【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ! 作:まさきたま(サンキューカッス)
「それで、のう。そろそろはっきりさせようぞ、サリパの」
「はてはて、何のことですかな」
波乱の四国会談が終わった後。
ヤイバン王による懇親会が開かれ、エスニックな料理で歓待を受けた。
「聞いとるぞ、『走る鉄』の噂は」
「おお、そのことですか。ヤイバン王はなかなか、耳がよろしいですな」
「アレはどっから仕入れた技術だ? やはりデケンか? できれば技術留学を……」
懇親会の奥では、オジサンたちが機嫌よく酒を注ぎあっていて。
ラシリア姉上はニコニコ笑いながら、その傍らに鎮座していた。
「仕入れたわけではなく、ウチで開発した技術でしてな。まだ情報も出せぬもんで」
「デケンの技術ではないのか。大した技術者がおるなぁ、サリパには」
ヤイバン王と国王は、俺が知る限り初対面のはずだ。
十年来の敵だったはずなのに、もう仲良くなったらしい。
「形になったら、お話は持っていきますよ。ただ実用化まで、もう十年は見ておいてくだされ」
「そいつは遠いのう。ウチから優秀なのを派遣するから、共同開発というわけには?」
「未知の新技術です。ウチの研究員以外だと、理解は出来んでしょう」
「ケチくさいのう」
観察していると
いつもよりハキハキ話して、大胆な王という雰囲気を醸し出している。
まさに『ヤイバン王が気に入りそうな』王様という雰囲気だ。
なるほど、俺が父上にそっくりってそういう……。
「会談、お疲れ様でしたわ」
「……リシャリ姫か」
……ヤイバン王の相手は
あの様子じゃ放っておいても、オジサン同士で仲良くなるだろう。
それより、
「リシャリ姫こそ、司会お疲れ様だった。お互い、大変だったな」
「おほほほ……」
会談が終わってから、落ち込み気味のハンネを慰めておこう。
「ヤイバンの料理は、変わった味をしているな」
「ピリ辛な料理が多いですわね」
「余は、ちょっと酸っぱくて苦手かもしれぬ」
晩餐会は、前と同じ立食パーティ形式だった。
慣れない形式だからか、ハンネは少しやり辛そうだった。
「私はヤイバン料理が気に入った。とても旨い」
「フロリネフ様の口には、よく合ったようですわね」
「いくらでも食えそうだ」
「フロリネフ、話しながら食べるな。行儀が悪いぞ」
会談では出禁だったフロリネフも、懇親会に顔を出していた。
ハンネが信頼を得たので、参加が許されたようだ。
「さて。……リシャリ姫、君は今回の会談をどう思った?」
「各国とも、良い落とし所に着地したのではないでしょうか」
「そうだな、我らも援軍を得られたのは心強い」
ハンネは少しボったくられたが、援軍を得られたし悪い結果ではない。
最悪のケースだと、ヤイバンと同盟すら結べない可能性もあった。
「ヤイバン王はハンネ様を信用したご様子ですわ」
「そうだと嬉しいのだがな」
ヤイバン王に気に入られ、交渉に応じて貰えたのはハンネの手腕によるもの。
君主としての仕事は、十分にこなしていたと思う。
「……リシャリ姫は凄いな」
「何がでしょうか」
「余と年齢がそう違わぬのに、ああも堂々と振舞えるのは」
「内心では結構、アタフタしておりましたわよ」
一方で俺はと言えば、司会を任されるなど予想だにしていなかった。
いい経験になったが、もう勘弁してもらいたい。
「ハンネ様の方こそ、立派にございました。ヤイバン王への啖呵、見事でございました」
「そうだと、良いのだが」
俺は単なる姫だぞ。政治も軍事も全く関わっていない人間。
そんなやつにいきなり、大仕事を任せるんじゃないよ。
「まぁ、会談の話は終わりにしようか。してリシャリ姫、話は大きく変わるのだが」
「はい、何でしょう」
そんな風に内心でボヤいていると。
ハンネは難しい顔をして、俺にこんなことを聞いてきた。
「ヤイバン王から、『走る鉄』の噂を聞いた」
「あー……」
「余らが掴んでいる『鉄の船』と同じ技術だろう。結局、ソレは何なのだ?」
それは、フロリネフが大陸上陸に成功した直後のこと。
アイギスランド軍は『デケン海軍が引き返してくるだろう』と、海に哨戒網を張っていた。
しかしいくら待っても、デケン海軍は引き返してこない。
聞けば、サリパの港攻略に失敗し壊滅してしまったという。
情報を集めていくと、デケン海軍はたった数隻の巨大な鉄の船に敗れ去ったと聞いた。
「サリパに『ものすごい射程の砲を持つ巨大戦艦が出現し、惨敗した』と噂だった。射程は優に三千メートルを超え、片側に八門の砲を備えると」
「はい」
「さすがに話が非現実的すぎてな。我らは『移動できない防衛専用の船』、ないし『船に見せかけた海上砲撃陣地』と推測していた」
鉄で覆われた巨大な軍船など、帆で満足に移動できる筈がない。
おそらく移動能力を捨てた船、ないし船に偽装した海上陣地だ。
アイギスランドはサリパの軍船をそう見立てていたらしい。
「だが『走る鉄』の話が本当なら、貴国は地上で巨大な鉄塊を移動させられるわけだ」
「ええ、まぁ」
「……教えてくれ。まさかとは思うが、君らの持つ『鉄の船』は動くのか?」
しかしヤイバン王から『走る鉄』の噂を聞いて、ハンネはゾっとした。
それほどの馬力が実現できるなら、『鉄の船』を動かせても不思議ではない。
そうなれば、アイギスランドご自慢の海上戦術は過去のものになる。
「防衛に関する機密なので、私はお話しできないのですわ」
「……そうは言わず、本当かどうかだけ。事実なら、その造船技術を個別で交渉したい」
「えっと、どうなのでしょうか。
ただアレの船を作る技術は、簡単に他国に漏らせない。
蒸気機関まで含めると、数世代ほど先を行く技術だ。
あんな技術が普及したら、海戦の定石が変わってしまう。
「聞いて来るということは、鉄の船は真実なのだな?」
「真実かどうかも、知りませんわ。軍事関連ですので」
なのでここは全力ですっとぼけておこう。
リシャリしらない、なにもわかんない。
「リシャリ姫は何も知らないのか?」
「ええ。もともと嫁ぐ予定の姫ですもの、何も教えてもらってませんわ」
「そ、それもそうか。君は一介の姫だったな」
俺は困った顔を作って、首を横に振った。
技術関連の交渉は、俺じゃなくて父上とやってもらおう。
「
「あの日は、酷いものでしたわ。何が良くて駄目なのか分からず、ずっとパウリックの顔色を伺ってましたの」
「そうか。まぁ、姫は普通そうだろうな」
それに俺が軍事関係の知識が乏しいのも事実。
リシャリ軍なるものが出来るまでは、兵舎に顔を出すことすらなかった。
「今は非常時ですので外交の場にでていますが、平和になればどこかに嫁ぐのでしょう」
「……まだ、どこかに嫁ぐ予定はないのか」
「ええ」
デケン帝国が唐突に侵攻してこなければ、そろそろ縁談は纏まっていたと思うが。
真面目な話、セルッゾおじ様は俺の本命の婚約者候補だったらしい。
近隣で最大勢力のデケン貴族で、俺のことも気に入ってくれていた。
ただもしそうなっていたら、ラシリア姉上との関係はどうなっていたか。
「ならばはやく、平和が戻ってきて欲しいものだな」
「全くですわ」
それもこれも、何もかもデケン帝国が悪い。
あの国さえ自重してくれれば、この戦争は起こらなかったのだ。
ヤイバンとの戦争だって、サリパがデケンの属国だったから行っていただけ。
「私たちは、平和に静かに暮らしていたかっただけですの」
「野心がないんだな、サリパは」
「野心があったら、デケンの属国になっていませんわ」
戦争は嫌いだ。民が死ぬのが嫌だ。
だから王様たるもの、民を守るために戦争を避けるべきなのだ。
「戦争なんてしたくないのに、向こうから攻めてくる。それがサリパの本音ですの」
「ああ、そうだな」
そんな俺の呟きに、ハンネは同意するように頷いた。
「アイギスランドも、全く同じ気持ちだよ」
かくしてアイギスランド、サリパ、ヤイバン、ラシリアの四国会談は幕を閉じた。
夜の晩餐会でそれぞれ杯を酌み交わし、支援を約束し合った。
「我ら四国が集えば、デケンにも対抗できる」
「あのにっくき侵略国家を攻め滅ぼそう」
ヤイバンとアイギスランド、サリパとラシリア王国。
この四国の領土を全て合わせても、広大なデケン帝国の半分にしか届かない。
「そして、民が安心して暮らせる世界を作るのだ」
しかし、俺たちの陣営には強力な人傑が集まっている。
タケルにレヴィ、ベルカにフロリネフといった戦争に特化した怪物。
ジュウギの開発力に、セルッゾおじ様やラシリア姉上の政治経済。
「ではアイギスランドの女王よ、祖国に帰って待つが良い。すぐ援軍を向かわせよう」
「ありがとう、ヤイバン王」
これだけの勢力が手を組めば、デケンに勝利する日も遠くはない。
現に今、まさにデケン帝国との戦線を押しあげている最中だ。
もう少しだけ頑張れば、平和な世界が待っているはず。
「ご注進、ご注進!」
「何事だ?」
これで、俺の役目も終わり。
後はドラズネストのメウリーンさんと話をして、サリパに帰属させる仕事だけ。
「新たにヤイバン王に、会談を申し込みたいという者が現れまして」
「ほほう、新たな同盟の打診か?」
「そのようです」
それでサリパに帰ったら、やることはなくなる。
家庭教師の講義を受け、社交界でニコニコ過ごす退屈なお姫様に戻れる。
「次から次へと、仲間が集ってくるのう」
「デケンの武威もいよいよ斜陽ですな」
またヤイバン王に面会する勢力が現れたようだが、俺には関係ないだろう。
俺が伝を持っているのは、この四国だけ。他の勢力に知り合いはいない。
となれば、何も知らない姫である俺の出る幕じゃない。
「して、どこのどいつだ。話を聞く価値はありそうか?」
「それが……」
そう思って俺は、
何も考えずにボケーっと、笑顔を振りまいていたら。
「─────デケン帝国の、ジャルファ王子だそうです」
「何ぃ!?」
その名を聞いて、その場の笑顔が凍り付いた。