亡霊たちの████アカデミア   作:炭火カルビ

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短め。焦凍視点の一章です。
エンデヴァーへのアンチ・ヘイト的な描写があります。


ex3.はじめての団欒

 

 焦凍(しょうと)にとって、凍火(とうか)は大事な妹だ。

 体も個性も弱い。同じ子どもだというのに、焦凍より細くて小さい。

 少しの赤もない、真っ白の髪。顔付きはお母さんを小さくしたみたい。女の子。つまり、家族で1番お母さん似の見た目。

 瞳の色だけが青緑だけど、目の奥にグツグツ何かが煮えたぎった父の嫌な眼差しとは違って、凍火のそれは綺麗。

 

 守らないといけない妹、のはず。

 

 なのに。

 家の庭で姉と兄と手を繋ぎ、頭を撫でられ、ボール遊びをして。

 どこかお店から帰ってきて、買い食いした物を半分こして美味しそうに食べている姿。

 

 それを窓から見るたびに、焦凍は心がモヤモヤした。

 おんなじ双子なのになんで?

 もしも、凍火ちゃんも『半燃半冷』だったら──。

 いけない! それだと妹も酷い目に遭うのに。焦凍は努めて、不平を言語化しないようにした。

 狡いも羨ましいも知らんぷり。父への憎悪で塗りつぶす。

 

 でも、1回で良いから僕もお兄ちゃんたちと遊びたい。

 焦凍の願いは唐突に、呆気ないほど簡単に叶った。

 

 家に(ヴィラン)が襲撃してきた日。

 ホテルに避難することになって。熱を出した妹と、話したことのない姉と兄との生活が急に始まった。

 凍火ちゃんはとっても辛そう。せっかく少し治ったのに、お話ししたことのあるサイドキックたちが大怪我をしたニュースを見て、また倒れてしまった。

 さらにちょっとが過ぎて、やっと咳も治まった。

 なのに、次はお肌がチクチクして大好きなお姉ちゃんたちと触れ合えない。冬美(ふゆみ)姉を見つめる凍火ちゃんは、見ているこっちが蕩けそうなくらい幸せなお顔をしているのに。

 

 きっと、焦凍が狡いとか、羨ましいと思ってしまったからこうなった。

 心の片隅で、凍火ちゃんもちょっとだけ、ほんの少しだけ痛い目に遭えば良いと思ってしまったから。

 

 「……ごめん、凍火ちゃん」

 

 寝ている妹に謝る。

 凍火ちゃんから冬美姉と夏兄との大事な時間を、奪いたいわけじゃなかったのに。

 その時から、焦凍の中で凍火への不平不満は思ってはいけないことになった。

 

 ごめんなさい。凍火ちゃんを治してください。

 どこの誰とも知らない者に願う。

 罪悪感の中でも、家族と過ごす新鮮な毎日は焦凍にたくさんの幸せを与えた。

 

 お外はエンデヴァー事務所の監視付きじゃないと出れないけど、体力が落ちないためにお散歩くらいはさせてもらえる。

 凍火ちゃんは、お母さんみたいに体が弱いからお出かけはダメ。探検して夜中に帰ってきてからはもっとダメ。

 

 悪い人じゃないのはわかるけど、“エンデヴァー事務所の”サイドキック、“エンデヴァーと付き合いのある”ヒーローがいるだけでちょっと嫌な気持ちになった。

 だから、焦凍が楽しかったのはお外よりお部屋で遊ぶこと。

 

 「わぁっ! 私たちを描いてくれたの? 上手!」

 「おねぃちゃん、凍火のほうがうまいよ!」

 「凍火ちゃん、よくわかんないけどすごい!」

 「影とか光まで付けたのか! 凄いなぁ……」

 「むっふん! 凍火のほうがうまいけど、焦凍くんもまあまあうまいよ!」

 「うん!」

 

 お絵描きをして褒めてもらった。

 夏兄と冬美姉と凍火ちゃんと、お母さんの絵。

 白いクレヨンがすぐ無くなって、サイドキックの人に何回も買ってきてもらった。

 夏兄と冬美お姉ちゃんは褒めてくれた。凍火ちゃんは「わたく…凍火、もうちょっとかわいいんだけど」と怒ってた。確かに夏兄はもっとカッコいいし、お姉ちゃんとお母さんと凍火ちゃんはもっと可愛くて綺麗。

 

 「わぁー! がんばれー!」

 「姉ちゃん、次映画見る時のために、ポップコーンとか用意してもらおうよ!」

 「あんまりサイドキックさんたちのお仕事を増やすのも悪いかも……」

 「ポップコーン? どんなの?」

 「映画館で食べながら見るんだよ。白い……ふわふわでカリカリのお菓子。夏くんの言う通り、買ってきてもらっちゃおっか」

 

 映画をたくさん見た。

 凍火ちゃんが体調を崩さないように、怖かったり、戦いが多いのはダメだった。でも、子ども向けのアニメ映画で十分楽しめた。

 色んな映画の主人公(ヒーロー)はあんなに優しいのに、お父さんは優しくない。

 ポップコーンは思ったよりふわふわでもカリカリでも無かった。美味しかったけれど。キャラメル味もあるみたいだから、今度食べてみたい。ちなみに食べたのは塩味。

 

 「桃太郎はきび団子に個性を使って──」

 「あれ? 焦凍眠いか?」

 「う……ん、ねむくないよ……」

 「寝ちゃっても良いからね」

 

 絵本をいっぱい読んだ。

 夏兄がちょこっと低い声でゆっくり読んでくれるのも、冬美姉の高めで優しい声も好き。

 凍火ちゃんとも読みたかったけど、妹は喉の調子が悪いから出来なかった。

 

 「燈矢(とうや)兄の仏壇、大丈夫かな……」

 「さすがにちゃんと直してくれるよ」

 「燈矢兄……?」

 

 朧げに思い出せる気がする名前。

 ……。そうだ。夏兄と冬美姉より小さくて、いつの間にかいなくなった人。

 

 話したこともない。好みの1つも知らない。遠い人だけど、お葬式に出た時に子どもながらとっても悲しくて、すごく取り返しのつかないような気持ちになった。

 

 「……焦凍は、覚えてないかも」

 「凍火ちゃんも覚えてないもんな」

 「ぼく、おぼえてるよ! 髪と目が、凍火ちゃんとおんなじいろ!」

 

 言うと、2人は驚いた。

 

 「凍火ちゃんはおぼえてないんだ……」

 「……色々、あったから」

 「覚えてない方が良いよ。凍火ちゃんの前で、燈矢兄を“なかったこと”にするのは、ちょっと嫌だけど」

 

 2人の言葉を疑問に感じる。

 凍火ちゃんは焦凍より、冬美姉とも夏兄とも──もちろん、燈矢兄とも一緒に過ごす時間が長かったのに、忘れてるのはなぜ?

 

 「それってどういう……」

 「焦凍! 映画の続き見ようか!」

 「おいしいおやつも貰ったんだ。みんなで食べよっ」

 

 誤魔化された。

 まだ幼い焦凍には、兄と姉と見る映画や美味しいお菓子の方が大事。

 ちょっと腑に落ちない気持ちだったのはすぐに忘れて、映画の展開に心を動かし、甘味に舌鼓。

 

 そして、焦凍にとっての楽園は唐突に終わる。

 理由は単純、(とどろき)家を襲った敵が数ヶ月もの間姿を見せないから。

 

 もっとお絵描きしたかった。

 あの映画の続きも見たかった。

 絵本、まだ読んでないのがある。

 サイドキックたちがいないお散歩もしたい。

 

 父に腕を引っ張られ、訓練場に連れて行かれる中、それだけを考えて涙を流す。

 

 「何を泣いている!!」

 

 父はその後も何かをうだうだ言っていたけど、辛くなるだけだから聞かないようにした。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 家に戻ってからのある日。

 最近忙しいから父の帰りは遅いだろうと、夏兄が遊びに連れて行ってくれた。

 公園とアイス屋さん。後は、凍火ちゃんがよく行くらしい図書館にも。

 絵本を読んでもらって、アイスを食べた。気になる味を夏兄が頼んでくれてシェアもした。

 同じ体を動かすことでも、公園で遊ぶのは、訓練と違って楽しい。

 

 夏兄と話して、楽しいをたくさん抱えて帰ると、家には父。

 両腕を偉そうに組んで座っている。

 

 「き、きっと夏くんも悪気はなくって……」

 「それで焦凍がヒーローになれなかったらどうしてくれるんだ!」

 

 机をガシャンと叩いたらしい音。

 焦凍はそれに怯えた。夏兄もだ。

 

 冬美姉さんが宥めてくれているみたいだけど、大して効果はなさそう。

 

 「…………行こう」

 「……うん」

 

 行きたくない、帰りたくない。

 互いがそう思ったのはわかったけど、帰る場所はここにしかないから、足を進める以外にない。

 

 困った顔の冬美姉さん。怒った顔の父親。感情を全て削ぎ落として耐えているような凍火ちゃん。

 三者三様で2人を迎える。

 

 「おかえり。焦凍くん、夏兄」

 「あっ……おかえり!」

 

 最初に出迎えてくれたのは凍火ちゃん。いつもより平坦な声。

 次に冬美姉さん。いつもと同じ温かい声だけど、少し焦った感じ。

 

 「何をしていた」

 

 最後がコイツ。

 もはやお父さんとも呼びたくないし、出迎えたなんて表現も嫌だ。待ち構えたが合っている。

 

 「夏雄(なつお)、一体何のつもりだ」

 「何のつもりって……ただ弟と遊んだのがそんなに悪いかよ」

 「当たり前だ! 焦凍はお前たちとは違い、ヒーローになる仔だ! 少しの時間も無駄にしてはならない!」

 「……ヒーローだって子どものころは普通に遊んでるだろ。じゃあアンタは遊んだことすらないってか?」

 

 夏兄がバカにしたみたいに笑う。それがダメだったみたいで、アイツはさらに怒った。

 

 「夏、やめて」

 

 冬美姉さんが弱々しく言った。どうして夏兄を注意するのかわからない。

 

 「お前ごときが焦凍の足を引っ張るな!!」

 「お父さん!」

 「これはヒーローになるべき仔だ!! 俺を継いだ、No. 1ヒーローにならないといけない仔だ!! お前たちと焦凍は違う存在だ!!!」

 「兄弟なのに何を……」

 「夏兄」

 

 嫌な言葉が耳を通る。

 なるべき、ならないといけない、違う存在。そんな風に生まれたくて生まれたんじゃない。

 

 凍火ちゃんの纏う雰囲気がとっても怖いものになる。

 夏兄も冬美姉も焦凍も。それどころかアイツすらも一瞬怯えた。

 

 「やめよ。わたしたちとその人、話通じないよ」

 「凍火ちゃん!」

 「凍火! 親に向かってその態度はなんだ!」

 「ほらね? ……凍火は夏兄まで傷ついてほしくない。焦凍くんだけで十分」

 「ごめん、焦凍……」

 

 夏兄はそれきり黙って、焦凍は遊んだ穴埋めのため食事は後回しにして訓練に連れて行かれた。

 誰も母みたいに殴られたりしなかった。焦凍はそれだけで安心した。

 

 すれ違った時に凍火ちゃんからも謝られた。

 冬美姉さんもだ。

 

 見捨てられたとは思っていない。ホテル生活の前──互いに無関心でいざるを得なかった頃を考えると、夏兄はとても頑張ってアイツに立ち向かってくれた。

 凍火ちゃんは焦凍が守らないといけない子。謝られる筋合いはない。

 冬美姉はあんな嫌なお父さんの側じゃなくて、お母さんのお手伝いをしている姿が似合う人。争いごとには向いてない人。

 

 大好きな家族に、これ以上謝らないで欲しかった。

 悪いのはエンデヴァーただ1人なんだから。

 

 もう遊んじゃいけない。みんなが傷ついてしまう。

 焦凍はまだ幼い脳味噌に刻みつけた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 訓練の間、焦凍が心の支えにするものがあった。

 

 『おまえは血に囚われることのない、なりたい自分になっていいのよ』

 

 もうあまり思い出せないけど、優しかったように思うお母さんの言葉。

 憧れのヒーローオールマイトみたいに、妹とお母さんを──父以外の大好きな家族を、父から守ること。

 それと──。

 

 「現代の義賊、フロストゲイルがまたまた活躍」

 

 ニュースで見る氷のヴィジランテ。

 氷の天使、現代の義賊。その他色々呼び名があるけど、焦凍にはどうでも良い。

 

 大事なのはフロストゲイルが良い人で、なおかつ。

 氷であの父を撃退したこと。

 

 溶けない氷というパワー。羽根や装甲を作れるテクニック。

 もしかしたら単に氷を作り操る個性ではないのかもしれないけど、関係ない。

 

 氷だけで父とやりあえる。

 氷だけで活躍できる。

 

 それを先に体現してくれている者がいる。それだけが重要だ。

 

 焦凍は何を言われようと、殴られようと蹴られようと、父の力()を使うのをやめた。

 

 母の──そして、姉と兄と同じ力だけで、ヒーローになる。

 今の自分には何も出来ないけど。将来はみんなを守ってみせる。

 

 殴られて胃液を吐きながら、焦凍は誓った。

 

 

 

 

 




ちなみに炎司が凍火にビビる理由はきちんとあります。子どもたちはヴィランの殺気に怯えましたが、彼は凍火の感情が昂り個性事故を起こすことを危惧しました。

原作だとエンデヴァー→夏雄はガチで無関心だったっぽいので、喧嘩出来てるだけこれでもマシな関係。

凍火と燈矢の話はまた今度。他の轟家ヴィランオリ主が燈矢と仲良し率高い気がするので、逆張って行きます。

前話で予告した投稿日から遅れてすみません。6/28から2章投稿します。13話前後予定です。

オリキャラ・オリ個性等の設定まとめ

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