ソロプレイヤー、ナザリックに挑む   作:No_46

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閑話
もしもナヅキがナザリックに所属できていたら。


 2138年、ユグドラシルサービス終了日。

 

 私は今

 

「残ってくれヘロヘロさあああん!!!!!」

 

 全力でヘロヘロに向けて土下座していた。

 

 

 ***

 

 

 ナインズオウンゴール期に運良く所属して10年以上が過ぎた。

 

 初期の頃はウルベルトなどから疑いの目を向けられることが多く、変に動いてギルドを追放させられたら洒落にならんと全力で媚を売りまくる生活。

 

 結果的にロンギヌスだろうワールドアイテムにより聖女ちゃんが消滅、デメリットなしの蘇生スクロールが消えたことでよりPKが嫌厭され、アインズ・ウール・ゴウンの嫌われ度合いも跳ね上がり、バトルロイヤルにて速攻で皆殺しにされたが仕方がない。

 

 私はその間に必死でパーティへ同行したり、NPCを見せびらかしたりして好感度を稼いでいた。

 最終的にホワイト・プリムやペロロンチーノと仲良くなれたので結果オーライ。

 疑われた時も相手を宥めてくれたのは非常に助かった。

 

 だがアインズ・ウール・ゴウンに受け入れられた一番の決め手はやはり、NPCの造形を手伝った事だろう。

 ギルドの仲間だからと格安で造形を請け負い、完成したNPC達を見て依頼したギルドメンバーは喜び、そこからパーティに呼ばれることも増えていった。

 

 そうした反応で安心した私はたっち・みーからPVPの戦闘を学びつつ、本格的にワールドチャンピオンへ向けて1人で装備を整え始める。

 受け入れられたことで前よりも自分からパーティに入ることはなくなり、自由に動けたことで心労もかなり和らいだ。

 

 と言っても仲良くなれたギルドメンバーから誘われた時は積極的に参加し、逆に行き詰まった時はかなり手伝って貰ったが。

 

 そんなこんなで装備を整え挑んだワールドチャンピオン戦だが、最終局面でたっち・みーに敗北し、残りの大会でも最後までワールドチャンピオンを取得することは叶わなかった。

 

 たっち・みー曰くゾンビという種族が足を引っ張って居るという事と、特殊な上位クラスの所持数が少ないので決定力が足りていないということ、隠しクエストを探してもらったりしたが、取得できた特殊クラスはサムライ:抜刀術系列の無双一刀流抜刀術のみ。

 

 やはり唯一持つ特殊クラスが対モンスターに特化している事と、ギルドへかけられた情報統制によりワールドエネミー等の情報入手が遅れ、ギルドメンバー全員がガチビルドというわけではないのも討伐に手間取った要因だろう。

 

 しかしそんな失敗も笑い合えるギルドの雰囲気は良かったと思える。

 

 やがて最盛期に入り、私の環境が一変する出来事があった。

 

 私が生きていた施設に警察の手が入ったのだ。

 救出され、病院のような場所で検査を受けている時にやってきた警官、彼がリアルのたっち・みーだった。

 保護しに来た管轄の警官では無かったが、ユグドラシルでの言動から私が施設に囚われていることを察知し、やや強引に強制捜査へ参加したらしい。

 

 苦笑いしたその顔は優しく、やっぱ性根って顔に出るんだなぁと思っていれば、意外にも私の病状は重かったようで面談はすぐに終わり、1人で過ごすことが増えた。

 暇かと言われればそんなことはなく、検査で忙しなく体を調べられ、そんな中で初めて食べた味付き栄養剤の美味さは今でも覚えている。

 

 最終的に発症してしまった半身麻痺を治すには貯金も足りず、せめてと購入した補助器具でなんとか電脳空間での仕事は出来るように。

 

 動けるようになったと分かれば速攻で病院から放り出され(終わった……)と思ったが幸いにも、アーコロジーの大企業で働いていた経歴から就職自体はつつがなく行えた。

 

 就職してからは面倒な事が色々と増えた。

 今まで気にしていなかったスチームバスでの身体洗浄や日用品の購入、それらを半身麻痺した身体で毎回こなすのは重労働。

 たっち・みーからは手伝いを呼べばと助言されたが、生憎そこまで金銭に余裕がある状況でもない。

 不味いと言えど、全て自動で食料や水が供給されていた前職の便利さを身に染みて実感させられた。

 

 しかし、良かったこともある。

 筆頭は好きな食事を購入できるようになったことだったが、オフ会にも参加出来るようになったことだ。

 

 今までも片手で数える程度に開催されていたオフ会、親睦を深める機会に参加できていなかったのは個人的に少し疎外感を持っていた。

 

 復帰した直後に開催されたオフ会、着るのにも慣れた防護服で松葉杖を使いながら到着した会場はアーコロジーに近い外郭の飲食店。

 

 入ればそこには年齢層豊かな人々が既に各々で酒を飲み始めていた。

 

 最初はポッド生活の弊害で成長しきれていない低身長から迷い込んだ子供だと思われたが、プレイヤーネームと実年齢を教えたことでつまみ出されずに済んだ。

 

 初めて参加したオフ会、アーコロジー住みのメンバーが過半数を超えている事実に驚いたり、身内ネタで笑ったりしていれば時間はすぐに過ぎ去る。

 解散する時にたっち・みーへ、お見舞いの感謝を伝えていればウルベルトから謝罪されたことには驚いた。

 

 その後は共にログイン頻度が下がってしまったので変に企業の闇へ首を突っ込んで死んでないことを祈っている。

 

 オフ会に参加したことでリアルの身体を心配される事も増えたが、逆に言えばそれだけ重要人物になれたということだろう。

 

 そしてこのオフ会を機に、プレイヤーは減っていった。

 

 閑散期にユグドラシルも入った為だ。

 

 色々と手を尽くしたがアインズ・ウール・ゴウンの仲間を引き止めることは出来ず、定期的にログインするのは私とモモンガだけになった。

 

 だが、今日は最終日。

 運が良ければ何人か引き留められるかもしれない。

 そんな思いで私はユグドラシルにログインした。

 

 

 ***

 

 

 ログインして目に飛び込んでくるのは漆黒の黒曜石に似た材質で形成された巨大な円卓と、そこに並べられた座る者の居なくなった椅子達。

 唯一の着席者は紫色を基調に、金のアクセントが入る豪華絢爛な魔法職のローブで身を包んだスケルトンのプレイヤー、モモンガだけだった。

 

 挨拶を交わしながら私はその一席へ座る。

 

「お、今日も居るね〜モモンガさん」

 

「もちろん、最終日ですからね。

 ナヅキさんもお体は大丈夫ですか?」

 

「よゆーよゆー。

 義肢にも大分慣れたしね、もう松葉杖使わずに歩けるよ。

 誰かきた?」

 

「有給取って昼ぐらいからずっと居ますが、まだ誰も来てないですね」

 

「あ~そっか残念。

 私は今日最後までいるし何人かは会えるでしょ」

 

「……だと良いんですけど」

 

「まぁまぁ。

 あ、そうだ昨日市場見て回ってた時にゴッズ丸々投げ売りされてたんだよ!」

 

「マジですか! 

 効果は?」

 

「タンク系の……まぁ特化はされてないんだけど必須なデータクリスタルは入ってたので買っちゃった」

 

「必須データクリスタル入ってるなら当たりじゃないですか。

 最終日なので買ってどうするっていうのはありますけど」

 

「それはそう」

 

 そうやって円卓で駄弁っていれば、ログインエフェクトと共に現れたのは漆黒の粘体。

 

 ヘロヘロだった。

 

 

 ***

 

 

 ユグドラシルサービス終了まで残り1時間を切った円卓の間には、3人のプレイヤーが居た。

 

 豪華絢爛なローブで身を包む最高位のマジックキャスター、オーバーロードのモモンガ。

 

 絶えず流動するドロドロとした漆黒のアバターを震わせながら、伸ばした粘液を触手のように扱っているプレイヤー、その柔らかそうな見た目とは裏腹に前線でモンク職のクラススキルと古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)の種族スキルを駆使して装備破壊を繰り返すスライム種、ヘロヘロ。

 

 背中まで覆うボサボサの紫がかった黒髪に浪人笠を被せ、青白い死人のような色味の豊満な肉体に赤黒い和服を着崩し、不機嫌そうな鋭目と口、深い隈が特徴的なプレイヤー、パンデミック・キャリアーのナヅキ。

 

 かつては42人もの人数が集まっていたこの円卓、だが今残っているのはこの3人だけだった。

 

「だから薬も増えちゃって……」

 

「確かにきついですね、薬もタダじゃないですし」

 

「そうなんですよ! 

 ただでさえ少ない給料が薬代でも消えてくので医者にかかれない! っていうかそもそも医者に行く余裕もない!」

 

「医療費も高いからね、仕方ないね……」

 

「ナヅキさんは実感してますよね……6年前でしたっけ。

 急にログインされなくなったと思ったら企業のポッドに入れられてたところから救出されたっていう」

 

「あれ驚きましたよね〜モモンガさんとかナヅキさん心配して定期的にログインしてないか聞いてたんですよ」

 

「いや、本当に申し訳ない」

 

「まぁ私としてはその後に開催されたオフ会で救出されてまだ数ヶ月しか経ってないのに参加してきたって部分が驚愕でしたよ」

 

「まだ義肢の操作にも覚束なかったので松葉杖ついてたんだけど……逆に心配させちゃったみたいでホント……」

 

「栄養も調節されてたんでしたっけ、凄くちっちゃくてやまいこさんとか心配してましたよ? 

 ちゃんと食べてるのかとか」

 

「ああ、確かに覚えてます、取り皿に食事どんどん盛られてビビってましたよね」

 

「そりゃさぁ! 合成とは言えゼリーとかじゃない食事よ!? 

 お高いでしょうってなるわ! ちょうど退院直後でお金もなかったし!」

 

「えっそうだったんですか?」

 

「普通に奢るって言っても払って来ましたから慰謝料か何かあると思ってたんですが」

 

「慰謝料なんて医療費で速攻溶けたよ」

 

「ひぇっ、アーコロジーの医療は高額って聞いてましたけどそこまでとは……」

 

「かといって外だと信用が薄いっていう」

 

「ヘロヘロさんの言う信用問題もありますよね」

 

 そうこう話していれば、愚痴の種も尽きてくる。

 

「……すいません、愚痴っちゃって」

 

「いえいえ、愚痴程度なら幾らでも付き合いますよ」

 

「私も色々愚痴っちゃったからええんやで。

 それに愚痴を吐き出せるのが最高の仲間ってそれ、一番言われてるから」

 

「モモンガさん、ナヅキさん。

 ありがとうございます、私もログインして久しぶりに仲間と会えて嬉しかったですよ。

 ですけど、そろそろ」

 

 ヘロヘロの触手がコンソールを操作し始めた。

 

「ああ、もうそんな時間ですか。

 翌日早いって言ってましたからね」

 

「ちょおおおおっと待ったああああ!! 

 ヘロヘロさん帰るの!? 

 あと1時間無いのに!?」

 

 私はこのタイミングしかないと声を張り上げ、立ち上がる。

 

「え、ええ。

 明日は4時起きなんです、少しでも寝ておきたくて……」

 

「そこを! そこをなんとか! 

 最後まで居ましょうよ! 

 最終日、もうここで別れたら会うタイミングなんて天文学的確率でしかないですよ!」

 

「いやっでもですね」

 

 意志は固いが逡巡していた。

 

 私は立ち上がったままヘロヘロの前まで歩き、膝を折る。

 そのまま上体を倒し額を地面につけた。

 

 いざ喧嘩となれば阻止しようと立ち上がりかけたモモンガの動きが止まる。

 

「残ってくれヘロヘロさあああん!!!!!」

 

 こうして冒頭へと繋がる訳だ。

 

「えっちょ何やってるんですかナヅキさん!?」

 

 戸惑いで動きが止まったモモンガさんが驚愕しながら疑問を投げかけてくる。

 

「人にモノを頼む態度、土下座だ! 

 モモンガさんだって最終日ぐらいは、最後まで一緒に過ごしたい! 

 だろう!?」

 

「いや、それはそうですけど……

 ヘロヘロさんにも事情がありますし……」

 

「モモンガさぁん! 今日で最後なんやぞ! 

 最後ぐらいは他人の事情なんて気にしないで本心を話すんや!」

 

「なんで急にエセ関西弁……?」

 

「良いから! 本心は!?」

 

「……そりゃあ私、いや俺だって一緒に最後の時を過ごしたいですよ!」

 

「聞いたか!? ヘロヘロさん! 

 我らがギルドマスターもこう言ってるんだ! 

 この最高のバランサー! 

 いつも自分の意見を飲み込んでギルドメンバーのために動いてきた滅私奉公の鏡! 

 究極の日和見主義者が!」

 

「それ最後褒めてます?」

 

「褒めてる褒めてるめっちゃ褒めてる」

 

 モモンガの疑問に答えながらも私は土下座を崩さない。

 

 ヘロヘロは悩むように漆黒のアバターを揺らしていたが、やがて動きを止め

 

「……そうですね……今日で最後なんですもんね。

 なら今日一日夜更かしするぐらいは、大丈夫ですよね」

 

 そう言いながらコンソールを消した。

 

「マジでぇ!? ありがとうヘロヘロさん!」

 

「本当ですかヘロヘロさん!?」

 

「ええ、数少ないギルドメンバーにも、何よりいつも頑張ってギルドを維持してくれていたギルドマスター、モモンガさんにも言われたら、ギルドメンバーとして従わないわけにはいきませんとも」

 

「本当に、ありがとうございますヘロヘロさん……!」

 

 顔を見ずとも感無量の様子がわかるモモンガの震え声を聞きながら私はスクッと立ち上がる。

 

「ヨシッ! 

 じゃあ残りの時間どうする? 

 ここで話しながら最期の時を迎えてもいいけど、折角なら玉座の間行こうぜ」

 

 内心安堵しながら、私は口を開く。

 転移することを直接言わなかったのは、やはりそんな馬鹿げた話を信じて貰えるわけがないという事が大きい。

 それにアインズ・ウール・ゴウンのプレイヤーはリアルに大事なものを持っている人が多かった、変に転移すると興味を引いて連れて来て、不和の原因にでもなれば目も当てられない事態へ向かうのは自明の理だ。

 

 言っては悪いがモモンガとヘロヘロは特に、現実世界に居場所がない。

 2人とも社畜で内一人は明確に体を壊している。

 更に言えば天涯孤独で、現実世界に引き留められるようなものがないことも聞いていた。

 この二人ならばまだ問題は少ないだろうと考え、何より私とモモンガの二人だけだと不安な部分も存在したからだ。

 

 原作ではモモンガはアインズを演じ、自らを押し殺す。

 だがギルメンが2人もいればなんとかなるだろうという楽観的な希望もあった。

 

「玉座の間ですか、ソリュシャンも居ましたし顔見に行きたいですね。

 モモンガさんはどうです?」

 

「私も賛成です。

 メールで返信が来たのはヘロヘロさんだけでしたので……

 多分もう来る人は居ないと思います」

 

「ほいじゃ行くか」

 

「あっそうだ。

 最後ですしギルド武器持って行っていいですか?」

 

 私の提案に2人が賛同し、席を立ったタイミングでギルド武器の持ち出しを願ったのはモモンガ。

 

 対して私もヘロヘロも笑顔のアイコンを浮かべながら肯定した。

 

「もちろんです、ギルド武器もやっと本来の持ち主へ所持されて嬉しがるでしょう」

 

「私も同意、別にギルドマスターなんだから聞かないで勝手に持っていっても良いんやで?」

 

「いえ、アインズ・ウール・ゴウンは多数決を重視するギルドですから、私がそれを破ってはギルドマスターとして示しがつきません」

 

「真面目だなぁ」

 

「ですね」

 

 モモンガを茶化しながらも朗らかな空気が流れ、モモンガがスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを装備する。

 

 まるで本来の使い手のもとに収まった喜びを表すようにエフェクトが湧き上がった。

 

「見た回数少ないけどやっぱすごい作り込みだな」

 

「ナヅキさんが七色鉱かなり集めてくれましたね。

 エフェクトはウルベルトさんでしたっけ」

 

「あの頃はほぼ炭鉱夫してたなぁ」

 

「よく覚えてますねモモンガさん」

 

「そりゃあみんなで作り上げたギルド武器ですから、ヘロヘロさんが有給取って必要なアーティファクト集めに協力してくれたのも覚えてますよ」

 

「何回まわっても狙いのアーティファクト出なくて発狂しかけてたの思い出しました」

 

「ははっ、ドロップ率低すぎだろ! ってキレてましたもんね」

 

 装備を整えるモモンガを筆頭に円卓の間を出れば、佇んでいたのは私が最初に作成したNPC、羽川翼だった。

 

「羽川翼ですか、久しぶりに見ました」

 

「万能だからね、一応私の専属秘書官って設定にした」

 

「ナザリックでみんな役職持ちだから付けたってメイド作成の時に聞きましたよ」

 

「最後だし、一緒に玉座の間に連れて行ってもいいでしょ。

 ……いいですよねモモンガさん?」

 

「最後ですし構いませんよ」

 

「サンキュー! 

 ついてきて」

 

 私のコマンドで追従を始めた羽川翼を後ろに、私たちは10階層に到達した。

 

「おー、プレアデスにセバス、戦闘メイド勢揃いじゃん」

 

「ソリュシャン久しぶりに見ましたね、やっぱり良い……」

 

「メイドはヘロヘロさんが一般メイドも含めて3分の1を作成されたんですよね」

 

「そうですね〜、戦闘メイドは、ソリュシャン一人だけなんですけど、イラストを描いてくれたホワイトブリムさんと造形してくれたナヅキさんには頭が上がりません」

 

「ホワイトブリムさんは私の造形あんまり気に入ってくれなかったけどね……」

 

「えっなんでですか?」

 

「エッチすぎるって……」

 

「ありましたありました。

 確か、メイドは瀟洒であるべき!

 色気を出すのは邪道だ! 

 でしたっけ。

 最終的に造形をホワイトブリムさん自身が一から造形までやったNPCとナヅキさんが造形だけやったNPCで別れたんですよ~。

 イラスト上手い人はしっかり造形も上手かったのは才能感じましたね〜」

 

「うっフルリテイクされた記憶ががが……」

 

「ははっホワイトブリムさんらしいですね」

 

 過去の話題にも花を咲かせながら、メイドたちも伴い私たちは玉座の間へと足を踏み入れる。

 

 無事に入れたことに一息ついた理由はやはり、ギルド一番の問題児が理由だった。

 

「流石のるし☆ふぁーさんも玉座の間には仕掛けてなかったみたいですね」

 

「もう時間もないのに仕掛けられてたら許せなかったので良かったです」

 

「ギルドマスターにそこまで言わせる、るし☆ふぁーヤバすぎる」

 

「でも造形はやっぱすごかったですよね、さっきのレメゲトンもそうですけど、やっぱりアーティストはどこか飛んでないとダメなんですかね」

 

「ヘロヘロさんそれ暗にるし☆ふぁーさんディスってる?」

 

「何事もなくてよかったじゃないですか、それにもう玉座の間ですよ」

 

「最後だし写真撮ろうぜ!」

 

「いいですね、それぞれ好きなポーズして……ってあれ?」

 

「アルベドじゃないですか」

 

 ヘロヘロの言葉通り、居たのはアルベド、その手にはしっかりとワールドアイテムが所持されている。

 

「タブラさんか……? 

 みんなで集めたワールドアイテムを勝手に……」

 

「まぁまぁモモンガさん、最後ですし大目に見て上げましょうよ」

 

「いちいち気にしてたらハゲるぞ」

 

「ハゲてねーよ! 

 ……来てたなら顔ぐらい見せてくれたら良かったって思ったんです」

 

「時間がなかったか……若しくは愉快犯でしょうね」

 

「タブラさんならやりそう」

 

 と、そこまで話していればモモンガが追従させっぱなしだったNPCに気付き、待機を命令した。

 

「やっぱりコマンド操作はキツイですよね。

 今じゃAI乗っけて大体の指示聞いてくれるらしいですよ」

 

「ヘロヘロさん別ゲーやってたんですか?」

 

「ゲームニュースでみました」

 

「なるほど」

 

「ペロロンチーノも尻に行っちゃったからなぁ。

 最後ぐらいは来ると思ったんだけど、アバター消してたのがマズかったか」

 

「ペロロンチーノさんとナヅキさんは特に仲良かったですよね〜」

 

「定期的にぶくぶく茶釜さんからペロロンチーノさんと一緒に怒られてましたもんね。

 本物の弟妹みたいで微笑ましかったの覚えてます」

 

「一応茶釜さんより年上なんですけど……」

 

「茶釜さんは姉御気質ありましたからね〜

 ペロロンチーノさんが吸血鬼、ぶくぶく茶釜さんがダークエルフの姉妹ででしたっけ?」

 

「シャルティアとアウラ、マーレって名前ですよヘロヘロさん」

 

「よく覚えてますね〜

 そういえば設定も作れたから色々盛ったなぁ。

 特にタブラさんは設定魔でしたし」

 

「ちょうどアルベドもいるので見てみますか」

 

「あっ、ちょま」

 

 止めるまもなくモモンガが開いたアルベドの設定欄が流れていく。

 

「なっが……」

 

「設定魔すぎるでしょタブラさん……ってこれ」

 

 そして最後の一行を見て、一瞬空気が止まった。

 

「ナヅキを愛している……」

 

「ええ⋯ナヅキさんこれは……」

 

 ドン引きした様子のヘロヘロとモモンガに私はアバターの動きを交えながら必死で弁明する。

 

「いや! これはちゃんとタブラさんと交渉して入れたから! 

 セーフ!」

 

「NPCに愛してるは拗らせすぎてません?」

 

「しっモモンガさん! 

 ナヅキさんは出会いが……」

 

「うるせぇ!」

 

 楽しい時間はすぐに過ぎていく、気づけばサービス終了まで残り時間は数分も無かった。

 

 急ぎで3人写真を取るアーティファクトで各々ポーズを取りながら写真を撮り、玉座に半ば無理やりモモンガを座らせて、最後の時間を待つ。

 いつの間にか黙り込んでいた空間で声を発したのはモモンガだった。

 

「ヘロヘロさん、今日は本当にありがとうございました。

 明日も早いのに俺のわがままに付き合わせてしまって申し訳ないと思っています。

 でも、最後の時間を共に過ごせて、本当にうれしかった、嬉しかったんです。

 ナヅキさんも、ログインする時は何時もいて、金策にも付き合ってくれて本当に助かりました、話し相手がいるだけで、ギルドを守ってきてよかったって、そう思えます。

 最後にヘロヘロさんを引き留めてくれたことも、感謝しきれません」

 

「……ええ、私も話している中で思い出しました、輝かしい青春を。

 その事を思い出させてくれたんです、仕事に忙殺されて忘れていた大切なことを。

 だから謝らないでくださいモモンガさん! 

 ユグドラシルが無くなっても、俺たちは一生アインズ・ウール・ゴウンですから!」

 

「ヘロヘロさんの言う通り、ユグドラシルが無くなっても繋がりは途切れないよ。

 こんなに楽しかった記憶は一生忘れない。

 それに私もモモンガと一緒に話せてうれしかったからお相子よ」

 

「ありがとう……ございます……! 

 そうですよね。

 楽しかったんだ……」

 

 残り時間10秒もない中で、モモンガが顔を上げ掲げられた旗を眺める、その中には浪人笠と刀が印象的な、私のエンブレムも存在した。

 

 一秒一秒を噛み締めながら、私は時間を眺めていく。

 

 5

 

 4

 

 3

 

 2

 

 

 ……1

 

 

 

 0

 

 その瞬間、私は感覚で空気が切り替わったことを感じた。

 

「……あれ? 落ちませんね。

 ……コンソールも出ない」

 

「モモンガさんもですか? 

 こっちもです、コンソールが出ません。

 GMコールも……ダメですね」

 

「ログアウトできないってことですよね……

 すいませんヘロヘロさん! 

 呼び止めたせいでこんなことに……」

 

「大丈夫ですよ、ゲームの不具合は仕方ありません。

 流石はクソ運営、最後まで締まらない事を。

 ナヅキさんはどうです……か?」

 

 ヘロヘロに問われ私もコンソールを開こうとするが開かない、転移は成功したと見ていいだろう。

 喜びの言葉を飲み込みつつ私も開かないことを伝えようとしたとき、気づく。

 

 二人の顔がこちらを見て動かないことを。

 

「あー私もコンソール出ないんですけど……どうしました?」

 

「いや、ナヅキさんのアバターって笑ったらそんな表情になるんだと……」

 

 その言葉で、私は喜びを抑えきれず表情に出ていたと知り、急いで弁明しようと言葉を連ねた。

 

「い、いや不謹慎ですけどもっとモモンガさんやヘロヘロさんと一緒にいれることが嬉しくて」

 

「はは、それは嬉しいですけどちょっと照れますね」

 

「モモンガさんそうじゃない! 

 いや、そうだけどそうじゃない! 

()()()()()()()()()()!()

 

「……やっぱり……見間違いじゃないですよね?」

 

「少なくとも私も、ナヅキさんの表情が変わってるのが見えます」

 

「……ユグドラシル2とか?」

 

「ここまで精巧な表情変化は……考えられません。

 少なくとも今の技術で出来ることじゃない」

 

 ヘロヘロとモモンガが転移した状況を理解しようと話し合う中、更に困惑された要素が追加される。

 

「ヘロヘロ様! もう、もう何処にも行かないでください! 

 どうか、どうかお頼み申し上げます!」

 

 口を開いたのはソリュシャン、膝をつき、頭を垂れて待機していたセバスとプレアデスの中でただ一人、涙に濡れた瞳をヘロヘロへと注いでいた。

 困惑しながらもその瞳を受け止めるヘロヘロはソリュシャンへ近づき、触手で頭をそっと撫でる。

 

「え、ええ⋯もう何処にもいきません。

 だから泣きやんでくださいソリュシャン」

 

 それを見ながら、モモンガはぽつりと一言。

 

「NPCが……喋ってる?」

 

 自ら動き出したNPCを見ながら、上がった口角を隠すように私は口を手で隠した。




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