にやっていればいい』
研究所は実力主義だ。
ジュウギが有用な研究を続けている間は、皆に好意的な目で見られていた。
『はぁ、残念だ。君がそんなにつまらない男だったとは』
だが低魔力のための魔道具開発というテーマを聞いて。
かつては信頼の目で見てくれていた『教授』は、ジュウギを失望した顔で見ていた。
ジュウギはそれでもあきらめなかった。
国家に利益がなくても、彼の利益にはなる。
低魔力だからと、馬鹿にされることがない世界を作りたい。
その執念が、彼を突き動かしていた。
そのきっかけは、偶然だった。
「魔力以外の、動源を」
魔力が足りないなら、別のエネルギーで補えばいい。
ジュウギは、魔力を使用しないエネルギーを探した。
そこで彼が目を付けたのは、『燃える石』であった。
これはサリパ内の山でたまに見つかる、優れた燃料として知られていた。
「火魔法の代用になるか?」
ジュウギは燃える石を使い、火をつける道具を作った。
しかしこれは上手くいかず、雨の日では使えなかったり、火が付くまで1時間以上かかることもざら。
火魔法の代用には、とてもならなかった。
「水魔法の代用は……」
次にジュウギは、筒の中に水を蓄える道具を作った。
……これだけだとただの水筒だ。普通に水を持ち運ぶのと変わりない。
そこでジュウギは、水を圧縮できないかと頭をひねった。
「どうすれば水は縮むだろう。とりあえず過熱してみよう」
そこで彼は、水を熱してみた。
水を沸騰させると、量が減ることは前々から知られていた。
蒸発しているだけなのだが、ジュウギにそんなことはわからない。
ただ彼は、そんな試行錯誤の末に……。
「……水を沸騰させたら、水筒が破裂した?」
蒸気の存在に、気がついた。
『これはすごいことになるぞ』
水蒸気のエネルギーは凄まじい。
燃料さえあれば魔力を使わず、大きな物体を動かすことが出来る。
ジュウギは蒸気の可能性に気づき、研究を重ねた。
『これは人間の力を大きく超えた、凄まじいパワーだ』
蒸気は温めれば圧力が増し、冷えれば縮む性質を持っていた。
この性質を使えば、物凄い馬力を出すことが可能だ。
……ジュウギはその技術を、水の汲み上げに利用した。
『やった、出来たぞ!』
蒸気の発見から、数年。
やがて彼は、魔力を使わない強力な蒸気式
人間の力では実現できない、超効率のポンプ機構だった。
ジュウギはそれを世紀の発明だと思い、自信満々に研究成果を発表したのだが……。
『そんな複雑な事をしなくても、水魔法を使えばいいだろ』
蒸気機関を作るには、複雑な回路を要する。
金属加工には土属性の魔術師の力が必要だし、燃料の輸送にもコストがかかる。
そこまでやって得られる成果は、水を操る魔道具なら数秒で実現可能なものだった。
『あのジュウギが数年かけて研究していたものが、コレか』
『君が輝いていたのは学生の頃だけだったなジュウギ』
彼の作ったポンプは見向きもされず、発表会からつまみ出された。