【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ!   作:まさきたま(サンキューカッス)

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9話「この私の虚弱さを舐めないことですわ」

 

 蒸気機関を国外に持っていくと言われ、俺は鼻水を噴き出すほど焦っていた。

 

「我が国の輸送は、未だに馬車頼みですもの。鉄道が敷き詰められれば、一気に産業が発展しますわ」

「……」

「なので貴方には一刻も早く、炭鉱のある地域に移動して開発に専念してほしいですの」

 

 冗談じゃない、こんなチート技術者に出ていかれたらたまらない。

 

 この若さでたった一人で蒸気機関を組み上げるって、知能指数いくらだよ。

 

「まさに未来を切り開く新技術。どうか、出ていくなどと言わず……」

「……」

「予算はなんとか分捕(ぶんど)ってきますので、ウチの国で研究を続けて頂きたく……」

 

 俺は下手に出て、媚びへつらうようにジュウギに頼み込んだ。

 

 敵国のヤイバンに産業革命を起こされたら、国力差でねじ伏せられるかもしれない。

 

 国を滅ぼされて親族全員血祭りエンドとか、絶対勘弁だからな!

 

「少なくともこのリシャリは、貴方の研究を馬鹿にしたりいたしませんの!」

 

 俺は王女微笑み(プリンセスマイル)を浮かべて、ジュウギの手を取った。

 

 これぞ、顔面が良い俺に許された必殺技。別名、褒め殺しともいう。

 

 ほらカワイイだろ。ほだされろ。

 

 マジで頼みます、この技術を他国に持っていかないでェ!

 

「リシャリ様。どうして、この蒸気機関の構造を理解できたのです?」

「え? ああ、それは見たままですから」

「専門の知識がないと難しいはずですが……」

 

 見ればジュウギは、俺のことを不審な目で見ていた。

 

 ……一目で蒸気機関を理解しちゃうのって、マズかっただろうか。

 

 この世界じゃ見慣れない技術だしな。

 

「当然です。リシャリ様も研究者ですから」

「タケル?」

 

 どう説明しようか、迷っていたら。

 

 タケルが割って入って、自慢げに口を挟んできた。

 

「研究者……?」

「リシャリ様は本日、昆虫学の研究でいらしたのですよ。その技術は既に、実用化されています」

「何と、リシャリ様が自ら研究をなさっているので!?」

「すでに高い評価を得ておられるのです!」

「……おおおおっ!」

 

 タケルはまるで自分のことのように、俺を褒め称えた。

 

 そう言われると悪い気はしないな。俺って頭いいのか?

 

 ……いや、オッサンが肛門を寄生される図を観察していただけだったわ。

 

「失礼をいたしました。このジュウギ、リシャリ様のことを誤解しておりました」

「お、おお。苦しゅうないですわ!」

「まさか研究者としても超一流だったとは。先ほどの無礼、どうかお許しください」

 

 タケルの自慢話を聞いて、ジュウギの態度はガラリと変わった。

 

 恭しく傅いて、別人のように礼儀正しくなった。

 

「気にしておりませんわ。それより、お話を続けますわよ」

「はい」

 

 研究所は身分も魔力もどうでもよく、優秀なことこそがステータスだっけ。

 

 王女の俺に価値はないけど、優秀な研究者であるなら評価されるのか。

 

「お話を続けますわ。貴方の研究はこのリシャリの名において、その価値を認めますわ」

「あ、あ、あ。ありがとう、ございます……っ。光栄、です」

「ですが、ここで研究すると迷惑が掛かります。それに、技術を『他国に盗まれる』かもしれません」

「む……」

 

 当然ながら、産業スパイはこの世界にも存在する。

 

 王立研究所ではデケンからの留学生を受け入れているので、ここで研究を続ければ技術が盗まれてしまう。

 

 いったん国益優先で、ジュウギには別の研究所に赴任して貰いたい。

 

「それに貴方が実験の素材にしている『燃える石』。それがたくさんある方が、研究効率も上がりましょう?」

「は、はい」

「石炭が豊富な地域に、研究施設を用意いたしますわ。そこで、開発を続けてくださいまし」

 

 この蒸気機関、サリパ王国が先んじて開発に成功すれば技術的優位がえらいことになる。

 

 国防という観点でも、兵士や物資の鉄道輸送が可能になるのは凄まじい利点だ。

 

 この蒸気機関が、我が国の最優先研究事項であることに疑いはない。

 

 騎士団長の尻(ケツキリムシ)なんざ観察してる場合じゃねぇ。

 

「はっ! このジュウギ、命を賭けて研究に勤めます。どこに場所が移ろうと、不満はございません」

「ありがとうございます!」

 

 俺の必死の説得が功を奏したのか、ジュウギはおとなしく従ってくれた。

 

 よかった、これで解決だ。

 

「……先ほどのリシャリ様のアイデアには感服いたしました。蒸気機関そのものを動かすという発想、天才的です」

「実現は出来そうですか?」

「ええ。もう設計図は私の中に組み上がりました。素晴らしいアイデアをありがとうございます、リシャリ様」

 

 しかもジュウギはまだ、蒸気機関車の着想には至っていなかったっぽいな。

 

 発明ってのは知ってしまえば当たり前に思えるけど、簡単に着想できないから発明なんだろうな。

 

「すぐさま、その研究に取り掛かります。……ああいや、引っ越しが先なのか。くぅ、時間がもったいない」

「いえ。実は引っ越しより先に、研究して貰いたいものがあります」

「引っ越すより先に、ですか?」

 

 蒸気機関車の概念に気づいたからか、ジュウギは興奮で顔を真っ赤にしている。

 

 そんな彼に釘を刺すように、俺はコホンと咳払いして、

 

「石炭を燃やすのは、周囲への悪影響が予想されます。黒い煙が有害なことは、もうはっきりしていますわ」

「は、はい」

「ジュウギさんの健康のためにも、煙から身を守る研究をすべきでしょう」

「確かにそうかもしれません、が」

「……ゲボッ」

 

 その勢いで思いっきり咳をしたら、真っ赤な血痰が床に飛び散った。

 

「えっ」

「少なくとも、マスクの開発は必須ですわねー。……あ、やばい」

「ちょ、リシャリ様、だいじょう────」

「ゲボゲボ、ゲボゲボ、ゲボボボボボボオッ!!!!」

「えええええ!?」

 

 むむむ、どうやら限界が来たらしい。

 

 この部屋には無数の黒煙……つまり石炭の粉塵が充満しているのだ。

 

 そんな環境でこの俺が、吐血しない訳ないよな。

 

「くくく、この私の虚弱さを、舐め、ないこと、ですわ……。ガババババァ」

「リシャリ様っ!!?」

 

 あ、やば。ちょっと吐きすぎた。

 

 意識が遠のいて、フラフラと世界が揺れる。

 

「私に肛門は守れても……肺は守れない……」

「リシャリ様ぁー!?」

 

 貧血のせいで意識もうろうとして、よくわからないことをつぶやいていた俺は。

 

「医務室に運べ、護衛君!」

「しっかりしてください! リシャリ様ァ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いう訳で。とんでもない研究なので、予算を頂きたいのですわ」

「マジか」

 

 俺は国立病院で一泊させられ、元気に復活したあと。

 

 国王(ちちうえ)の下に出向いて、ジュウギのことを報告した。

 

「魔力も使わずに、何百人も載せた車を動かせるだと? そんなこと出来るのか」

「出来ちゃうからヤベーのですわ。しかも、もう設計図は脳内に出来てそうですの」

「本当かぁ……?」

 

 そんな俺の言葉を、父は半信半疑だった。

 

 魔力が下地にある世界なので、無魔力での機械など考えられないのだろう。

 

 うさんくさいトンデモ科学と思われていそうだ。

 

「絶対に役に立ちますわ!」

「……却下だ。ちょっと胡散臭すぎる」

 

 普段は娘に甘い国王(パパ)ではあるが、政治にはシビアなお父様は簡単に頷いてくれなかった。

 

 ……そうだよね、新しすぎる技術ってそう簡単に理解してもらえないよね。

 

「こないだ、私の研究で大きく利益が出たでしょう?」

「ん、ああ。その件はご苦労だったな、後でパウリックに謝っておけよ」

「その利益を丸ごと予算にぶっ込めません?」

「無茶苦茶言うな。却下」

 

 この親父、普段やってることは公明正大な名君なのだが……。

 

 だからこそ、王女のワガママとか基本的に通らないんだよな。

 

 どう説得したものか。

 

「あの研究は最優先で進めるべきですわ!」

「よくわからんもんに税金を投入するわけにはいかん。誰も納得せん」

「私には分かりますの。あの技術を開発できれば、デケン帝国とすら渡り合える可能性がありますわ」

「そんな夢物語を掲げる研究、国内にどれくらいあると思う?」

 

 口先だけでは、国王に価値は分かってもらえなそうだ。

 

 魔法を使ってすら実現できないことを、魔力なしの技術で実行できるというお題目。

 

 それが、この研究に荒唐無稽な印象を与えているのだろう。

 

 俺以外にもう一人くらい、『すごい技術だ』と説得してくれればイケそうなのだが。

 

「私に出来ることなら何でもしますわ」

「お前に出来ることなぁ」

「お父様ぁ」

 

 こうなったら恥を捨て、泣き落としでもやってやる。

 

 あの男が他国に走ったら、最悪国を滅ぼされるのだ。

 

 それを食い止められるのは、あの技術のヤバさを知っている俺だけ。

 

「あ、そうだ。そういえば、お前に頼みたいことあったんだ」

「頼みたいこと、ですか」

「ああ」

 

 そんな俺の様子を見て、父は数秒ほど考えた後、ニンマリと悪い顔で笑った。

 

 ……何をさせる気だこのクソ親父。

 

「それは一体?」

「お前の姉ルゥルゥに、社交界に出てくるよう説得してくれ」

「げ、お姉さま案件ですか」

 

 父の依頼とは、ワガママな姉ルゥルゥの説得だった。

 

 第一王女ルゥルゥは、最近反抗が激しく社交界をボイコットし続けているのだ。

 

「ルゥルゥが社交界に出ないせいで、縁談が進まなくてな、先方がイライラし始めてるんだ」

「確かにそれはマズいですわね」

「向こうも侯爵家だ、王族相手とは言えメンツもあるだろう」

 

 ルゥルゥは俺と違って、自分本位な性格だ。

 

 王宮を抜け出すこともしばしば、こっそり市中に繰り出して平民と喧嘩していたこともあった。

 

 そんな奔放ぶりなので『デケンに嫁がせたら不興を買う』として、国内に相手を見繕うことになった経緯がある。

 

「ルゥルゥ姉上の説得ですかぁ……」

「アイツ最近、俺の話を聞かないからな。反抗的すぎる」

「その理由、胸に手を当てて考えてみればいいですわ」

 

 たしかに俺の姉、第一王女のルゥルゥはワガママだ。食事も好き嫌いが激しく、嫌いなものは絶対に食べない。

 

 だが彼女が頑なに父を嫌うのは、こいつのノンデリカシーもあると思う。

 

 こないだなんかルゥルゥのドレスに口を出し、下着までチョイスしようとして叩き出されていた。

 

 娘の下着に言及する親父とかキモすぎるだろ。

 

「ルゥルゥも良い歳だ。そろそろ、結婚して貰わねぇと」

「確かに、姉上も年齢がギリギリですしね」

「もう十九歳だろ? そろそろヤバいんだよ」

「ヤバいですわねぇ」

 

 ただ、このままだとルゥルゥ姉上がヤバいのも事実。

 

 この世界の結婚適齢期は、二十歳以下とされている。どこの令嬢にも十二~十三歳ごろには縁談の話がきて、十八歳までには纏まることが多い。

 

 この俺も十五歳なので、ちょくちょくデケン貴族の婚約者候補と会談し始めている。

 

 ……ちなみに最近のお相手は十歳くらいのお子様で、虫談議に花が咲き虫採りして遊んだら、父上にめっちゃ怒られた。

 

「リシャリは社交界ですごく評判がいい、引く手は数多だ。まったく心配しとらん」

「お父様の教育のたまものですわ」

「本当にお前は素直なのになぁ。ルゥルゥは本当に、どうしてああなった」

「自由な人ですからね」

「いくら王女と言え、ああも無礼なのはよくない」

 

 度重なるルゥルゥ姉上のボイコットに、お相手はひどくお怒りらしい。

 

 そろそろ婚約破棄を言い渡される可能性があるそうだ。

 

「王族とは言え、何もしないヤツを養うワケにはいかんしな」

「その辺シビアですわねお父様」

 

 仮にも姉上は王女なので、適齢期を過ぎても相手はあるだろう。

 

 だが三十、四十となっていくと厳しくなってくる。

 

 今のうちに、纏められる縁談は纏めておきたいのだろう。

 

「向こうも我慢の限界が近い。こっちに出向いてもらったのに、もう三回も会食をスキップしてるんだから」

「それはひどい」

「悪いのはルゥルゥだから、謝るしかなかった」

 

 因みにサリパの王女は現在、俺と姉上の二人しかいない。

 

 俺を生んだのを最後に、子供が出来なくなったらしい。

 

 父上が『どんなに腰を振っても子が出来なくなった』と嘆いていたので、そういうことだろう。

 

「頼むよリシャリ。姉を説得してくれるなら、俺のポケットマネーから予算を出そう」

「おっ、本当ですか」

「大した額は出せんがな。それでどうだ?」

 

 父のポケットマネーから研究費、か。

 

 どれくらいの額を貰えるかは分からないが、ないよりはマシか。

 

「……ルゥルゥ姉上を説得したら、本当に貰えるんですね」

「ああ。父に二言はないぞ」

 

 サリパの産業革命のため、ここは俺が一肌脱ごう。

 

 ただ問題は、あのワガママ娘を俺が説得できるかどうかだ。

 

 頑固なところがあるんだよな、ルゥルゥ姉上は。

 

「アイツも、溺愛してる(リシャリ)の話なら聞くだろ」

「だと良いのですがね」

 

 とはいえ俺は、この(ノンデリ)より信頼されているのは事実。

 

 俺はルゥルゥに、かなり可愛がってもらっている。

 

 彼女の将来のためでもあるし、いっちょ交渉してみるか。

 

 

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