【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ! 作:まさきたま(サンキューカッス)
「リシャリはこのまま、ドラズネストに向かってくれ」
「了解しました、父上」
ヤイバン王に別れを告げ、首都を出発した後。
俺は
「俺は前線に戻って、撤退を指揮してくるよ」
「はいですわ」
ドラズネストの領主メウリーンに、挨拶をしておくためだ。
これからは、同じサリパの仲間になるわけだからな。
「メウリーンからの要求に、その場で答える必要はない。お前の仕事は顔つなぎだ」
「顔つなぎは得意ですの!」
「後で本国に招待するので、そこで話し合おうと伝えてくれ」
いつも通り、俺には外交決定権はない。
メウリーンと仲良くなって、本国に招待するだけのお仕事。
「恐らく、彼女は自治権を求めてくるだろう。もともとヤイバンでも自治が認められていたらしいからな」
「自治権ですか」
「メウリーンから権力を取り上げたら反乱がおきるだろうし、そこは認めるつもりでいる」
ドラズネストの統治は、今まで通りメウリーンに任せるらしい。
「なので『自治権を保証してくれ』と言われたら、肯定して構わん」
「了解ですわ」
「他の細かい要求は、サリパ王宮に来て相談してもらう」
自治は認める方針で、詳しい条件は応相談。
俺がメウリーンに伝えるべき話は、それだけのようだ。
「それと実は、同じ話がラシリアからも来ていてな」
「ラシリア姉上から?」
「神聖ラシリア王国が、サリパの自治州になりそうだ」
「何と!」
続けて
別れ際、セルッゾおじ様は「近々会うことになる」と言ってたがこれのことか。
「我々が勝ち馬になったから、乗っかりに来たんだろう」
「セルッゾおじ様……」
「借金を帳消しにする代わり、『自治の維持と、鉄道の技術供与、ならびに国防軍の配置』を要求してきている。ちゃっかりしてるよ、あの悪党は」
なるほど。ラシリア王国は商人の国だもんな、鉄道の技術は欲しいよなぁ。
多額の借金を盾に、一番美味しい果実を要求してきたか。
「ドラズネストとラシリア王国がサリパに併合されれば、国土が広くなりますわね」
「晴れて、大国の仲間入りだな」
今までサリパは、吹けば飛ぶ弱小国家だった。
大国にひっついて生き延びるコバンザメのようなものだった。
しかしこの二領を併合できれば……
「アイギスランドやヤイバンと同盟しても、違和感のない規模になったな」
「大人の喧嘩に幼児が紛れ込んでいる状況でしたしね」
今までの国力はデケンを百としたら、ヤイバンは三十でアイギスランドは二十、サリパは四くらいだった。
何でサリパが同盟にいるの? って聞かれても不思議ではない国力差だ。
だが併合で国力が三倍になったことにより、サリパの国力が十二になった。
この国力なら同盟を組んでいても『ほーん……』くらいになる。
「じゃ、後は任せたぞ!」
「ええ、了解ですわ」
サリパが大国の仲間入りをすること。
そのためにメウリーンさんの機嫌を損ねるわけにはいかない。
俺は
ドラズネストはサリパに隣接する、かつて龍神が住んでいた土地だ。
ヤイバンに見捨てられたためか、その文化レベルは高いと言い難かった。
「舗装されてない道ばかりですわね」
「まぁ、舗装できる人手がなかったのでしょうな」
ドラズネスト領に入ると、ヤイバン首都圏とかなり雰囲気が変わった。
気候が熱帯に近くなり、蒸し暑くジメジメとした土地が広がっていた。
「桟橋にツタが絡みついてますわ」
「風情がありますが、安全性が危惧されますな」
集落は基本的に、木造建築の一戸建て。
熱いからか布の服を着ている人が減り、毛皮など部族的な衣装が多かった。
乳丸出しで歩いている女の人もいて、びっくりした。
「お前ら、ドこの連中ダ?」
「サリパ王国使節団ですわ」
「なんト勇者の土地の姫でアったか! どうぞ、お通りヲ」
見捨てられた土地ドラズネストとは、よく言ったもの。
龍神に生贄を捧げるための土地だからか、文化の流入が少ないようで。
ドラズネスト民は土着文化を色濃く残し、いろんな形態の集落を形成していた。
「メウリーン様の住む都は、コの先まっスぐだ」
「ありがとうございますわ」
興味深いことに、彼らは首都ではなく、メウリーンの集落を都と認識していた。
ヤイバン王ではなく、メウリーンを統治者と思っているようだ。
「……おお、石造りの防壁が」
「珍しく近代的な集落ですな」
柵すらない草の生えた土の道を、パウリックに守られて進んでいく。
そんな旅だったため、結構時間がかかったが……。
「では、あれじゃないですか」
「あれでしょう。とうとう、到着しましたな」
ヤイバン首都を出て、三日。
俺とパウリックは、メウリーンの住む集落へとたどり着いた。
「リシャリ姫カ、わざわざ来訪してくレるとは」
石でできた社をいくつか潜ると、その先には寺院があった。
赤を基調とした、少しエスニックな雰囲気の建物だ。
その奥の座敷で、メウリーンは俺たちを出迎えてくれた。
「貴領がサリパと合流すると聞き、ご挨拶に伺いましたわ」
「勇者の仲間になれる栄誉をもラえてうれしい」
改めて会ってみると、メウリーンは女性にしては背が高かった。
おそらく、170cmはあるんじゃなかろうか。
「して、リシャリ姫。我ラは併合条件に関して話をシたいのだガ」
「ええ、もちろん。会談の場を用意したいと思っております」
メウリーンさんは相変わらず、露出の多い巫女服を着ていた。
この寺院は龍神を祭る寺院だそうで、メウリーンさんが寺院の七代目の当主だそうだ。
「なるホど、詳しい併合条件はサリパ王宮で話を……か」
「お手数をおかけしますが、ご足労をお願いいたしますわ」
「了解をシた」
そして俺は、国王からの伝言をそのまま伝えた。
併合は大歓迎するから、ぜひ一度話がしたい。
なのでサリパ王宮を訪ねてくれ、歓迎するという内容だ。
「ちなみに、ドラズネストの領主が変ワる可能性はあるカ」
「いえ、メウリーン様が自治を行うことを認める方針だそうです」
「そうカ。それはありガたい」
そして併合に当たり、メウリーンが気にしたのは自治権だった。
併合される側としては一番気になるよな。
「コの土地を治めることは、我が一族の使命でアる。おいそれと譲れはシない」
「ごもっともです」
赴任してきたサリパ貴族に統治を奪われる、となればメウリーンも黙っていられまい。
自治権と立場の保証するのは、彼女への礼儀だろう。
「それと……だナ。これはその……条件というよりか」
「はい、何でしょうか」
「いやァ、まぁ、エっと」
メウリーンには、続いてまだ要求することがあるらしい。
話を促すと、彼女は口調に歯切れが悪くなっていく。
何を言い出すかと思ったら、
「叶うナら……。サリパの勇者と、縁談を結びたく……」
「……おー」
「彼ならば、いっそ領主を譲っても良いのダ」
そんなことを言い出した。
「あの、記憶違いでなければメウリーン様は、さほどタケルと面識はないのでは」
「まぁ、そうだガ」
まーたタケルが女を落としてる。
メウリーンの求婚を聞いた俺は、どちらかと言えば呆れ顔だった。
「だが、本気ダ。勇者と婚約できるなら、本望なのダ」
「どうして、それほどにタケルを」
「……それが我が一族の、悲願でもある」
レヴィやポーリィが、タケルにゾッコンな理由はなんとなく分かる。
しかしメウリーンが、タケルにこだわる理由はよくわからない。
「どうしてタケルとの結婚が、一族の悲願なのです?」
「ふむ、ではそこも話すカ」
タケルとメウリーンは、あまり面識がないはずだ。
なので彼女は、タケルを『龍神に勝てる勇者』としか見ていない可能性がある。
だとすれば、結婚してもタケルを不幸にするだけ。
そこをしっかり、問い詰めねばならない。
「私の家は、代々竜神グルデバッハ様に仕えてキた。私はその七代目の当主であル」
「では、竜神グルデバッハを殺したタケルは憎くないのですか?」
そう、代々龍神に仕えてきた巫女なら……。
龍神グルデバッハを殺したタケルは、むしろ憎いはず。
そこを問いただしてみると、
「リシャリ姫は知っていルか?」
「何をですか」
「ドラズネスト家の初代当主、ルキアラ・ドラズネスト様が竜神の『最初の生贄』だっタと」
その昔。グルデバッハは人間が好きなようで、家畜の肉をいくら食っても満足しなかった。
そこで赤子や子供が犠牲になるくらいならと、暴れる竜神グルデバッハを鎮めるため、七代前のメウリーンのご先祖様が生贄を買って出た。
メウリーンのご先祖は体格が良く、肉付きも豊満だったらしい。
そのせいかグルデバッハは巫女を食って満足し、後は数頭ほど家畜を食い散らかして眠ってしまった。
それを見た領民は、次の日も人間の生贄に家畜を添えて捧げた。
龍神は雑食なようで、人間に添えて出すと他の肉も喜んで食った。
一日一人、人間さえ食えれば龍は満足するのだ。
それが分かってから、ドラズネスト民は生贄を選ぶようになった。
下手に抵抗して暴れられるより、食事を提供して寝てもらう方が良い。
『今年の生贄は、貴女が選ばれマした』
こうしてしばらく、龍神が暴れることはなかった。
しかし人口は減っていき、とうとう志願では生贄が足りなくなった。
なのでドラズネストの民は、公平な生贄の選定役を求めた。
そこで選ばれたのは、最初に生贄を買って出たドラズネスト家であった。
『心配はいりません。我らも共に行きます』
生贄を選ぶ役割と聞けば、恨みを買いそうに思えるかもしれない。
しかしドラズネスト家の選定に、文句を言う者はいなかった。
何故なら、
『今年のドラズネスト家からの生贄は二人。先代領主サフマン・ドラズネスト様も旅立ちます』
この領地で最も多く生贄を捧げていたのが、他ならぬドラズネスト家だったからだ。
もっとも生贄を輩出する一族が、生贄の選定をつかさどる。そこに文句を言える者はいない。
またドラズネスト家は、たとえ当主であろうと生贄に捧げた。
『メウリーン。貴方はドラズネストの末裔です、将来に自由はありません』
先代領主にして、彼女の母親でもあったサフマン・ドラズネスト。
そんな彼女の遺言は、娘が生贄となるよう強制する呪いであった。
『今年から、生贄の選定役はメウリーンです。私情を挟まず、淡々と職務を遂行なさい』
この遺言は、代々同じものを口伝するよう決まっている内容だった。
ドラズネスト家が機能しなくなれば、この地は滅んでしまう。
『養子でいいので、娘を作りなさい。娘が十五歳になれば、貴女が生贄になりなさい』
だから先代の領主は、後継ぎに呪いを刻み込む。
土地を治めるための、舞台装置となるように。
『だけどもし、そうなる前に竜神がこの世を去っていたなら……』
そこに、親子の情はない。メウリーンも母親も、土地を統治する機械でしかない。
メウリーンも遺言に従って、ドラズネストの地に命を捧げる覚悟だった。
それが人生だと、割り切ってもいた。
ただ、ほんの一言だけ。
『素敵な恋をして、幸せに生きてね』
ドラズネストの一族に伝えられ続けた、小さな欺瞞。
もし竜神グルデバッハが死んだならば、自由に幸せに生きてくれという情。
『君の代でそうなることを願っている』
これが初代巫女ルキアラから、代々伝えられてきた遺言。
メウリーン・ドラズネストはいつか、役目から解放されることを夢見ていた。
そして自分はダメであろうと、子供には自由に生きてほしい─────
『……悪いけど、主命なんだ。君を逃がすわけにはいかない』
そんな遺言を受け取った、ほんの一年後。
『龍というからには、君も人を食うのだろう?』
『
『弱肉強食なんだ。だったら、
メウリーン・ドラズネストは、ありえない光景を見た。
たった一人で、あれほど恐ろしかった竜神を殴り倒し。
『……邪龍、討ち取ったり!』
それはドラズネストの一族が、代々願い続けていた悲願。
一族の呪縛から解放され、領主メウリーンが幸せに生きる権利を得た瞬間。
タケルにより、竜神グルデバッハの討伐がなされた。
彼の拳は、諦めていたメウリーンの人生を、明るく照らし出したのだ。
そこまで話したメウリーンの顔は、恍惚に揺れていた。
「それデ、私が勇者タケルに思いを馳セている」
「……」
なるほど。まぁ、そりゃあ惚れて不思議じゃないか。
で、メウリーンは好きに恋愛しろよって遺言に従ってタケルに婚約を申し込みたいようだ。
「恥ずかしながラ私は、今まで恋愛というものにかマけてこなかった」
「はいですわ」
「他人を好きにナっても、死に分かれる。辛いだけダからな」
そう難しい顔をするメウリーンに、俺は親近感を覚えた。
そうなのよ、王族って恋愛感情を持つと辛くなるだけなのよ。
「今まではどうやって、結婚相手を決めていましたの?」
「結婚相手は、ドラズネストで最も強い者を娶ることが多かった」
「ふむ……」
「その条件だとしても、勇者タケルが相応しかろう」
話を聞く限り、メウリーンに嘘をついている様子はない。
これまで一族の役目に殉じていた巫女さんが、悲願だった自由恋愛する権利を手にした。
……何とも、応援したくなる恋である。
「分かりましたわ! ええ、お話を聞けて感謝いたしますの」
「うム。私もリシャリ姫とは良い関係でいたいと思っている」
メウリーンは、性格も歪んでいる感じはない。
不器用っぽい面はありそうだが、誠実な印象だ。
「では勇者タケルとノ縁繋ぎ、どうかよろしく頼ム」
「……あー、えー、前向きに善処しますわ!」
彼女は期待に目を輝かせ、俺の掌を強く握った。
俺はこれから、タケルにメウリーンからの縁談を伝えないといけないわけか。
「どうカ、どうカ」
懇願するメウリーンを前に、俺の笑顔がこわばっていく。
……さて、どうしよう。