【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ!   作:まさきたま(サンキューカッス)

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71話「初恋は、麻疹のようなもの」

 

 結局のところ、俺は前からハンネに王の器は備わっていたと思う。

 

 しかし彼女が自ら、表に出していなかっただけだ。

 

 例えば祖国を守るため、フロリネフとの結婚を決断したこと。

 

 焔族の差別を撤廃させて、民心を融和させようとしてたこと。

 

 そして今も俺の処刑を止めるよう、こっそり動いていること。

 

 それらはきっと、彼女の中の『王の血』がそうさせたのだ。

 

「リシャリ姫、君もまたサリパにおける王の一族だ。その言葉、良く刺さった」

「ハンネ様のお力になれたなら、光栄ですわ」

 

 しかし彼女には器はあれど、まだ未熟な少女でしかなかった。

 

 大切な人を一気に失ったショックも大きかった。

 

 だから彼女は、貴族議会を運営する舞台装置に成り下がっていた。

 

「では、質問をしても良いか」

「何でございましょう」

「もし君が余と同じ立場だとして、王を継いだらどんな王を目指す?」

 

 しかし、それではいつかアイギスランドが破綻してしまう。

 

 少なくともフロリネフに、国の実権を握らせておくべきではない。

 

「そうですね。私は勇猛な王にも思慮深い王にもなれない、平凡な姫でしかありません」

「それでは、どうする」

「凡人らしく、信頼できる部下を集めます。適材適所、人を適切に割り振る王を目指すでしょう」

 

 では、ハンネ女王はどんな王になるべきか。

 

 何をすれば、王として正しく振るまえるか。

 

「では才気に乏しい余も、そんな王を目指すのが正解だろうか」

「いいえ、ハンネ様。王の在り方に、正答などないのです」

「ふむ?」

 

 きっとそこに、明確な答えなんてない。

 

 歴史を振り返れば、過去の王の在り方を批評をすることはできるだろう。

 

 しかしそれは、何が正解だったかなんて未来になってみなければわからないということ。

 

「正答がないからこそ、王は選ばれし者しかなれません」

「なるほど」

「ハンネ様は、ハンネ様の正しいと思う道を進んでください」

 

 だからこそ王の責任は重い、しかしその責任から逃げてはいけない。

 

 王が楽をすればするほど、民が苦労をするだけなのだ。

 

「……君の言葉は、よく刺さる。王たる者の重責が、分かってきた気がする」

「であれば、幸いですわ」

「では最後に、もう一つだけ悩んでいることがある」

 

 ハンネ女王と言葉を重ねるほど、だんだん表情が明るくなっていく。

 

 きっと今まで、こんな風に相談できる相手がいなかったのだろう。

 

「おそらく、君にしか相談できない話だ」

「何でしょうか、何でもお話を聞きますわ」

 

 俺に答えられることなら何でも答えて、彼女の力になろう。

 

 そしてここでしっかり、ハンネ女王の信頼を勝ち取ってやる。

 

「君もサリパの姫だ。きっと、国のため『嫁ぐ』のがお役目であると言われてきたはず」

「そうですわね。私はきっと、国王の決めたお相手に嫁ぐことになるでしょう」

「余もそうだった。国のためになる、素敵な縁談を用意すると言われて育った」

 

 ふむ、そりゃそうだな。姫ってのはそういうもんだ。

 

 政略結婚のために身を捧げる、そのために贅沢な暮らしをさせてもらう。

 

 きっとハンネ女王も、俺と同じ感じで育ったのだろう。

 

「どうすれば殿方を喜ばせ、信頼してもらえるかも学んだ」

「ハンネ様はきっと良い奥様になられるでしょう」

「……そこなんだが」

 

 ゴリゴリの封建社会だからね、相手を選ぶ権とかないもんね。

 

 そこは時代的に仕方ないし、俺も受け入れている……。

 

「リシャリ姫。余は、結婚相手が女性だったケースはどうしたらいいと思う」

「……」

 

 それは、俺も知らん。

 

「どのような相手にも嫁ぐ覚悟はしていたが、まさか女性とは」

「あー……」

「恥ずかしながら余は、女性を対象としてみたことがなくてだな」

 

 うん。普通、王族の仕事って子供を残すことだからね。

 

 同性婚は民間だとあるらしいが、王族ではタブーになっているはず。

 

「だが嫁ぐことになったからには、余はフロリネフを愛さねばならない」

「えー、まぁ、そうですわね?」

「だけど自信がないんだ。決して、彼女が嫌いではないのだが」

 

 ハンネ女王は不安そうに、そう俺に告白した。

 

 本気で悩んでいるようで、目がぐるぐるとしていた。

 

「というか、夜の生活とかどうなるのだろう。あるのだろうか?」

「それはフロリネフ様の趣味嗜好によるとしか」

「求められたら、余は何をすればいいんだ?」

「み、身を任せる……でしょうか?」

 

 だけど、俺にそんなことを聞かれても分からん。

 

 どうなんだろ、フロリネフはそっちの趣味なんだろうか。

 

 さっき話した感じ、ガチっぽい雰囲気はあったけど。

 

「リシャリ姫も、そういう方面は詳しくないのか」

「ご、ごめんなさいですわ。私も、殿方を前提として縁談を探していますので」

「まあ、普通はそうであろうな」

 

 だが、真剣に相談されたからには乗らねばなるまい。

 

 俺は檻越しに、ハンネ女王の瞳をまっすぐ見つめた。

 

「ですが、結局。相手が殿方であろうと女性であろうと、大きく変わりませんわよ」

「……と、言うと?」

「結婚と恋愛は全くの別物ですから」

 

 俺はハンネに、そう諭した。

 

 結婚したからと言って、相手に恋をする必要はない。

 

 恋愛結婚という形があるだけで、恋愛と結婚は別物なのだ。

 

「我ら姫は、結婚相手を選べません。老齢のお爺さんに嫁ぐことだってザラです」

「……ああ、そうだな」

「だから、相手に恋をする必要なんてないんです。というか無理なものは無理です」

 

 例えば俺が気持ち悪いデブのおっさんと婚約することになったとして。

 

 俺は王族の責務として、全力で結婚生活を全うするが……。

 

 そんな相手に恋をしろって言われても、そりゃ無理だろう。

 

「恋をしなくていいのです。ただ、愛すればいい」

「愛する……?」

「例えば、家族を愛するように。あるいは、友を愛するように」

 

 だけど、どんな相手であろうと結婚して長い時間を共に過ごせば情が湧く。

 

 相手を恋愛的に好きになれなくても、家族として好きになれるだろう。

 

 そのおっさんがよほどの性格破綻者でなければ、添い遂げる自信がある。

 

「ハンネ様は、フロリネフ様をお嫌いではないのでしょう?」

「あ、ああ。余も、フロリネフは大切に思っている」

「それでいいではありませんか」

 

 むしろ恋愛と結婚をごっちゃにしちゃうと、上手くいかないことが多い。

 

 恋が冷めると、結婚する意欲も失せるからだ。

 

「ハンネ様は、フロリネフ様をどう思っていますか?」

「……直情的が過ぎるが、心強さは感じている」

「ならばきっと、ハンネ様はフロリネフ様を愛することが出来ますわ」

 

 一緒にいてしんどい相手との結婚は、難しいだろう。

 

 そういう意味でフロリネフが生理的に無理なら仕方ないが……。

 

 ハンネは、フロリネフを信頼しているように見えた。

 

「今すぐ、好きにならなくてもいいと思いますわ」

「時間が解決してくれる、と?」

「ええ」

 

 ならば、何の問題もない。

 

 いつかハンネも、胸を張ってフロリネフを愛していると言える日が来るだろう。

 

「そんなものか。結婚ってもっと、こう……」

「素敵な殿方と添い遂げることを夢見ていた、ですか?」

「いや、まぁ。父は、ハンネに見合う格好いい相手を探してやると、いつも言ってくれていてな」

 

 だがハンネは思春期真っただ中。まだ、そこまで結婚を割り切れないのだろう。

 

 素敵な殿方と大恋愛した上での結婚、なんて夢想していたに違いない。

 

「ハンネ様は、どんな殿方がお好きですの?」

「そうだな。包容力のある、年上の人がいいな」

 

 だがしかし、初恋は実らないものという。

 

 それは何故かというと、

 

「きっと、そんな理想の殿方はこの世にいないのですわ」

「……そんなものか」

「人には、夢を追う時期があるのです。ですが夢はいつか覚めるもの」

 

 初恋は、麻疹(はしか)のようなもの。

 

 理想的に見えた相手も、実はそんなに大したことはなくて。

 

 煌びやかな恋への憧れは生涯で一度は患うが、いつか冷めてしまう。

 

 ハンネ女王がそれを知った時、フロリネフを受け入れられるようになる。

 

「理想を相手に投影するのではなく、目の前にいる人を見て好きになる。それが大人の恋愛ですの」

「大人の、恋愛」

「心配なさらずともハンネ様が成長なされれば、すぐにわかりますわ」

「はあ」

 

 俺が諭すようにそう言うと、ハンネ女王は少し不満そうだった。

 

 遠回しに『お前の恋愛観は子供だぞ』って告げたようなもんだからな。

 

 ちょっとフォローしておくか。

 

「私だってハンネ様くらいの年頃は、理想を追い求めていましたわよ」

「ではリシャリ姫は今、大人の恋愛をしているのか?」

「さあ、どうでしょうか」

 

 と思ったら、ものすごいカウンターが飛んできて頬が引きつった。

 

 ま、まずい……。偉そうなことを言っておいて、俺の恋愛経験値はゼロなのだ。

 

 何せ子供のころから、前世の記憶もあってか恋愛感情を抱いたことがない。

 

 女としての恋愛経験は、ぶっちゃけ皆無!!

 

「そうか……リシャリ姫も、色々と恋をしていたのだな」

「ええですわ、おーっほっほっほ!」

 

 俺が『恋愛エアプ』だとバレたら説得力が一気になくなる。

 

 ポーカーフェイスで取り繕え……! 何とかなれー!!

 

「……」

「……」

 

 俺はクスクスと、ハンネ女王に不敵な笑み(プリンセスマイル)(渾身のブラフ)を浮かべた。

 

 ルゥルゥ姉上とのコイバナで得た知識だから、セーフにしてくれ。

 

「リシャリ姫は婚約者と、うまくいっているのか?」

「いえ、もう私に婚約者候補はいませんわ。デケンと戦争になったので」

「え、あ。そうなのか」

「今の私はフリーですわよ」

 

 幸い、ハンネ女王に気づかれた様子はなかった。

 

 ふぅ、と俺は胸をなでおろした。

 

「あれ。なんで今、余はホっとしたんだ……?」

「ハンネ女王?」

 

 何故か、ハンネ女王も安心していた。

 

 どうしたんだろうか。

 

「いや、ありがとうリシャリ姫。君との会話をするたびに、胸のつかえがとれていくようだ」

「お力になれたのであれば、幸いですわ」

「悩みのほとんどが、奇麗に消えていった」

「ふふふ。また困ったことがあったら、いつでもこのリシャリにご相談くださいませ」

 

 だが、ハンネは俺の説明に納得をしてくれたらしい。

 

 手応えは十分だ、しっかりハンネと仲良くなれた気がするぞ。

 

「うん。次もまた困ったことがあれば、リシャリに相談したいと思う」

「ふふ、そうですか。このリシャリにお任せあれ」

「ああ、できれば君がずっと、一緒に……」

 

 ハンネの表情から、険が取れた。

 

 目には光が宿っているし、王としての器も見えた。

 

 よし、パーフェクトコミュニケーションだ─────

 

「─────ッ!!」

「ハンネ様?」

 

 と、思ったその瞬間。

 

 何故かハンネが顔を真っ赤にして、俺から顔を背けた。

 

「え、ハンネ様?」

「いや、違う。ちょっと、戸惑っただけで」

「はあ」

 

 あれ、また何か無礼を働いてしまっただろうか?

 

 いや、怒っている感じは見られないな。

 

 何だ?

 

「……そうか。包容力のある、年上の相手」

「ハンネ女王?」

「あ、いや。何でもない」

 

 その後、彼女は目を細めて俺をジっと見つめてきた。

 

 まさか、俺が恋愛エアプだと勘づかれたのか? いや、そんなわけはない。

 

 この俺のポーカーフェイスは完璧なはず。見よ、この王女微笑み(プリンセスマイル)を!

 

「つまりリシャリ姫の縁談は、国の都合でこれから決まるんだな?」

「ええ。その判断は御父上にお任せしますわ」

 

 ニコニコと、必殺の笑みを張り付けて。

 

 俺は額に汗を浮かべ、虚勢を悟られないよう会話を続けた。

 

「仮に、リシャリ姫の相手が同性だった場合はどうする」

「どうもしませんわ。私はただ受け入れ、全力で愛するのみです」

 

 くぅ、いまいちハンネの考えが読めなくなった。

 

 ハンネは元が無感情だからか、顔から考えが読みにくいんだよな。

 

 恋愛エアプを悟られていないようには見えるが……。

 

「分かった、ありがとうリシャリ姫」

「そうですか、それは良かったですわ」

 

 彼女はそう言うと、すっくとその場で立ち上がった。

 

 よし、セーフ。俺も同じく立ち上がり、恭しく礼をした。

 

「これから、フロリネフと話をしてくる。あとは余に任せてくれ」

 

 ハンネはこっちの方を見ないまま、バイバイと手を振って。

 

 去り際に一瞬だけ振り返った後、一礼して立ち去った。

 

 ふぅ。どうやら、何とかなったようだな。

 

 ハンネ女王が去った後、俺は盛大に安堵の息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────、というわけだ」

 

 リシャリの独房から出た後。

 

 女王ハンネは、まっすぐフロリネフの部屋へと向かった。

 

「余は、彼女を殺してほしくない。無駄に戦火を広げたくない」

「……そう、お考えでしたか」

 

 フロリネフはそんなハンネの姿を見て、驚いていた。

 

 今まで人形のように無表情で、無味乾燥な会話しかできなかった彼女が、

 

「余が父から受け継いだ国……アイギスランドの民を、危険にさらしたくないんだ」

「……」

 

 瞳に強い光を宿し、はっきり自分の意思を示したのだ。

 

 そんなハンネの変化に、フロリネフは内心で感涙していた。

 

「分かりました。次の議会、私もリシャリ姫の処刑に反対の立場に変えましょう」

「ありがとう、フロリネフ」

 

 家族を殺されて、絶望の淵に沈んだハンネ。

 

 そんな彼女の笑顔を見たいと、四苦八苦していたフロリネフ。

 

「君の忠節に、感謝を」

 

 しかしこの日ハンネは、フロリネフに笑顔を向けた。

 

 忠節を尽くしてくれたありがとうと、笑ったのだ。

 

「いえ、当然のことですハンネ様」

「フロリネフ……」

「これからも私の忠節は、貴女に」

 

 ハンネの変化に、フロリネフは感激の思いだった。

 

 しかしそれと同時に、少し『悔しさ』も感じた。

 

「それで、その。差し支えなければお聞きしたいのですが」

「ああ、どうした?」

「あのリシャリという姫と、どんな話をされたのですか」

 

 ハンネ女王を笑顔にさせたのは、フロリネフではない。

 

 フロリネフが攫ったサリパの姫、リシャリによるものだ。

 

「諭されたんだ。今のままではよくないと」

「そう、でしたか」

「いや彼女は、素晴らしい人だ。誘拐したのは良くないことだが、それでもリシャリ姫に会えて良かった」

 

 これまでフロリネフがどれだけ頑張っても、ハンネの心を支えることはできなかった。

 

 しかしあの女……リシャリはたった一日でハンネを救ってしまったのだ。

 

 そこに、もやもやとした感情が生まれないはずがなかった。

 

「そこでだ、フロリネフ」

「何でしょうか」

 

 しかしフロリネフも、さすがに理性がある。

 

 リシャリに嫉妬は感じたが、感謝の方が大きかった。

 

「君がしでかした『姫の誘拐』というのは大事だ。リシャリ姫の今後の縁談にも関わる」

「そんなものですか?」

「ああ。傷物の姫を引き取るものは少ないからな」

「……なるほど?」

 

 あのハンネがこれだけ快活に、前向きになったのだ。

 

 次の議会では、登壇したリシャリに詫びる覚悟もあった。

 

「だから君が、リシャリ姫も娶ってはどうだろうか」

「は?」

「ほら、その、我々が彼女を誘拐した責任を取るべきだし」

 

 ハンネが頬を染めて、モジモジとこんなことを言い出すまでは。

 

「アイギスランド王家との婚姻だ、サリパにとっても悪い話ではないと思う」

「……」

「それに、その……。余も、リシャリ姫が一緒にいてくれたらうれしいなって」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────死刑」

「フロリネフ!?」

「ほげええええええぇぇぇぇ!!?」

 

 翌日の裁判で、リシャリは死刑を言い渡された。

 

 

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