【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ! 作:まさきたま(サンキューカッス)
ハンネはヤイバンに採掘権を要求され、すこぶる焦った。
「き、貴国に鉱山採掘権を譲るのは難しい。アイギスランドも鉱山は希少で」
「そう言うな。港に加え、鉱山の採掘権も貰えれば迷わず優先しよう」
「サリパが相手なら、輸送や技術指南でアイギスランドに商機がある。だが貴国は」
サリパ相手なら、鉱山採掘権を渡してもそんなに損をしない。
採掘や加工技術を売りつけられるし、輸送料も請求できる。
採掘権を餌に、サリパから色々と搾り取ることができたのだ。
しかしヤイバンが相手なら、採掘権を丸儲けされてしまうだけ。
「貴国が譲ると言ったところではないか」
「……す、少し待ってくれ」
しかし、言ってしまったことは仕方ない。
彼女はゴニョゴニョと、後ろに控える腹心のお爺ちゃん貴族と相談し始めた。
「……期限付き、三年間の採掘権であれば」
「それじゃ足らんのう。十分な援軍を期待したいなら十年だ」
「だが、いや。……ううむ」
無期限で採掘権を渡すわけにはいかない。
ハンネは頬に嫌な汗を伝わせながら、ヤイバン王と交渉を続けた。
そして、
「五年でどうか。これが限界だ」
「ま、いいじゃろ」
アイギスランドは港の譲渡に加え、五年の鉱山採掘権まで持っていかれた。
ご愁傷さまとしか、言いようがない。
「その代わり、迅速な援軍を頼む。間に合わなくなっては……」
「おう、それは任せよ。先週の時点で動員をかけておるよ」
「えっ」
だが一方で、ヤイバン王の良い所も出ていた。
先週の時点で、彼はとっくに援軍の編成を始めていたのだ。
「筋を通しに来た者を見捨てるほど、ヤイバン人の血は冷たくない」
「……お、恩に着る」
「来週にでも出立させよう」
ヤイバン王は色々と言いながらも、アイギスランドに援軍を出すと決めていたらしい。
それはそれとして、良い条件を引き出す駆け引きを行っただけのようだ。
「安心せよ、ハンネ女王。我が国にはタケルに匹敵する将がおる」
「……本当に?」
「ああ。貴国の窮地は救われる」
しかも彼の言い方的に、レヴィを向かわせるつもりらしい。
彼女はおそらく、ヤイバンの最高戦力だ。
「サリパの勇者タケルと引き分けた猛者だ」
「……」
「きっと貴国の力になる」
レヴィなら、デケンの英雄アガロンに真っ向から対抗できる。
こと『守る』ことに関して、彼女の右に出る者はいないだろう。
「アレと引き分ける者が、ヤイバンにはいるのですか?」
「事実ですわ。私が保証しましょう、ハンネ様」
「そうか、リシャリ姫が言うなら信用できる」
だが、ヤイバン軍はレヴィを動かして大丈夫なんだろうか。
サリパもヤイバンも、デケン軍と戦争している最中の筈だが……。
「だがそれほどの戦士を借り受けて、そちらの前線は大丈夫だろうか?」
「問題ない、既に勝勢は決している」
「えっ、そんなに優勢なんですの?」
だが聞けば、サリパ・ヤイバン連合がほぼ勝利しているらしい。
戦線は膠着していると聞いていたんだが……。
俺がアイギスランドで聞いた情報は、既に古いようだ。
「タケルが到着して、無双を始めたんでしょうか?」
「いや、勝敗が決したのはタケルが来る前だ」
では、どうして前線の勝敗が決したのか。
その勝利の鍵は、やはりあの男であった。
『ベルカ様、タケルがアイギスランドで大暴れしたようです』
『ふむ。では、
タケルを送り出した後、ベルカは時間稼ぎを徹底し、タケルがいないことを必死で誤魔化し続けた。
『や、やばいじゃないですかぁ! もう僕の演技も通用しませんよ!』
『そうだな』
しかしタケルがアイギスランドで暴れたことにより、ついにブラフがバレてしまった。
前線にタケルがいないとバレれば、サリパは窮地に陥ってしまう。
これにはさすがのベルカも、焦った顔に─────
『やっと、撒いた種が実った』
『……はい?』
『さあさあ、楽しい収穫だ』
などと、いう訳はなく。
むしろ待ってましたとばかり、彼は膝を打って笑った。
『戦場で最も与し易い敵とは何だ、シガレット?』
『えっと、統率のない寡兵とかですか?』
『いや。寡兵であろうと油断はできんし、統率がなかろうと強い
というか、そもそもタケルをアイギスランドに送ったのはベルカだ。
そんな彼が、この状況に備えていないはずがない。
『答えは、無警戒に総攻撃してくれる敵だ』
タケルがアイギスランドで見つかることも、作戦の内。
彼はタケルに『リシャリ姫を保護したら、急いで軍に戻ってくるように』と命じていた。
つまり敵からはタケルがひと暴れした後、慌てて本陣に戻っているように見える。
『タケルは我が陣に走ってきているが、今はまだタケルがいない』
『そ、そうですね』
『さて、シガレット。この状況で敵が突っ込んでこないことがありえるか?』
『……ないでしょうね』
前線のタケルは偽物で、本物のタケルがサリパ方面へ向かって帰還中。
そんな報告を受けたら、どんな指揮官でもこう考えるに決まっている。
龍神を倒した
「サリパ軍は森で火計を、谷では落石を、川岸では水計を、たっぷり準備して待ち構えた。そして突っ込んでくるデケン軍を、各個撃破した」
「うわぁ」
「これにより、勝敗はほぼ決した」
ベルカは時間稼ぎに徹することで、敵将レジンに『タケルなしだとサリパ軍は弱い』という印象を植え付けた。
そしてタケルがいないことを『釣り餌』に、罠を張って待ち構えたのだ。
結果、まんまと釣り餌に食いついたデケン軍は殲滅させられた。
完全な戦略勝ちである。
「まもなく、デケン領内に逆侵攻ができるという」
「滅茶苦茶押してる……」
「タケル殿がサリパ軍に復帰すれば、さらに優勢に傾くだろう」
……味方ながら、やっぱベルカって怖い。
アイツ、戦争に負けることあるのかな。
「このまま勝ち進めば、デケンを滅ぼせたり?」
「おう。いよいよデケン軍の首都制圧も、現実味を帯びてきた」
なるほど、そんな状況だからデケンはラシリア王国に狙いを変えたのか。
サリパ軍本隊に勝てないから、兵站を叩こうとしてるんだ。
「すまない。では結局、我らラシリア王国への援軍はどうなるだろうか?」
「それなんだが、ワシに腹案があってな」
そこでラシリア姉上は、そう口を挟んだ。
アイギスランドへ援軍を出すのは良いが、ラシリア王国を後回しにされたら困る。
そう訴えたところ、ヤイバン王はチラっと
「ワシはやはり、サリパから援軍を送るべきだと思うのだ」
「と、申されると? 我らに兵力は残っていないが」
「サリパが新たな領地を得れば、話は変わるだろう」
ラシリア王国への援軍は、サリパが出すべきだと前置きして。
ヤイバン王はここで、すごい提案をしてきた。
「ワシはサリパに、ドラズネストの統治権を譲ろうと思う」
「えっ!?」
ヤイバン王は、自国領ドラズネストをサリパに譲ると言い出したのだ。
─────それがまぁ、どういう話かと言えば。
「領土を頂けるんですか」
「ああ、ドラズネストの独立運動が激しくなってきてな」
もともとドラズネストはヤイバンで『僻地』として扱われてきた。
迫害された人間、貧乏な家族などが最終的に行きつく場所。
いつ龍神の生贄として、命を奪われるか分からない悲劇の土地。
そんな土地を代々治めてきた領主メウリーンは、それはもうヤイバンに不満を持っていた。
「蜂起されるくらいなら、サリパに治めてもらった方がマシじゃ」
「なるほど……」
そして先日、タケルにより龍神グルデバッハが倒された。
メウリーンを縛る呪いは、何もなくなった。
そのためか、ドラズネストがサリパからヤイバンに返還された後……
『断固としテ、帰順を拒否すル! 我々は二度と、ヤイバンに屈しナイ!』
『勇者の国、サリパへの併合を認めロ!』
領主メウリーンが先頭に立ち、ドラズネスト民が独立運動を始めていたのだ。
彼らはどうやら、サリパ王国に属したがっているのだという。
「どうやら龍神を倒した勇者タケルを信仰し始めたようでな」
「そういえばメウリーンさん、タケルに平伏してましたね」
「何を言っても聞かんので、サリパに任せた方がいいのではないかと」
今はデケンと戦争中である、国内に軍を動かしている場合ではない。
それに武力鎮圧を行ったら、ますますドラズネストは反骨心をあらわにするだろう。
なのでヤイバン王は、本人らの希望通りドラズネストを手放すことを決めた。
「ただし今後、サリパ軍がデケンの都市を占領した場合、その統治権をもらいたい」
「ふむ」
メウリーンたち、ドラズネスト民の独立の意志は固い。
独立されるくらいならいっそ、サリパに売り払うがマシだ。
しかし、自国の領土をタダで明け渡したらヤイバン人は納得しない。
なのでその代わり、ヤイバン王は侵攻したデケン都市の統治権をよこせと条件を出した。
「そしてドラズネスト兵を、ラシリア領への援軍に当てるのだ。奴らも、サリパの言うことなら聞くだろう」
「なるほど、そう言うことであれば」
ドラズネストは、サリパと地続きで隣接している領土だ。
遠いデケンの占領都市よりは、遥かに統治しやすいだろう。
ラシリア王国から支援があれば、ドラズネスト領民の食料も賄えるし。
「では、ドラズネストを任せたぞサリパの」
「承知した。ではドラズネストの統治、この場で譲り受ける」
恐らくこの取引も、もう秘密裏に交わされていたと思う。
ヤイバン王と言葉を交わす
「安心しろラシリア。すぐドラズネスト兵を援軍に回す」
「頼みますよ、サリパ国王」
こうして、この会談における議題はすべて解決した。
「では後で神の前で、盟約を守ることを誓って頂きたい」
「おお、喜んで」
アイギスランド・ラシリア王国の両国は、援軍を得ることに成功した。
ヤイバンは、ドラズネストを厄介払いし、鉱山の採掘権や港を得た。
サリパは、しれっと安全に領土を増やした。
おそらく、四者ともWIN-WINな形に収まった。
「と、なると。ドラズネスト領主に話し合いをせねばならんな」
「……そうですわね、父上」
俺は今まで、こういう場に立ったことがなかったので。
このノンデリ糞親父のことを、過小評価していた。
「そこでリシャリよ、仕事を増やして申し訳ないのだが」
「分かっていますわよ」
この男は、俺の想像しているより数倍は腹黒だ。
おそらく今回の絵は、ほぼ全て
「サリパに帰る前に、メウリーン様と話をしてきますわ」
「すまんが頼んだ。俺は早く前線に戻らんと行かんのでな」
たぶん
─────あれほど無礼な国に、ホイホイと援軍を出すのは癪でしょう。
─────アイギスランドの女王を、ひとつ揺さぶってみませんかと。
「……なんか父上って、ジケイ兄上と似ていますわね」
「お、そうか? どういう意味かは分からんが」
この意地の悪い性格は、ジケイ兄上にそっくりだ。
いや、ジケイ兄上が
「まぁ、ジケイは俺と似てるだろうな」
「そうでしょう、そうでしょう」
「だけど」
この腹黒さがあるから、乱世で小国を統治できたのだろう。
尊敬していいやら呆れていいやら、反応に困っていたら、
「でもサリオもルゥルゥも、お前だって俺にそっくりだぞ」
「えっ」
そんな、心外なことを言われた。
まったくもって失礼千万である。
「私のどこが父上と似ているのです」
「人付き合いの仕方が、俺とそっくりだよ」