ソロプレイヤー、ナザリックに挑む   作:No_46

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また書き始めました。
よろしくお願いします。


ユグドラシル編
プロローグ


 私が目を開けて初めて見たのは、とんでもなく低い天井と私の頭上に設置されている哺乳瓶だった。

 

 体を見れば服も着ておらず、小さな掌が見える。

 

(なんだ…この状況…)

 

 そう考えるも頭が回らない、そうして私の意識は闇に落ちた。

 

 数年経ち、ようやくある程度体が動かせるようになったことで理解した。

 ここは孤児院だと。

 私が泣いてない時も周囲で泣く子供の声が聞こえる。

 それも一人や二人ではない、何十人という数だ。

 私が泣けば低い天井に女性の映像が流れ、音声と共に私が寝ている子どもサイズの揺り篭ポッドが揺れる。

 トイレは大も小もホースが下と直結しているようで、出した後は自動的に水と風によって洗われる。

 首筋にはケーブルが接続されていてそこから食事をとっているのか…? と考えるも頭上の哺乳瓶の意味がないと私は考えるのをあきらめる。

 

 全自動の子供育て機に攻殻機動隊じみた首元のケーブル、随分と未来に生まれたのかと一人考えた時、私は穴だらけの前世の記憶を思い出した。

 

 両親や私自身のことはまるで覚えていないが、前世のテレビ番組やゲーム、小説などは覚えている。

 エピソード記憶をどうやら私はごっそり忘れてしまったらしい。

 もう一つ、前世ではどうだったかわからないが、今世では女の体を持って生まれたようだ。

 鏡がないので自分自身の顔を確認することはできないが、股間には何もないことから理解できた。

 

 私が転生者だと気付き、体も随分と動くようになった頃、天井の映像は簡単な会話や授業のようなものへと変化し、たまにあるタップ式のテストを受けるだけの日々が続いていた。

 

(まぁ前世の知識あるからこのぐらいの問題なら余裕ですわ)

 

 授業内で呼ばれる私の名前は17番、若干のディストピア味を感じはするが、外に出れば名前は別で付けられるだろうと希望的観測をしている。

 映像による授業が終われば消灯、就寝、朝と夜だけの哺乳瓶の食事、中身もゲロのような離乳食のような味わいの物へと変化していた。

 

 プシュッ! 

 

 小さな音が目の前の天井から鳴り、初めて天井が開いていくのを見る。

 私は全自動によって乳幼児を育てられるまで進んだ未来の技術に改めて驚愕しながら、初めて目にするであろう様々な未来の世界に胸を躍らせて、起き上がった。

 

 だが、そこにあったのは埃っぽいコンクリート打ちっぱなしの部屋に、山ほど並べられている、私が今まで入っていたものと同じポッド。

 一斉に、起き上がってください。という機械音声が鳴り響き、未だに起き上ってこなかった全裸の少年少女たちも続々と上体を起こしている。

 

 コツコツと、扉も設置されていない通路の奥から歩いてくる足音が聞こえる。

 

 姿を現したのは贅肉たっぷりのBBAだった。

 

「チッ今回の仕入れは良が一つだけかい、まぁいい。

 17番! こっちに来な!」

 

 怒鳴り声に驚きながらも、久方ぶりの地面に足をつけ覚束ない足取りでBBAの元へ歩いていく。

 

 業を煮やしたBBAは私の遅い脚に苛立ったのかずんずんと近づき、ガシッっと首根っこをつかんでどこかへと運びだした。

 

(猫みたいだな私…

 っていうか服は着させて…)

 

 やがて私が押し込まれたのはまたしてもポッドの中だった。

 足元には揺り篭ポッドと同じ下のホースがあり、BBAに接続された後、扉が閉められた。

 頭上には哺乳瓶ではなくストローが設置され、吸ってみれば中から腐った水のような不味い液体が流れてくる。

 

(こうやって里親とかの元へ送られるのか…未来は便利だなぁ…でもメンテはしてくれよ…水腐ってんじゃん)

 

 くだらないことを考えながらポッドが動き出し、そして止まった時には、私は惰眠をむさぼっていた。

 ビーッ! 

 という機械音に叩き起こされ、私が目にしたのは出迎えてくれる里親の顔ではなく、揺り篭だったポッドと同じようなディスプレイに映し出された謎の男の顔だ。

 

「え~ではこれから、新入社員へのガイダンスを始めたいと思います」

 

 男の口から語られた言葉に私は度肝を抜かれた。

 

(はぁ? なにいってんだこいつ、私はまだ子供ぞ? 

 労働基準法はどうした労働基準法はぁッ!)

 

 そんな私の思いも空しく、くどくどと話を進める男の話が大体20分を過ぎたころ。

 

 では、皆さん、改めまして、入社おめでとうございます。

 

 そうして画面は暗転した。

 

 その時の私は既に話をほとんど聞いておらず、半ば二度寝しかけている状態。

 

 再度光り出した画面に目を向けるとそこには

 

【これより研修を始めさせていただきます。

 研修の成績次第で、今後の待遇は変化しますので是非全力を出し切ってください】

 

 という表示が

 

 休む間もなく画面には私がやるらしい仕事(プログラミングと似た見たこともない言語)の方法、与えられたメールアドレスの設定と非常時の連絡手段、実際にやってみよう! と無駄に明るい文言で始まった実践的な仕事。

 不味い水を眠気覚ましに使いながら私がそれを終えたのは大体12時間を過ぎたころ。

 画面には

 

【Congratulations! お疲れさまでした!】

 

 その表示と共に、頭に何かがゴンッ! と当たる。

 

 手に取ってみれば四角く細長いカロリーメイトのような物体だった。

 

 画面に表示される通りに包装ごと口に含んでみると

 

(まっず!? なにこれ!? 甘くてしょっぱくてじゃりじゃりしててぱさぱさしてるんだけど!?)

 

 ストローを口に含んで不味い水を飲みつつ何とか飲み込む。

 マズすぎる食事に衝撃を受けつつ、私はいきなり始まった仕事を終わらせた疲労感で泥のように眠りについた。

 

 7日が過ぎ、どうやら実際の仕事が始まるらしい私は、里親が迎えにやってくるなどという甘い夢は捨てる。

 やっぱりこの世界はディストピアであったということだ。

 

(神様…なんでこんな糞みたいな世界に私を連れてきたんですか…

 こんなことなら前世の記憶なんてなかった方がよかったですよ…)

 

 虫食いまみれの記憶でさえ現状がおかしいということは理解できる。

 

 1か月たった時初めて私のメールアドレスに給与明細とやらが届き、要望書も同封されていた。

 

(ここって給料あるんだ…でもピンハネされてるんだろうな…

 ああ…やっぱりよくわかんない項目で20万ぐらい引かれてる…

 残りの20万円が私の銀行に…

 

私の銀行!?)

 

 見たこともない銀行に私のお金が振り込まれている事実に驚愕しながらも、初めて使う要望書の内容は銀行の開設とその銀行に今後給料を入れてほしいという内容になった。

 

 最初の銀行の開設は許可が出たのかわからないが、数日後私に契約書の類がメールで送られてきたので、電子拇印で契約する。

 定期的に送った要望書のほとんどは通らなかったが…

 そして私の個人情報を送られてきた契約書で初めて知ることが出来た。

 

 2111年生、武藤 奈月

 

 会社のカレンダーは2117年まさかあの施設で6年も過ごしていたとは…と思いながらも私の名前が知れたことに少しうれしさを感じる。

 

(17番? あれは名前じゃないだろ、会社でも割り振られた仕事をこなすだけだから名前呼ばれたことないし…

 そもそもチャットみたいに一つの部屋に複数人いるわけじゃないから名前も呼ばれない…)

 

 少し残念に思いながらも、また私は割り振られた業務をこなしていった。

 

 なぜかある月一日の休みを使っていろいろと画面を触っていたらブラウザを発見しインターネットを閲覧できた。

 初めて見つけた時は狂喜乱舞しすぎて画面から動くなと警告が出たほどだ。

 

 どうやらこの画面は私の知識の中のパソコンと似たようなものだったらしい。

 隠されたようにフォルダーの一番奥にブラウザのアプリは置かれていたが、何故かお咎めは来なかったのでネットサーフィンを続けている。

 試しに業務中にインターネットで音楽でも流しながら仕事をしていたがまたしても咎められることもなかった。

 

(ノルマこなしてんなら文句ないってことか…?)

 

 ギチギチに拘束して外に出たいという要望には何の返信もしないくせになぜかインターネットはつながるし銀行を変えたいと言ったら代えさせてくれる。

 随分とちぐはぐな会社の対応に首をかしげながらも、私は今日の業務を開始した。

 

 

 

 そうしてこのクソみたいな世界に生まれ落ちて早15年、会社に入ってからは9年。

 

 私はインターネットサーフィンとゲームだけを趣味に生きていた。

 

(だって通販しても住所わかんないから届かないし…

 っていうかこの世界終わりすぎぃ! 

 そもそも巨大複合企業ってなんだよ! 

 政府形骸化してるの丸分かりじゃねぇか! 

 パックスエコノミカみてぇなことも言ってるしよぉ! ここはアーマードコアの世界かよ! だったら終わりだよ! 

 レイヴンに皆殺しにされちゃうよ! 

 それになんだよ生鮮食品がアーコロジーだけって! 

 私の所属してる企業はアーコロジーの中にあるってネットに書かれてたんだぞ! 

 私にも新鮮な食事を届けてくれ~! 

 まぁ食事は定期的に届く謎のブロックと水だけで生きてはいけてる…

 不味いままだったけど…要望出しても変わらないし…ほんとになんで…? 

 っていうか私みたいな境遇の人検索しても誰一人いないんだけど…? 

 怖い…怖いよぉ! 

 なぜか2chもあるし、お前5chに変わったんじゃねぇのか…? 

 でもフルダイブ型のゲームは最高! 

 月一だけできるこれが私のオアシスだ…!)

 

 いつものようにDMMOを起動しながらネットに接続し、糞みたいなネットニュースを漁っているとき、いつもなら目にも止まらないはずの広告が目についた。

 黒い下地に金色の文字描かれたロゴ、広告内には

 

未知をその手で切り開け! 

 YGGDRASIL

 ユグドラシル、2126年○月□日サービス開始! 

 

 ユグドラシル…? 

 私はその広告を見て思い出した。

 もう忘れかけてた記憶、前世で見た小説、オーバーロードの転移前のゲームの名前であると。

 そう思えば今のディストピアもオーバーロードで少し言及されていた気がする。

 

 まだオーバーロードの世界であると確定はできないが、私はその広告をタップし、ゲームをDLした。

 

(起動中のゲーム? 削除だ削除!! 

 時代はユグドラシルだぜ!)

 

 テンションが初めてインターネットを触った時のように上がっているがいったん冷静になり、ダウンロード中に私はメモ帳を開いてオーバーロードについて覚えていることを書き出していく。

 ○月□日はちょうど明日だ、スタートダッシュを決めて私はこんなクソみたいな世界から逃げ出してやる! 

 

 

 

 side.とある管理職

 

 ああ、お前が新人か。

 

 はは、驚いたか? 

 

 ま、そりゃそうだろうな、この100を超えるポッドすべてに人が生活してるっていうんだから。

 

 いや、生活はしてないか、ただ仕事をこなして寝てるだけ。

 これがほんとの企業の歯車ってやつだな。

 

 …笑えよ、俺が滑ったみたいだろ。

 

 まぁいい、一応説明義務があるからするぞ。

 

 ここに居るのは自力で動けず、部屋一体型で仕事をしなくちゃならない、いわゆる障碍者用の採用枠の人たちだ。

 っていうのは建前、中にいるのは孤児院のガキどもだよ、孤児院内でポッド育成されて満足に腕と頭以外動かない状態にまで衰えさせてるらしい。

 そんで衰弱してもう治らない状態で適当な医者に診断書を書かせて障碍者として認定し、それを企業が採用するって形だ。

 

 まぁ孤児院でまともな教育なんて受けられるわけがないからな。

 自分がなんのために働いているのかも、毎月送られてくる給与明細がどんな意味なのかもわかっちゃいない。

 ただ言われたことをこなすだけだ。

 

 なんで給料渡してるんだって? 

 そりゃあお前、癒着してるとはいえ明確に給料払ってない従業員居ることがばれたらただじゃ済まねぇだろ。

 ま、もちろんそれだけじゃねぇ。

 アイツらの里親はこの企業の上層部だ。

 そう、給料が入金される銀行口座は奴らが作った口座だ。

 引き出しても家族からもらったとかいくらでも嘘つけるし、体が悪いって言って証人喚問にも呼ばれることは無い。

 

 よく考えつくもんだよなぁ…

 あ? 良心は痛まないのかって…? 

 

 そんなもんで飯は食えねぇよ若造。

 

 とりあえず説明は終わり、まぁやることなんてほとんどない楽な仕事だ。

 毎月の終わりに一応配布されてる要望書を回収、そしてノルマ未達なら給料を下げればいい、3か月未達なら首だ。

 上に話せば後片付けは実働部隊がやってくれる。

 

 ああ、だけど34番、あのポッドのやつには気を付けろよ。

 なぜか教え込んでねぇはずの知識でもって、銀行変えたりする要望を出してくる。

 銀行変更はお上が変に訴えられても困るって了承したがな。

 

 34番の世界はあれで完結してるみたいで無理やり出ようとしたことはほとんどない。

 外に何にもないと勘違いしてるのかね…

 

 それも最近はほとんどアクションが無いから楽なもんさ。

 

 

 それだけだ、じゃあ引継ぎは頼んだぞ?




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