【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ!   作:まさきたま(サンキューカッス)

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79話「次は、忘れないようにさせてやる」

 

 ─────少し見ない間に、タケルの背は伸びていた。

 

 革鎧は寒冷仕様なのか、厚い布が張り巡らされている。

 

 掌にはいつも身に着けている、故郷の友人が用意してくれた手甲。

 

「リシャリ様はそんな薄着で大丈夫ですか? すぐお召し物を用意させますが」

「それも大丈夫ですわ、雪精の加護とか、そういう感じで暖かいのです」

「なるほど、確かに凍えておられるように見えない」

 

 ああ、間違いない。頼れる護衛、タケルが助けに来てくれた。

 

 その事実は、心底うれしくてありがたいのだが……。

 

「僕が来たからには、もうリシャリ様に不自由はさせません」

 

 普段こそ朴訥(ぼくとつ)とした、やさしいこの男であるが。

 

 今は言葉の節々から、ピリピリとした怒りが滲んでいた。

 

「どうか僕に、次のご命令を」

 

 これは別に、俺じゃなくても分かる。

 

 タケルはもう、完全にブチ切れていた。

 

 

 

 

「まだだ! 立ち上がれ、お前ら!」

 

 このままではアイギスランド人の虐殺(ジェノサイド)が始まってしまう。

 

 タケルをどうやって宥めようか、必死に思考を巡らせていると。

 

「また良いようにされてたまるかよ!」

「負けたらジャルファ王子に申し訳が立たねぇ!」

 

 気づけばアガロンたちがよろよろと立ち上がり、タケルを睨みつけていた。

 

 龍鎧は砕け、体中から血を流してやっと立っている状況で。

 

「タケル、彼らまだやる気のようですわ!」

「ええ、分かっています」

 

 タケルはちらり、と横目でアガロンを見つめた。

 

 そしてフゥ、と息を吐いて、

 

「ご安心ください。リシャリ様には指一本、触れさせません」

 

 タケルは一歩、足を開いて拳を構えた。

 

 それだけで大地に亀裂が入り、空気が張り詰める。

 

「ひっ」

 

 怒りを堪えて構えているタケルの眼光が、よほど鋭かったのか。

 

 龍殺しの五人(ファイブドラゴンキラー)の一人の顔が恐怖に歪み、一歩後ずさった。

 

「ア、アガロン様」

「……っ」

 

 その時、ほんの一瞬。

 

 俺はアガロンが唇を噛み、何か躊躇ったように見えた。

 

「行くぞ、お前ら! アレ(・・)で怪物を狩る!!」

「は、はい!」

 

 ちょっと、嫌な予感がする。

 

 俺はタケルの後ろで、警戒を強めた。

 

 

 

「突撃ィ!」

 

 

 アガロンが叫ぶのと同時に、黒い龍鎧を着た戦士は四方に散った。

 

 同時にタケルは片手を、俺に庇うように差し出す。

 

「ウオオオオオッ!!」

 

 今度は、五人同時の突撃ではないらしい。

 

 仲間たちは明後日の方向へ飛び、アガロンだけがタケルに突っ込んできていた。

 

あの男(タケル)はここで縊り殺す!」

 

 突っ込んでくるアガロンには、一切の余裕がなかった。

 

 彼はタケルの実力を理解していたからだ。

 

 そんな彼が取った行動は─────

 

 

 

「隙ありィィィ!!!」

 

 

 

 土による、目潰しだった。

 

 なんとアガロンは、タケルに接触する直前。

 

 土を蹴り上げ、タケルに浴びせたのである。

 

「え、目潰し!?」

 

 俺は、その行動に目を丸くして叫んだ。

 

 アガロンは、正々堂々を好む騎士然とした性格。

 

 決闘の名乗りも上げず、目潰しを使うなど信じられなかった。

 

「タケルっ!!」

 

 ……だがそれも、仕方なかったのかもしれない。

 

 タケルを相手にしては、正々堂々と戦っても勝ち目がない。

 

(なじ)るなら詰れ、(そし)るなら誹れ!」

 

 この姑息な勝利が、アガロンの一生の汚点になっても構わない。

 

 彼はなりふり構わず、勝利にこだわった。

 

「ハンネ女王、お覚悟!」

「サリパ王族の首、貰った」

「ひょええええ!?」

 

 卑怯はそれだけではない。アガロンは背後から仲間を、俺とハンネに突っ込ませた。

 

 幾ら強くとも、タケルは一人だ。同時に複数の場所を守ることはできない。

 

 タケルと護衛対象(おれ)を同時に攻撃することで、どちらかを仕留めようとした。

 

「最悪、サリパの姫はどうでもいい」

「ハンネ女王の首さえ獲れれば、この戦争はデケンの勝ちだ!!」

 

 騎士道に拘るアガロンとは思えない、手段を選ばぬ戦略。

 

 だからこそ、俺も不意を突かれた。

 

「俺はなんとしても、ジャルファ王子に受けた恩を─────」

 

 それは一種の、パニック状態と言えたかもしれない。

 

 アガロンは無我夢中で、タケルに槍先を振り絞り……。

 

「……あれ?」

 

 アガロンがタケルに向けて放った槍先は、むなしく空を切っていた。

 

 

 

「─────ぐぇ」

 

 刹那、アガロンの仲間たちのカエルが潰れたような声がして。

 

 ドオンと轟音が響き、土煙が一直線に大地を吹き抜けた。

 

「リシャリ様に、何をする気ですか?」

 

 一つ、二つ、三つ、四つ。

 

 パチンコ玉のような小気味よい音を立て、人間が弾き飛んでいく。

 

貴女(あなた)で、最後」

「ひぃ、助け─────!!」

 

 まるで軽いジャブのような所作で、タケルは敵を大地に撃ち返していく。

 

 アガロンは槍を虚空に突き出したまま、呆然と仲間が蹂躙されるのを眺めていた。

 

「お前……何で。目を潰したのに」

「おや、知らないのですか」

 

 戦場に、静寂が訪れる。

 

 アガロンは冷や汗を拭い、仲間たちに目も向けず、タケルに問う。

 

「上位の戦士は魔力で敵を視ます。視界を潰しても、意味はありません」

「─────ッ!!」

「覚えておくといいですよ」

 

 その答えを、アガロンは知っていたはずなのに。

 

 タケルはルリちゃん対策で、魔力で人を見る技術を身に付けていたのだ。

 

 サリパ最強の騎士団長、パウリックの指導の賜物である。

 

「で? まだ、やりますか」

 

 もちろん、タケルにはまだ弱点も多い。

 

 例えば誰かを攻撃しようとする直前、大きな隙ができること。

 

 タケルはまだ、その弱点を克服できてはいなかった。

 

 なので、

 

「僕からは手を出しません。逃げ帰るなら、どうぞご自由に」

「お、お前」

 

 俺を守るために、タケルは防御に徹した。

 

 徹底した後の先、専守防衛の迎撃スタイル。

 

 そうすると、タケルの弱点はなくなるのだ。

 

「攻めてくるなら軽く、優しく、お相手してあげます」

 

 タケルは人を殴るより、守る方が得意な性格である。

 

 カウンター主体の戦闘スタイルの方が、彼に合っていた。

 

「僕としては、逃げることをお勧めしますけど」

「お、お前は……。俺に、尻尾を巻いて逃げろと!?」

 

 護衛の時は、自分から攻撃しない。

 

 タケルが攻めっ気を出さない限り、隙を突くことはできないから。

 

 これもまた、サリパの騎士団長パウリックの教えだった。

 

「ここがサリパじゃない以上、僕も本気で戦う理由はないので」

 

 タケルは(リシャリ)の守りを、決して緩めない。

 

 このまま強引に攻撃を続けても、死体が五つ積み上がるだけ。

 

「……っ!! 分かった、俺の負けだ」

「理解をいただけて、幸いです」

 

 アガロンもそれを悟ったのだろう。

 

 悔しそうに顔を歪ませ、タケルに背を向けて歩き出した。

 

「だが、覚えてろ。次に会ったが百年目、その首は俺が獲る」

「へ?」

 

 不意打ちや目潰しまでしたのに、あっさりいなされた。

 

 その上でここはサリパじゃないからと『見逃してもらった』。

 

 それはアガロンにとって、どれほどの屈辱だろうか。

 

「三度目は、俺が勝つ」

 

 しかし彼は、みっともなく激高するような真似はしなかった。

 

 無様な負けと認めた上で、捨て台詞を吐いた。

 

「え、えっと。初対面、ですよね?」

「……ッ!!」

 

 しかし、現実は残酷で。

 

 タケルは困惑したように、アガロンにそう言った。

 

「……」

 

 数秒ほど、沈黙が流れ。

 

「俺はデケンの『龍殺し』アガロンだ。覚えておけ」

 

 絞り出すように、アガロンはそう名乗った。

 

 名乗りも上げず、不意打ちしたのはアガロンの方だ。

 

 名前を憶えられていなかった無礼に、言い返すことなどできない。

 

「え、あ。あーっ!! すみません、思い出しましたすみません!」

「いや、いい。一撃で吹っ飛ばされた敵なんぞ、記憶に乏しくて当然だ」

 

 タケルには、歯牙にもかけられていなかった。

 

 それが、アガロンが突き付けられた現実だった。

 

 タケルとアガロンが出会って話をしたのは数分。

 

 いつものように、一撃で吹っ飛んだ(ざこ)でしかない。

 

「次は、忘れないようにさせてやる」

「は、はい……」

 

 アガロンはしょんぼりと肩を落とし、タケルに背を向けると。

 

 そう言ってトボトボと、歩き去ってしまった。

 

 

 

 

 

 そして、アガロンが立ち去った後。

 

「お迎えに時間がかかってしまい、申し訳ありません」

「い、いえ。むしろ迅速で助かりましたわ」

 

 俺は、タケルから今まで何があったかを聞いた。

 

 二人は夜通し、アイギスランドまでマラソンしてくれていたのだという。

 

「りしゃり、私もがんばったよ」

「ルリちゃんも、ありがとうございますわ」

 

 そういう彼女の眼もとには、大きな隈が出来ていた。

 

 タケルに抱えられルリちゃんは、ろくに寝られなかったという。

 

「アイギスランドについたら、彼女にリシャリ様がどこにいるかを探ってもらいました」

「それできのう、ようやく見つけたのでじじょとして潜入したの」

「なるほど」

 

 アイギスランドに到着した二人はすぐ、俺の捜索を始めた。

 

 そしてとうとう、アイギスランド軍の監視塔にいることを突き止めた。

 

「ほんとうは、こっそり連れ出すよていだったけど」

「私が、デケン軍の前に名乗り出てしまったと」

「そう」

 

 そこでルリちゃんは、侍女として潜入に成功。

 

 俺に二人きりのタイミングで接触しようとしたが……。

 

 あの状況になったので姿を現し、タケルに強行救出の合図を送ったそうだ。

 

「りしゃりも、むちゃをする」

「気を付けますわ……」

 

 ルリちゃんの到着があと一日でも遅れていたら、俺はデケン軍に捕まっていた。

 

 俺の救出を優先し、二人を送ってくれたベルカさまさまである。

 

「……と、言う訳で。アイギスランドとは、同盟を組む方針になりましたわ」

「なるほど、了解です」

 

 その後、俺はタケルたちに今回の顛末を説明した。

 

 俺が誘拐されるに至った理由、ハンネとの話し合い、そして裁判。

 

 最終的にはハンネが味方になってくれて、同盟を組む方針になったこと。

 

「私にも無礼はありました。なので、誘拐されたことも納得しておりますわ」

「リシャリ様がそう仰るなら……」

 

 タケルは話を聞いてなお、アイギスランド勢に敵意がむき出しだった。

 

 恩師パウリックを殺されかけたことを、根に持っているようだ。

 

「いや、彼の怒りも尤もだ。余からも詫びさせてほしい」

「貴女は……?」

「現アイギスランドの女王、ハンネ・ヴィ・リトリオーラである」

「あっ、これは、失礼いたしました」

 

 しかし、ハンネが誠実だったのが幸いした。

 

 彼女はタケルに傅いて名乗った後、静かに礼を述べた。

 

「リシャリ姫を攫った無礼、貴国の騎士に手を出した非礼、改めて詫びよう」

「……」

「そして至上の感謝を。君が来なければ、アイギスランドは滅んでいた」

「……いえ」

 

 それは裏表のない、心からの感謝の言葉。

 

 そんな風に言われ、タケルの性格ではこれ以上怒れなかったらしい。

 

「君は、我が国の恩人だ」

 

 あるいはハンネの王器に、タケルも気圧されたのかもしれない。

 

 タケルは困ったように俺の顔を何度か見て、

 

「ぼ、僕としてはアイギスランドが、リシャリ様に謝ってくれれば……」

「もちろん。余自ら足を運び、フロリネフともども謝罪をするつもりだった。断られてしまったがな」

「断られ……?」

 

 尻すぼみに、そう言及するにとどまった。

 

「因みに、その、リシャリ様を誘拐したフロリネフというのは?」

「ああ、余の後ろに控える者だ」

 

 フロリネフは治療を受け、一命をとりとめていた。

 

 さっきからハンネの後ろに隠れ、借りてきた猫のように縮こまっている。

 

「ほら、フロリネフ」

「わ、私が、リシャリ姫を誘拐した! 申し訳なかった!」

「……はあ」

 

 彼女も怪物だからこそ、タケルがヤベー奴だと分かるのだろう。

 

 正面から勝てる相手じゃないと気づいているようだ。

 

「彼女は短慮なのだ、よく教育しておく」

「お願いします」

「きょ、教育されておく!!」

 

 フロリネフの価値観は『力こそ正義』って感じだった。

 

 タケルがいる限り、今後はサリパに逆らわないだろう。

 

「それよりハンネ様、我々はサリパに帰らねばなりません」

「ああ」

「それで、その。不躾なことを聞きますが」

 

 さて、これでひと段落。

 

 あとはサリパに帰るだけ……と言いたいところだが。

 

 俺には一つ、心配なことがあった。

 

「私とタケルが去った後、再びアガロンが攻めてきたら……」

「む」

 

 タケルがここを去った後、再びアガロンが攻めてきたらどうするかである。

 

 フロリネフとアガロンの相性は致命的に悪い。

 

 しかしさすがに、タケルをここに置いて行くという選択肢はない。

 

 タケルがいないと自国を守れないのは、サリパも一緒だ。

 

「私が、もっと頑張る」

「フロリネフさん?」

 

 俺の憂慮を聞くと、フロリネフは憮然とした顔でそう言った。

 

「今日は、ハンネ様にいいところを見せたくて街の近くで戦い過ぎた」

「はぁ」

「もう少し離れて戦えば、もっと火力は出せる」

 

 今日見せた凄まじい炎魔法ですら、まだ全力ではなかったらしい。

 

 本気を出せば、更に火力がアップするそうだ。

 

 それは確かに凄いが……。

 

「例え火力が上がっても、龍鎧を何とか出来るのですか?」

「どんな物体でもいつかは燃える」

 

 龍鎧は、炎に強い耐性がある。

 

 火力を上げるだけで、対処ができるだろうか。

 

「フロリネフ、それでは今日の二の舞だ」

「ハンネ様?」

「余に考えがある」

 

 どうやらハンネも、俺と同じことを危惧していたようで。

 

 フロリネフが街から離れて戦うだけという方針を良しとしなかった。

 

「どうなさるのですか?」

「内地の領土を、放棄しようと思う」

「ハンネ様!?」

 

 彼女の口から出た、その案は。

 

 取り戻した領土を放棄し、戦線を縮小するというものだった。

 

「兵士と民を海岸沿いに集める。そうすれば、いつでも島に避難できるだろう」

「逃げるということですか」

「それもあるが、他に理由もある」

 

 アガロンを恐れて、後退する。

 

 その方針を聞いてフロリネフは、悔しそうに唸ったが。

 

「フロリネフは守るより、攻撃する方が向いておろう?」

「どういうことです?」

 

 それは決して、防御のためだけの後退ではなく。

 

 むしろアイギスランド軍の強みを生かした、攻撃的な後退と言えた。

 

「フロリネフを海路で輸送し、デケンの沿岸都市に襲撃を行うのはどうだ」

「なっ!」

 

 海路でフロリネフを輸送して、デケンの都市を強襲させる。

 

 すました顔でハンネが語ったその作戦は、俺も引くくらい悪辣だった。

 

「前々から考えていた作戦だ。さすれば今後も海戦が主になり、アイギスランド海軍の強みを生かせる」

「お、おおですわ」

 

 アイギスランド軍の強みは、何と言っても海軍の精強さである。

 

 そしてフロリネフは、上陸さえできれば広範囲殲滅を行える最強の魔術師。

 

 じゃあフロリネフを海で運べばいいじゃん、というそれぞれの特性を生かした作戦だった。

 

「大都市は沿岸に集まるからな。デケンもさぞ困るだろう」

「有効な作戦かと、思いますけど」

「さすがのアガロンも、海までは追ってこられまい」

 

 だけどそれ、人道的に大丈夫だろうか。

 

 あのフロリネフの超火力が、海から襲ってくるわけだろ? 民間人の被害が酷いことにならんか?

 

 恨みを買い過ぎると、終戦の落としどころがなくなるぞ。

 

「安心せよリシャリ姫。余とて、いたずらに死人を出したくはない」

「と、いうと?」

「都市を焼いたら恨みを買い過ぎる。実際には、軍事施設を焼いて物資を奪うだけになろう」

 

 さすがにハンネも、その辺は弁えていたようで。

 

 なるべく民間人は殺さないようには考えているらしい。

 

「だけど、せっかく奪還したのに……」

「民を戦火に巻き込まない方が重要であろう」

 

 アガロンとの戦いで、フロリネフは無敵とは言えなくなった。

 

 デケン軍に負ければ、残虐な略奪が待っている。

 

 民衆への被害を防ぐため、戦線の縮小を決断したのだ。

 

 ハンネも苦渋の決断だったようだが、

 

「リシャリ姫の縁で結んだ同盟がある。その力を借りよう」

 

 そう言ってチラリと、タケルの顔を見た。

 

「近いうちに、三国会談を打診したい。サリパ王によく伝えておいて欲しい」

「分かりましたわ」

 

 頼みのフロリネフの天敵が、デケンにいた。

 

 となれば、俺たちとの同盟を活用するほかないだろう。

 

「海の戦は、我らの得意。必ずや、サリパとヤイバンの力になる。だからどうか、我が国に力添えを」

「父に、しかと伝えますわ」

 

 すがるように差し出された、ハンネ女王の右手。

 

 俺はそのか細い腕に、握手を返して応じた。

 

 ……そこで、俺は気付く。

 

 ハンネの掌が、汗でビッショリになっていたことに。

 

「……」

 

 さっきからハンネが妙に取り繕ってると思ったが。

 

 どうやらタケルにビビり散らかしながら、王の矜持で態度を崩さなかったらしい。

 

 よく見たら、足も微妙に震えていた。

 

「貴女とはずっと、仲良くしていたい。リシャリ姫」

「光栄ですわ!」

 

 まだ腹芸は未熟だが、ハンネは立派に王様をやっている。

 

 初対面の頃のような、操り人形のようなハンネはもういない。

 

 彼女はこれからも、成長を続けるだろう。

 

 ハンネが女王であり続ける限り、アイギスランドは大丈夫だと思った。

 

 

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