ソロプレイヤー、ナザリックに挑む   作:No_46

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初めての食事

 建物が見えた開けた場所から草木が生い茂る比較的人目に付かない場所へ移動した私たちは隠密を解除し、いざ町へと向かおうと足を進める。

 

「異形種二人は待て」

 

 固い声音のその言葉に私と長文ネキは足を止めた。

 振り向いた先にあったのは摩利支店長の姿。

 ドッグマンとの接触時、唯一兜を外していた顔が狙われた経験からフル武装状態の姿になっている。

 

「お前らの入れる町か分からないだろ、ここで待ってろ」

 

 思い出すのはユグドラシル時代に存在した糞仕様の一つ、亜人・異形種エリア侵入不可のデメリットだ。

 異世界だと理解し、原作知識から問題なく入れるだろうと思っていた私だったが、どこまでユグドラシルのシステムが導入されているか分からない他のプレイヤーからすれば異形種の私たちは足かせになりうると判断したのだろう。

 

「普通に入ればよくね。

 ドッグマンがこの町のこと知ってたなら亜人種でも入れるってことだろうし、固まってる方が情報収集もいざという時も安全だわ」

 

 呆れたように反論した長文ネキへ呆れを表すように溜め息をつき口を開きかける摩利支店長。

 そこへ割り込むように町の記憶を読み取ったおねロリすが頭を掻きながら情報を開示した。

 

「言うの忘れてたけど人もいる町が存在するって情報だから異形種もいる、っていうか異形種がメインっぽい。

 まぁ存在するってだけで詳しいことは分からんかったけど」

 

「はぁ? 最初に言えよ」

 

「忘れてたごめん」

 

 おねロリすに謝られイラつきながらも納得した摩利支店長は内心を表すようにずかずかと進んでいく。

 

「好感度がまた下がった気がするんですが」

 

「ここで二人だけになって襲われでもした方がやばいやろ」

 

 私と長文ネキがいつもの様に軽口を交わしながら目前に迫る巨大な石造りの壁へ近づいたところで、長文ネキから私に忠告が飛んだ。

 

「ゾンビネキはスキル、切っとけよ。

 店長が交渉失敗したの恐怖デバフの可能性もあるし念のためな」

 

「……まぁ低レベルなら無くても何とか出来るか。

 いざとなればオンにすればいいし」

 

 街に入れないのは私も避けたかったので忠告通りにスキルを切る。

 城壁伝いに進むこと数分、私たちの目に入ったのは衛兵が立っている入口。

 

 おねロリすの言葉通り佇んでいた衛兵は人間ではなかった。

 

「大きいですね、見たところオーク(豚鬼)ですか?」

 

「普通のオークだな。

 レベル20ジャスト、装備もゴミ」

 

 ちらりと、ブルースの答えを求める視線に長文ネキは看破スキルで見たのだろう種族を語る。

 

 ファーストコミュニケーションをどうするか、悩む私と裏腹に足を止めなかったのは摩利支店長を筆頭にした上位層と予想される四人。

 

「すいません、少々お話を聞きたいのですがよろしいでしょうか?」

 

 ブルースの声掛けに一人立っていた衛兵が驚きながら目を見開いた。

 

 

 ***

 

 

 俺は比較的長く衛兵をやってきた。

 体が大きく、丈夫だからという理由で衛兵になり、門に立ち続けて数十年。

 

 様々な職種と会話をし、攻めてきたモンスター等を返り討ちにし続け街に通して良いか見定める。

 

 熟練した冒険者の傷と経験が刻まれた装備や動き。

 冒険者を志望する金ばかりかけ装備に着られているボンボン。

 年老いながらも莫大な利益を上げ続ける商人、その老獪な言動。

 殆ど見られない希少な種族の特異な風習。

 不穏さを隠しながらも追われるように目線を配る侵入者。

 並外れた力を技術もなく振り回し、一心不乱に向かってくるモンスター達。

 

 毎日何人もの冒険者や商人、村人などの人種を見続けてきた事でいつの間にかそいつがどんな存在なのか、ある程度見分けがつくようになった。

 

 装備だけでは見分けがつかない技術の有無であったり、過去に行っていた行動などが見ただけで理解できる。

 その能力を買われ、今では衛兵長にまで上り詰めることが出来た。

 

 だがそれでも、目の前に存在する7人組は得体が知れない。

 

 真っ先に話しかけてきた男とその後ろにいる全身鎧、そして近くにいる二人。

 丁寧な言葉を放つ若い男の、運動性を重視した軽装は一見、実用性を度外視した美術品と言われても遜色のない装飾が施され、両腰に分けて携えられた二対の直剣は主張しすぎない程度に豪勢な宝石を鞘にまではめ込まれていることから戦闘経験のないボンボンにも見える。

 背後の全身鎧は暗い全身が藍色に染められ、所々から小さな赤い雷が迸っている。

 大剣はその鎧と相反するように、一武器でありながら圧倒的存在感を放つ。

 荘厳な青い結晶の刃を覆いもせず背中に担いでいることで身の丈近い大剣を持つ体力とパワーが見受けられこの中で一番戦闘経験を持っていそうだ。

 彼に機嫌を直せと声を掛けている30程度に年を重ねて見える男は……学者か? 

 明るい赤色のローブを纏いながら片手に携えているのは薄い七色に輝く短い杖。

 身体を支えるには短すぎる杖を手慰みの様に片手で遊ばせている。

 その横にいる男は丁寧口調の男と学者の装備を混ぜたような衣服を着ているエルフの老人。

 曲刀を腰に下げていながらもう片方側には学者と違い大きく見事な鞣しを施されている革表紙とそこにはめ込まれている宝石が特徴的な本を腰に下げている。

 本を収めているホルダーにも丁寧な装飾が施され、持ち運ぶには適していないようにも見えた。

 

 その少し離れたところで固まっている二人組は雇われた傭兵だろうか、四人組と少し距離がある。

 いつか見た野蛮人の装備に似ているモンスターの皮膚をふんだんに活用した皮鎧を纏い、長柄の戦斧を持った男と巨大な盾と槌の重さをまるで感じさせない動きをしている男。

 だが傭兵にしてもやはり武装に施された装飾が違和感を持たせる。

 

 彼ら全員が、俺の衛兵として培った目をもってして、何一つ背景が分からない。

 辛うじて理解できるのは装備と言動から読み取れる表面的な部分だけだ。

 

 しかし、残りの一人、ぶつぶつと()()()()()()()()()()()()()()()女。

 アレは、ヤバイ。

 

 死体のような肌色と濁った瞳、人間にしてはオークの俺に匹敵する長身と恵体。

 植物で編まれた笠で顔を隠し、暗い紫色の異国の装束を身に纏っているとか、初めて見る形の黒を基調とした美麗な装飾を纏う剣を所持しているとか。

 そんな異常性を抜きにしても、周りが表面的な事しかわからないのにこの女だけは内が読める、そのどれもが信じたくないほどの内容だった。

 数えきれないほど殺してきた経験、それも10や百程度ではない。

 何かの弾みで殺しを何のためらいもなく実行しそうな精神。瞬きの間に俺どころかドラゴンを相手しても殺せそうな研ぎ澄まされた殺しの技。

 

 頬を伝う冷や汗がいつの間にか地面に染みを作っている。

 

 今まで見てきたどの種族にも当てはまらない奇抜な装備、謎の装飾を全身に纏う意味不明さ。

 一人ひとりは統一感のある鎧であったり武器を携えているというのに、誰一人として同じものではない系統すら異なる別物の装備を纏っている。

 数打ちの装備でないことは一目で見て取れた。

 

 ただでさえ朝から起きている()()によって不穏な空気が街に蔓延している状況、門前払いするべきなのはわかっている。

 

「なるほど……」

 

 だけれども、何か意に沿わない事をすれば、俺は何もできずに死ぬ。

 まるで死刑台で手かせを嵌められ処刑を待っているような、そんな悪寒と危機感が止まらない。

 

「ありがとうございました」

 

 目の前を集団が通り過ぎていく、必要な書類も書かせず、許可を出す衛兵としてあってはならない行動。

 だが許可を出さず、誰か一人でも暴れ出したら恐らく俺は抵抗もできず死ぬ。

 目の前で通り過ぎる姿を見ながら俺は目を閉じ部下の事を考えた。

 俺と違い、中で待機している部下たちはあいつらの内面も読み取れない。

 異常性を馬鹿正直に詰問し、何か手違いで相手を苛立たせれば、ここに居る全員が抵抗する間もなく殺される。

 

 離れていく気配に額を拭えば、手にあったのは考えられないほどの汗と、震え。

 グッと手を握りしめ、せめて報告をしなければと町に向けて走ろうとした。

 

「すいません、最後にいいですか?」

 

 声がかかった瞬間、俺は考えがバレたのかと固まり、背中に気持ち悪いくらいの冷や汗が流れるのを感じる。

 俺は殺されるのだろうか、時間がやけに遅い、目の前の水晶じみた大剣を持つ男が、次に何を言い放つのか怖くて仕方ない。

 

「おいしい料理ある店ってどこか分かりますか?」

 

「……は?」

 

 その言葉は、意味がわかるのにまるで別言語のように感じられた。

 何を言っているのかわからない、おいしい……料理? 

 裏があるのかと必死に頭を捻るがわからず、諦めてよく行くところを教える。

 

 満足したように立ち去るその男の背を見ながら、俺はへたり込んだ。

 

 

 ***

 

 

 入った先で見えたのはまさに異世界と言えるような石と木で作られる様々な建物と露店で商いをしている人々。

 ガヤガヤと騒がしい人並みを歩く。

 

「ほぼ低レベルの亜人種か異形種しかいないな、おっと」

 

「それ、人間種居ても見るからに奴隷の奴だけなのが謎」

 

 幸い人通りが多い為か注目はされていない。

 大柄な亜人種にぶつかりそうになった長文ネキが避けながら発した言葉に同意しつつ通り過ぎる人々を眺める。

 その殆どが異形種や亜人種ばかり、たまに見かける人間種も見窄らしい襤褸を纏い薄汚れた縄の首輪が付けられていた。

 建物の隙間にある裏通りには、見るからに人間の死体らしきものもある。

 

 ちらりと摩利支店長へ目を向けるが、人間種の奴隷を兜の中から見つつも、この場で何かをしようという動きは見られない。

 そこへ人間が奴隷であることに表情で不快感を表しているたぬきが声を掛けた。

 

「……店長? 

 いいのかよあいつら助けなくて」

 

「それがこの町のルールなら従うべきだろ。

 ああいう下層の従業員は大抵何も知らない。

 言葉は異形種も亜人種も通じるんだし情報を聞き出すならもっと上の連中がいい」

 

「助けようとは、思わないのか?」

 

「逆に聞くが助けてくれって言われたのか? 

 あと勝手に他人の物を奪うのは犯罪だ」

 

 摩利支店長は人間種を助けようとせず、それを聞いたタヌキも納得はできないが理解はできたようで下がってくる。

 

「……ああいうタイプは真っ先に助けると思ったけど、意外」

 

 私は驚きながら、冷酷に見えた摩利支店長の言動を鑑みる。

 

「奴隷が従業員の一形態と思ってるのは正直引くわ。

 ただ言い方的に機会や知識あれば助けそうだしそういう時に手助けして好感度上げようぜ。

 今は俺も助けようとは思わないし、ゾンビネキも似たようなもんでしょ」

 

「それはそう。

 精神変わってんのかな」

 

 何故か長文ネキが見えていないかの如く町行く亜人種にぶつかられかけていることに疑問を覚えかけていれば、話題は先ほどの衛兵に移った。

 

「入るために色々聞かれるかと思ったけど特にそんな事なかったな。

 あれがリアルだと普通だったりする?」

 

「な訳ねーだろ。

 あのレベルだと情報隠蔽も抜けないだろうし⋯この世界のレベルがマジで低いのは確定かもしれんが。

 こっちの世界じゃ見ただけで通していいってなるんじゃね。

 衛兵がサボってない前提だけど」

 

「お前…私にスキル切っとけって言ってたくせに何つけとるんや……!」

 

「俺は恐怖とか与えない交渉に関わらないものだからセーフやろ。

それに情報は隠しといた方がいい、こういう訳の分からん時は特に」

 

「一理ある。

まぁ情報隠蔽私付けてないんだけどね」

 

「は? 

 最終日だったからか?」

 

「隠密する時は低レベルの隠密ノーコスでつけれるスキルあるし、あとユグドラシル終わるころにはもう所持スキルの内容結構ネットに公開されてんだよ」

 

「……そういやユグドラシルwikiに載ってたな。

 有名人はつらいね」

 

「大体は連合連中に話したのが漏れたり看破掛けられまくったせいなんだけど」

 

「俺がやったわけではないから…!

 ノーカウント……ノーカウント!

 ま、情報隠蔽は俺も装備にしてはないんだけど、一応どんな奴いるか分からないし軽くでも隠密しとけば?」

 

「…確かに、無防備すぎるか。

 長文ネキのパッシブスキルってレベル60以下に対する完全隠密と看破無効だっけ?」

 

 長文ネキの助言に従い、スキル【稀術:影遁隠匿】を発動。

 ユグドラシルでは低レベルの隠密だが転移後世界だと十分だったようで、私の長身に集まっていた視線がどんどん外れていくのを感じる。

 

「せやな、こんだけレベル低いんじゃ十分使えるわ」

 

 楽観的に話しながら当たりそうになったところをまた避ける長文ネキ、その姿に私は何故見えていないように人がぶつかってきているのかを理解した。

 

「もしかしてそれずっと使用してんの? 

 切れば?」

 

「……いや今更姿見せても不法侵入ってなりそうだし」

 

 長文ネキと話しながら足を進めていれば、何度か角を曲がった先に読めない文字で記述された看板が目に入る。

 いつの間にか辺りには香ばしい料理の匂いが立ち込めていた。

 

「やべぇめっっっっちゃ良い匂いするんだけど」

 

「ゾンビネキは嗅覚死んでたもんな。

 とはいえ……俺もこんないい匂いの食事は初めてだわ」

 

 店に入れば、そこには多種多様な種族たちが豪勢な食事を前にひしめいていた。

 だが私の目に真っ先に飛び込んだのは湯気が上り肉汁がとろりとにじみ出ている肉料理に色鮮やかで新鮮な野菜。

 

 人間種のタヌキと木こりからゴクリと唾をのむ音が聞こえる。

 

「いらっしゃ……人間?」

 

 そんな私たちの期待を裏切るかのように、厨房の店主だろう亜人種が発した人間という一言で、周りが一斉にこちらへ視線を向ける。

 対してブルースは気にせずいつの間にやら手に持っていた金貨を掲げた。

 

「金は持ってます、テーブルに案内をお願いしたいのですが」

 

 驚いた様子の店内はしかし、金貨を見ると笑いに包まれる。

 嘲りの混じったそれに私が疑問を感じていれば、近くの冒険者のような風貌をしている亜人が丁寧にも訳を教え始めた。

 

「偽造するにもちゃんと同じ柄にしろよ、ガハハ」

 

「おいおい待てよ、ちゃんと金色なんだから意外と金も混じってるかもしれねぇぞ」

 

 笑いに包まれる店内と相反して、期待していた私たちの空気はどんどん冷えていく。

 特にアーコロジーの上位層と目されている4人組は今にも武器を抜きそうなほどであった。

 私自身も爆発しそうな直前、一人のネズミの亜人が立ち上がり、近づいてくる。

 

「少々その金貨を見せてもらうことって大丈夫ですか?」

 

 ネズミの口から放たれたとは思えない丁寧な言葉。

 内心食事をほぼ諦めていたのか無言でブルースは金貨を渡す、ネズミの亜人は金貨を受け取るとカバンから天秤を筆頭とする様々な器具を床に取り出し始める。

 

 片側に金貨をのせ、何度か反対に重しをのせた後に、ネズミは丁寧に道具を直し金貨をブルースへと返した。

 

「もしよろしければその金貨、私が両替いたしましょうか?」

 

 両替を行うという提案に、周りの笑い声がシン……と止まる。

 

「……ええ、できればお願いしたいですね。

 レートは?」

 

「一対一です」

 

「なるほど……ちなみにここの食事って一人いくらぐらいです?」

 

「大体ですけど……」

 

 ブルースは幾度か会話を重ね、最終的にインベントリを見せたくなかったのか懐から取り出すように凡そ40枚の金貨を渡した。

 薄く笑うネズミ亜人は、その金貨の山を見ると笑みを深め、手早く荷物から歪んだ形の金貨を40枚、丁寧に数えて渡すとすぐに店から出て行ってしまう。

 

「金は用意しました、これで文句は無いですよね?」

 

 笑いを返しながら、ブルースの放った言葉に店主は憮然とした態度で「トゥパン!」と大声を上げる。

 現れたのは、町中でも見た奴隷の人間種。

 ぼさぼさとした伸びっぱなしの髪とガリガリに痩せた姿、荒れ果て多くの古傷を刻まれた肌の奴隷は、まだ幼い少女にしか見えない。

 

「八名様でよろしいですか?」

 

 か細い声には諦めと絶望が包まれていた。

 

 しかしここに着くまでにも奴隷を見ていたことや、問題を起こして食事できなくなるのは誰もがいやだったからか特に誰もアクションを起こさない。

 

 頷きを返したブルースを見て、くるりと反転し「こちらです」と案内を始めた少女についていこうとした時。

 

「いや~お前ら気持ちいいほど騙されてんなぁ」

 

 口を開いたのはドッグマンに似た亜人種、オオカミだろうか? 

 騙されたと聞き、思わずブルースの足が止まった。

 

「大方来たばっかのお前らが知らないだろうから教えてやるけどな。

 さっきのラタニド族はここいらじゃ有名なペテンのムミルってやつよ。

 あいつが1対1の交換に応じたってことは……その金貨は最低でもこの国の金貨4枚分の価値はあると見たね」

 

「そうですか」

 

「ブルースwwwwwクッソ騙されてんじゃんwwww」

 

「うるさいですよクーベラ」

 

 話を聞き終え、ブルースが再度歩き出そうとすれば、口を開いたオオカミっぽい亜人の男が立ち塞がる。

 

 いつの間にやら諍いに巻き込まれないよう奴隷の少女は机の下に潜り込んでいた。

 

 強かだなぁと呑気にしていれば、私たちを威圧するようにさらに5人ほど、種族の違う亜人種が立ち上がった。

 

「おいおい、なに行こうとしてんだ、情報料だよ情報料。

 あんだけの大金ポンと出せるんなら俺たち全員に金貨10枚ずつくれんのだって懐は痛くも無いだろ?」

 

「……鬱陶しいですね。

 勝手にべらべらしゃべった情報に何故私が金を払うと? 

 内面は外見に出るとはよく言ったものです」

 

「お前じゃ勝てねぇよ、大人しく引いとけ」

 

「ははっそうか……よっ!」

 

 摩利支店長の助言も聞かずに、亜人の腕がまっすぐブルースの顔面へ向かう。

 

「遅いですね」

 

 しかし動き始めた瞬間、ブルースの叩き込んだ蹴りが亜人の足へと突き刺さり、骨の折れる鈍い音が鳴り響く。

 両足が骨の見えるほどぐちゃぐちゃに破壊され、オオカミの亜人は聞くに堪えない悲鳴を上げた。

 一瞬のうちに起こった惨状を未だ理解できていない周りの亜人を無視しながら、ブルースは縮こまっていた奴隷の少女へ案内をするように声を掛ける。

 

「手が早すぎる……!」

 

「正当防衛狙ったっぽいし、ままええやろ。

 今はそれより食事や、ゾンビネキとかまともなもん食うの初ちゃう?」

 

「そうなんだよね、くっそ楽しみ。

 出来れば人間種で食いたかった……」

 

「アンデッドだから糞不味いとかなら笑うわ」

 

「こんないい匂いしてるし大丈夫やろ……大丈夫よな?」

 

 不気味なものを見る目へと変わった亜人たちを無視し、長文ネキと会話をしながら私は期待と不安に心を躍らせていた。

 

 

 ***

 

 

 はむっ……んぐっ……

 口に詰め込んだ大量の肉の旨味を何度も噛み締め、嚥下する。

 

「うますぎる……これが食事か……!」

 

 感動しながら私は次の料理を奴隷の少女に頼んだ。

 アンデッド状態で未だクールタイムの関係上【擬態屍體】も発動できない状態でこの美味しさ。

 出来れば最初は人間状態で食事を取りたかったが私は我慢が出来なかった。

 

 頼んだビールと似たお酒も酔えないが、不味くない液体というだけで私にとっては甘露になる。

 

 少し落ち着いて周りを見れば、とんでもない速度で飯をかきこんでいるたぬき、木こりと長文ネキ、丁寧な所作で食事を行っているブルース、摩利支店長、クーベラ、おねロリすが対照的だ。

 こんな美味いのは初めてだというタヌキを筆頭とした私含む下層組と違い、上位層組は香辛料を使いすぎてもったいない、ウチのシェフならもっとうまく料理できるなどと文句を言っている。

 

 だが誰もが食事の手を止めず、暴飲暴食の宴は数十分続いた頃にようやく止まった。

 

「……長文ネキどうした?」

 

「ん? ああ……」

 

 そこで私はどこか考え込む様子の長文ネキに気付く。

 どこか上の空な長文ネキは再度奴隷の少女を呼びつけた。

 まだ食うつもりか……? こいつ……と考えていれば、長文ネキはやっぱりなと口を開く。

 

「……やっぱりってどういうことや」

 

「あ~こいつ見える?」

 

 私の問いかけに答えず、長文ネキが私を指さしながら聞いたのはトゥパンと呼ばれていた奴隷の少女。

 

 彼女はコクリと頷きを返す。

 

「な?」

 

「いや、な? と言われても……」

 

 私が困惑を返すと、長文ネキは一言、隠密と口に出した。

 そこでやっと私は思い至る。

 

「看破してる……?」

 

「っぽいな」

 

 この奴隷の少女が低位とはいえ私の隠密を看破できていることに。

 更に言えば。

 

「60レベル以下に完全隠密だよな……このガキが?」

 

「ガキ言うな、クラスはスレイブだし特に看破系もってないんだよな」

 

「ええ……謎じゃん」

 

 そう言いながらも私は一つ思い当たることがあった。

 原作のタレントだ。

 パッシブの本気じゃない長文ネキとはいえ、目に捕らえることが出来ているのはかなり強いのではないだろうか。

 

 とはいえ現状この店の奴隷である彼女を勝手に持っていくことはできないだろう。

 長文ネキが一つでも隠密レベルを上げればすぐに見えなくなったようだし、ギリギリ看破が出来てた程度では助けるメリットも薄い。

 

 長文ネキはおもしろがって食事をだしに看破用装備を着させて実験していたが。

 

(まぁ長文ネキ特別なアイテムとか未知、好きだったしな~)

 

 そんな事を考えながら私は軽く酒を飲みつつ意識を周りに向ける。

 雑多な会話の中には、いくつか有用なものも混じっているかもしれない。

 

「朝から言葉は通じるようになるし、人間は食事に来るし、変な事ばかり起きやがる」

「なんだよゴズゴビビってんのか? 

 それにあいつらどうせ人間に似てる種族ってだけだろ」

「ビビッてねぇよ」

「守護竜様が今朝飛び立ったらしい……」

「あいつ俺に隠れてずっと陰口言ってたんだぜ!? 信じられるか!?」

「来た連中の装備すごくねぇか? ……どこ製だろうな」

「隠れ里で作ったとかじゃないか?」

「にしても装備がちゃんとしすぎだろ」

「聞いたか? エインの兄貴が漏らしながら町中走ってたってよ」

「冗談だろ?」

「今、イカサマしただろ」

 

 雑多な声に耳を傾けていれば、バンッ! という大きな扉を開ける音に、私は思わずビクッ! と体を跳ねさせる。

 

「ここに無許可で門を通過した人間がいると聞いた! 

 今なら罰は軽くしてやる! 今すぐ姿を見せろ!」

 

 面倒な予感に、私はため息を吐いた。




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