ソロプレイヤー、ナザリックに挑む   作:No_46

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全く話を聞いてくれない!

 吸収された白銀、スキル・エクス・マキナの【接続(コネクト)】はスケルトンアバターの中心から波打ち、いくつもの円状に展開されている。

 触れ辛くなったことに顔を顰めた私は攻めあぐねていた。

 

(デカい輪じゃないから密着されないなら問題はなさそうだけど、あんなことできたっけ……? 

 身体も銀色だし見えづらい、カモフラージュにアバターペイントつかってんのか)

 

 その隙に先手を取ったのは統べる者。

 

「【世界改変(ワールド・クリエイション)】」

 

 虚ろな喉仏が空気を震わせ、世界を書き換える。

 地面が、空が上塗りされるがごとく、闇とそれを薄暗く照らす青白い炎に染まる。

 石畳の地面が崩れ、浮き上がり、歩きやすく整えられていた道が不整地へと置き換わる。

 月明かりにのみ照らされた空ヘ雲が浮き上がり、僅かな月光すら阻む。

 いつの間にか周囲に立ち並んでいた建物も傾き、ただひたすらに広がるのは整えられていたのが見る影もなくガタガタになった街。

 

 ユグドラシルでも秘匿され続けていたワールドガーディアンのスキル、そう予測し私はじわりと冷や汗をかく

 

「洒落ならんわコレ……

 悪路王のフィールドじゃん……」

 

 思わず口にでつつも身体が動くことを確認し、恐らく初期状態のフィールド効果だと判断する。

 

(特殊スキル貫通が無いっぽいのは、自分の装備で無効化できないからか?)

 

 ワールドエネミー邪刀神:悪路王、その特殊効果デバフ【悪路獄地】

 行動不能、行動阻害、転移阻害という三種の行動を制限するデバフ効果だが、今意識すべきは一つのみ。

 

 統べる者から視線を外さず、横目に確認すれば、まだ【転移門(ゲート)】はそこにあった。

 

「先に使っとけば消えないんだな……」

 

 とはいえ転移阻害を使ってきたと言うことは、逃げるにはゲートまで足で行く必要がある。

 なにより、特殊スキル貫通のフィールド効果になれば、私は完全に足止めされるだろう。

 

 次元断層を使えば数秒間は動けるが、その短時間で統べる者の攻撃を防ぎ切り逃げるのは至難の業。

 

(ワールドエネミーの効果とか凶悪すぎない!? 

 長文ネキはよ来てくれ拘束系持ってねぇよ私!)

 

 現状プレイヤーである生と死を統べる者にデスペナを与えては、ただでさえ下がっているプレイヤー間での地位が地底の果てを突破する、孤立しワールドアイテムを奪われた上でリスキル地獄送りにされるのは想像に難くない。

 相手側から仕掛けてきたとはいえ貴重な異世界側の知識を持っているだろうプレイヤーをぶっ殺せば敵対が致命的になり、今までのやらかし含めて有罪判決である。

 

(そうなると長文ネキからも見捨てられちゃうよ! 

 異世界でワールドチャンピオン複数相手に孤立無援は難易度上がりすぎだって! 

 ま、ワールドガーディアン相手にソロかつ捕縛縛りも似たような難易度なんですけどね。

 こういうときの制圧要員やろ長文ネキィ!! 

 早く来てくれええええ!)

 

 幸いなのは拘束系無効手段をワールドチャンピオンなら自前で用意していることだろう。

 戦闘に致命的なデバフは無効化しておく、ユグドラシルでの鉄則だ。

 もちろん無効化となるならばゴッズアイテムのため上澄みには限られるだろうが。

 

 違和感がある。

 

 だが私は現在の状況で悠長に目の前の問題以外へと考えを馳せる余裕がなかった。

 焦燥とジレンマで内心喚き散らしながら手はないかと考えるが私が持っているスキルはPK特化、捕縛からはほど遠い。

 そもそもが近接戦士系、相手を殺す役割である。

 

 焦りながらも私は舌を回す。

 まだ異世界生活初日を終えた程度、こんなところで詰んではいられないのだ。

 僅かでも可能性があるのなら行動するだけ得であろう。

 

「いきなり攻撃してきたのは許すから、普通に話し合わない?」

 

 私の言葉に統べる者は、驚いたように動きが止まったものの、白銀の大鎌を大きく振り抜いて答えた。

(可能性なさそうじゃね?)

 

 大鎌が描いた軌道上に刃が浮き、殺到した斬撃へ刀を合わせる。

 瞬きをする間もない一瞬で、斬撃は音もなくちりぢりになった。

 

「で、背後ね」

 

 斬撃の欠片が肌を切り裂くのも無視し、後ろ手に回した刀で切り上げられた鎌を受け止める。

 鈍い音が響くも私に焦りはない。

 魔法戦士と純戦士では物理攻撃も防御も全く違う。

 

 それに、最初の【飛行(フライ)】以降魔法を使う様子がない。

 

(隠してるのか魔力切れなのかわからないけど、交渉の余地ありそう)

 

 魔法戦士が魔法を使えない、これでは片手落ちもいいところだ。

 

「私のステも知ってるでしょ。

 魔力切れじゃ勝てないって、おぉ?」

 

 統べる者がさらに距離を詰める。

 私は展開されるシールドから逃れようと刀を押し込むが、受け止めた戦鎌《ウォーサイズ》がくるりと半回転。

 鍔をすり抜けた刃が、私の手と刀の柄を捕らえる。

 

 するりと担ぐように戦鎌を持ち替え、肩を軸に押し上げられた。

 最初の突きでは受け止められた刃を動かし、そのまま腕ごと引っ張られる。

 

「はあ!? っ!」

 

 ユグドラシル時代では考えられない挙動。

 後ろ手に刀を持った掌は戦鎌により固定され、痛みと共に腕を極められる。

 一瞬で捕らえた掌を持ち変えることも許さずに、痛みにつられて姿勢を前に倒した私の懐へ、統べる者は潜り込んでいた。

 

「ふっ!」

 

 必要も無いのに力を込めるような息を吐く統べる者。

 白銀の骸骨の()()()()()()()()()()()無手の腕へと粘体が集う。

 

「話し合おうって言ってんだろボケ!」

 

 展開される【接続(コネクト)】と接するギリギリで、腕の鋭い痛みを無視し私は跳んだ。

 極めている刃が引っかかり、ズタズタに切り刻まれる掌と痛みを発する腕。

 血が零れながらも反転リジェネによってすぐに回復しつつ納刀、背面跳びの要領で統べる者の背後を取った。

 

(フィールド効果でステ下げられてんのか、いやバッドステータス系は反転できるし効いてはない。

 もう腕一本ぐらいぶった切ってもいいんじゃね? 

 そうでもしなきゃ止めらんねえ、っ!)

 

 ボッと目の前で音が鳴る。

 

 思考を止めたのは視界に迫る戦鎌の先端。

 私の動きを見越したように着地点へと鎌の突きが解き放たれていた。

 

「っと」

 

 先端に取り付けられた刺突用の刃を身体を横に反らしギリギリで躱す。

 頬をかすめ血が垂れるが問題なし! 

 

(こっちも武器固定すれば攻撃手段は【接続(コネクト)】だけ、なんとかなるでしょ!)

 

 両手を戦鎌の柄へ伸ばし、掴みかけたと同時、槍が、分裂。

 白銀の三つ叉に分かれ襲いかかった。

 

 腕は足りず、刀を出して逸らしきるには間に合わない。

 

 戦鎌が届く刹那、その一瞬で納刀されていた柄を握りしめ、抜刀する。

 

 止めることに成功したのは三つ叉の一つ、しかしコレで足りるはずも無く。

 

「ぐっ」

 

 残った二つのうち一つは躱すが、もう一つは胸に突き刺さり、突き抜ける。

 統べる者は攻撃を当てたと同時、すぐに後退。

 

「痛いなぁ、人の心とか無いんか?」

 

 軽口を叩きながらも身体に開けられた穴がすぐに塞がった事へ安堵する。

 

(状態異常は無し、てか何だ今のスキル、統べる者って槍術系取ってたか? 

 てか骨が波打ってた気がしたんだけど……)

 

 だがそれに思い至ったことで、私の笑みは消えた。

 

「お前、もしかして回してるの見せ札か?」

 

 統べる者の答えを待たず、私は自らの胸へ刃を突き立てる。

 

 切り裂かれた奥に見えたのは、結晶化した白銀。

 統べる者は身体や武器に薄くスキル【接続(コネクト)】を纏わせていた。

 自己回復で傷口が閉じる前に、私は周りの肉ごと抉り出す。

 

 皮下組織を素手で抉る痛みをどこか他人事のように感じながらも、顔をしかめつつ投げ捨てる。

 

 ビチュッと飛び出た岩にへばり付き、赤と銀の斑に地面を染めた。

 

「おいおい、マジでそのスキル強すぎだろ。

 最初、手に当てたときは何もないしただのテクスチャ変更と思ったけど、付けたりつけなかったり自由自在ってか」

 

 対して、統べる者は気にした様子もなく。

 

「そういえば再生するのだったな」

 

 と口を開いた。

 

「喋れんじゃん。

 もっと会話しようよ~」

 

 私は刀に手をかけ様子を見ながらも、無害アピールにもう片方の手を振るが統べる者はガン無視。

 

「ってか長文ニキまだ……?」

 

 目の前で、がらんどうの眼窩に宿る赤黒い光が、燃えるように輝きを増した。

 

「やはり、連合が来ているのか」

 

 ぼそりとつぶやいた言葉、その意味に私が考えを馳せるまもなく、統べる者の攻撃が激化する。

 

 白銀の【接続(コネクト)】が装甲のように浮き上がり、私の反応を待たずに統べる者は戦鎌を回す。

 

 早くはない、だがいつの間にか近付かれる。

 さらに言うなら。

 

 鞘を使い、ガッと音を立てて戦鎌を逸らすが、止められない。

 

(なんでステータス差ものともして無いのこいつ!?)

 

 ステータスの地力が重要となる近接戦闘。

 魔法職相手に攻撃できない拘束縛りとはいえ、タイマン状態で押さえ込まれている状況は異様だ。

 

 逸らした鎌が私の脇や足を死角から狩りに来る。

 

 足を前に出すように上げつつ回り込まれる前に攻撃を弾き、弾けない位置からの攻撃も前転して逃げる。

 

 まるで逸らされることが前提のように振り回され、逸らした先で死角に消える戦鎌の動き。

 死乃淵渡(シノフチワタリ)の危機察知スキルがなければ私は今頃銀色のオブジェになっていただろう。

 

(見てる感じスキルじゃないな。

 暗殺系のクラスもってたらこんな感じになるとか……? 

 だったら私も抜刀術開祖持ってんだから対抗できるはずなのに、魔法職みたいに抜刀技術インストールしてくれよ! 

 なんでこんなに巧くなってんだこいつ)

 

 最悪なのは武具の固定化を実質的に封じられたこと。

 戦鎌に纏われたスキルのおかげで、武器を止めることもできず、攻撃もできない。

 

 ついでに統べる者の周囲で纏われている白銀からも触手のように攻撃が伸びる。

 

 統べる者を落ち着かせて話を聞いてもらうはずだったのに一体どうしてこうなったのか。

 今では拘束することも難しいという事実に私は唸る。

 

 そうなるといよいよ単独で確保するのは不可能だ。

 

(マジで全然あいつら来ねえしな、なんかあったのか。

 とりま逃げよ)

 

 私は決断すると同時、ゲートに意識を向ける。

 ゲートが見えるのはおよそ50mは先だろうか。

 

 初期位置より小さく見えるゲートの姿。

 

「なんか遠ざかってんだけど……!」

 

 思い返せば背後から迫り背後に逃げ場がないような攻撃を前に歩かせることで回避させていた。

 ここまで計算通りなのかと内心ビビりながら、【稀術:影遁隠匿】を発動。

 看破系がないことを祈りながら直線ルートを避けゲートへ疾駆する。

 

 100レベルの純戦士職のステータスは1秒もかからずにゲート目前へと私を運び、到達する寸前。

 

 またしても地面から【死線読み】が反応。

 

「めっちゃデジャブ!!」

 

 予想通り吹き出す白銀を危なげなく回避。

 だが思わず回避をしてしまったことで、私はミスを自覚する。

 

 目の前で、未だ沈黙を保っているゲートが白銀に包まれた。




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