ソロプレイヤー、ナザリックに挑む   作:No_46

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異世界編
見敵必殺


 周囲に広がるのは一つ一つが見上げるほど巨大な巨石で組み上げられている、神殿らしき建造物。

 精巧に切り出し、整えられた石がぴったりとはめ込まれ、そこに刻まれた模様はまるで祭場のような神聖さを醸し出している。

 等間隔で存在する支柱には絢爛な彫刻が刻まれ、上を見やれば歪みなく構築されたアーチが美しい曲線を描いている天井。

 目の前の巨大な竜が伸びて3体分はある高さとそれ以上に広いスペース、その中心に私たちは居た。

 

(肌感で分かる、転移は成功している。

 じゃあ……目の前のこいつは何だ? 

 原作で言及されてたか?)

 

 転移自体は成功したようだが目の前に鎮座する巨大な竜の存在を私は知らない。

 そして頭を悩ませる原因はそれだけではなかった。

 

「ラスボスの次に隠しボスとかマジ? 

 ボイス付きとか凝ってんな」

 

 隠しボスと考えたのか声に対して驚いているワールドディザスター職持ち魔法特化の第五回優勝者、プレイヤー名:おねロリす。

 

「UI消えたんだがwwwww

 魔法も使えねぇwwwww」

 

 UIが消失した事で魔法が使えないと笑っているワールドディザスター職持ち魔法剣士の第六回優勝者、プレイヤー名:クーベラ松利、通称クーベラ。

 

「ワールドチャンピオンだけのクエストでモンスター戦やらせるなよ。

 面倒だな」

 

 魔法が使えないという言葉に反応する、両手に大盾と大槌を装備した重戦士の第九回優勝者、プレイヤー名:カチカチのタヌキ、通称タヌキ。

 

「いや……なんかおかしいぞ」

 

 今の異常を察知したのか俯き手を開いたり閉じたりしている大剣装備の第七回優勝者、プレイヤー名:摩利支店長。

 

「ホリックさん、ボスのステータスは見えます?」

 

 目の前の竜のステータスを確認するのは両手に直剣を持った第四回優勝者、プレイヤー名:メイ・ブルース、通称ブルース。

 

「120レベル台、レベル差でほぼ見えない。

 ただHPは残り3割ってところ」

 

 ブルースの問いに答える黒い盗賊装備に身を包んだ第八回優勝者、プレイヤー名:掘ホリホリック、通称ホリック、又は長文ニキ。

 

「……」

 

 無言で肩に巨大なバトルアックスを掛けている第十回優勝者、プレイヤー名:正直者の木こり、通称木こり。

 

 一緒に転移した7人のワールドチャンピオン、想定ではプレイヤーがいたとしても殺害できる用意をしていたが、それはギルドがあればの話。

 更に言えばギルドが共に来ていたとしても7人ものワールドチャンピオン相手には分が悪すぎる。

 

(絶対に転移したら仲間割れするメンツじゃねぇか! 

 そもそもギルドホームはこっちに来てんの!? 

 っていうか120レベルって何!? 

 現地生物は雑魚って話じゃなかったのかよ! 騙された!)

 

 そしてワールドチャンピオン以上に無視できない程の脅威を感じるのは、目の前に鎮座する巨大な竜。

 

 死乃淵渡スキルLv2【死角覚知】のスキル効果が現実世界に入ったことで変化したのか、悪寒と共に竜の一挙手一投足を見逃せないと、脳内で警鐘が鳴らされている。

 

 ワールドチャンピオンが勢揃いした状況と、十数年を積み上げたこの体でも、油断すれば、死ぬ。

 そんな確信があった。

 

 幸か不幸かワールドチャンピオンのメンバー、そのほとんどは、ユグドラシルの裏クエストが開始されただけと受け取っているのか動揺は少なく武器を構えている。

 

()()()()()

 

「どれ、先ずは小手調べといこう」

 

 ビュゴッと光が形となったように伸びたのは、目の前の竜の尻尾。

 身体に沿って横たえられていた長大な質量が、大きさに見合わない馬鹿気た速さで向かってくる。

 

 バッ、と一斉に飛びのき危なげなく尻尾の攻撃を躱す、特にブルースは回避ついでに両手の二刀流で切りつけてもいた。

 

 私自身、ゲームだった時と打って変わり、積みに積み上げたステータスのお陰か見てから回避余裕でした状態。

 竜に対する危機感に反して、死乃淵渡スキルLv1、【死線読み】の危険度を示す赤色は薄く、尻尾自体の脅威はそこまで無い様子だ。

 今まで麻痺していた半身も万全に動かせる。

 実感を持って左手を握り込めば、確かな感触と共に現実感が湧き出した。

 

 そうやって回避した中、一人だけ、現状に異変を感じたのか、しゃがみ込んで手を地面へ当てていた摩利支店長。

 彼は避ける動作もなく大剣を目の前に構えて直撃を受け、尻尾に運ばれ壁面へと押しつぶされる。

 

 轟音と共に整えられた壁面へヒビが走り、砂埃が立ち上ったことで目視もできない。

 

「あれ直撃とかダッサwwwwww」

 

「気を抜くなよ……裏ボスだぞ」

 

「ダメージ表記も見えないのは面倒ですね」

 

「ブルースの斬りつけもダメージ入ってなくね?」

 

 だが私含め、誰一人心配はしていなかった。

 第七回優勝の秘訣、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その所有者であり、ギルドマスター専用職に特化した彼の強さは皆が知っていたからだ。

 

「グゥッ!」

 

 尻尾が血しぶきを上げながら打ち上げられる。

 砂埃が切り裂かれ、見えるのは零れそうな程の蒼い輝きを湛えた大剣。

 うめき声を上げて尻尾を戻し、睨みつけるような眼光をした竜に対して彼は怯むことなく剣を構えていた。

 

 第七回というクラスも装備も殆どが煮詰まり、技量、奥の手勝負と化していた混沌の大会で、ハメれば確殺のような奥の手も持たずに、HPを半分以下にすることも無く優勝を収めるというMMOとして余りに埒外な攻撃ステータスと技量の高さを発揮したプレイヤー。

 絶対に死ぬことは無いという技術への信頼から最高レベルギルドのギルド武器個人所有を許されているのだろう。

 事実、以前ワールドディザスターギルドの襲撃後に戦った時に一番手強かったのも彼だった。

 

「お、今度はダメージ入ったっぽい。

 生半可な攻撃だとレベル差ダメ減で意味ないなこれ」

 

 HPを確認していた長文ニキの言葉で周りのワールドチャンピオンたちは好き勝手に動き出す。

 

 真っ先に仕掛けたのは第4回優勝者のメイ・ブルース。

 それに追従するように第10回優勝者の正直者の木こりが長柄と広い刃が特徴的なバトルアックスを構え、前へ一気に加速する。

 

 向かって行く二人へ再度尻尾が攻撃へ転じるも、二人の目前に迫ったそれを木こりの持つバトルアックスが叩き落す。

 対して竜は尾による押し潰しを無視して傷を受けたことで、ヒットアンドアウェイ戦法に切り替えたのか、尾をムチのように不規則に動かす。

 

 それでも、ワールドチャンピオンをそれだけで押し留められるわけが無かった。

 

 木こりが巨大なバトルアックスで全てを弾き、いなし、更には摩利支店長の付けた傷へ正確に追撃を叩き込む。

 尻尾がメイ・ブルースへ向かおうとしてもピタリと張り付き自由を許さない。

 

 ただ一人に尻尾による妨害が失敗させられたことで、メイ・ブルースは容易く竜の直下へたどり着いた。

 

「私の通常攻撃が通らないとなるとスキルぐらいですかね。

アテナへの剣舞(ソードダンス・トゥ・アテナ)】」

 

 軽快なステップで竜の眼前へ飛べば、両手の剣が煌めき絶え間ない斬撃を浴びせかける。

 鱗にいくつもの傷跡を残すが効果は薄く、空中の彼を叩き潰さんと竜の前腕が伸びた。

 

「【イージス】【武装要塞(アームズ・フォート)】【パリィ】」

 

 それを防いだのは第9回優勝者であるカチカチのタヌキ。

 攻撃があたらないようブルースの真後ろに飛んだ彼は片手に保持した大盾で右腕の爪を受け止めながら反対の手に持つ大槌で左腕を弾く。

 

「これで削れたら良いんだが。

重斬撃(ヘビースラッシュ)】」

 

 その隙にブルースは下落して交代、入れ替わるように飛び出した摩利支店長の大剣が竜の左目を抉った。

 

「【光衣】【竜鳴】ぃ!」

 

 怯みながら竜が選択したのは魔法、体全体が発光したかと思えば地面を揺らし支柱にヒビが入るほどの咆哮が正面に居たカチカチのタヌキを弾き飛ばすが、摩利支店長は影響を受けず距離を取った。

 

「ノックバック無効貫通か」

 

「光属性付与のバフ?」

 

 弾き飛ばされながらも空中で姿勢を立て直し難なく着地したカチカチのタヌキと降り立った摩利支店長。

 今受けた攻撃に意見を交わしているのを横目にノックバックを受けなかった私は回復の隙も与えないようにスキルを発動する。

 

「【真髄:一刀遼断】【秘技:一瀉千刃】」

 

 狙うのは頭部、現実である今、頭部を欠損させれば戦闘継続が出来なくなると予測して放った一撃と行動抑制のために撒いた全身への斬撃。

 

 ズバンッ! という心地良い切断音が竜の頭部から鳴り響く、見れば堅牢だった鱗は切断され、骨であろう白いものが見えていた。

 しかし致命傷には程遠い。

 レベル差ダメージ減少を無効化する【摂理解斬】が発動しているだろうに、頭蓋すら割れていないのだ。

 同時に刻まれた【秘技:一瀉千刃】による無数の刀傷も鱗を割るに留まる。

 

 その様子を見て、私の心、その奥から気の所為と思える程、僅かに湧き上がったのは高揚感だった。

 

(マジぃ? 固すぎんだろ……

 つーかクリティカルが発動しているのかもわかんねぇ! 

 無効化されてるのか……? 

 いやワールドアイテム:吸血残滴の効果で無効化は貫通するはず……

 最高火力の独閃叩き込めば行けるか? 

 それか次元断切なら……

 いや待て冷静になれ、手の内が見えない状況で30秒のクールタイムは致命的だ。

 なんかめっちゃ見られてるし!)

 

 残った右目を見開きこちらを凝視する竜へ思考を止めずに次の一手を打とうとすれば、既に竜の背後へ回っていたのは長文ニキ。

 

「【死角からの一撃】【好機必殺】【次元断切(ワールド・ブレイク)】」

 

 虚空から現れ、軽く振り抜いたように見えるナイフから発生した世界を切り裂く斬撃。

 

 完璧に防げるのはワールドチャンピオンの【次元断層(ワールド・ディスロケーション)】のみ、完全な奇襲を決められた竜はあの巨体を移動させる時間などない。

 何処に当たったとしてもダメージは期待できる。

 

 だが、その予想は崩された。

 

「チッ! 【世界移動】、【剛爪無双】!」

 

 突如、竜の巨体が消失。

 長文ニキの真後ろに現れると同時、両腕から放たれたのは数多の斬撃だ。

 柱も地面も瓦礫に変えるその攻撃から逃れるように姿を消した長文ニキを警戒したのか、竜は大きく翼をはためかせ後退する。

 

 ズシン、という重い着地音とそれに見合った衝撃が巨大な建造物を揺らし、パラパラとひび割れた破片が舞い落ちた。

 

「転移持ちかよ、使い方上手いし」

 

「転移阻害使えば良いだろ」

 

「魔法が使えないって最初に言ったの覚えて無いんですかwwww」

 

「だっる⋯」

 

「そう言えばノックバックの時、ナヅキさんだけ無効化できてたみたいですけど何か積んでます?」

 

「いや、私にもわからん」

 

 竜が一旦引いたのを見てワールドチャンピオンたちが一旦集まり、様々な能力を扱う竜の対処法が話されていると、長文ニキが一瞬で私の目の前に現れる。

 

「間一髪だったわ」

 

「お、やっぱ無事だったか。

 あの爪攻撃結構ヤバげだったから少し心配したけど杞憂だったな。

 てか間一髪なら次元断層使えばよかったくね?」

 

「範囲的にギリ転移で逃げれる距離だったから、実際ノーダメだし。

 っとそうだ、あの竜のスキルはHP消費系っぽいぞ」

 

 私の疑問へ手早く答えた長文ニキは集まっているワールドチャンピオンたちに向けて重要な情報を口に出した。

 

「じゃあ自滅待ちギミックボス?」

 

「自滅wwww」

 

「普通にラスボスより弱いんだから削りきれそうだけどな」

 

「それは店長さんが強いだけですよ。

 ギルド武器の超火力とワールドサバイバーの反転威力バフでやっと削れるのは面倒です」

 

「摩利支店長の火力やっぱおかしいよな⋯」

 

「ゾンビネキ、今それ言う? 

 クリティカル発動してんのか分からないけど一応ダメージは入ってたからもっと建設的な意見出してほら」

 

 長文ニキから言われた通り、私も頭を振り絞る。

 

(苦手なんだよこういうギミック解析⋯転移後の世界だから今までのゲーム知識は役に立たないし⋯

 私の攻撃が通るのは多分レベル差ダメ減無効化のスキルだろうし⋯

 HP消費でスキル発動でしょ? 

 考えろ、異世界でなんかあったような⋯竜⋯竜?)

 

『想像以上だ! 

 まさかこの我の鱗を越え傷を与えるどころか、危機感まで抱かせるとは!』

 

 何かが思い浮かびそうになった私の思考を断ち切ったのは雷鳴のように頭の中へ鳴り響いた声。

 

『我に挑んできた存在は数いれど、ここまで迫ったのはお主らが初めてだ。

 それも人間という脆弱な種が! 

 その力を見込んで、最初の配下となる栄光をお主らに与えようではないか! 

 我が配下となれば、人間であっても国一つ程度、思うがままぞ!』

 

 片目を潰され、顔面に一筋の傷を残しながら尚、高揚した口調で言葉を並べる竜。

 

 しかし、ワールドチャンピオンたちの反応は冷めていた。

 

「もう終わるゲームで配下とかないわ。

 つーか魔法無効化クソすぎる。

 最後だしもうカタス使うか」

 

「逃げて言うことがそれかよwwww

 絶対言動フラグミスってるだろwwwww」

 

「取り敢えず店長さんとナヅキさんを援護する形でやりますか」

 

「おう」

 

「了解」

 

「じゃあ俺は良い感じで不意打ち狙うわ。

 姿現すまで感知して無かったっぽいし」

 

「前出るのは俺か、唯一の盾持ちだし」

 

「⋯露払いぐらいなら」

 

 おねロリすとクーベラ松利が問いかけに答えるような言動をしているのに対して、メイ・ブルースは無視して適当な攻略方針を述べ、摩利支店長と私が同意。

 盾役としてタンク職を持つタヌキと攻撃を弾くのが上手い木こりが自然と立ち位置を決め、長文ニキは遊撃として動くと言い姿を消す。

 

 私自身、異世界だと理解してるとは言え、あの竜の配下となってこき使われるのは御免被る。

 何よりあそこまで強大な存在、まともにスキルも使っていないというのに攻撃の通りがあそこまで悪いのだ、一人だと確実に勝てない。

 ワールドチャンピオンが不和なく協力できる機会など最後だと思っている今ぐらいなものだろう。

 

 竜の大声と違い、声を張り上げて居なかったというのに私たちのけんもほろろな対応は竜に聞こえていたようで、怒気の籠もった声が頭に響く。

 

「そうか、断るか。

 いいだろう! 異世界の贄どもよ! 

 その不遜な態度ごと圧し潰してくれよう! 

 この竜帝が!」

 

 その声が終わると同時に、崩壊したのは地面。

 しかしその程度で終わるほど相手も優しくはない。

 

「棘!?」

 

 地面から現れた無数のトゲに私たちは上へ跳んで躱す。

 

「針山じゃん」

 

 そう呟いた長文ニキへ同意する間もなく。

 

「【瞬間加速】【剣尾形成】【無限切断】」

 

 一瞬で加速した竜、いや竜帝が剣のように変形した尻尾による攻撃を放ってきた。

 色はかなり深い赤、つまり当たれば即死圏内。

 

 周囲のワールドチャンピオン達ごと纏めて薙ぎ払う攻撃、何らかの加速スキルを使用したのか盾を構え前に出たタヌキがその盾ごと両断される。

 

 弧を描くように振るわれるテールアタックの狙いは、直線上に並んだ私と摩利支店長だった。

 

 そして先に当たるのは私。

 

「【擬態屍體】【至刀:独閃】!」

 

 いつもなら使える短距離転移の指輪は魔法無効空間で使えない。

 私はほぼ死ぬことを確信しつつ、諦めながらも直撃コースの尻尾へスキルを発動、弾き飛ばそうとするが私は弾くようなスキルを持っていない。

 特に現在は踏ん張れるような足場もない空中だ。

 

 だが予想外にも、ガキンッという金属的な衝突音が私の振り抜いたワールドアイテム:吸血残滴とテールアタックの衝突により鳴り響く。

 

 何故タンク職でもない私がタヌキを両断したテールアタックを止められたのか。

 把握する間など無い、足場もない空中で攻撃を受けた私の身体は大きく弾き飛ばされたのだから。

 

 両断は回避できたが、尻尾の勢いはそのまま私を壁に叩きつけた。

 

 勢いよく壁に叩きつけられ、ドゴォンッという衝撃音が鳴り響く。

 パンデミックキャリアーの擬態屍體スキルによってより明確に感じたのは背中の鈍い痛み。

 

「カハッ」

 

 人間種へ擬似的に変化した為か、全身へ響く衝撃で呼吸を半ば強制的に止められた息苦しさと共に、喉からか細いうめき声が出た。

 

(やっばいヤバいヤバい! 

 こんなところで死んでられねぇってのに! 

 体力は⋯減ってない。

 リジェネ効果の恩恵だな)

 

 勢いよく叩きつけられたことで壁面に半円状の凹みが作られた、その中心に私は居る。

 

(早く出ねぇとマジで死ぬ!)

 

 離脱しなければタコ殴りだと立ち上がれば、【死角覚知】が本日何度目かの即死攻撃を知らせてきた。

 

「またかよ! 【至刀:独閃】!」

 

 ミニマップだった時よりも正確にわかる場所へ半ば当てずっぽうでスキルを放つ。

 

 同時に先程よりも明確に重くなった重量が刀を持つ腕を通して全身へ襲いかかった。

 擬態屍體スキルによる5レベル低下状態のデメリットだ、腕を振り抜く右腕から聞こえるのはパキパキという異音。

 

「ぐっぅうああああ!!」

 

 それを無視し、気合を入れて叫びながら弾き飛ばせば、何処か爽快感と共に、身体の内から無視できない程の高揚感が生まれ、身体の内が熱くなる。

 堪えきれぬものを吐き出すように、必要無いはずの息をつけば、身体の火照りは少し冷めた。

 

(あ~これ欲望系スキルの効果っぽい⋯けど詳しい確認は無理! 

 ヤバい気配全然遠退いてないし! 

 マジでなんで狙われたんだ? 

 攻撃力? 

 つーか止められるなら【擬態屍體】無駄打ちじゃん⋯)

 

 冷静になって状態を確認、テールアタックの威力を示すように足が地面へ少し埋まっている。

 素早く抜いて、未だ【死角覚知】で無視できないほど感じる脅威の場所を見れば、やはりそこには竜帝が佇んでいる。

 

 その尻尾は剣を形作られているが、大きくヒビが入り大量の血を流していた。

 

「やはりお前もその武器が! 

 世界に匹敵する宝か!」

 

 しかしそれでも、竜帝の顔に苦痛の色はない。

 むしろ喜色に溢れた声色だった竜帝は出血する尻尾を放置して何事か唱えると、感じる脅威がさらに跳ね上がる。

 

(まだ上がるのか!? 

 これ以上あいつが強くなったらマジで勝てなくなるぞ!?)

 

 半ば焦燥感に駆られた私は壁面を強く蹴り、竜帝へ飛ぶと同時に【真髄:一刀遼断】を放ったが。

 

(クソッ止めれない!)

 

 体表を切り裂くだけの斬撃では止めるには不十分、しかし独閃には距離が足りない。

 

 半ば諦めかけたその時、【死角覚知】に新たな反応が2つ現れた。

 

 視線を向ければクロスファイアのように位置しているワールドディザスター職持ちのおねロリすとクーベラ、その両手から放たれる見覚えのある怨念の本流。

 

 ワールドディザスターの最終スキル、【大災厄(グランドカタストロフ)】。

 あれならば竜帝にもダメージを期待できるかもしれない、しかし。

 

(転移持ちだって覚えてねぇのかよ!)

 

 予想通り、一瞬で空へ転移し、残ったのは私一人。

 空中での移動手段は転移だが縛られている今使用はできない。

 

(思いっきり2人の直撃ルートに入ってんだよなあ! 

 どうする!? 

 特異開眼スキルで遠距離攻撃は逸らせるけどいけるか!?)

 

 私に迫る怨念の塊へ刃を振るうが⋯

 

「いや2人は無理!」

 

 逸らしきれずに飲み込まれ、全身を包む焼けるような激痛と同時に私の意識は沈み、即座に回復した。

 

 アンデッドに戻った事で先程まで感じていた痛みがまるで他人事のように感じるが、それよりも今は竜帝だと起き上がろうとする。

 

 その時、五行の紋章が巨大化し続けながら頭上へ広がり、天井を通り抜け消えた。

 

 思わず呆気にとられるが、同じように竜帝も呆然と頭上を見ている。

 

 私は好機だとダッシュでワールドチャンピオン達に合流すれば、少し離れただけだというのにその空気はかなり刺々しく変化していた。

 

「……五行相克使いましたね?」

 

「魔法使えないと俺等置物のままだしwwwww」

 

「最後なんだからいいだろケチケチすんなよ」

 

「今言ってましたよね? 

 世界に匹敵する武器って。

 さっきの咆哮でナヅキさんと店長さんだけが、ノックバックを無効化している。

 恐らくワールドアイテムの世界の守りによって竜帝のスキル効果無効化が可能だと見ました。

 この程度が分からないならゲームより先に精神科の受診をお勧めしますよ」

 

「俺の魔法のメインは幻術だからセーフ」

 

「しwらwなwいwよwwww」

 

「そうじゃなくても共同所有だったのに勝手に使うのはダメだろ、二十の一だぞ分かってんのか」

 

「お前一つ持ってんだから良いだろ、最後にゴチャゴチャうるせーんだよ死ぬか?」

 

 勝手にワールドアイテムを使用したらしきマジックキャスターの二人に対し、語気荒く問い詰めているのは共同で所有していたらしきメイ・ブルースと摩利支店長。

 そんな身内割れ一歩手前の私たちに対し、竜帝が叫ぶ。

 

「き、貴様らァアアア!!! 

 世界を! 

 我の世界を変えたな! 

 許さん、許さん許さん許さん!! 

 異世界の贄共めが! 宝物のみを残し死ぬが良い! 

【滅尽の吐息】!」

 

 怒り狂う竜帝から放たれたブレス攻撃、見たことのないほど深まった赤色のそれは瞬く間に私たちへと迫った。




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