【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ!   作:まさきたま(サンキューカッス)

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73話「俺が、次のデケンの皇帝だ」

 

 一時はどうなることかと思ったが、俺の処遇は『解放』という結論に落ち着いた。

 

 その結果に、異を唱えるアイギスランド貴族は一人もいなかった。

 

「採決は下った。リシャリ姫は解放し、今後は国賓として扱う」

「仰せのままに、ハンネ女王」

「以上、閉廷」

 

 これまでは貴族の操り人形でしかなかった少女王ハンネ。

 

 しかし今、彼女はアイギスランドの王として覚醒した。

 

 そんな彼女の立ち居振る舞いに、圧倒的なカリスマに、誰も逆らえなかったのだ。

 

「ではリシャリ姫。フロリネフが君を誘拐した無礼を詫びよう、申し訳なかった」

「こちらこそ、無礼な服装でフロリネフ様を出迎えて申し訳ありませんでしたわ」

 

 俺はその場で服装の無礼を謝罪し、ハンネ女王は誘拐した無礼を謝罪した。

 

 そのハンネの様子を見て、老翁が感涙して咽び泣いているのが見えた。

 

 きっと、前のアイギスランド王の時代からの忠臣なのかもしれない。

 

「アイギスランドは今後、サリパとヤイバンと協調していくこととする。両国とも、余が出向いて弁明をしよう」

「素晴らしいお考えです、ハンネ女王」

「ただリシャリ姫、申し訳ないが君の方からも……」

「ええ、私から一筆書かせていただきますわ」

「その心配りに感謝する。聞いたか文官、すぐ外交の使者を向かわせよ」

 

 ヤイバン王の性格なら、俺を助けるために軍を動かしていてもおかしくない。

 

 俺からも一筆書かないと、戦争が始まってしまうだろう。

 

「……」

「聞いていたか、フロリネフ。勿論、お前にも供をして詫びてもらうからな」

「……はい」

 

 裁判が終わった後の、フロリネフの意気消沈ぶりは凄かった。

 

 今までの覇気はなく、捨てられた子犬のような哀愁を漂わせていた。

 

「ごめんなさい、ハンネ様。私は殿下の気持ちを知っていて、リシャリ姫の処刑を……」

「良い。主に意見するのも、臣下の務めだ」

 

 彼女に怒鳴りつけられたのが、よほど堪えたのだろう。

 

 だがハンネ女王は、そんなフロリネフに普段と変わらぬ調子で声をかけた。

 

「今後も意見を述べよ、フロリネフ。君の忠節は疑っていない」

「あ、有難き幸せ!」

 

 実際、イエスマンしかいない状況というのもよろしくない。

 

 王に、正面から反対意見を述べられる存在も国には必要なのだ。

 

 まぁフロリネフに出来るかはおいておいて。

 

「今夜はリシャリ姫のために、晩餐会を開く。準備を進めよ」

「了解です、ハンネ女王」

 

 こうして俺……、リシャリ誘拐事件は幕を閉じた。

 

 今回は運よく助かったが、ハンネも短絡的な人物だったら俺は殺されていた。

 

 俺の不注意で、サリパ国民を危険にさらしたかもしれないのだ。

 

 ─────しばらく、反省しよう。

 

 

 

 

 

 

「こちら、雪モグラとイモのシチューになります」

「お、おぉ……」

 

 その日の晩。俺は近くの庶民向けレストランに案内された。

 

 そこで俺はハンネ女王の隣の席に座り、盛大な歓待を受けた。

 

「リシャリ姫はアルコールは嗜むか?」

「いえ、それほどは」

「では芋蒸留酒(コスケッキ)はやめた方がいいな」

「ブルーベリージュースを出せ、あれは内地の人間もよく好む」

 

 アイギスランドは寒冷だから、芋や獣肉がよく食べられているらしい。

 

 中でも雪モグラは肉が柔らかく脂が乗っており、とても美味しいのだとか。

 

「サリパとアイギスランドの未来に、乾杯」

 

 レストランは庶民向けだったが、料理はとても美味しかった。

 

 最初はハンネ女王も来ているのに、どうしてこんな安いレストランを会場に選んだのか不思議だったが……。

 

「まったく、この店が営業してくれていて良かった」

「もう少しで、保存食で歓迎会を開くところだった」

 

 どうやらこの付近で営業しているレストランは、ここだけだったらしい。

 

 何せこの街は、つい最近までデケン帝国に占領支配されていたのだ。

 

 フロリネフの活躍で奪還した直後であり、まだロクに人がいないのだそうだ。

 

「デケン軍も去ったし、しばらくは安全だ」

「あのヴィジャルとかいう王子のクーデターが成功することを祈ろう」

 

 しかし幸運にも、デケン帝国デヴィジャル王子によるクーデターが勃発した。

 

 彼はアイギスランド戦線を放棄し、デケン帝国の首都を強襲したそうだ。

 

 そのためこの街は平和ムードになり、営業を再開する店も増えてきたのだそうだ。

 

「もし失敗したとしても、デケンにとってはそれなりに痛手だろう」

「デケン皇帝、息子にまで裏切られるとは。いいザマだ」

 

 このままデケン帝国が滅んでくれたら、色々な問題が解決する。

 

 サリパはヤイバン・アイギスランドと同盟を結んで、平和に静かに暮らすのだ。

 

 タケルとベルカがいる限り、軍は負けない。ジュウギが研究を続ける限り、国民は富を得る。

 

「デケン帝国の討伐は、きっともうすぐだ」

 

 サリパはヤイバンとアイギスランド、この二国といい関係が築けた。

 

 きっと、素晴らしい未来が待っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────ここで、デケン帝国のヴィジャル王子に視点を移そう。

 

「ついにやるのですね、ヴィジャル様」

「ああ、いよいよあの皇帝の最期だ」

 

 リシャリはデケン帝国を裏切った王子、ヴィジャルを凡人だと評価した。

 

 彼からはリシャリの兄姉のような才気も、優秀さも感じなかったから。

 

 だからきっと、彼のクーデターは上手くいかないだろうと予想していた。

 

「絶対、成功させましょうぞ」

「ああ。この日のために、どれだけ準備を進めてきたことか」

 

 そして、実際。

 

 ヴィジャルのクーデターの、成否はどうなったかと言えば……。

 

「今が好機、突き進め!」

「他方面の主力軍が戻ってくる前に、デケン皇帝の首を取る!」

 

 ……恐ろしいまでに、順調であった。

 

 

 まずヴィジャル王子は、アイギスランド侵攻部隊の隊長以上の役職を自らの腹心で統一した。

 

 それは幼少期よりヴィジャルに臣従し、裏切る筈がない臣下たち。

 

 彼らは皆、ヴィジャルと共に死ぬ覚悟でクーデターに参加した。

 

「無念のうちに殺された母の恨み。気まぐれで他国へ侵攻する邪悪さ。捨て置くわけにはいかない」

「おお、その通り」

「さらにたった一人の肉親、ジャルファまで奪おうというのなら! 俺はデケン皇帝に剣を向ける!」

 

 そしてヴィジャル王子はアイギスランド方面軍を掌握した後、軍を反転させた。

 

 今、デケン軍の主力は、サリパ・ヤイバンへ侵攻しようと移動している。

 

 そのためデケン皇帝のいる主都は『がらあき』だった。

 

「奇策に頼らず、堅実に。綿密に計画を立てて、大胆に。俺はデケン皇帝の首を獲る!」

 

 ……実はリシャリに、内心で評価されずとも。

 

 ヴィジャルは、自分の才覚が乏しいことくらい自覚していたのだ。

 

「難しい作戦はいらない。単純に真っすぐ、軍を進めていけばいい」

 

 だからこそ、ヴィジャルは手堅く計画を進めていた。

 

 彼は、自分を過大評価しない。デケンの主力軍と戦闘になったら敗北する前提で動く。

 

 正面から戦っては勝てない。だから、不意を打つことに全力を注ぐ。

 

「非才な俺であろうと、兵士のいない首都を制圧するくらいなら─────」

 

 凡才のヴィジャルは、自分に出来ることをやる。

 

 軍のいない首都に侵入し、ジャルファを助け、デケン皇帝の首を獲る。

 

 いくらヴィジャルでも(・・・・・・・・・・)、それくらいは出来ると信じた。

 

「俺の刃を受けてみろ、皇帝(オヤジ)ィ!!」

 

 凡才がなぜ失敗するかと言えば、分をわきまえない目標に手を出してしまうから。

 

 では、自分の能力を自覚している凡才が、平凡な作戦を実行しようとしたらどうなるか?

 

 

 

 平凡に、上手く行ってしまうのだ。

 

 

 

 

「デケン皇帝陛下! ヴィジャル王子の軍勢が、首都を包囲しています!」

「援軍は間に合いません、どれだけ急いでも一週間はかかると……!」

「おのれ、小癪な! 妾腹の無能に軍を持たせてやったらこれだ!」

 

 電撃的な裏切り、そして迅速な行軍、手堅い人事。

 

 それらはヴィジャルの乏しい才覚を、補って余りあった。

 

「今すぐ軍を集めよ。我が、デケン皇帝の名のもとに!」

「ですがもう、首都の大部分が掌握されていまして─────」

 

 例えるならそれは、本能寺の変。

 

 裏切ると思っていなかった息子(ヴィジャル)が、入念に迅速に刃を向けたのだ。

 

 いかに戦が強かったデケン皇帝と言えど、反応が出来なかった。

 

「おのれ、おのれ、おのれ!!!」

 

 リシャリの予想に反し、ヴィジャルのクーデターは上手くいった。

 

 主都に到着して僅か一日で、完全に都市を占拠した。

 

 彼は順当に、当たり前の結果として、デケン皇帝に刃を突き立てる権利を得たのである。

 

 

「ジャルファは、無事か?」

「ええ。まだ処刑は執行されていません!」

 

 しかしヴィジャルは、まっすぐに皇帝の下に向かわなかった。

 

 血を分けた肉親、ジャルファの命が心配だったからだ。

 

「待っていろ。兄がすぐ、解放してやるからな」

 

 ジャルファは来月にも、公衆の面前で公開処刑される予定だった。

 

 サリパという弱小国に敗北し、逃げ帰ってきた責任を取らされて。

 

「お前を失っては、亡き母に申し訳が立たん─────」

 

 ヴィジャルは首都を掌握すると、皇帝の住む宮殿ではなく、監獄へ向かった。

 

 弟の無事を確かめ、救い出すためだ。

 

 兄は、皇帝の暗殺よりも弟の無事を優先したのである。

 

「こちらです、ヴィジャル王子」

「お、おおぅ!! ジャルファ、ジャルファ!!」

 

 彼が向かった監獄の最奥、ジャルファは両手両足を縛られて拘束されていた。

 

 体中に打撲の跡があり、激しい拷問を受けた形跡があった。

 

「……あ、あれ? ヴィジャル、兄、さん?」

「弟よ、喋るな! 辛かっただろう、苦しかっただろう!」

 

 ジャルファはボロボロだった。だが、生きていた。

 

 兄ヴィジャルは感涙し、弟の拘束を解いて抱きしめた。

 

「もう大丈夫だ。兄が来たからには、もう安心していい」

「どうして、私は、処刑されるの、では?」

「お前は処刑などされない」

 

 ヴィジャルの指示で、すぐにジャルファは手当てを受けた。

 

 これで、ヴィジャルの目的の一つは達成された。

 

「後は、最後の仕事だ。ジャルファ、少しだけ待っていると良い」

 

 今日で、全ての決着をつける。

 

 ヴィジャルは腰元の剣を握り、宮殿を見据えてそう言った。

 

「兄さん、どういうことなのですか。一体、何が起きているのですか」

「ジャルファよ。俺は今日、デケン皇帝の首を獲る」

 

 デケン皇帝には、ヴィジャルのクーデターに抗う手段がない。

 

 後は悠々と宮殿に向かい、皇帝を処刑するだけ。

 

「アイギスランド方面軍を掌握し、首都に攻め込んだ」

「……え。兄さん、が?」

「今日、この国の王位は、俺が簒奪する」

 

 確かにヴィジャルは凡人だった。

 

 しかし、常に天才が凡人に勝つとは限らない。

 

 時の運。計画の出来。堅実さ。様々な要因が絡み合った上に、結果は生まれる。

 

「俺が、次のデケンの皇帝だ」

 

 ヴィジャルは凡人ながら、たった一人で計画を練って遂行し、勝利したのだ。

 

 デケン帝国をここまで大きくした『怪物(こうてい)』に。

 

 

 

 

「……えっ」

 

 そう。彼はデケン皇帝には、勝利していた。

 

 それは紛れもない、事実であった。

 

「駄目だよ、兄さん」

 

 しかし、最後の一手を遂行する直前。

 

 デケン皇帝の処刑をする、間際の出来事。

 

「それは、国益じゃない」

「ジャル、ファ?」

 

 いつの間にか握っていた(ジャルファ)の剣が、(ヴィジャル)の心臓を貫いた。

 

「確かに、兄さんみたいな反皇帝勢力も増えてきた。だけど未だ、皇帝の求心力は健在なんだ」

「あぁ、あ、ガァ……」

「今ここで反乱(ソレ)をしたら、国が真っ二つに割れる内乱が起きる」

 

 (ヴィジャル)は数秒、胸から生えてきた剣先を見つめて。

 

 いつの間にか、自分の剣が弟に引き抜かれていたと気付いた直後────

 

「国のために、僕が反乱(ソレ)を考えなかったとでも?」

「……ァ、ぁ」

「それをするのは今じゃない。今やってしまうと、多くの民が犠牲になる」

 

 グリグリ、とジャルファは胸に突き刺した剣を捻じった。

 

 直後、ヴィジャルの口から多量の喀血があった。

 

「ヴィジャル、様?」

「う、うわああ! ジャルファ王子、御乱心!」

「乱心なんてしていませんよ」

 

 グルリ、と(ビジャル)の眼球が上を向いて。

 

 バタリと仰向けに倒れると、噴水のような血飛沫を振り撒いた。

 

「な、なに、何を! ジャルファ王子!」

「ヴィジャル様は、貴方を救うために─────」

「君たちこそ、何を言ってるんですか」

 

 何が起こったのか分からないという表情で、絶命した兄を見下ろし。

 

 ジャルファはいつも通り、優しい笑顔を浮かべヴィジャルの臣下に語り掛けた。

 

「僕の命より、国益の方が大事でしょう」

 

 

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