私が吸血残滴から持ち替えた刀、ユグドラシル最終期での秘中の秘、最後の奥の手。
それこそが、今装備した
ワールドチャンピオン・オブ・アルフヘイム。
直剣だったはずの武器は、抜刀に適した太刀へと姿を変えていた。
長身の私に合わせたような長さで、一見すれば大太刀にも見える。
その鞘はひび割れ、補強するように血で滲み文字が掠れた札が幾重にも貼り付けられている。
抜刀のみを追い求めたことで、太刀としては異様な鍔を持たない合口拵え。
柄巻は血を吸い時間が経ったような赤錆色。
血錆を思わせる外装とは裏腹に、抜き放った刃は澄んだ鋼色だ。
(こっちの武器は名前や形状も自分では変更できなかったけど、抜刀術特化にした結果、自動で変化するとはね。
しかも元ネタが上杉謙信の刀なんだっけ、歴史好きの連合メンバーが外見チラ見しただけで色々教えてくれたんだよな。
鑑定されなくてよかった……)
世界の名を冠するこの武器は、ワールドチャンピオンとなったときに私へ贈られたものだ。
選択データクリスタルで容量を拡張し、最上位のギルド武器をも上回る量のデータを収められるようにした。
膨大なデータ容量へワールドチャンピオンの特化したクラスに合致するデータクリスタルを存分に詰め込んだ一振り。
加えたのはシンプルな、デバフ込みの斬撃スキル特化の素材。
スキルなどを持つデータクリスタルは何も無い、ひたすら斬撃だけをメインに高めたその威力は、目の前の二人を容易く切り裂けるほどの物にまで到達している。
ガチャの激レア外れ枠として扱われる、通常なら使い道のないデメリット付き二重威力アップ系。
さらには、抜刀術開祖系の取得に関わるワールドエネミーフィールド、その周辺マップで落ちる居合い特化の素材。
デメリット付きのデータクリスタルを探し、狩り、年単位の月日をかけて作り上げた私の刀はそんじょそこらのプレイヤーが武器だけでも装備できないほど仕上げることができた。
(いや、頑張った甲斐あったわ。
ドロップ掘りの最中はどうせ異世界の連中雑魚だし強くする意味とは……? なんて思ってたけど、念を入れててよかった~
一撃必殺が次元断行使ったワールドチャンピオン相手に成功するとは……まさに世界一や!
多分ワールドサバイバーに加えて忠滅逆徒のダメージボーナス込み込みの結果っぽいが、今の私なら過去最高火力!
ついでに私じゃ使う意味ないとはいえ優勝賞品だからか武器ごとの特殊アクションもある!)
だからこそ、一撃でバフ付きワールドチャンピオンを仕留めることができたという事実は、この刀がワールドアイテムに匹敵することを示している。
流石に武器だけの性能ではないであろうが。
胸元から血が吹き出るブルース、首を落とされ見えたクーベラの表情は驚愕に染まっている。
同時にクーベラの装備がズルリと滑り落ち、輝く宝玉が地面に転がった。
「イヒッ」
狙い通りワールドアイテムを落とせたことに笑みがこぼれる。
自己蘇生の光に包まれるクーベラに対し、ブルースは既に装備入れ替え直後に死亡して装備を変更していない、つまりは自己蘇生の指輪を失っていた。
(あの状況からワールドディザスター封じた時点で上振れてるが、レベルダウンさせれば勝ち確。
そのまま即死してくれてりゃよかったんだが、押し切れなかった……!)
血を流しながらもショートカットに登録していたHPポーションを手に取ったブルースは、この一瞬で武器が吸血残滴では無い事に気付いたのだろう。
致命傷デバフにより回復量が半減するとはいえデバフ、解除系のポーションと合わせれば回復できる。
落ちかけた首が消え、一瞬にして元の位置で繋がったクーベラも自己蘇生の指輪により回復したと見えるが、殺しきった事でワールドアイテムをドロップさせることには成功した。
何より、ワールドディザスター職は殺害により資格を失い、使用ができなくなる。
一度殺したことで私に資格が移動したのを意識せずとも感じ取れていた。
要するに目の前にいるクーベラの高火力魔法は大きく威力を減退させているということ。
盤面的にはかなり有利だろう。
だが問題が一つ。
(……殺して奪うの優先した結果ワールドアイテムない状況だから糞ヤバなんだけど)
そう、私は二人を殺すために大災厄の盾として吸血残滴は、背後へ置いてきた。
持ち替えの際に外れた鞘も、その場に落ちている。
いくら世界の名を冠し、ワールドアイテムレベルの威力を持つといえど世界の守りは発動しない。
手放した吸血残滴は私のメイン装備と合致する刀の形状。
汎用性で言えばMPタンクに軍配が上がる、だがその汎用性は今後の狙われやすさにも繋がる。
だからといってこのまま見逃すのもありえない。
複数回PKを受けた状態で優位性を確保するには二つ奪うことが最上。
(まだ一回死ねるんだし、欲張るか!)
私は刀で宝玉をすくい上げるように手元へ弾こうとする。
そこへまたしても割り込んだブルース。
(ダメージ無視してこっちに? 回復の時間を惜しんだのか!?
あんだけ出血したなら死んどけよ人として!
てか私が刀入れ替えたことにも気付いてたし思考が速すぎる!)
吸血残滴と違い、あくまで斬撃威力を追い求めたこちらは相手への回復阻害といった特殊効果を持たない。
かつ私が普段使いしているメイン武装がそういったデバフを付与する系ではない。
そこから導き出されたのだろう回復という行動は、私への釣り餌としての意味もあったのか?
(だがダメージは残ってる、このまま殺してやるわ!)
刀を鞘へ滑らせる。
腰に佩いた鞘へ刀身がするりと入り込み、反発するように加速して解き放たれる。
だが、宝玉をすくい上げるような刀へ低い姿勢で割り込んだブルースからは笠の下の私の目が見えている。
(範囲攻撃なら関係ないでしょ)
「ヒヒヒ、【秘技:一瀉千刃】」
どこを狙うか読まれても、範囲攻撃なら防御外から削り勝てる。
そんな思考にピンッと弾くような音が割り込んだ。
視界に飛んできたのは聖属性HPポーションの瓶。
合わせるようにブルースの剣が刀に重なり、挟まれたポーションが破壊される。
パキッと罅が全体に広がり、中身がまき散らされた。
ジュッと白煙を上げ、飛沫が私の腕を溶かし、発動しかけたスキルが中断する。
対してブルースは開かれた胸元が薄皮一枚、傷跡を残しながらつなぎ止められ、計算通りなのか追撃が迫った。
「あっぶね!」
なんとか刀で受けたものの弾き上げられ、緩んだ手から滑りそうになるもギリギリリジェネが効く。
恐らく強力な
刀を落とす前に握り直せる程度の回復はできたが、目の前の追撃を止められそうには無い。
何より、半身を封じた回復無効化がウザすぎる!
(腕一本分あれば片腕犠牲に止められたのにさぁ!
つーか死にかけであの判断ってなに!?
ゲーム時代だと投げたら単体効果のみだったろ!
レベルダウンが怖くないのかこいつら!)
半身を失った現状、残った腕を落とされれば蘇生する前に詰み。
一度殺した事で短距離転移はできる。
目の前のワールドアイテムは惜しいが、吸血残滴を優先するべきだろう。
「【極致:怪出死没】……はぁ!?」
だが転移は何かに阻まれるように発動しなかった。
考えられるのは、転移阻害だ。
しかし、私のワールドサバイバーは通常職の転移阻害魔法など問答無用で無効化できる。
(入るとき感じた転移阻害っぽい違和感。
可能性があるとするなら……もしかして統べる者のワールドアイテムか!?
折角ギリギリ凌いだのに意味なくなっちゃったぁ!
……いや、一回死ぬならブルース殺せばお釣りくる……)
「道連れじゃボケぇ! アハハッ!」
あえて前に出て納刀を妨害させないよう動いた刹那。
ボンッ!!
足下から衝撃、地面へ体が引き寄せられる。
(爆破? 衝撃波!? 爆撃地雷か!
私相手なら危機感知対策も使ってくるわな!)
危機感知が捕らえるのは発動した攻撃のみだ、地雷のような起動型とは相性が悪い。
「単純過ぎwwww」
笑うクーベラの回復した腕に保持されるのは魔道書。
発動したのは衝撃波をまき散らす〈
一般的に魔法発動は隙が大きく、今の一瞬で発動から設置まで済ませるのは並大抵のことではない。
つまりは蘇生直後から先行入力のように仕込んでいたということ。
「クソ!!」
見誤った、まさか装備の回収でもなく私への妨害を優先するなんて。
高揚した気分に急ブレーキがかかり、焦りが湧き出る。
引き寄せられたことで納刀もできていない。
対してブルースはノックバック無効持ちだと竜帝戦で知っている。
あのときは無効化できていなかったが、それは相手が始原の魔法を使っていたからだ。
せめてもの抵抗に刀を振るうも、ブルースはスキルでは無い攻撃を容易く弾き、もう一方の剣は止められない。
(ああまずい欲張りすぎた!!
どうする!?
ここで死んだらマジの無駄死にになっちゃう!
次元断層もまだクールタイムだし、ここまでやってまだ30秒も経ってないの!?
復活したあと目の前のブルースの自己蘇生指輪を奪うか?
いやこいつら装備変えてないわ舐めプかよ!!!)
首元へその攻撃が迫る刹那。
双方がワールドアイテムを手放し、ワールドチャンピオン全員がお互いに集中していた。
だからこそ、気づけなかった。
「〈
遥か頭上の天空に、巨大な隕石が落ちてくるまで。
バッと全員が一斉に上へ注目する。
同時、ブルース達の背後に生み出されたのは〈
現れたのは統べる者。
続けて、老若男女、レベル帯もバラバラな十数人の人類種がなだれ込む。
共通しているのは、武器のない最低限の装備と顔に入れられたタトゥー。
「うおおおおおお!」
悲鳴のような叫び声を上げながら人間が私たちへ組み付く。
拘束無効対策だろうか、肉の壁によって統べる者に対する攻撃動作が鈍るブルースとクーベラ。
引き剥がすためそれぞれ武器を振るおうとするが、100レベルの肉体相手に低レベルの人間は余りに脆く、軽く振り払われただけで、組みついた者の半数の腕がねじ曲がり、引き千切れた。
(つーか武器持ってないせいかクーベラとブルースが躊躇してんな、スキル使えば一発なのに。
狙いそれか!)
ブルースが、無理に引き剥がしたことで腕がおかしな方向へ折れ曲がった者達まで、苦痛に顔を歪ませながら起き上がり、再度組み付く。
僅かな時間、宝玉へ伸びる手を、ほんの一拍遅らせるためだけの肉の壁。
しかし、それによってワールドアイテムは統べる者の手の中に収まり、ブルースが僅かに遅れて人間を振り払う。
人間が怪我をすることもお構いなしのその姿勢、だが、やはり動揺していたのだろうか。
大きく振り払われた腕は隙が生まれ、統べる者の戦鎌が私のつけた傷跡をなぞった。
「ヒヒッ漁夫の利は覚えてんのな!」
脳裏で敵対反応が途切れたことからブルースは死んだ。
恐らくレベルダウン込み。
私はそれを見ながらしがみ付く人間を無視して納刀。
刃を掴んで止めようとした男の指が全て落ちるのを見て(余裕あれば一口食いたいな)という感想が浮かびどこか満たされるも、人を傷付けたことに対する動揺は一切なかった。
ワールドアイテム狙いなのは明白、つまり次に狙われるのは私の吸血残滴である可能性が高い。
何なら私にも組み付いてきてる時点で確定だろう。
「あぁ~!!! 一口かじる余裕もねえ!
うざったすぎる!」
纏わり付く人間ごと切り飛ばしたいが、絶刀乱麻も一瀉千刃も直前に使用したばかり。
(ああもうこうなるならワールドアイテム手放さなきゃ良かった!!
高みの見物できたのに!
あいつだけ転移できるなら回収して逃げられたら間に合わない!)
逃がすわけにはいかない。柄を深く握り直し、ただ一刀へ意識を絞ろうとする。
残る片腕で深く握りしめたのは柄。
意識を研ぎ澄まし、ただ一刀に集中しながらチラリと腕へしがみ付く人間を確認。
(だが今、統べる者を殺せばワールドアイテムを回収して逃げる時間は稼げる!
肉壁の女ごとぶった切る!!)
「【真髄:一刀りょ、ん?」
そうして正面から腕にしがみ付く女ごと斬り払おうとしたとき、既視感を覚えた。
恐怖に歪んだ表情の面影、むしろそれがより強い既視感を覚えさせる。
じろりと全身を見れば、しなやかな体に金髪のボブ、猫を思わせる顔つき。
「……クレマンティーヌ? あっ!」
呟きにクレマンティーヌとよく似た女は、少し呆けた表情をするが、危機感知で捉えていた統べる者の反応が消失し再出現、私は目線を後ろに回す。
私の吸血残滴に統べる者が転移、落ちた吸血残滴の鞘と抜き身の刀身を掴み、そのまま統べる者のインベントリへ放り込まれる。
見覚えのある相手に気が逸らされ、気付いたときにはワールドアイテムを奪われるという失態。
そして統べる者が転移で姿を消し、目の前に広がるは巨大な隕石。
「死兵ってこと?」
思わず周囲に聞くがだれも答えず、転移で逃げようにも封じられている。
次元断層のクールタイムはあと僅かだが、間に合わないだろう、一度死ぬのは確定事項のように思える。
「だからって、タダで死んでやるほどお行儀良くはないんだわ」
なぜかクレマンティーヌに似てるこの女、死んでしまったら気になって夜しか眠れない。
柄から手を離し腕だけを軽く振り下ろせば、するりと絡まる手が滑り抜け、女は私の前に膝をついた。
これで、腕は自由に。
他に組み付いてくる連中はいるが、こいつらは別に良いだろう。
熱さも感じられるほど迫った隕石へ、私は刀を抜き放った。
「【真髄:一刀遼断】」
目に見えぬ早業で振り抜かれた腕は、新たに纏わり付いていた人間をミンチ死体に変えた。
刀から伸びる斬撃は、至近距離まで接近していた隕石へ接触。
その一筋は音もなく隕鉄を断ち切り
ズッッ
ドォンッ!
二つに分かたれた隕石は巨大な音を上げ私の左右へ落下した。
納刀し、迫る爆炎と衝撃波を女を地面へ押し伏せ、その上へ覆いかぶさって防ぐ。
「ぐ、あっ」
「しゃべんな死ぬぞ」
残った腕で口元を塞ぎながら初めての人の温かみ……とキショいことを考えていたが、炎の副次効果か何かで窒息する可能性もある。
現実化してる今の世界で燃焼による窒息が隕石落下にも適用されるのかは不明だが、念には念のだ。
私の体を熱風が舐める、だが炎属性無効の指輪でグロく中身が見えている半身もやけど一つ負わない。
数秒経ち、私は魔法効果が消えたことを確認し、立ち上がる。
潰される形になっていた女も体の下へ収めた部分は守れたらしく、ぱっと見では火傷も片腕の表面だけと傷は少なく敵対反応はビンビン。
なんなら即座に腰へ組み付いてくる。
「ギリギリなんとかなったけど……
やばいよなぁ……」
視姦するように私の胸で頭が隠れた女のケツを見ながら、私は奪われたワールドアイテムに思いを巡らせる。
正直あのワールドアイテムは私が最初に手に入れた装備型のアイテム。
特に私のクエスト系譜に存在する物だからか相性も良かった。
「……この女がワールドアイテムレベルに重要キャラだと思えば……ワールドアイテムは奪われてないって事に……なる訳ないよね……
思い込みパワーで落ち込まずに済むのガキまでだろ……」
見渡せば周囲は瓦礫の山、私が庇わなかった他の人間は焼け焦げたりそもそも片腕しか残っていなかったりと死屍累々。
それらを無視し、私は納刀状態で構えた。
目の前に魔道書を開き青白い魔法壁を展開するクーベラと、その横で戸惑ったように周りを見渡すブルースが居るからだ。
だが、再度戦闘に突入することはなかった。
「やはり、殺しきれないか」
私たちの次元断切が届かない距離に〈
「いきなりずいぶんなご挨拶ですね。
行き違いがあったようですし、ひとまず話し合いでもどうですか?」
ブルースは気取ったように口を開く。
その姿はレベルダウンが発生したはずだというのにまるで気にしていない。
(こいつら、もしかしてこの世界にもレベリングできるような高レベルモンスター居ると思ってんのか?
竜ぐらいだろ……それでも90レベルは上澄みっぽいし。
……まさか私みたいにスキルでの自己蘇生手段持ってたりすんの?
いや、武器の色が薄れてるからレベルは下がったと見ていいはずだ)
バレたらめんどくさそ~という気持ちが湧き出るが、聞きたいことは私にもある。
「ワールドアイテム目当てだとしても過剰すぎない……?
同じプレイヤーだろ、なんなら襲撃かけたけど交流あった数少ないギルドだぞ。
和解したし話もせず殺しに来るほどのことではないだろ……精神まで異形種になっちゃった?」
ついでに(スタミナとかスキルクールダウン終わるまで話を引き伸ばせないかな)などと考えつつ、いつ攻撃されても良いように構えは解かない。
白銀に輝く頭蓋を回し、統べる者は、瞳の炎を強く燃え上がらせながら答えた。
「お前達は、何一つ理解していない。
この世界で人類がどれほどか弱い存在か、数人100レベルが居るだけではどうにもできない過酷さを。
少数を見捨ててなお、それでも足りない辛さがお前らに分かるというのか!?
私は、なんとしてでも人類を守ると仲間に誓った、例え私の油断と傲慢がお前達を招いたとしても……!」
そうして、ほの暗く、より勢いを増した眼窩の炎が私へと向く。
「何より連合、貴様らは勝手すぎる。
知らないだろう、未だに人間が生活できるような場所は、この睡蓮法国ぐらいだ!!!
お前達が我慢できるわけがない!!!!
転移してすぐではギルドマスターの人望程度では限界がある、やがて必ずこの国ごと食い潰す!!!!!」
統べる者は懺悔するようにも、後悔しているようにも取れる声色で、語る。
「だからこそ、一国の神としてスルシャーナが貴様らを葬る。
……恨んでくれてかまわない。
申し訳ないとは思うが、必要なことなんだ」
「別にかまわないぞ、お陰でパクれたし」
唐突に飛んできた吸血残滴をつかみ取り、ワールドチャンピオン・オブ・アルフヘイムをインベントリに突っ込む。
ワールドアイテムを取り返し、私に投げ飛ばしてきたのは
「長文ネキ!? いつの間に来たの!?」
「人の国探して転移しまくってたら転移できなくなったから当たりつけてダッシュ」
「ええ……まぁいいかぁ!!!
流石長文ネキ!!!
いざというときに頼れる男だぜ!!!」
「今女だけどな」
統べる者、いやスルシャーナの背後から誰にも感知させずに近付き、喉元、というか肉も喉仏もない首の骨にナイフをあてがっている。
片手はスルシャーナの体に現れている黒い靄の中をまさぐるように動いており、窃盗スキルって大分直接的だな……と思いながらも私は一安心。
ブルースは薄く笑みを浮かべ一歩進んだ。
「形勢逆転だがどうしますか?」
「自分語り痛すぎるwwwww」
「何を襲ったことなかった事みたいに話し出してんの???」
「ゾンビネキ襲われたのか、俺も天空城で襲われたわ。
てかその女何?
犯罪者ステータス付いてるしクラス後付けのぐちゃぐちゃだけど」
「肉壁要員。
こいつ以外は統べる者が隕石落下で殺したけどあと十何人か居た」
「ゾンビネキに? バフにしかならんだろ。
記憶変えられてんじゃないのか」
スルシャーナは、ナイフをあてがわれているというのに不可解に思えるほど動揺していない。
そしてそのまま、口を開いた。
「【滅尽の吐息】」
瞬間、危機感知が周囲ごと地面を警戒させた。
同時に4人のスキル発動が重なる。
「【
地面を消滅させ上空に放たれたブレスは、容易に絶対防御スキルで止められる。
腰に抱きついていたお陰か犯罪者と判明した女も無事だ。
(なんで竜王のスキル使えるんだよ……
もしかしてコピーって始原の魔法にも適用される……ってコト!?
今確認できて良かったぁ……てか転移阻害も始原の魔法な可能性あるくね)
スルシャーナの奥の手だろう一手を潰せたことはデカいアドバンテージ、ブルースも統べる者により強気に出れると踏んだのか、上機嫌に見えた。
「で?
これで終わりですか?
いい加減抵抗す──ーッ!?」
「やれツアー!!!!」
スルシャーナの叫びが、ブルースの言葉を遮った。
私たちの直上、転移で現れたのは白銀の小柄な竜。
その口から真っ赤に染まった光弾が放たれる。
光球が空中で炸裂し、眩い火炎と衝撃波をまき散らした。炎は縦横無尽に空を泳ぎ、こちらへ迫る。
長文ネキの姿は、もう転移で消えていたが、私は中距離転移のPK数が足りないことを直感する。
短距離転移は可能だが、逃げ切れるほどの距離は稼げない。
ぶった切ればワンチャンあるかと考えるが、四方から来る以上、一方を斬っても他を防げない。
(アカン、死んだわこれ)
冷水を掛けられた時はこんな感覚なのだろうかと、どこか他人事のように考えた私は、抱きつく女を思い出した。
考えるまもなく、私は体に染みついた抜刀動作は女の体を掴んで実行した。
ぶん投げられた女を見ることもせず、私は跳び上がる。
「【溢血】【秘術:一瀉千刃】【至刀:独閃】!!!!!!」
僅かな望みだった首都方向に居る弱めの相手を殺して転移距離を稼ぐというのも、退避済みのためか手応えはなかった。
放ったスキルにより炎に切れ目を入れても、周囲から流れ込む熱波が塞いでしまい、まるで足りない。
だからこそ。
(クールタイムゼロの真価、見せてやるよ!)
【至刀:独閃】を再発動。
納抜刀を繰り返し、僅かにでも止め反らし続ける。
それは実時間では1秒にも満たない極めて短い時間だったが、私にはとても長く感じられ……
(あっ)
ついに押し切られた私は白に染まった視界が暗転、そして、開かれる。
最後の蘇生スキルが起動した。
動き出した私は、足下一面がガラス状に結晶化していることも、黒焦げになり呻き、掠れた声を上げながら回復しようとしている二人も、白銀色が取れ白色の骨を見せているスルシャーナも、全てを無視して走り出す。
「なっ!?」
「お前達のそういうところが問題を増やすんだ……!」
彼らに対して真反対の方向へ。
驚いたようなツアーと追撃を仕掛けようとするスルシャーナに私は回復した片腕を使い後ろ手で中指を立てる。
「うっせぇバーカ!!! 付き合ってられるか!!!!」
100レベルの身体機能はすぐに距離を離すが、目の前に現れたのは次元断層にも似たエフェクトの障壁。
このエフェクトの魔法はユグドラシルで見たことがない、つまり始原の魔法。
ならワールドアイテムで無効化ができる。
土地一帯を覆うようなそれを私は一刀の元に切り裂き、追加で草原の先に広がる森へ向け【溢血】により範囲を拡大した【真髄:一刀遼断】を発動。
木々が一瞬浮き上がり、倒れる。
目当てだったのは、森に居るであろう亜人や異形種。
結果は、大当たりだ。
「ヒヒッアハハッ!! てめえらだけで殺し合ってろ!!!」
捨て台詞を吐いた私は投げ飛ばした女の傍らへ転移し、まだ空中にいたその女を確保。
追加で範囲スキルを発動、そうしてPK数を稼ぎながら転移し続けた。
ツアーの攻撃を受けてから、蘇生し転移。
この間、5秒に満たない、速攻の逃亡であった。
いつも感想評価誤字報告非常に助かってます、ありがとうございます。
アホほど遅れてしまい申し訳ない…