ソロプレイヤー、ナザリックに挑む   作:No_46

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いきなりどうした!?

 プレイヤーによって齎された破壊は町に入った当初の盛況な活気を消し去り、瓦礫と死体の山を築いている。

 

 そんな瓦礫の山の一角、切り刻まれたレンガ造りの家の陰に、私と長文ネキは居た。

 

「まだ同じ連合だった俺は謝る気があるの分かるけど、他の連中は絶対馬鹿にされたと勘違いするぞ。

 上級っぽい連中は特に舐められるの嫌うし」

 

「そういうことね……

 誠に申し訳ありませんみたいに言っとくか?」

 

「ゾンビネキは余計なことしか言わなそうだし、謝った後は黙っといた方がよさそうやな……

 てかそれ以上に広範囲斬撃、今感知できる範囲には他のプレイヤーいないけど普通にやばいからな?」

 

 薄々感づいていた事実から、余計なことしか言わないに対して思い当たる節しかない私はまごついた口を開き弁明する。

 

「ちょっとテンション上がり過ぎちゃって……

 ま、まぁ吸血残滴と【稀術:絶刀乱麻】の組み合わせは今までもやったことあるし範囲的に入ってないかも……」

 

 言い訳をかましながら私は攻撃を放つ直前、今まで以上に攻撃範囲は広がることを予測はしていた。

 同時に思わず、拙い言い訳をしてしまったことへ内心(やべっ)と思うが後の祭りだ。

 それは同じくプレイヤーの体を扱い、私との交流も長い長文ネキからはお粗末なものに見えるだろうと、容易く想像できているのに。

 

 私の言葉に長文ネキが黙り込んだことで、瓦礫の隙間を通る寒々しい音がやけに大きく聞こえた。

 

「いや、見ればわかるやろ。

 普通にあいつらの場所にも届いてるわ……

 ……後こういう状況で誤魔化しは危険やぞ、自分も、仲間に対してもな」

 

「うぅ……はい……

 結構広がるって予想ついてました……」

 

「身体が復活したテンションとか食人……食亜人? もスキルの影響やろけど、一歩踏み外すと転げ落ちやすくなるから。

 とりあえず人間形態、はまだ無理だったか。

 クールタイム終わったらすぐ使わないと不味そう。

 ただ連中にはそこら辺言わん方がええやろな……」

 

「クールタイムまだ十数時間ぐらいありそう。

 てかよくそんなこと知ってるな」

 

「これが外郭民の知恵、てかゾンビネキ精神安定のアンデッド特性で精神安定するって言ってたけどあれは?」

 

 なんとか致命的なすれ違いにはならずに済んで、安心しかけた私に降りかかったのは過去のガバ言動。

 

(やべぇよ、よく考えずに言い訳をしていた過去の私が今の私を殺しに来てるよ! 

 どうする……いやこれは正直に言うしかねぇ! 

 長文ネキもこの状況で嘘ついたらいよいよ縁切られそうだし!)

 

 アンデッドなのに冷や汗が出そうな私が恐る恐る真実を口に出そうとした時だった。

 がぼっという溺れるような声が足下から聞こえ思わず視線を下に下ろす。

 

「ま、まっでぐれ……い゛、妹だげは、たづけ、でぐれ……」

 

 意外にも口を開いていたのは両断されていた羽虫人(ゲタナー)の男。

 肺に血が貯まっているのだろう、口から血を吐きながらも無理に言葉を紡いだ彼は、羽虫人(ゲタナー)の少女を掴んでいる長文ネキへと視線を向けていた。

 

「……あ、この亜人の兄か、お兄ちゃんって言ってたし。

 私の攻撃で何で死んでないの」

 

「致命傷だけは避けたっぽいな、ゲームと違ってHPは……あるけど

 現実だと即死する場所避けたなら割と死ぬまで長いぞ。

 それでもこの状態でしゃべれるのはすごいな、タレントってやつか?」

 

 外郭民はそんな情報も耳に入るほど過酷なのか……

 

「あ~そういう……

 で、どうすんの?」

 

 私の言葉でようやく視線を両断された羽虫人へ向けた長文ネキは、一つの問いかけをした。

 

「ゾンビネキ……あ~そこの女がどれくらい食べてたかわかる?」

 

 その問いに羽虫人はゲホゲホと血を吐きながらも答えた。

 

「か、数え切れない「すまんな、見てたなら無理や」

 

 長文ネキは手に持っていた羽虫人の首を切り飛ばし、そのままナイフを喋っていた途中の羽虫人へ投擲。

 脳天に突き刺さったナイフは文字通り虫の息だった命を完全に止めた。

 

「ええ……聞いといて殺すのはヤバイだろ……」

 

「別に俺は漫画の快楽殺人鬼とかじゃないんで、ちゃんと見てないって言ってれば殺さないから。

 まだ虐殺はわかるけど食ってるの巡り巡って他のプレイヤーに聞かれたら終わりやぞ?」

 

「あっそういう……嘘つく可能性は?」

 

「だから見てたら言えるように誘導しただろ、別に嘘でも今の俺らに聞かれて答えないなら黙ってるだろうし、スキルでも敵対のままだったから、多分嘘」

 

「割とガバガバじゃん」

 

「ええやろ、もう殺したし」

 

 手に持っていた死体を放り捨て歩き出した長文ネキに追従する。

 

「で、種族特性なんだが、こっちの世界に来た直後は発動してたって言ったよな。

 実際電脳誘拐じゃなくて現実って知ってもそんな驚いてなかったやろ」

 

 私はビクリと肩を揺らした。

 

「……発動はしてない、驚かなかっただけだよ」

 

 私から言える、原作知識に関することを除いた限界の譲歩。

 これでも深く質問を重ねられればそこに届くだろうことは理解している。

 

(でもこれ以上嘘重ねても信用失うだけだし、長文ネキなら……前世知識話しても大丈夫かもしれん……)

 

「……マジか、それは予想外だわ……

 じゃあアンデッドの種族特性の精神安定化はどうなってんだ?」

 

 だが意外にも、長文ネキが深く聞くことはなかった。

 

(やりすごせたか……?)

 

「私に聞かれても……発動してないことしかわからんよ」

 

「……吸血鬼種の血の狂乱は精神安定とか無関係に発動だったから、スキルによるものだと精神安定が無効になるとか?」

 

「そもそも全体的な欲望がスキルやクラスのフレーバーで増加してるし、食事の感動も味わえたから全体的に無効化されてる説」

 

「食事はゾンビの欲求増加系じゃないの」

 

「しらね、でも精神の高揚とかは危ないからしっかり見極めといたほうがええで」

 

「さっきはホントすいません……」

 

 何かを察してくれたのか、ただそういうこともあるかと流してくれたのかはわからないが、私は長文ネキとの決裂が現実にならなかったことに安堵のため息を吐いた。

 

「ま、あいつらがこっちに来なくてよかったな。

 示威行為しろって言ってたブルースたち以外だと面倒なことになりそうだったし」

 

「あっそうじゃん! 

 私なんて言い訳すればいいの???」

 

「俺に聞かれても……

 スキル確かめてたらゲームと変わっててミスりましたとか? 

 恐怖デバフのスキルとかは切っとけよ、低レベルの人間居るし」

 

「りょ」

 

「あと謙りすぎてもあの手の人種は調子乗るから気をつけろよ」

 

「ええ……」

 

 とはいえまだ面倒事は迫っている。

 致命的なものは回避できたとはいえ、集まれば始まるであろう先のスキル使用になんと言われるのか。

 私はアンデッドだというのに胃が痛くなってきた。

 

 

 ***

 

 

 竜を殺した豪邸にはすでに私たち以外のワールドチャンピオンがそれぞれ寝そべったり座り込んだりしながら待っていた。

 その周囲には数十人を超える人間種。

 私の吸血残滴による攻撃も届いていたようで元の荘厳な姿は影も形もないが、さすがはワールドチャンピオンたち。

 助けた人間は全員守れたようで、集められている部分は綺麗に残っていた。

 内心(人間……食べてみたいな……)などと思うが頭を振って欲望を消す。

 

「遅いですよどれだけ時間をかけてるんですか」

 

「人集めてたんだよ」

 

 ブルースの目の前に気絶させていた人間を下ろした長文ネキは、掴んでいた手を払いながら答える。

 

「あと、先ほどの奈月さんのスキル、見たことなかったですが……ワールドアイテムですか?」

 

(私のスキルってバレとるやん!?)

 

 その言葉でドキッと心臓が跳ねるもあらかじめ長文ネキからの助言で焦ることはなく、考えていた謝罪を口にした。

 

「あっ、す、すいません。

 ち、ちょっとスキル確認してたら攻撃範囲広がりすぎた」

 

 口に出した謝罪は緊張から上擦っってしまう。

 

「……それ今やることか?」

 

「本当に申し訳ない……」

 

 睨みをきかせてくる摩利支店長に頭を下げるが相手が座っているためどうしても目線が見下ろす形になってしまった。

 

「本気で謝るんだったらそれ相応の謝罪の仕方があると思うんですけどwwwwww」

 

 笑いながら言うクーベラの手が下を指さす。

 

(地べたに這いつくばって謝罪しろ……ってコト!?)

 

「てかあの攻撃多分ワールドアイテムのだろ。

 ミスするなら持ってるべきじゃないし別のプレイヤーに渡せよ」

 

 更にはおねロリすまで加わったことで、まさに四面楚歌状態。

 一応同盟を組んでいたタヌキと木こりは無言だが、味方になってくれるような表情は浮かんでいない。

 

(……なんで折角の異世界で私はこんなことをしてんだ……

 ひとえに私が脳死なせいだが……

 めんどくせえしこいつら一人ぐらいぶっ殺して逃げようかなぁ……?)

 

 刀にかけようとした手、それをさりげなく掴んで止めたのは長文ネキ。

 

「異世界になって仕様も変わってたんだからミスは仕方ないだろ。

 見た感じ、被害も出てないんだから次から気をつけるし俺も見とくから勘弁してくれないか?」

 

 隣で同じように頭を下げるが周囲の反応は冷たいままだ。

 

「原因でもあるスキルの確認はブルースから頼まれた事に起因することでもあるし」

 

 しかし、その発言で冷たい視線は意外そうに眉を上げたブルースにも分散し、私と長文ネキに言っても意味が薄いと判断された(教育を受けていない為)のか尋問標的が変更される。

 なんとか危機を脱した私と長文ネキは逃げるように少し離れた場所に座り込んだ。

 

「ギリギリだったな……

 助かったわ、長文ネキ」

 

 それでも、長文ネキの表情は厳しい。

 

「ゾンビネキ喧嘩っ早すぎ、逃げれても攻撃したら終わりや。

 ただ……予想以上に反応が悪いな……

 ワールドアイテムの有用性が高すぎる、もう上位層だったっぽい連中は気付いてるっぽいし。

 一応同盟組んだ木こりとタヌキも無言だったがいい感情は持ってなさげだったし。

 いよいよ逃げ出すのが視野に入ってくるぞ……」

 

「あっいやつい一人ぐらいぶっ殺したら逃げれるかなって……」

 

「倒せた実績はあるけど考えなしすぎるマジで。

 ワールドアイテムがいよいよ奪われそうになったらスキルぶっ放してもいいけどさっきのは早すぎ。

 ……面倒になったしタヌキたちにもブルースの依頼内容話すか?」

 

「人間種で倫理観高いし無理でしょ。

 そもそも嫌われてる定期」

 

「だよなぁ、絶対あっちに相談しないで依頼請けたの不味かったって」

 

「ブルースも言い訳手伝うとか言ってたのに普通に無視してたの最悪すぎる。

 あれ絶対あわよくばワールドアイテムの所有権を宙に浮かせてかっさらうつもりだったでしょ」

 

「依頼内容とは少し違ったからなぁ。

 話振ったら説明とか引き受けたし今聞いてる感じだとうまく言いくるめてるが……

 監督官として最悪接収するとか言ってるぞあいつ」

 

 横目で話し合っている集団を見れば、先ほどの険悪な雰囲気は薄れていたが、それは私たちの安全が確保されたと言い切ることはできない。

 

「ブルースたちとはこのまま一緒に居ても搾り取られるだけだな、人間の国行って、逃げるか考えよう。

 そんときタヌキと木こりにも情報まとめてぶちまけて身内に引き込む、無理だったら二人で逃げりゃええやろ」

 

「そんな作戦で大丈夫か?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「失敗フラグやんけ……」

 

 

 ***

 

 

 話し合いが終わったのか、再度ワールドチャンピオンを召集したのは摩利支店長。

 いの一番に口を開いた、その内容は……

 

「食料を出してくれ。

 現状、助けた人たちは栄養不足かつ飢餓状態だ。

 人間の国の位置情報はドラゴンから入手できたが、どんな場所かまだ判明してない。

 転移門(ゲート)分の魔力もまだ回復してないし、この場で休息をとった後移動する。

 特に異形種の二人はミスをしたペナルティとして優先的に出してもらうからな」

 

「結局それやるのかよ」

 

「……ゾンビネキへのペナルティはわかるけど俺もか? 

 出すけど」

 

 不満を口に出す私に対し、長文ネキは比較的受け入れている様子だった。

 

 なんなら自分は少し残してくれと言ってることからも助けてくれそうにはない。

 

(十分助けられてるから何も言えんけど……

 運よければ人間の国で飯買えるし、さっき亜人食べたおかげかそこまで空腹じゃないのが救いかな……)

 

「連帯責任だ、ほりっく。

 おまえも飲食不要の異形種、食事が不要なら今本当に必要としてる相手に分けるべきってのは小学生のガキでも理解できる」

 

「学校行ってないんだが……嫌味かよ」

 

 断られた長文ネキは舌打ちをしつつ、インベントリに手を突っ込みいくつかの食料を取り出し始める。

 

 血のように赤いワインが並々と注がれている金の杯に山盛りの果物が積まれた銀食器。

 次々と取り出される食料に、周囲の人々はざわつきながらも目を輝かせていた。

 

 私もそれに習って放置していた食料を取り出していくが……

 出てくるのは便利だから持っていた無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)や人間種変化時用に持っていた空腹解除アイテムのパンや干し肉程度。

 

「……想像していたより少ないですね」

 

 ブルースの言葉通り、異形種である私と長文ネキの所持していた飲食可能なアイテムは極端に少なかった。

 

 長文ネキの方はまだ人間種の居るギルドに所属していたためか、メインからデザートまでを合わせ十人分はあるものの、私に至っては転移直前でインベントリ整理をしていたため片手で数えられる程度にしか存在していない。

 

「人間種じゃないし期待してなかったが、結局俺らも出さねぇとだめだなこりゃ」

 

 あるものすべてを出したというのに蚊帳の外にされた私は、不満を持ちながらも諦めて斬撃によりちょうど座れる程度の家の残骸へ腰掛けた。

 

「思いっきりとばっちり受けたんやけど……」

 

 そう言いながら隣に腰をかけたのは長文ネキ。

 

「すまんな」

 

「種族的には食わなくてもいいけどさぁ……

 あいつら俺らが元人間だったって事忘れてね?」

 

「……亜人の死体でも食うか? 

 ミノタウロスとかならいけるんちゃう」

 

「マジで今それやったら一人で逃げるからな……

 ……いや」

 

「お慈悲~、ん??」

 

「……ドラゴンなら、ワンチャンあるか?」

 

 竜の死体へと目を移した長文ネキは腰を上げ未だ食料分配について話しているブルース達の元へ向かっていった。

 

 

 ***

 

 

 ジュウジュウと肉の焼ける音、そして匂いが広がる。

 

「どう長文ネキ? 

 うまい?」

 

ほほふひ(ほぼ炭)……んぐ、けど食えん事はないけど」

 

「黒焦げを食べられるというのは外郭に住んでいたホリックさんだからですよ。

 幸い調理クラス持ちなら食べられる程度には作れますし、バフはゴミですがね。

 調理方法調べていけばこの食事もちゃんとおいしくできそうです」

 

「マジかよブルース! 

 お前調理スキル持ってるのか!?」

 

「持ってないからバフなし糞マズ料理になったんだろwwwwww

 助けた中にコック持ってるやついてよかったなwwwwwwww」

 

「肉すら焼けないのは不味くないか? 

 スキル持ってなくてもできるやつとできないやついたし。

 解明しないと自分で飯を作って食べれないのは人間の町がなかったらやばいって、なぁ木こり」

 

「……この世界で何が食えるかわからない……

 考えても意味ないと思うよタヌキ……」

 

「実行はできなくても知識を教えることはできた、もっと上達させればちゃんと美味い飯になるだろ。

 俺とブルース、あとクーベラは焼くぐらいならできた、万能ってフレーバーも現実化してるのかもしれないが。料理できるのが万能なのかは疑問が残る、ホリックの協力で検証していくしかなさそうだ。

 ナヅキ、手が止まってるぞさっさと血を抜け」

 

(店長はなんだその言い方ぁ! 私のおかげで血抜きできてんだぞ!)

 

 私たちは殺したドラゴンの肉を食べていた。

 だが私はそれを食べることはできない。ミスを挽回するために、吸血残滴による血抜きを行っているためである。

(血は飲めるから別にいいんだけど……私のワールドアイテムが便利な調理グッズ扱いだよ!!!! 

 それに私以外が食ってるのもうらやましい……まぁ長文ネキは失敗品っぽいのを食べさせられてるんだけど……てか血の臭いがきついからって私と長文ネキだけ隔離されて、

 クラス持ってないと料理できないんだっけ……ブルースとか料理できるクラス持ってなかったよな……

 フレーバー?)

 

 大きな焚き火の上にはそれぞれが持っていた適当な石材や落ちていた鍋が並べられ、コックを持っているという助けた男がそれをひっくり返しながら焼けた分を周りに配っていた。

 

 切り分けた大きめの肉を怯えた目のコッククラス持ちの人間に渡しに行って、切れ端を長文ネキへ放り

 つつ戻る。

 

 放った先に視線を向ければ、吸血残滴によって血を抜かれ、スライスされたドラゴンの肉片を薪にかざし、硬直している長文ネキの姿があった。

 

「傍から見るとめっちゃ間抜けやな。

 やっぱりクラスかそういうフレーバー入れてねぇと無理なのかね」

 

 私もよさげなタイミングで肉片をとろうと目をこらすが、毎回いつの間にか黒く焼け焦げており気づけない。

 

 血を吸わせながら適当に切り分けた肉をコックへ渡していると、小さな人影が近づいてきた。

 

「あの……」

 

 ほとんど無言で焼けたドラゴン肉を長文ネキへ手渡したのは、最初に食事を行った場所の奴隷であった少女。

 

「ん? え、マジ? 

 めっちゃええこやん」

 

「私にはないの……?」

 

「これが助けたご褒美やぞ。

 ああ行かなくていいから、あいつのミスで殺しかけたようなもんだし。

 えっとトゥパン……ちゃんだっけ?」

 

 私の言葉に急いで肉を取りに行こうとした少女だったが、長文ネキの言葉で足を止め、怯えた顔をして私を見ている。

 

「はい……すいませんでした……」

 

「いっいえ謝るほどでは……なんでしょうか、チョウブ、ンネキ様……?」

 

「謝る程のことだと思うが。

 てか様付けとかいらないよ」

 

「助けていただいたので……様付けで呼ばせてほしいんです。

 嫌だと言うのでしたら、やめます」

 

「まぁいいけど、トゥパンちゃんの方は腹一杯食ってるか?」

 

「は、はい! 

 こんなお腹一杯になったのは初めてです!」

 

「お~最初と比べてめっちゃ元気になってるな。

 ここ座る?」

 

「お、恐れ多いですよ……」

 

「いいからいいから」

 

(なんか親戚のおっちゃんみたいになっとる……)

 

 長文ネキの横に座らされたトゥパンは、その瞳を潤ませ始める。

 

(!? 長文ネキが泣かせた!?)

 

 脳内の発言を読み取られたのか私をキッと睨んだ長文ネキは焦りながら言葉を重ねる。

 

「煙が目にしみたか? 

 家族死んじゃったとかか? 

 死体あれば復活させてもらえるかもよ」

 

「……私の両親はわかりません、生まれたときから食料奴隷だったので」

 

「そマ……ごめんな、辛いこと思い出させちゃって」

 

 初手で地雷を踏んだ彼女は焦ったように肉を差し出す。

 それ生焼けだぞ。

 

「いえ、神様のものをいただくなんてできません。

 ……少し私の話をしてもいいですか? 

 ……今朝までの私は神なんて居ないと思ってました。

 弱い人間が生み出した嘘だって。

 だって今まで誰も助けてくれなかったんですよ。

 前のトゥパンが失敗をして殺された時も、私が食料からトゥパンになったときも、鞭で打たれても蹴っ飛ばされても何も変わらなかったんです。

 でも今日神様は来てくれた、この街を壊して、亜人達の守護竜さえも打ち倒したんです。

 今なら胸を張って言えます、今までの苦痛は神様に助けてもらうための祈りの時間だったって。

 だからお願いします、許してください! 

 信じていなかった私を!」

 

「重い……」

 

(これマジ? 狂信者かよ……

 ってかトゥパンって受け継ぐ系の名前だったの!? 

 普通に呼んでたけど……めっちゃ嫌だったんじゃないこれ……)

 

 思わず零れた言葉は幸い、長文ネキを崇拝するように地べたへ頭を下げている少女へは聞こえなかったようで、私は視線をあげる。

 

(長文ネキ……流石にいきなりすぎて固まってる……

 いやこれ肉焼いてる途中で固まっただけだ!? 

 真面目な話だったじゃん!)

 

 気まずい空気が流れる。

 私は目の前のドラゴン肉を切り分けることに集中し意識をそらした。

 

「あ、ああ……

 神って訳じゃないんだが……

 全然許す許す、なんかごめんな? 

 立ちな、ほしいのあるか? 俺が渡せるものだったらできる限りやるけど……」

 

 数十秒後、ようやく再起動した長文ネキは動揺しながらもトゥパンを立たせようと、まるで落ち込んだ子供の機嫌を取るようにアイテムでつろうとした。

 

 これ以上いただくなんて申し訳ないと引き下がるトゥパンに、割とゲームの一キャラのように見ていた自覚があるのか口八丁で何か渡そうとする長文ネキ。

 ようやくトゥパンが折れたことで、安堵の息を吐く。

 

 しかし、求められたのは意外なものだった。

 

「名前を……ください」

 

「えっ……」

 

 あまりの意外さに再度固まる長文ネキと不興を買ったかとまた頭を下げようとするトゥパン。

 

「いや全然いいけど……名前? 

 マジで?」

 

「はい、お願いします」

 

「めっちゃごめんなんだけどちょっと相談するわ」

 

 謝られたことで一瞬絶望したような顔をしたトゥパンだったが、相談と聞いて胸をなで下ろしたのか頭を下げて座り込む。

 

 長文ネキは使う意味もないほどの距離なのに転移を使って私のすぐ横に来た。

 

「え、どういうこと?」

 

「話聞いてなかったのか? 

 なんかトゥパンってあの店に居た亜人が人間につけてた名前らしいし、過去の自分と決裂したいんじゃね」

 

「知ってるよ! なんで俺にってことだよ! 

 割と死んでもいいみたいな感じで話してたのあの子も聞こえてただろ……

 なんでこうなった……」

 

「聞いてくれば?」

 

「無理だって、俺の良心が死ぬ。

 でも不可解すぎるわ、スキル使っても寝首掻こうとしてる訳じゃなさそうだし」

 

「あ~スキルでも敵対判定してないから?」

 

「そうそう……怖えよ……

 とりあえずなんか名前の案くれ」

 

「長文ネキに決めてもらいたいんじゃない? 

 私もそんな名前知ってるわけじゃないし……」

 

「相談するって言っても嫌そうじゃなかったからセーフ……

 とりあえず漫画とか詳しいんだから登場人物名の知恵貸してくれ」

 

 そんなこんなで十数分。

 長文ネキが近づいた事で少女はうれしそうに、しかし少し狂気のこもった瞳で見つめる。

 

「あ~ノアってのはどうだ? 

 神に唯一救われた……救われた? 人物の名前から取った。

 ……いやまぁ俺が助けた人は他にも居るんだが……

 他はあいつらが助けたようなもんだし良いだろ、実際こっちに寄って来てないし」

 

 戸惑いながらも私と長文ネキで絞り出した名前。

 

 トゥパン、いやノアはそこで初めて、涙を流しながらも笑みを見せた。

 

 

 ***

 

 

 いつしか辺りは暗くなり、輝く満天の星が空を覆っている。

 星をつまみに刀から血を啜りたいが、他プレイヤーの目があるためできない。

 とはいえ初めて見る夜空は美しく、ぼーっと見ているだけでも時間が溶けていく。

 

「そろそろナヅキも種族スキルのクールタイム終わっただろ、行くぞ」

 

 やがて摩利支店長の言葉で助けられた人々が集まったその中心に、私たちはいた。

 

「とりあえず転移門でいいか、ナヅキと長文ネキが偵察、タヌキが次に入ってくれ。

 とくにナヅキは人間の国なんだからスキル使え」

 

「はい……」

「これはしゃーない」

 

 だるいと思いながらも店長の言葉に肯定しつつ、同じく同意した長文ネキをみれば、心配げなノアに平気だと手を振っていた。

 スキル【擬態屍體】を発動したことで、感じていた人間への食欲は薄まるが……

 

(腹減ってきたんだけど……これマジ? 

 あとあんなに亜人殺したのに全く良心の呵責がねぇ! 

 別スキルの影響だからか……?)

 

 そんなことを考えつつ私は長文ネキに声をかけた。

 

「いざというときは頼むで」

 

「普通に転移で行って袋だたきに遭いそう」

 

「割とありそうなのやめてね」

 

 黒い靄が半球状に広がり、その現象を初めて見る人々は驚きと困惑の混じったざわめきが波となって広がる。それらすべてを無視して、何のためらいもなく足を進めた。

 

 私を阻むかのように視界が歪み、すぐに元に戻る。

転移遅延(ディレイ・テレポーテーション)】そう判断すると同時、視界に広がるのは、真っ白な塔が聳え立つ巨大な街だ。

 

 そして、塔の頂点から【転移遅延(ディレイ・テレポーテーション)】の発動を感知したのか、飛んでくる小さな人影。

 

 100レベルの目に映ったのは、()()()骸骨だった。

 




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