【TS】弱小国の王女に転生してしまいましたわ! 作:まさきたま(サンキューカッス)
「でハ、支度をしてサリパ王宮に顔を出ソう」
「お待ちしておりますわ、メウリーン様」
メウリーンと会談した翌日、俺はそのままサリパに戻ることになった。
タケルの縁談と言う、特大の課題を背負わされて。
「勇者タケルとの一件、どうぞ頼ム」
「あはは、ははは……」
帰り際、メウリーンにそう念押しをされて冷や汗をかいた。
彼女のタケルへの想いは、本物のようだ。
─────だからこそ、厄介だが。
「ルゥルゥ姉上!! ただいま戻りましたわ!!」
「あら、お帰りリシャリ。同盟、お疲れさん」
俺は帰国してすぐ、ルゥルゥ姉上の部屋へ駆け込んだ。
こういう悩みは、姉上にもっていくに限る。
「また誘拐されて心配してたのよ」
「大丈夫ですの。ちょっと衣服を剥かれて餓死しかけただけですわ」
「……その状況から、どうやって同盟結んだのよ」
ルゥルゥ姉上は俺を迎え入れると、喜色満面に抱きしめてくれた。
俺の手紙を捨てやがった薄情な
「リシャリは身体が弱いんだから、無理しちゃだめよ」
「はーい」
ルゥルゥ姉上はそう言って、クッキーを机に置いた。
お菓子を置くのは、
「痩せたわね、リシャリ。最低、三つは食べること」
「いただきますわ」
出されたクッキーは、姉上の手作りだった。
俺が帰国に備え、準備してくれていたのだろう。
「で? どしたのリシャリ、相談があるのでしょう?」
「……分かりますか、姉上」
「そういう顔をしてるもん。何年、あんたの姉をやってると思ってるの」
クッキーを一つ頬張ると、ルゥルゥ姉上から話を切り出してくれた。
この辺はさすがだな、と思う。
「実は、ある縁談の仲介を申し付けられまして」
「あら、アンタの得意分野じゃない。私に何を相談するの」
「それがですね……」
では早速、お言葉に甘えて……。
俺はこの縁談をどうしたものか、ルゥルゥ姉上に意見を聞くことにした。
「メウリーン、ってヤイバンのドラズネスト領主の?」
「ええ」
メウリーン・ドラズネスト。ヤイバンのドラズネストの領主。
竜神グルデバッハを代々祭り上げ、民を生贄に捧げてきた際どい衣装の巫女さん。
彼女は竜神を拳で討伐してしまったタケルに心酔し、縁談を申し込んできた。
「彼女が、タケル君に婚約を申し込んだと」
「父上が戻ってきてから、相談するつもりですが」
メウリーンの求婚を聞いて、俺は馬車で頭を抱えていた。
すなわち、この縁談を進めて良いものかだ。
「姉上はこの縁談、どう思われますか?」
「条件次第だけど、ナシではないと思うわよ」
「条件、ですか」
姉上の判断は、条件次第ではアリということだった。
「条件と言うのは?」
「メウリーンを正室にするのはダメね。タケル君を取り込まれかねないから」
「……ふむ」
「側室として通い妻、なら認めてもいいと思う。ドラズネストがタケル君の領地になれば箔が付くし。ただ彼には政治ができないから、実際の運営はメウリーンに任せる。なので、通い妻ね」
姉上に相談すると、快刀乱麻にそう答えてくれた。
政治的な観点で見れば、タケルがメウリーンと結婚しても問題はないようだ。
だが、
「問題は、そういう観点だけではないと言いますか」
「じゃあどういう観点?」
「他のタケル好き好き軍団が暴走しないかどうか、と」
「……あー」
タケル大好きなツンデレ騎士、ポーリィさん。若干ヤンデレ気味なヤイバンの怪物、レヴィさん。
彼女たちも、タケルの縁談相手としては十分な地位である。
ポっと出の地方領主にタケルを奪われて、二人が黙っているとは思えないのだ。
「そんなもん、タケル自身に決めさせなさいよ」
「まぁ、そうですわよね」
「それともリシャリ、まさか貴女─────」
こういう時は恋愛脳で、とても頭がいいルゥルゥ姉上を頼るしかない。
そう思って、ルゥルゥ姉上に相談してみたのだが……。
「いえ、この質問は無意味かしらね。多分違うから」
「何のことです?」
「いや、まぁ一応聞いておくかな。確認だけどね、リシャリ」
ルゥルゥ姉上は少し、躊躇うそぶりを見せた後。
呆れたような、困ったような顔で俺にこう聞いた。
「
「ないですわ」
「……ないわよねぇ」
そうか、俺がメウリーンに嫉妬して縁談を躊躇っていると思ったのか。
そんなはずはないだろう。
「ちょっとはタケルに気が有ったりはしない?」
「ないですわ?」
「じゃあもし、タケル君から縁談を申し込まれたら?」
「はぁ、そんなの決まっているでしょう」
今日の姉上は妙だな。
どうしてそんな当たり前のことを聞くのだろう。
「
「……よくわかった」
俺の縁談に、俺の意志が関与することはない。
すべては
「姉上、私はどうすれば……」
「そうね、逆にアンタはどうしたいの?」
「私がどうしたいか、ですか?」
俺がどうしたいか、か。
サリパの国益も大事だ。タケルの縁談をどうすべきかは、よく吟味しないといけない。
……ただ、それ以上に。
「タケルに、幸せになってほしいですわ」
「そう」
俺はタケルに、何度も何度も助けられてきた。
だからこそ、彼のことを『便利な駒』のように扱いたくはない。
「私にできうる限りの便宜を以て、幸せを掴んで欲しい」
「……」
「私が縁談を進めたらきっと、タケルは受けてしまいますわ。国の都合で、彼の将来を縛りたくないのです」
タケルは現在、ポーリィとレヴィの二人から熱烈なアプローチを受けている。
しかしタケルの朴念仁は、好意に気づいてはいないだろう。
俺としては、二人の好意を受け止めた上で縁談を受けるか決めてほしい。
その二人もトンビに油揚げを攫われたのではなく、フラれた上での縁談であれば納得するハズだ。
「タケルが彼女たちに向き合う為の、時間を作ってあげたいと言いますか」
「面倒くさいわねぇ。じゃあそのメンツを招待して、恋結びパーティでも企画したら?」
「違うのです、そうではないのです!」
どうやら姉上に、俺の悩んでいる部分が良く伝わっていないらしい。
俺は改めて、どうして相談しているのかをこと細かく説明した。
ポーリィさんやレヴィの気持ちを、タケルはまだ認識していない。
でも俺が彼女らの気持ちをタケルに伝えるのは筋違い、余計なお世話だ。
あの朴念仁に、二人の好意を自覚させる方法はないだろうか。
タケルの朴念仁を治す方法を、一緒に考えてくれルゥルゥ姉上ェ!!
「アホじゃないのアンタ」
俺が熱弁をふるったら、可哀そうなものを見る目で見られた。
何がおかしいというのだ。
「私としては遠回しに、『アナタはもっと他人の気持ちに敏感になるべきですわ』と助言するなどを考えているのですが」
「アホじゃないのアンタ」
「私の頭脳が姉上に劣ることは分かっていますわ。だから、相談しているんじゃないですの」
「アホアホのアホじゃないのアンタ」
そんな俺の真摯な悩みを、ルゥルゥ姉上は鼻でせせら笑った。
ひどすぎる対応だ。人の心はないのだろうか。
「はぁ、タケル君もかわいそうね」
「そうなのですよ、彼が鈍感なのは今まで恋愛経験がないからでしょう」
「
だが、タケルの鈍感さを攻めるのは少々可哀そうではある。
彼は生まれてからずっと、化け物として恐れられてきた少年だ。
まともな恋愛経験を積む機会など、なかったのだろう。
俺はそんなタケルを救いたい……。
「それに加え、シンプルに二人の暴走が怖いですわ。特にヤイバンのレヴィさん」
「……まぁ、それはそうだけど」
要は俺は、タケルに傷ついてほしくないのだ。
彼は俺を何度も助けてくれた恩人、嫌な思いをさせたくない。
俺が仲介役になるなら、少しでも火の粉を減らしたいんだ。
「あー、面倒くさくなってきたわ」
「姉上?」
「今の、そのまま
しかしルゥルゥ姉上は、だんだんと面倒くさそうになり。
やがて投げやりに、俺の頬をギューッと押しつぶした。
「あにゅうえ?」
「アンタは余計なこと考えなくて良いから、
ルゥルゥ姉上の瞳には、どこか呆れたような色が浮かんでいる。
そんなに俺は、変なことを言っただろうか。
「あの~、ノンデリ国王にまともな解決策を出せるとは思えないんですが」
「もはや一周してノンデリが必要な状況よ、それ」
「姉上!?」
それとなく抗議をしてみたが、効果はなし。
姉上はそう言って、俺の相談を打ち切ってしまった。
意味不明である。
どうして姉上は、俺の相談に真面目に乗ってくれなかったのだろう。
いつもなら面倒くさがりながらも、ちゃんと解決策を考えてくれるのに。
「ドラズネスト領主メウリーン様は、二カ月後にサリパ王宮に来訪されるそうです」
「分かりましたわ」
メウリーンは再来月に、サリパ王宮を訪れるらしい。
二カ月もあれば、国王もタケルも帰ってくるだろう。
「結局は、本人たちの気持ち次第ですか」
後はタケルに縁談の話をして、気持ちを確認することだ。
前向きに考えているなら、仲人としてタケルの縁談をサポートし。
タケルが断るつもりなら遺恨が残らないよう、場を治めるだけ。
どっちに転んでも、俺がうまくサポートすればいい。
メウリーンからの求婚を処理するだけなら、簡単な仕事。
ただ、ポーリィさんやレヴィの気持ちを知っている俺からしたら……。
縁談が成立した場合に、トラブルになるんじゃないか気が気でない。
とくにレヴィ、彼女はかなりタケルに執着している素振りがあった。
「不安ですわ~」
縁談の前に、ポーリィやレヴィとの関係が清算できればよかったのだが……。
いや。彼女たちがタケルにぞっこんだからと言って、短絡的な行動をとるとは限らない。
俺は二人の理性を信じ、粛々と縁談を進めるのが正解……なのかな?
もう、悩んでも仕方がない。正解があるなら、ルゥルゥ姉上は俺に助言してくれたはずだ。
おそらく姉上は俺に『自分で解決してみせろ』と発破をかけたのだと思う。
あの意地の悪い態度は俺の成長を促すためだったと、そう信じよう。
「準備を進めますか」
そうと決まれば俺は、やるべきことをやるのみ。
お見合いに備えて、料亭の先押さえをしておかないと。
俺に任せておけタケル。お前に最高の縁談の席を、用意してやるからな!