ソロプレイヤー、ナザリックに挑む   作:No_46

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不穏な空気と手がかり

 彼は熟練の斥候だった。

 

 5つの時には足音の消し方を覚え、10を数える頃には森のあらゆる動物を生け捕りにした。

 隠れたハゲ猿の群生地を見つけた時には村中のメスから求愛を受け、もっとも美しい今の妻に求婚し受け入れられた。

 子供にも恵まれ、強く聡明な子を多くもうけた。

 

 やがて年を取り、技術の衰えを鋭敏に感じ取った彼は指南役として村に貢献し、彼に指南を受ける者が増えていく。

 彼らの成功を楽しみに家で待つ、そんな生活がここ数年続いていた。

 

 ところが、いつも通り若い男衆への指南を終え、寝床に入ってからのこと。

 轟音が鳴り響き目が覚める。

 外に出れば、赤く照らされた巨大な雲が見えた。

 最も偉大なる竜の御座す地、村の司祭である大婆から行ってはならないと強く言い含められ、行くと口に出すだけで村の男衆から袋叩きに合うほどの禁域。

 そこが、まるで不吉な未来を予言するかの如く、赤に照らされている。

 

 一体何が起こったのか、彼は真っ先に斥候として志願した。

 老い先短いことは分かっている、だからこそ危険な場所には私が行くべきだ。

 禁域の境目も熟知している。

 必ず情報が必要になる。

 村長と大婆へ強く嘆願したことで、彼は禁域直前までの接近を許された。

 

 長く使っていなかった仕事道具は手入れを欠かしていない。

 何年ぶりか、手入れの行き届いた道具を装備する。

 指南役として働く内に忘れていた感覚が思い出される。

 最後に、末の娘と妻から口づけをもらい、彼は音も立てずに駆け出した。

 

 心の内にあったのは、己の情報で村の命運も左右されるだろうという責任感。

 森を走る内に斥候としての経験が呼び戻される、やがて夜明けの日がさし始めると共に森と草原の境目が目に入った。

 聖域と他を分ける偉大なる竜の御業。

 細心の注意を払い、伏せながら森のギリギリまで進んでいく。

 ようやく見えたその風景は、彼を絶句させるに余りあるものだった。

 

 過去に一度、神事で近づいた時に目に入った、偉大なる竜の荘厳な神殿が跡形もない。

 それどころか周囲がまるでクレーターのように抉れている。

 穏やかな風が草花を揺らしていた大地は溶け、未だ冷めていなかった。

 

 偉大なる竜がお怒りになった、と彼は考える。

 ここまでの天変地異を起こせるのは、御伽噺に聞く竜だけだと。

 

 竜の怒りを収められる存在など同じ竜しか存在しない。

 このまま怒りが収まらなければ我らの村まで溶け落ちる可能性がある、そう判断した彼は踵を返し、音を立てず、しかし最も早く走り出した。

 

 彼の動きは全盛期を含めた過去の中で最高のものだった。

 だが、数メートル走る間もなく、体が倒れる。

 何があったのか認識する暇もなく、彼の意識は倒れると同時に途切れた。

 

 

 ***

 

 

「⋯」

 

「⋯」

 

 緊張からかお互いに言葉はない。

 目視できるような範囲に隠密状態の私と長文ネキが近づいていくも気づかれた様子はなく、感じ取れた生物の姿が目に入る。

 

 その姿は人間からかけ離れたものだった。

 

「犬人間?」

 

「亜人種でいたドッグマンだろ。

 プレイヤー⋯にしては装備が随分と見窄らしいな。

 ⋯動きも変だ⋯ロープレ勢みてぇな」

 

「今の状況でロールプレイは筋金入りだろ」

 

 ドッグマンは私たちには視線を向けず、その背後を見ていた。

 思わず零した言葉に長文ネキは答える。

 私は緊張を解してやろうかと茶々を入れるも、その直後、眼前のドッグマンが反転して走り出した。

 

「⋯はぁ!? バレた!?」

 

「やっぱレベル偽装か、拘束する」

 

 驚愕する私と裏腹に、長文ネキは腰に下げたホルダーから黒いエフェクトを纏うナイフを引き抜くと、一息でドッグマンの背後へ到達し、刃を振り下ろす。

 

 さくり、あまりにも軽く突き刺さったのは肩、そのまま袈裟に切り裂かれ、現れた鮮やかな赤色に現実味をより帯びたのか長文ネキの表情に緊張が走った。

 

 背中に袈裟斬りを受けたドッグマンは大量に血を流しながらも走り出し、数歩進んで倒れ落ちる。

 血は絶えず大地へと吸い込まれ、やがて止まる頃、ドッグマンはピクリとも動いていなかった。

 

「⋯これ死んでね?」

 

「⋯嘘やろ」

 

「オイオイオイ死んだわアイツ⋯!」

 

「いや違っ! 

 麻痺乗っけた通常攻撃だぞ!? 

 看破できるレベルのやつがこれで死ぬとか予想できるわけないだろ! 

 ⋯ひとまず何か情報持ってないか漁るぞ」

 

 私の危機感知スキルも反応が消えている。

 拘束すると言いながら殺した長文ニキはまさか通常攻撃で死ぬとは思っていなかったのか動揺しながらも、ドッグマンの体を漁り始めた。

 

 装備を剥ぎ手に持つが、生憎私は鑑定系のスキルを所有していない。

 使い込まれた様子だけが見て取れる。

 私は物品から情報を読み取ることは諦め長文ネキへ渡し、目に見えて情報が載っていそうな地図などがないか探し始めた。

 

 すべての装備を剥ぎ取り、しかし有るのは盗賊用の装備だけ。

 

「地図ぐらい持ってないのかよ」

 

「手紙とか身分証みたいなもんもないな。

 蘇生する?」

 

 諦めて蘇生しようと提案すれば長文ネキは悩みながら口を開く。

 

「持ってるアイテム、一つもユグドラシルで見たことないんだよな。

 ……プレイヤーじゃないかも」

 

「自作アイテムで揃えてるんじゃね?」

 

「こんな低レベルな装備で? 

 流石に始めたばかりでもこれ以上の装備は持ってるだろ。

 それに始めたばかりの奴がアイテムとか一から造型して装備するか?」

 

「……まぁ確かに。

 で結局蘇生しないの?」

 

「俺らどっちも魔法職じゃないから蘇生魔法使えないんだよな。

 ……死体持って集合場所に行くか。

 一人だったのが心残りだけど」

 

「おっけ、じゃあ私が持つから周囲警戒よろ」

 

 死体を持ち帰ることを決め、私が死体を担ぎ上げる。

 抜けかけてはいるものの未だ濃い血の臭いが鼻腔を擽り、スキルの影響か恍惚とした気分になるのを抑えながら、私は長文ネキと共に歩み出した。

 

 

 ***

 

 

「いい加減に諦めてくれませんか? 

 ごねるせいで話が進まないんですよ」

 

「そうそう、変に弄ったりしないから安心しろ」

 

「だったら自分らですればいいだろうが!」

 

 集合場所に近づけば、耳に入るのは冷静な言葉と激高した罵声。

 

 どうしたんだと目を向ければ、クーベラとおねロリすが魔法を発動しようとしているのが見える。

 その対象は、たぬきと木こり。

 逃げ回ってはいるものの、援護するようにブルースが立ち回っているせいかクーベラとおねロリすの魔法を避けるので精一杯。

 ただ一人、摩利支店長だけが動かず静観していた。

 

「……何やってんの?」

 

 長文ネキが口を開くと同時にいつの間にやら隠密が解かれ、私と長文ネキの姿が現れたことで周りの動きが止まる。

 

「……ナヅキさん、その肩に担いでるモノは?」

 

「え、なんか、森の方で見つけたんだけど……

 拘束しようとしたら、死んじゃった」

 

「……プレイヤーですか?」

 

「わからんわ。

 俺とゾンビネキが近づいて観察してたらいきなり逃げ出そうとして、見えてるのかと思ったけど普通に通常攻撃で死んだ。

 つーわけで蘇生してくれ」

 

 長文ネキの言葉でおねロリすがインベントリからワンドを取り出し、蘇生し始める。

 それを横目に私と長文ネキは攻撃されていたタヌキと木こりに近づいた。

 

「何があった」

 

 小声で端的に問いかけた長文ネキ、たぬきと木こりは無言で歩き出し、私たちもそれについていく。

 やがてブルースたち4人の声が聞こえないほど距離を取ったところで気を抜いたように座り込んだ。

 

「なんか記憶操作の魔法試したいと動かないならせめて実験台になれみたいなこと言ってきてさ。

 まぁ最初はゲームだと思ってたしいいかなと思って受けたらガチで俺の現実の色々言い当てられた。

 で、記憶操作って書き換えできるじゃん? 

 やばいと思って振り払って抵抗してたとこ」

 

 一息に言い切るたぬき、同意するように頷く木こり。

 内心(もう内部分裂しかけてるじゃん! やばいやばい)と思いながらも疑問に思ったあることを口に出す。

 

「え、じゃあさっさと逃げた方がよくない?」

 

「……あの手の奴は面倒が嫌いだからな、抵抗するワールドチャンピオンより楽に試せる実験台が居るならそっち使うだろうし。

 ただ変に別行動して完全に敵対したと思われたら容赦なくつぶしに来ると思うぞ」

 

「……今のとこあの4人で固まってるのがヤバイ。

 ……一応店長は止めようとはしてたけど、言いくるめられてたし」

 

 たぬきの言葉に同調するように殆ど無口だった木こりが口を開いたことに驚きつつ、4人の行動に私は少なからず衝撃を受けた。

 

(この状況で他プレイヤーを速攻で実験台にするとか頭企業かよ……

 いや、企業の上位層って可能性は実際あるのか。

 いざってときに人間の本性は出るもんなんだな……

 唯一仲間に引き入れられるぐらい良識を持ってそうなのは店長だけど……言いくるめられたってことはそこまで立場強くないのか? 

 危機感知はまだ発動してない……敵対してないからなのか、具体的なところは分からんけどまだ行動一緒にしても大丈夫なの……? 

 最悪一人別行動してNPCに見つけてもらうのを待つか……

 いやいや、いま言ってただろ私! 

 別行動して敵対したらワールドチャンピオンが4人確定で襲ってくるんだぞ!? 

 ……一緒に行動したくねぇけど……とりあえず様子見するしかない……か)

 

 正直、私が【伝言(メッセージ)】の指輪を無くしてもそこまで動揺しなかった理由は、NPC側から連絡が来ると予想していたからだ。

 彼女たちは私がメッセージを覚えさせていたので私にもつなげることが出来ると予想していた。

 だが現状一人行動をして敵対した場合の脅威が大きすぎる。

 そして転移から一時間は経っているだろう現状、未だメッセージが来ないということはあちら側でも何らかの問題が起きた。

 若しくはまだ転移していない可能性もある。

 

 一先ず行動を共にする理由へ納得をし視線を暫定上位組4人の方へ向ければ、タヌキが言った通り蘇生されたドッグマンは早速クーベラから魔法をかけられていた。

 

「あの人を人と思わない感じ、アーコロジーでも下層民食い物にしてる上層の連中だろうな。

 ……一先ず同盟でも組むか? 

 敵対しそうになったら協力するみたいな」

 

「……お前らいざとなったら裏切りそうなのがな」

 

 たぬきはそう言いながらもため息をつき、「逃げる時の殿をナヅキがやるならいいけど」と言い放った。

 

「……え!? は!? なんで私!?」

 

「いや、一番殿向いてるのナヅキじゃん。

 俺もタンクだけどメインじゃないし攻撃は一撃必殺タイプだし」

 

 たぬきの言葉に反論してくれと私は長文ネキに視線を送るが。

 

「まぁ仕方ないだろ、ゾンビネキのスキル殆どクールタイム短いし、リジェネや阻害無効持ってて蘇生も複数持ちだろ? 

 これ以上時間稼ぎに適したプレイヤー居らんわ。

 何なら以前あの4人相対して時間稼ぎどころか一人殺した実績もある」

 

「その時は殺されてるし現実の今とゲーム時代は別やろ……!」

 

「……まぁ最悪俺も助けに行ってやるよ」

 

「頼むでホンマ」

 

 結局殿は私と長文ネキの連合組が担当することで、一時的な同盟を組むことはできた。

 

(……とりあえず同盟組めたってことはこいつらと敵対する可能性を抑えれたってことで……

 嫌でも殿……まぁ最悪広域スキルぶっぱして速攻逃げれば、長文ネキもいるし……

 クッソなんで私が殿なんだよ!)

 

「でもまだ同数なのがな、五分五分なのは少し安心感に欠ける。

 店長引き入れられない?」

 

「信頼もないし多分連合嫌われてるから難しいだろ。

 現状の中立っぽい立ち位置のままなら……ってのは楽観的過ぎるわな。

 言いくるめられて攻撃に参加してくる可能性もあるし」

 

「なんかやったっけ」

 

 長文ネキが摩利支店長を引き入れられないかと口を開くが、たぬきは難しいと断じる。

 私が理由を思い浮かべず疑問を口に出せば長文ネキが答えてくれた。

 

「だって俺らのギルド狩場独占とか横入りPKとか死ぬほどやってたじゃん。

 店長のギルドそういうの絶対禁止だったはずだぞ」

 

「そういうことだよ、俺もお前らとこんな状況じゃなきゃ同盟組みたくないし。

 少なくとも信頼積み重ねないと今すぐ仲間に引き入れるのは無理だろうな」

 

「ああ……」

 

 納得はしつつもやはりどうにかして引き入れたい。

 摩利支店長はワールドチャンピオンの中でも最強と言える人物なのだから。

 

 そして、たぬきから爆弾が投下された。

 

「あと一応信頼して話すから絶対アイツらにばらさないでほしいんだけど。

 俺、竜ボスとの戦闘で二回死んでるからデスペナ軽減指輪使ってたとは言え多分レベル下がってる」

 

「は?????????」

 

「……5レベル低下してる……な。

 これじゃ同盟組んでも不利じゃねぇか……! 

 マジで店長がどう動くかに俺らの命運が懸ってるぞ」

 

 何とか対等だと思っていたところに投下された一名レベルダウンという情報。

 最前線で鎬を削るワールドチャンピオンにとってその5レベルは致命的だ。

 

 長文ネキがステータスを確認したようで顔に手を当てて考え込む。

 

「とりあえず全力で店長に媚び売るか」

 

「ええ……私媚び売るの嫌なんだけど」

 

「アインズに入ろうとして昔全力でゴマ擦りしてたんだからゾンビネキはできるだろ」

 

「失敗して追放されたんだよなぁ」

 

「お前ら二人女アバターなんだから色仕掛けでもすれば?」

 

「殺すぞ」

「死ね」

 

 たぬきのあまりにもあんまりな提案に長文ネキと私は罵倒で返した。

 そうこう話していれば近づいてきたのはブルース。

 

「プレイヤーではありませんでしたが村があるそうなので行きますよ。

 ある程度知識持ってる人物もいるみたいですし。

 休んでないで早くついてきてください。

 あと変なことは考えないように」

 

 その背後では、哀れにも蘇生され、情報を抜かれた直後殺されたらしいドッグマンの死体があった。

 こちらの言葉も聞かず、端的に命令した彼の姿を見ながら、釘を刺されたことに(話を聞かれてたのか?)と不安になる。

 小声で長文ネキへと相談すれば。

 

「あの言い方じゃ聞かれてないだろうし安心しとけ。

 ……たぬきと木こりも店長を引き入れる方法考えてろよ」

 

 小声で返ってきた返答に私は安堵しながらも、安全で自由な生活は未だ遠い現実に泣きたくなってきた。

 

 

 ***

 

 

 建物が一刀両断され崩れ落ちる。

 

「そこら辺最初に合流した時全員できなかったからなぁ。

 GMコールどころかコンソールも開けないし、ゾンビネキは繋がったりする?」

 

「UI見えないしコンソール開く訳ねえだろ」

 

 長文ネキへと教えるように左腕を動かすが何も起きない。

 私は右手で逃げようとした一人のドッグマンに【真髄:一刀遼断】を放ち、両断する。

 もっとスキルを放ちたい欲求が鎌首をもたげるが、我慢。

 

「ゲーム時代だとコンソール見えてたのが今どうなってるか分からんのよな」

 

「デバフ状態とかも見えないんだっけ」

 

 目の前で火柱が上がる。

 

「これぐらいで良いでしょう。

 皆さん攻撃やめてください」

 

 ブルースの言葉で攻撃が止まり、静寂が訪れた。

 

「さて、隠れている者は出てきなさい! 

 出てこないのならばこのまま村ごと焼き殺します! 

 一人でも逃げたら同じく追って殺します! 

 いいですね!」

 

「カスのジョルノかな?」

 

「ワザップジョルノ定期」

 

 私がその言葉にネタを思い出していれば、続々と集まるドッグマン達。

 

「これで全員ですか?」

 

「は、はいっ! 

 その通りです!」

 

 ブルースの問いに答えるのは杖をついていたドッグマン。

 だが杖はすでに手から抜け落ち、文字通り総毛立てガタガタと震えながら土下座のように頭を垂れていた。

 しかしその視線はブルースではなく私に注がれている。

 後ろに集められ、同じく震えているドッグマン達も同じだ。

 

「私何かやったっけ?」

 

「気づいてないかもだけどゾンビネキ、めっちゃ笑顔でドッグマン切ってたからそれ原因じゃね」

 

「えっ、マジか笑ってた? 

 ⋯にしては怯え方おかしくないか」

 

「それはそうなんだが。

 スキル効果で精神に影響出てるっぽいし切れば?」

 

「この状況でスキルオフは普通に危ないだろ、ドッグマンは弱かったけど。

 それに精神に関わるタイプのスキルはなぁ、オフ機能ないんだわ。

 元はゲームだったから気にしてなかったんよな。

 ⋯そう言えばスキルで周囲に恐怖のデバフ与えるやつあったから怯えてる原因それかも」

 

「それだろ」

 

 スキル効果に言及され、思い出したのはツジギリLv5クラススキルの【辻斬怪道】。

 周囲に恐怖デバフを与える効果を持ちながら、クリ倍率やクリダメ、ステータス強化や斬撃スキルのクールタイム減少、デバフの刃傷、特殊デバフの致命傷を与える効果を持つスキルだ。

 自らのスキルのことは忘れていなかったが、ゲーム時代は回復阻害の致命傷以外ではほとんど通ることがなかったのもあり忘れていた。

 

「隠密使えば効果消えるから気づかなかったわ。

 でも効果いろいろ入ってるし必要な時以外切りたくねぇ〜

 切らないでもなんとかなる⋯か?」

 

「草、それじゃあ低レベル相手に交渉無理じゃん」

 

「恐怖付与とか低レベルの無効化スキルで抵抗できるのに弱すぎやんけ」

 

「それな、ドッグマン弱すぎる。

 なんで最初攻撃ふっかけてきたんだ?」

 

「話聞く限り人間種弱いのかね」

 

「クラス100レベル分埋めれるのに? 

 ⋯ドッグマン10レベルもないし普通に勝てるだろ」

 

「死んで食われてるっぽいんですが」

 

「最初は弱いからしゃーない」

 

 長文ネキと会話しながら私はドッグマン集落へ入る前の摩利支店長の言葉を思い出す。

 

「現実化したということはゲームと同じく数に質で勝つのが出来なくなってると考えられる。

 現実ではいくら高性能な兵器も何百何千という数には蓄積するダメージや補給の面で無敵じゃない。

 いくら強くても第一回ワールドチャンピオンみたいに人数でゴリ押されたら勝てないからな。

 だからできるだけ刺激しないようにしとけよ」

 

 そう言って真っ先に村へ入った摩利支店長は兜を外し、挨拶をした瞬間に攻撃を受け、それが開戦の狼煙となった。

 

「店長はどう? 

 顔面に思いっきり爪立てられてたけど」

 

「無傷だったよ」

 

 長文ネキへと確認すれば、無傷との返答。

 だろうな、と内心思いながら私は長文ネキと共に、ブルースの交渉を見ていた。

 

「なるほど、なるほど⋯

 では周囲を焼き尽くして構いませんね? 

 クーベラさん、おねロリすさん、お願いします」

 

「絶対嘘ってわかってるだろwwwww

魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)】【電撃球(エレクトロ・スフィア)】」

 

「それな。

魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)】【電撃球(エレクトロ・スフィア)】」

 

 2人から放たれた【電撃球(エレクトロ・スフィア)】は森へと到達し、一気に膨れ稲妻を迸らせる。

 さらに追加で何度か【電撃球(エレクトロ・スフィア)】が放たれれば、集落の周りに存在した森は完全に焼け焦げていた。

 

 愕然とした様子のドッグマン達にブルースは笑顔を向けながら口を開く。

 

「さて、これで私たちの力も、逃れられないことも理解できたでしょう。

 村長と司祭の大婆とやら、前に出てきてください。

 あの雷撃を受けたくなければ、わかりますよね?」

 

 固まっていたドッグマンたちはその言葉で再起動を果たしたのか、ざわめきを起こしながらも2人の老いたドッグマンが前に出る。

 

「ふむ、どうです?」

 

「潔いじゃんwwww

 ちゃんと本人wwwww」

 

 ブルースの言葉にクーベラが答える、最初に出会ったドッグマンに二人に関する記憶があったのだろう。

 

「ではお願いします」

 

「了解wwwww」

 

「あんまり魔力消費したくないんだよな」

 

 そう言いながらも村長と司祭に対して魔法が発動される。

 それを見ながらブルースは言った。

 

「では、残りは用済みですし逃げないように殺してますか」

 

 同時に2つの剣が抜かれ、一番近くにいたドッグマンの親子に刃が届こうとした時、ガガキンッと硬い音が鳴り響く。

 

「待てよ、流石に無抵抗で指示にも従った奴らを殺すことはないだろ。

 貴重な言葉が通じる奴らだぞ?」

 

 止めたのは摩利支店長。

 大剣を盾のように構えて、ブルースの二刀流を防いでいた。

 

「⋯甘いですね店長さん、彼らを生かしておけば、何処かから情報が漏れて最初の竜レベルが複数押し寄せてくる可能性もあるんですよ? 

 少なくとも殺しておけば、蘇生されるまでは情報が漏れることも無いでしょう。

 そして生かすことにメリットもない、既に何人か殺してますし恨み心頭なのは目に見えてます。

 それに彼らは人間を食べていた、記憶で見たでしょう? 

 不穏の芽は摘むのが基本だと、アーコロジーの我々は知っている筈ですが」

 

「⋯じゃあ記憶操作魔法で」

 

「魔力が貴重な今全員に使うなんてことできません、そもそも足りないですよ。

 それに人間を食べるなんて生物は駆除するべきです。

 あまり駄々をこねないでください、店長さんだって分かってるでしょう? 

 今の最善は殺すことだって」

 

 俯く摩利支店長を通り抜けたブルースは気を取り直すように刃を構える。

 

「ではそういう訳ですので、すいませんね」

 

 そう言い終えると一分も経たない内に、生き残っているドッグマンは村長司祭だけになっていた。

 

「どう思う?」

 

「アーコロジー外じゃ生き残れないタイプだな。

 あとレスバ弱すぎ」

 

「分かり味が深い。

 なんか中途半端に善だよな」

 

「カルマ値の影響なのか? 

 っていうかカルマ値で精神に影響あったりするのかわかんねぇな。

 俺は中立だし」

 

 その様子を見ながら私と長文ネキが好き勝手に意見を交わしていたところに、声をかけてきたのはタヌキ。

 

「お前らイカれてるだろ⋯

 人間が食われてんだぞ!? 

 何も思わないのか!?」

 

 叫ぶように言い放った彼の言葉は、確かに的を射ているものだった。

 

「わ、私じゃないから、別に気にならない⋯」

 

「リアルでも浮浪児が道端で野垂れ死んでるのよく見るからな、野垂れ死ぬのも食われて死ぬのも変わんねぇし、そんな事いちいち考えてる余裕は俺等に無いだろ」

 

「⋯そうかよ」

 

 不満を持ったまま踵を返し木こりの元へ戻るタヌキを見ながら私は口を開く。

 

「もうちょっと優しく言ったほうが連携的によかったんじゃね⋯?」

 

「⋯そういう調整は苦手なんだよ」

 

 せっかくの同盟に傷が入った可能性に遅まきながら気づいたところで、おねロリすが声を上げた。

 

「最初の竜は多分死んでる、あの巨体で飛び去るのを見た的な記憶ないし。

 まぁ確定じゃないけど

 んで、なんかでっかい街が南の方にあるらしい。

 人間も生活してるっぽい」

 

「⋯次に行く場所はそこにしますか。

 MPに余裕あれば死体消して貰いたいんですが可能ですか?」

 

「⋯【暗黒孔(ブラックホール)】使って地面ごと吸い込むか」

 

 そうして放たれた黒い孔が、村長と司祭のものが追加された死体を、流れた血で濡れた大地ごと吸い込んでいった。

 

 

 ***

 

 

「記憶通りだとそろそろ見えてくるはずなんだが」

 

「お腹が空きましたね⋯」

 

「飲食無効の装備持っておけばよかったな」

 

「バフアイテム縛るアイテムとか誰が使うんだよwwwww」

 

 森の道なき道を私たちが走り始めて数時間。

 100レベルの身体能力であり得ない速度の行進を実現しているが、それでもまだ街は見えていなかった。

 おねロリすがそろそろと言うも周りは全く聞いていない。

 

「お前ら早えよ⋯腹も減ったし」

 

「仕方ないだろたぬきが一番遅いんだから。

 モンスター避けるのは俺の隠密でやってるんだから文句言うな」

 

「居てもレベル20とかだし長文ネキのクールタイム短めな隠密効果で普通になんとかなってるな」

 

「ゾンビネキはもう完全にネキ呼びだし⋯

 女の体とか何一つ知らないんだけど⋯」

 

「私も知らないぞ」

 

「ゾンビネキはお願いだから知ってて」

 

 無駄話をしながらも足を止めずに走っていた時、木々が途切れた空間に出たことで、視界が通り見えたのは。

 

「おお、壁だ」

 

「城塞都市か、隠密バレたら不法侵入疑われるだろうし今切るぞ」

 

 石を積み上げられた城壁だった。

 




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