本拠点に転移した私は少し驚きあたりを見回す。
視界に入るのは広大な洞窟であるギルド入り口、単体では高貴さすら感じられるシャンデリアが雑に大量設置され、本来は薄暗い洞窟の岩肌をこれでもかと照らしていた。
貴重なガチャ産の照明アイテムを使い潰すギルドホームは、風情もクソもない内装と同じように、騒々しく喧しい。
「最終日なんだから金貨ぐらい良いだろ」
「良くねぇよ返せ!」
「かーっこれだから貧民は」
「俺が貧民なら借りたお前は乞食だな」
「ああッ!?」
「逆ギレすんな」
「俺の武器を見てくれ。こいつをどう思う?」
「凄く⋯大きいです⋯」
「ア◯ルパールじゃん、良いのこれ」
「ただの切れた数珠なんだが?」
「こんなの突っ込んだ日にゃ痔不可避だろ」
入り口で怒鳴り声や卑猥な会話を公然と立ち話すプレイヤー。
「うぉおおおおお! 俺自身が花火だぁぁあああああ!!」
「いきなりかっ飛んで来たと思ったら即爆散したんだが。
何あれ」
「最終日になんでレベル落ちるような自爆してるんですかね?」
「汚ぇ花火だ」
「自爆マンまだ居たんだ」
「AOG攻めに行ったけど自爆させて貰えなかったらしい」
「レベル落ちても回復できるからね。
ヒーラーニキ〜!」
「マジでお前ら遠慮するとかしろ、最終日だぞ?
MPも無限ってわけじゃない事わかってんのか」
「見ろよこの全身ゴッズ装備!」
「製作者が部位ごとに違うせいで統一感ゼロなんですが」
「性能だけ見て買うからそうなる、衣装統一クエスト受けてこい」
「そんな時間はないです」
「あっない」
「安い! 安いよぉ! ジッサイヤスイ!
今なら10億でゴッズ一式揃っちゃう!」
「売りたいなら街に出たほうが良いだろ。
本拠点に居るレベルなら大体特化厳選ゴッズ持ってる」
「露天商スペースが⋯埋まっててね⋯」
「上位ギルド拠点探索してたら死んだわ。
ヒーラーニキ頼む」
「だからさぁ何でそんなに死んでんだよ!」
ギルドの外でスキルを発動したプレイヤーが爆散するのを横目に路上で呼び込みをかけるプレイヤー、それを見ながら何人かで地面に座り込み駄弁るプレイヤー、連れ回されているらしきブチ切れているヒーラーも居た。
見たことのある顔はそれだけではない。
「久しぶ、りに復、帰したけどアイテム安、いね〜
市場大暴落、してる〜」
「最終日なのにオークションがあるせいで金貨みんな求めてるんよな」
「最後の最後で金貨の価値が一番上がるとはね⋯」
「金貨稼ぎの狩り場結構人いるらしいゾ」
「最後まで金に囚われるのは人生の悲哀を表してますね」
「オークションでワールドアイテム出品されてるから仕方ないね」
「ワールドアイ、おえっ、テム!?」
「電脳法ニキ驚きすぎて吐きそうになってるじゃん」
「そういやPVPは?」
「吐きそうになった、から途中離脱〜
人数、も集まってたし〜」
「鍛冶職ー! 来てくれぇ! 俺の購入した装備のフレーバー変えてくれぇ!」
「フレーバーだろ?
我慢しろよ」
「内容知ってんのかテメェ!
爽やかなうんこの香り付き(笑)とか絶対嫌なんだが?????」
「小学生かな?」
「はい小学生エアプ。
学校なんて高価なところ行ける出がそんなしょうもない事いう訳ないから」
「農家ニキ、PVP組からまたバフアイテムクレクレされてるけど」
「もってけ」
「サンガツ」
「なあ、農家ニキも去年ぐらい特殊クエスト突破してクラスゲットしたって聞いたんやが」
「まぁゲットしたけど戦闘特化100レベル相手じゃ費用対効果悪いわ、大会出場者とかも無理」
「半分農家なのに戦える時点でヤバイだろ」
「盗撮ネキが課金アイテム持ってるやつ低レアでも見せに来いって騒いでたんだけど知ってる?」
「課金アイテム奪うつもりなんでしょ」
「ゲーム終わるのに????」
「隠し要素あったらしい。
絶対ムリな条件でのみ超大規模な召喚できるアイテム見つけたとか」
「課金アイテムぐらい持ってるだろ」
「ガチャなんて回すのは余裕のある上位だけだぞ」
ギルド内の石畳の上でNPCの酒呑童子を囲み話しているのは数年見なかった電脳法ニキと比較的ログインしていた紫煙を燻らせている農家ニキ、会話の中から察するに盗撮ネキも居るようだ。
「サ終するのに公式何もしないでイベントユーザーに丸投げって舐めすぎだろ」
「クソ運営仕草、最後まで変わんなかったよな」
「だから滅んだ⋯」
「悲しいなぁ」
「移住先見つけてる?」
「そもそも移住無理だわ。
仕事忙しくなってるしゲーム起動するのもめんどくさい」
「わかりみ」
「課金するほど熱量持てないし別ゲー行けるほど長生きできそうにないわ」
「まぁ確かに移住できたとしてもユグドラシルぐらい熱中はできないよねって。
オリジナル武器とか他ゲーでも欲しくなる」
「俺も別ゲー行っても多分途中で死ぬからやる気起きねぇんだよな」
「病人多すぎやろ」
「そろそろ30後半、ゲームでも疲れるようになったし寿命や」
「集会主いる?
PKで敵対ギルドと揉めそう」
「仕事で入れるの今日の夜だってさ」
「マジ? 可哀想⋯」
「仕事は増えるのに休み増えないの永遠の謎」
「私が行っても良いですわよ!」
「OJT様じゃん、マジで引退してた連中よく見るな」
「そこは行って差し上げてもよろしくてよ。
だろ」
「またガバか、キャラ設定が壊れるなぁ」
「元々お嬢様はお嬢様言葉ガバガバだからセーフ」
「仕事忙しいって引退したのに真っ昼間からログインとか、コイツすげぇ嘘つきだぜ」
「五月蝿いですわっ!
こちとら前日まで泊まりでなんとか休日獲得したんですわ!
せっかく助けてやろうとしたのになんて言い草ですの!」
「やろう⋯?
まぁ、お嬢様でも良いか」
「大丈夫? 殺されない?
お嬢様が交渉上手いって言ってもブチ切れてたら関係なしだぞ」
「わかる、謝ったのに殺されたわ」
「謝って済んだら警察要らない定期」
「ユグドラシルに警察は居ない定期」
「最悪の場合は逃げて集会主に丸投げしますわ」
「そこは集会主みたいに責任取って♡」
「いやですわ♡」
いつも以上に騒々しく感じる感覚は気の所為では無い。
最初に私が驚いた理由、プレイヤー達が目に見えて分かるほど増えているという事実。
前回来た時には広大なギルドホールに十数人しか居なかったギルドメンバーや連合プレイヤーが、今見えるだけで百人近くも集まっている。
つまり外に出ているプレイヤーも合わせると100人は軽々と超えているということだ。
連合プレイヤーの多くも引退かアカウントだけ残した実質引退が増えていた中、最終日とは言えここまでの人数が復帰している事実は、私の寒々しい孤独感を完全に吹き飛ばしてくれた。
「お、ゾンビネキ」
「このクソデカゾンビアバターも見納めかぁ」
「NPC最後の見納めに連れてきて欲しかったンゴ」
「変態三銃士の一人来たな、残り二人今日来ると思う?」
「分からん、性癖ネキも全裸ネキも他ゲーですらっぽいやつ居ないって話」
「流石に今の技術でもあいつらの性癖を満たすのはユグドラシルだけだったってことか」
「普通に死んでると思うんですがそれは⋯」
「ゾンビネキぃNPC連れてきてくれよ⋯」
顔見知りのギルドメンバーが集まってきたので私は単刀直入に「集会主はどこか」と聞く。
しかし周りの反応は悪い。
そんな中、一人のプレイヤーが事情を知っているようで口を開いた。
「あ~集会主は仕事に忙殺されてるらしい、自分がユグドラシル来るより早くゾンビネキが来たら、長文ニキに繋いでって言ってた」
「有能、長文ニキは?」
「わかりません⋯」
「はい無能」
「最終日なのにどこいるんだ長文ニキ」
「一応掲示板で聞いたから伝わったと思うよ」
「多分一人でストーリー進めてるんじゃない?
エネミーノンアク化してから色々見に行ってるらしいし」
「あの人単独で幾つのクエストルート見つけてるんだよってレベルだもんな」
「っていうかゾンビネキは長文ニキとメッセージ繋げれるんやろ?
そっちで聞いたほうが早くね?」
「たしかに」
集会主が居なかったことに落胆しながらも来るというのなら夜に顔見せぐらいはできるだろうと気を取り直す。
同時に長文ニキへと久方ぶりにメッセージを飛ばした。
「長文ニキ今どこよ」
「ゾンビネキ?
あっワールドアイテムの件か!
おkおkすぐ戻るわ」
長文ニキが邁進している公式クエスト。
最初の頃は何度か私の方からメッセージを飛ばし同行したが、あまりにも隠れて移動しフレーバーを読むだけの繰り返しで次第に行かなくなったのを思い出す。
終わる今になって、もうちょっと一緒にいればよかったと思うも後悔先に立たずだ。
目の前に転移ゲートが開き、中から出てきたのは漆黒の装束を纏ったプレイヤー。
特徴的なのは青味がかった粘液のようなものが薄く体を覆い、絶えず流動し鋭角を形成していることだ。
しかしそれ以外は少し暗い雰囲気を醸し出す普通の
私が観察しているとそのアバターは、声を発した。
「待たせてすまん」
「ええんやで
会うのも久しぶりやな
そう、このアバターこそ長文ニキである。
「確かに、数週間ぶりぐらいか」
「そんなに!?」
会っていない日々が予想以上に自覚なく積み立てられていた事へ驚愕しつつも確かに会って話したのは数週間以上前。
「一緒に何かやったのも数カ月前が最後か」
「せやせや、アバター作ってもらったのが⋯3,4ヶ月前だっけ?」
「それぐらいかな」
いつの間にか集まらなくなってしまった。
その原因は新しい発見がほぼ無かったのも大きいだろう。
だが何よりも、人を集める集会主がログインしなくなったことが一番の理由だった。
様々なプレイヤーと関わりがあり、ギルドマスターであり、集まるイベントの起案者でもあった彼の不在は想像以上に大きかったのだと身に沁みさせられる。
そんな私を他所に周りのプレイヤーは長文ニキのアバターを見て好き勝手に話していた。
「長文ニキもゾンビネキにアバター作って貰ってたの!?」
「むちむち感薄い⋯薄くない?」
「ある程度普通のアバターにして欲しい言うとったし」
「まぁ長文ニキ基本隠密だし同ギルドからも隠れる隠密で見つけづらいからな。
アバター変更したのはあんまり知られてない」
「数少ない男アバターがまた減った⋯」
「男アバターならここにいるぞ!」
「お前のそれは男でも男の娘だろ」
「なんで変えたん?」
「種族変更で変えたデフォルトが⋯ね」
「クッソキモかったよな」
「もうちょっとオブラートに包めや」
「いやだって全身粘液塗れの男だぞ?
誰得だよ」
「若干アバターも化け物みたいに歪んでたしな」
「でも種族まぁまぁ強いって話やろ?
前提種族が人間みたいなもんだから下位種族取らんでよかったって聞いたけど」
「せやな、分類的には異形種で時間系無効化デフォでついてて転移スキルも付いてるって話しやん」
「異形種ってデメリット考慮しても魅力あるな」
取り留めのない雑談、昔の記憶がまたしても蘇りかけるが今は時間がない。
「そろそろワールドアイテムの件を」
「ああ、すまんな」
長文ニキは一旦会話を打ち切り歩き始める。
私も同じように付いて行こうとした。
「【
瞬間、視界が真っ黒に塗りつぶされ、すぐに白黒の視界に切り替わった。
「なんじゃこりゃあ!?」
「前が見えねぇ⋯」
「なにも見えないだろ」
「おい長文ニキのスキルだろコレ!」
「うぉおおおおお逃すなああああああ!!!!」
「ワールドアイテム個人1位への道がああああ!!!」
「看破使え! まだ近くにいるはずだ!」
「クソが! 無効化できねぇ! 何だこのスキル!?」
何故という疑問を呈す前に、長文ニキがスキルを使用した理由は除外スキル、若しくは看破共有スキルで視界を確保できている私以外、視界が完全に塞がれた周りの反応から読み取れる。
私がワールドアイテムを貸し出している事は有名だ。
掲示板で語られ、wikiにも載っている。
そんなプレイヤーが最終日にワールドアイテムを貸し出していたギルドへやってきた、つまり返して貰いに来たのは自明の理。
そもそも返さず借りパクされる可能性もあったが集会主は真面目な奴だ。
私は心配していなかったし、実際に集会主が長文ニキへ繋いでくれたお陰で横入りされるような状態での返却を回避できた。
時間が迫ってたとは言え集会主や長文ニキに連絡せず訪れるのは考えなしが過ぎる。
基本連合プレイヤーは欲望に忠実なのだから考慮するべきだったと、私は反省をしながら来いとジェスチャーをする長文ニキに付いて行った。
幾つかの細い通路や隠し扉、隠密系アーティファクトで隠された道を進んだ最奥、最低限の灯りだけが灯された小さな十字路の壁をすり抜けた先に、2ちゃん連合の金庫は存在した。
「個別か一緒にまとめて持って帰るか、どっち?」
「一緒に持って帰るわ」
「ほい、集会主がまとめて置いてたから抜けはないと思うけど一応確認して」
「了解」
手渡されたワールドアイテムは、『幾億の刃』『
これで私の現在所持しているワールドアイテムの『アスクとエムブラ、二振りの木の枝』『吸血残滴』『孤王の玉座』『
(いや、カロリックストーンは今日使ったし、他のギルドが溜め込んでて失ってる可能性もあるな、直近で手に入れた外付けMPのワールドアイテムは長文ニキがいない時、運悪く使った帰り道で遭遇した上位ギルドに奪われたけど、まぁ上位ギルドのワールドチャンピオンに目をつけられてたし、しゃーない)
個人でここまで所有出来たプレイヤーは長いユグドラシルの歴史でも存在しなかっただろう。
「どうした⋯?
あの時のことまだトラウマになってる感じ⋯?」
使用したカロリックストーンの確認や集めたワールドアイテムを思い返していると、腰が引けた様子の長文ニキが声をかけてきた。
あの時、それはワールドアイテムの中でも私が1番最初に獲得した『ダヴはオリーブの葉を運ぶ』に関する事件のことだろう。
現在はダヴ乱用事件と掲示板で呼ばれている事件。
やることがなくなっていたユグドラシル衰退期、今まで使っていなかったワールドアイテムを人の少ない今ならば奪われる心配も少なくなるだろうと実験で使用していた時、ランダム転移という事をどこか楽観視していた私達は、転移したプレイヤーから新たな土地や謎の新モンスター情報を手に入れ盛り上がっていた。
しかし最後の転移、ランダムでテレポートした場所は中位ギルドの最深部かつ、そこのギルドメンバーが多くログインしていた時間帯。
逃げる暇も無く殺され、更にその場でリスポンさせられると同時に放たれたのは盗賊職の高位窃盗スキル。
結果、課金のデスペナ軽減指輪も虚しく『ダヴはオリーブの葉を運ぶ』を奪われてしまった事件。
だが一つしかワールドアイテムを所持していた訳でもなく、勝手に実験された訳でもなかった私は、悪戯にワールドアイテムを乱用するとロクなことにならないという学びを得たと自分を納得させ、発狂することはなかった。
しかし、誰が悪いというわけでもなかったと集会主が締めつつも、新要素を次々と見つけた事で一番興奮し使用を推奨していた長文ニキは特に自責し、奪われたのは自分の責任だと思っていたようだ。
私はその事を思い出し、手を振りながら答える。
「いやいや、これでついにワールドアイテム所有者ランキングじゃ1位かなって思ってたんよ」
貸し出しているのだから奪われる可能性もある。
ワールドアイテムを活用し、なおかつ奪われず保持するというのは想像以上に難しい、私はソロプレイで身に染みて理解していた。
だというのに集会主は使う時、連合メンバーを総動員し裏切り者が出たとしてもカバーできるタイミングでしか使用せず、リスク管理を完璧に熟し、実際に使用した場合でも奪われたものは外付けMPとダヴだけに抑えている。
隠れ蓑として利用させてもらっている立場上、一つや二つミスで失った程度、感謝こそすれ責める訳が無かった。
「あー確かに個人所有ランキングなら1位やろな。
でも所有権戻ってランキング上がったってことは狙われるやろ」
「大丈夫、ワープで速攻倉庫に突っ込むから」
「ええ⋯最終日なのに結局使わないんか」
「まぁね」
私の言葉で安心したのか普段の口調に戻った長文ニキと話しながら私は八雲紫を呼び、ついでに対魔忍のユキカゼから自身に監視やマーキングがされてないことを確認して転移しようと指示を出す。
「そう言えばゾンビネキの拠点結局最後までバレなかったよな。
個人利用だから人の出入りほとんど無くて見つかりにくいのはあるだろうけど⋯
結局何処なん?」
「秘密です」
「ですよね。
あっそうだ、集会主が夜来るらしいし、そのタイミングでコテハン集めてるらしいんだけどゾンビネキも来てくれや」
「具体的には何時ぐらい?」
「21時だって、社畜になっちまったよな。
まぁ社畜じゃない方が珍しいけど」
「可哀想⋯
まぁ最後までは居ないだろうけど行くよ」
長文ニキからのお誘いを承諾した私は「じゃ」と一言断りを入れ転移。
ギルドへと帰還し、倉庫にワールドアイテムを収める。
七色鉱の倉庫を見れば今まで貯め続けた総量から1,2割減少しカロリックストーンが生成されているのを発見し、同じように倉庫へ。
暇さえあれば七色鉱を掘っていたというのにそれでも数割減少した事実にワールドアイテム生成の難しさを感じながら、必須条件だったワールドアイテムの確保も終わり、少し余裕ができた私はまたしても八雲紫にワープゲートを開いてもらう。
事前に隠密スキル、【稀術:影遁隠匿】を発動しワープゲートに入れば目の前に広がるのは毒々しい色合いの沼が広がるフィールド。
グランベラ沼地に出た私は沼地に不可解なものを見つけ、即座に手頃なモンスターを殺し【真髄:禍福倚伏】の効果で最大まで隠密レベルを上げる。
敵対モブがノンアクティブ化されている現在、通り抜けるのは非常に簡単で最大まで隠密する必要もないだろう。
そう思っていたのだがグレンデラ沼地の景色には普段来た時とは違い、何かが突き立てられ、並べられていた。
モモンガが最終日の襲撃対策に作ったものなのかと危惧した私は、その不気味な生成物群を迂回する。
侵入がバレないように沼地を抜け、たどり着いた先はナザリック地下大墳墓。
近くにプレイヤーが居ないことを確認しながら動かない骸骨の敵対モブが物悲しさを感じさせる通路を抜け、棺の隠し通路を抜けた先にある部屋にたどり着けば、そこには何時もと変わらない様子の階層守護者シャルティアとお付の
最終日、待機場所が変えられていないNPCに安堵しながら、私は隠密を解かず観察する。
最終日、連合が襲撃をかけていたと話していたことでアクティブ化してる可能性を見越した行動だ。
だが意外にも彼女たちはノンアクティブ状態。
(最近はモモンガ金策狩場でしか見ないし、最終日だけど節約してるのかね。
まぁ私にとっては好都合、私の口から今後の予想とか教えられるし。
でもこれで転移しなかったり見られてたらくっそ恥ずかしいぞ⋯!)
頭を振って羞恥心を消し、私は隠密状態を解除する。
何故来たかと言えば、設定に手が加えられていないかの確認と、いつもの好感度稼ぎ、そして私が今後、顔を見せなくなるかもしれない事と起きるかもしれない転移について話す為だ。
実のところ閑散期に入り、暇な時間が増えた私は数日ごとに此処を訪れていた。
NPCを連れている時もあれば一人で来る時もあり、話す内容も人が減ってきたという話から最近新しく装備を作った事など様々。
しかし記憶が残るのならば私が見棄てず会いに来たという事実に、NPCの心情がギルドを無視してこちらに傾いてくれるかもしれない。
「久しぶり、アルベド、シャルティア、あとヴァンパイアブライドの二人も」
動きのないNPCに対して私はいつものように口を開いた。
「何日ぶりだっけ、1週間?
ごめんねあんまり会いに来れなくて、忙しかったんだ」
私は二人に一番近い椅子に腰を掛けながら話を続ける。
「創造主でもあるプレイヤーは来てくれたかな?
まぁ⋯どっちでもいいか。
今日は大事な話をしに来たんだ」
独り言葉を口にするたび、寒々しい墳墓の壁がそれを呑み込み、音は跡形もなく消えた。
言葉を紡ぐのをやめれば、すぐさま圧し掛かるような静寂が訪れる。
狭い部屋に反響もしない私の言葉が、ここが仮想空間である事を殊更に強調していた。
「恐らく、今日の午後12時ちょうどに君たちは動けるようになる。
それも自分の意志で設定された通りの意志を持って。
動けるようになる原因は分からない、別世界移動したことで命が与えられたとか見えない枷から解放されたとか、考察はできるけど重要じゃないし。
ただそうなると知っているだけで良い」
私は既に切除された喉が渇いた気がして言葉を区切る。
「動けるようになった世界は今のユグドラシルとはまるで違うものになってる。
レベルは低いし装備も低位のものばかり、ただ極稀にユグドラシルに近い高レベルの人間やワールドアイテムを所持した存在が居る。
覚えてる限りでは無効貫通の完全支配のワールドアイテムがあった筈だ。
あとドラゴンの中でも竜王と呼ばれる連中、竜王になんか付いてた気がするけど⋯まぁ重要なのはそいつらの使う特殊な魔法は基本ワールドアイテムでしか防御できないってこと、気を付けて。
ま、転移したあとの世界に関してはこれぐらいかな」
一応、転移後世界において気をつける事を列挙するが、随分と薄れた前世の記憶には自信が薄く、あやふやな言葉だけが残った。
「なので危険度が高いのは外より中、ナザリックの連中だね。
特に、君たちが私に従っているという事実は徹底的に隠して、もし記憶操作などで見られそうになったら拒否、無理そうなら逃走。復活とかの仕様は分からない現状、ナザリックに依存してる状態だから命大事に行動して。
あとは⋯そうそう、メイドの二人、たぶんシャルティアは私が作ったとき一緒に手を加えたから知ってると思うけど、その二人にも教えてあげて。
タブラさんは最後に設定権とか全部くれたけど、メイドの二人を作ったときはこの場所も無かったし、設定もガチガチに固められてて位置替えなんて出来なかったからなぁ⋯」
椅子に座り、足を組み替えながら話したいことはだいたい話し終わったかと脳内で反芻する。
そして一番話さなければいけないことを話してない事実に気がついた。
「そうだそうだ、私の話だよ。
えーと、その転移後の世界って基本的にワールドアイテムを持ったプレイヤー、まぁユグドラシルの存在がギルドごとだったり単独だったり、正確にはわかってないけど百年ごとに転移する仕様だと思ってるんだよね。
それで私も転移すると思うんだけど⋯いつになるかが分からない。
もしかしたら君たちより先に転移してるかもしれないし、後に転移してるかもしれないんだ。
最悪、100回目の転移とかになる可能性もある、というか200個もワールドアイテムがあるんだから100個目でも早い方⋯なのかな?
まぁ複数所持者や未取得品未発見品の存在もあるし少なく見積もって100回の転移があるとする、それでも中間は五十回目、君たちが一番最初に転移していたら5000年の遅延が発生する。
確か君たちが転移するのは10回目未満だったはずだ。
9回目だとしても91の確率で私は居ないし、最悪万年単位で会えなくなる」
言葉を止め、私はNPCをじっと見つめる。
NPCは変わらず無表情で、未だポリゴンの塊でしか無い。
「⋯あるかもしれない膨大な時間、君たちは不安になるだろう。
見捨てられたかと思うかもしれない。
私が今言ったことも覚えていられず、忘れていくと思う」
私はゆっくりと立ち上がってアルベドとシャルティアに近づき、インベントリを開いた。
「それでも、それでもだ。
私は絶対に君たちを見捨てないと誓おう。
それが君たちの設定を変更し、創造主から奪った私の責任だと。
これはその宣誓だ」
インベントリから取り出したのは4つの紫色を持つ指輪、レアリティは
目の前で説明しながら机の上に置く。
アルベドには拘束、移動阻害完全無効化というタンク職垂涎の指輪を。
シャルティアには私の七色鉱提供でゴッズ装備も多くなっていたことから効果選択に悩んだが、一定HP以下でダメージ減少効果の指輪を。
残りの2つも同じくテーブルへ、先ほど話した内容とほぼ同じものが記された手紙と一緒に。
「内側に名前が書いてあるから間違えないように、メイドの二人にも渡して上げて。
忘れそうになってもこの指輪で思い出してくれると⋯嬉しいよ。
後はヴァンパイアブライドの二人にも何かあげたかったんだけど装備できないから⋯いや転移後ならできるのか?
⋯とりあえずリジェネ効果のネックレス置いとくか。
ま、色々言ったけど私が先に転移してる可能性もあるし、そこまで深刻に受け取らなくても大丈夫。
転移したあと見つけやすいように分かりやすい目印とか立ててくれてると助かる。
いや原作だと⋯国を興すんだっけ⋯?
やべぇ記憶があやふやだ⋯」
そして私は椅子へ体を預けた。
熱の回った頭を冷ますように、アルベドやシャルティアの装備をカペラの能力で調べたのを思い返す。
(ちゃんと装備構成考えられて作られてたから合う装備作るの悩んだんだよな。
特にシャルティアは私が七色鉱提供したからかほぼゴッズだったし。
っていうか作ったあとに気づいたけど指輪って重くない⋯?
冷静に考えるとヤバいよな)
それに私は先ほどの言葉も冷静になって振り返り頭を抱えた。
「あ~クッソ、監視されてるのにテンション上がっちゃったよ⋯
マジで恥ずかしいな⋯恥ずかしさ紛らわせるために雑談でもするか。
⋯一人だけど」
その後、取り留めのない話を一人、NPCへ話し続け、気持ちも落ち着いた頃。突如かかってきたのは【
ヘスティアのレベリングが完了した連絡だった。
時計を見れば既に夕方へ入っている。
「⋯じゃあ、早めに合流できることを祈ってるよ」
言い残した私は隠密を発動し、隠れながらナザリックを後にした。
***
【ユグドラシル】質問スレ【part309】
739:名無しの電脳
オークションにマジでワールドアイテム出てんじゃん
740:名無しの電脳
情報遅い
741:名無しの電脳
知らんが
742:名無しの電脳
買えねぇよ
あの開始値段設定ギルド資金前提だろ
743:名無しの電脳
ワールドアイテムなんだし個人で買わずにギルドで買えというのは当たり前では⋯?
744:名無しの電脳
効果そこまで良くないしギルドランキング上げで買うやついるかな程度だろ
上位ギルドは獲得目指すだろうけど
745:名無しの電脳
ワールドサーチャーズ結局最後まで未発見ランキング独走してたな
746:名無しの電脳
一応追従してるプレイヤー居ただろ
747:名無しの電脳
長文ニキね
便利な人力wiki扱いだけどワールドサーチャーズから協力要請来るぐらいには有能だからな
748:名無しの電脳
我らが2ちゃん連合にワールドサーチャーズからの協力要請が来るとは誇らしいぜ
749:名無しの電脳
連合に対してじゃなくて長文ニキに対してなんだよなぁ
750:名無しの電脳
いうて公式メインストーリーやろ?
ワールドサーチャーズってストーリーよりも世界観とか未発見地帯の探索主目的じゃなかったけ?
751:名無しの電脳
世界観に一番近づけるのがメインストーリーだろ脳味噌詰まってんのか
752:名無しの電脳
ナノマシーンなら詰まってるが
753:名無しの電脳
宝の持ち腐れですね
754:名無しの電脳
宝(外郭民でも購入可)
755:名無しの電脳
猫に小判だろ
756:名無しの電脳
どっちも一緒や
最終日だしストーリーの展開なんかないの
757:名無しの電脳
何一つない
長文ニキに聞いたけどラスボス戦の前提がそもそも上位ギルドの大部分が協力してやっとだって愚痴ってた
758:名無しの電脳
なら無理じゃん
759:名無しの電脳
運営はマジでテストプレイしたほうがいいと思う
760:名無しの電脳
そんなユグドラシルがテストプレイもしてないみたいな言い方⋯
761:名無しの電脳
>>744
そこまで効果悪いか?
装備時にNPCの前提条件全部無視して特殊クエストとか隠しクエスト受注できるのは強いだろ
上手く行けば最上位クラスのみの構成できるじゃん
762:名無しの電脳
馬鹿か?
受注できるだけでクエストクリアしても獲得した職業に前提職業設定してあったら結局取る事になるんやぞ
763:名無しの電脳
長文ニキがくっそ欲しがってたけど高すぎて諦めてたからクエスト進めるための素材の一つだったんじゃね?
764:名無しの電脳
装備時っていう制約のせいで奪われやすいのが一番ゴミ
765:名無しの電脳
やっぱPKがここまで流行ると運営も思ってなかったみたいっすね
766:名無しの電脳
クソ運営たる所以
767:名無しの電脳
最終日だからもっとゴッズ投げ売りされてるかと思ったのにそこまで売られてないな
768:名無しの電脳
もうオークション始まってるからな
とっくに金貨欲しいやつは売ったやろ
769:名無しの電脳
朝は凄かった
全盛期の5分の1の値段とか
一番安かったのは全身ゴッズで5億
770:名無しの電脳
マジか
771:名無しの電脳
まぁ性能はお察しやけどな
772:名無しの電脳
最終日の終わる瞬間にゲームマスターとかがプレイヤーと交流するの別のDMMOとかではよく見るけどそういうのないんか
773:名無しの電脳
さっきから無いって言ってんだろ記憶領域ぴゅう太かてめぇ
774:名無しの電脳
ぴゅう太⋯?
775:名無しの電脳
150年前のゲーム機とかよく知ってんな
776:名無しの電脳
オマエモナー
777:名無しの電脳
意外と掲示板活性化してて驚いたわ
778:OJT様
それなですわ
779:名無しの電脳
お嬢様も復帰か
780:名無しの電脳
そろそろ驚かなくなってきた
781:名無しの電脳
復帰するやつ多くね?
782:名無しの電脳
サ終の日ぐらいは復帰するやろ
783:名無しの電脳
なお連合全体では100人超えたぐらいの人数しかまだ来てない模様
784:名無しの電脳
お嬢様は1回マジでお嬢様言葉学び直せ
785:名無しの電脳
なんか良さげなゴッズ装備格安で売ってたから購入したんだけど絶妙に合わない
装備一式丸ごと購入したほうが良いなこれ
786:名無しの電脳
オンリーワン装備だからな
目指す先があってその為に装備を作るんだし完璧に合わせるなら自分で作ったほうが早い
787:名無しの電脳
厳選⋯ゴッズ生成失敗⋯ウッアタマガ⋯
788:名無しの電脳
厳選とかいうやって当然みたいな底なし沼
アレのせいで俺の10年間の給料の半分が定期的に抜かれ続けた
789:名無しの電脳
課金アイテムがないとデータクリスタル抜き出せないのゴミすぎ
790:名無しの電脳
運営は金の亡者だから仕方ない
791:名無しの電脳
正直今の時点で自作ゴッズ持ってない奴が買ってるだけだから
あと金が余ってるやつ
792:名無しの電脳
金余ってたらデータクリスタル購入して専用武器作成依頼した方が早い
793:OJT様
>>784
どこで学べるんですの?
794:名無しの電脳
たまーに最高レアリティの誰にでも使えるデータクリスタル入った恐らく上位プレイヤーの装備が流れてきた時は争奪戦(物理)発生してましたね⋯
795:名無しの電脳
>>793
⋯アーコロジーの上流階級とか?
796:名無しの電脳
お嬢様エアプ乙
マジのお嬢様はそんなですわですわ言わないから
797:名無しの電脳
こいつ言いやがった⋯!
お嬢様を見て誰もが思いながらも心の奥にしまい込んでいた言葉を⋯!
798:名無しの電脳
しまい込んでましたか⋯?
799:OJT様
しまい込むどころかぶん投げてませんでした?
記憶改ざんやめてくださる?
800:コンソール破壊累犯
ゾンビネキから天使系NPCのレベリング任せられたんだけど性能がおかしい
zombieNPC.jpg
801:名無しの電脳
記憶操作魔法でも受けたんでしょ
802:OJT様
おファッ!?
803:名無しの電脳
ゾンビネキの巨乳ツインテロリじゃんって思ったらなんだこの効果範囲!?
804:名無しの電脳
見える範囲ほぼ全域に浄化届いてますね⋯
805:名無しの電脳
ゾンビネキさっきワールドアイテム1つ増えて2つ減ったからワールドアイテムで強化でもしたんじゃね?
806:名無しの電脳
嘘やろ!?
807:名無しの電脳
ユグドラシルでワールドアイテム使用数ランキングあったら絶対1位独走状態だよな
808:名無しの電脳
ゾンビネキみたいに俺もワールドアイテム同時使用とかしてみたいわ
809:名無しの電脳
なぁ、天使系の光輪と色とか違くね⋯?
810:名無しの電脳
【速報】ゾンビネキ、ワールドアイテム所有数8つへ急増
因みに1位のAOGに肉薄したしゾンビネキより1個下のギルドとの所有数はダブルスコア差
811:名無しの電脳
嘘やろ!?!?!?
一人だけ別ゲーやってんだけど!
812:名無しの電脳
一人だけ別ゲーは元からでは
813:名無しの電脳
ソロプレイヤーでどうやったらそんなワールドアイテム集められるんだよ
しかも最終日
814:名無しの電脳
なんか情報RMTで集めてたけどそれかね
815:名無しの電脳
RMTで本当にワールドアイテム持って行く様な奴はユグドラシルに居るわけないから
816:名無しの電脳
実際居たらカルマ値高そう
817:名無しの電脳
そりゃ稼ぐような行動しないで上限いっぱいあるやろ
居たらの話だけどな
818:名無しの電脳
さっき本拠点にゾンビネキが来て長文ニキと合流してたから返却したんだと思われ
実際連合全体のランキング下がってる
819:名無しの電脳
そう言えば来てましたね、長文ニキがFFあるスキル使った理由も察せたわ
820:名無しの電脳
逆に2位に駆け上がるほど貸してた事実に震えたよ
奪われてたと思ったけどしっかり保護してんやな
821:名無しの電脳
>>819
どうせ取引の瞬間にPK仕掛けようとしたの見抜かれたんやろ
822:名無しの電脳
大規模な祭りの時ぐらいでしか使わなかったし、それも安全が確保された場面だけとか言う用意周到ぶり
823:二眼レフ
課金ガチャアイテムの小鬼将軍の角笛
ほぼ不可能な条件下でのみ数千の味方召喚できることがわかった
uragobuhue.jpg
これ以外にも隠された使用方法や条件での強化があるかもしれないので課金アイテム持ってるやつは持ってこい
824:名無しの電脳
情報が⋯情報が多い⋯!
825:名無しの電脳
なんで最終日に課金アイテムの新情報が判明するんですか???
826:名無しの電脳
景品表示法違反だろ
消費者庁コラボはよ
827:名無しの電脳
え? つまりガチャでゴミだと思ってたアイテムが実は最強だったってこと?
828:名無しの電脳
平成のラノベかよ
829:名無しの電脳
令和かもしれない
830:名無しの電脳
よく条件読め
簡単に言うと戦力差数十倍かつ自身のレベル30以下だぞ
しかも召喚されるの最大でも45レベル以下だし
831:名無しの電脳
意味ないじゃん結局
そのレベルのハズレアイテムは殆ど金貨に変えるか捨ててると思うしまぁ死蔵してるやつなら持ってるかもしれんが
ついでにサ終決定したから今はガチャもできないし
832:名無しの電脳
あれでしょ、対プレイヤーの嫌がらせ最終手段てきな
833:名無しの電脳
【速報】ゾンビネキ、ワールドアイテムをさらに1個追加で獲得、9つに
834:名無しの電脳
だから情報量多いって!
咀嚼しきれてないのに追加すんなよ!
835:コンソール破壊累犯
この衝撃を共有したかったんや⋯
まさかここまで追加来るとは⋯すまんな
836:名無しの電脳
ええんやで
837:名無しの電脳
まぁこれは良いか
838:名無しの電脳
誰目線だよ
あと2,3話でユグドラシル編を終わらせるって言ったのに続いちゃってすいません。
転移まで書こうとして掲示板抜きで2万字超えたので流石に分割しました。
残りは明日投稿するので許せサスケ
いつも感想評価誤字報告ありがとうございます!