亡霊たちの████アカデミア   作:炭火カルビ

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2章 叶わない夢を見よう
1.与えられたもの、与えられなかったもの


 

 凍火(とうか)は数日ほど、オール・フォー・ワンが用意した屋敷で過ごしていた。

 シャンデリア。天蓋付きのベッド。あわあわのお風呂。

 全てが新鮮で、動けないけど楽しかった。

 オール・フォー・ワンは時に自分で、時には黒霧(くろきり)に頼んで、いっそ献身的なまでに世話をしてくれた。

 

 「あの機械は……?」

 「よく気付いたね。あれはカメラだよ?」

 「はい、チーズの?」

 「ああ。君を追ってきた彼らのような危険人物が入ってきた時、すぐ気付けないといけないだろう」

 

 部屋の入り口には監視カメラ。

 オール・フォー・ワンの語った理由に納得して、凍火はそれ以上追求しなかった。(のぞむ)は喚いたけど。

 

 「少し顔がふっくらしてきたね」

 「太った、……りました?」

 「楽な話し方で良いさ。やつれていたから、もう少し太るくらいでちょうどだ」

 

 黒霧が食事の用意をしてくれる。

 少し多いのと、先に食べ終わったオール・フォー・ワンに見つめられる気まずさで、凍火はいつも時間をかけた。

 

 「……うぅ、ごちそうさまです」

 「苦しいなら残しても構わないですよ」

 「もったいないので……、うぅ、げぇ……、動けない……」

 

 黒霧が格式高い椅子から、ソファーへワープしてくれた。

 お腹をさすって動けない凍火を、オール・フォー・ワンが楽しそうに眺める。

 

 「それでは私は、死柄木(しがらき)(とむら)の方へ戻ります」

 「おやすみなさい、黒霧さん!」

 「おやすみなさいませ。フロストゲイル」

 

 帰ろうとする黒霧を、オール・フォー・ワンが呼び止めた。

 

 「黒霧。明日、弔に彼女を会わせようと思うんだ。準備するように言っておいてくれ」

 「かしこまりました。……お言葉ですが、現段階の死柄木弔に子どもとまともなコミュニケーションが取れるとは……それも、フロストゲイルのような年下の異性となると」

 「大丈夫さ。兄弟に成るのだから」

 「……そうですか」

 

 〈凄い言われようじゃん。大丈夫かソイツ。芽愛(めあ)みたいなのだったらどうしよう〉

 

 黒霧は何か言葉を飲み込んで帰っていく。

 

 「会うって……?」

 「僕の生徒さ。難しい子だけれど、出来れば彼を()として支えてあげてくれ」

 「凍火が妹ってことは、年上?」

 「確か、君より5つ上だね。そうだな……いくつか助言をしよう。『冷気装甲』は維持しておくように」

 「今もやってますよ」

 

 『冷気装甲』。

 『シェルター』の攻撃を受け付けない特性だけを『超器用』を使って、全身に纏った冷気に付与したもの。

 『氷甲(ひょうこう)』と違い自分の顔は隠せず、冷気を保つために集中力が必要だが、その分相手から警戒されない利点がある。

 

 「それと、君の本名は名乗らない方がいいかもしれない」

 「? どうしてですか?」

 「エンデヴァーの本名は報道されたこともあるからね。君と結びつけるのもそう難しくはない。弔はヒーローが嫌いだから、余計な悪感情を君に向けられたくはないだろう?」

 「……わかりました」

 

 あの男はこんなところでも足を引っ張るのか。

 幼稚園でも、きっとこれからの小学校も中学校も高校も大学も会社でもずっとずっと。

  死穢八斎會(しえはっさいかい)のような居心地の良い場所を探さないと、凍火はエンデヴァーの娘としか扱われない。

 

 「フロストゲイルを名乗れば良いですか?」

 「ああ、それでいいとも」

 

 オール・フォー・ワンは満足した様子で笑った。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 翌日、人と会うというのに昼に起きてしまった。

 焦ったが、弔はこれくらいからしか起きないからむしろちょうど良いらしい。

 鏡を見て、額の傷が見えないよう念入りに前髪を整えた。

 

 「寒くないかい? ジャケットも用意してあるけど」

 「大丈夫です!」

 

 3月の初め。みんなはまだ寒いみたいけど、服の隙間から外気が入ってきても凍火は平気。

 

 黒霧が来るのを待ち、ワープゲートで弔のところへ向かった。

 

 オール・フォー・ワンが大事にしてる子との初対面。身綺麗にしてきた凍火とは違い、彼は外見に無頓着だった。

 

 癖のある薄い水色の髪と、上半身を抑え込むように付けた謎の手のオブジェ。顔にもついた手と前髪のせいで、彼の表情は見れない。

 赤い管まで付けて手を固定している。重心がブレて動きにくそうだ。

 

 「と、フロストゲイルだよ。よろしくねっ!」

 

 凍火は明るい声と笑顔を心がけた。握手しようと手を差し出す。

 手じゃなくて、「あー……」と弔は呻き声を出した。首元を掻きながら口を動かす。

 

 「先生。人を連れて来るからどんな奴かと思えばさぁ、こんな礼儀知らずのガキかよ。しかも女だしチビだし弱そう。ふざけてんのか?」

 「ふざけてなんかいないさ。弔に相応しい相手を吟味したよ」

 「ハァ……どうなっても知らねえぞ。握手だっけ? 良いよ、しよう」

 

 すでに下げた凍火の手を弔は無理矢理握る。五指が互いの手に触れた。

 

 「あ……?」

 「どうしたの?」

 「は、ははっ!! 個性無効化の個性か、何だよそれ、チートかよ! ニュースのバカどもによると、フロストゲイルは『氷造(ひょうぞう)』じゃねえのか!?」

 「うぇっ、えぇっと……せんせぇ……」

 

 手を握る強さを変えたり、5本指を外して、1本ずつ凍火の手に付けたり。

 人の手を初めて触る赤子のように、弔は凍火の肌を触る。

 

 握手ってこんな長いっけ?

 個性、『温度操作』以外も言った方がいいの?

 わたし、ニュースで何言われてたの?

 凍火は目でオール・フォー・ワンに助けを求めたけど、満足げに微笑むばかりで何も言ってくれない。

 

 「あの……楽しい、なら、良いんだけど……」

 

 にぎにぎ、もみもみ。

 凍火の手を弄る相手ははっとしたように手を離した。

 

 「ええと、個性だよね? わたし、何て言われてるの?」

 「……自分のことなのに知らないのかよ」

 「あんまりテレビは見ないから……。プリユアしか見ない……」

 〈ニュースは冬美(ふゆみ)ちゃんたちに止められてるもんなぁ。凄惨な事件とか聞くと体調崩すと思われて〉

 

 弔は大きくため息をついた。

 

 「氷で弾丸や飛行可能な羽根を作れる、コントロールが非常に優れた個性『氷造』だって、バカどもは言ってる」

 「バカども……」

 

 実際違うけど、ニュースの人が可哀想になる。

 個性が10個あります! なんて、誰が見抜けるだろう。

 

 幼稚園などの自己紹介では名前に並んで個性。続けて趣味とかだ。

 円満な人間関係の構築に個性の提示は必須。

 学んできたそれに従って、凍火は正直に答える。

 

 「わたしの個性は、『温度操作』」

 「氷はそれか。炎は出せるのか?」

 「嫌。あと、『毒』と『シェルター』と『幽体離脱』、『光合成』、『超器用』、『白鳥』、『肉体強化』、『色塗り』、『思考誘導』」

 「嫌ってなんだよ回答になってねえだろ。……個性、先生からもらったクチか?」

 「違うよ! 逆に取られそうになったもん!」

 

 「悪かったよ」と、オール・フォー・ワンが全く悪いと思ってなさそうに謝った。

 

 「ええと、死柄木弔……くんだよね? 弔くんの個性は?」

 

 “弔お兄さん”は何か違う。“弔さん”も。

 少し迷って、くん付けした。何となく、精神年齢はこっちが上という自負があった。

 

 〈ま、凍火ちゃんのお兄さんは俺と夏雄(なつお)くんだからなぁ! こんな引きこもり野郎には似合わねえよ〉

 

 弔は嫌そうに首筋を掻いた。

 血が出て、掻く指で首の皮膚に擦り込まれる。

 

 「これ」

 

 テーブルを触ると塵と化す。

 上にあったゲーム機がガシャンと落ちた。壊れていないか心配。

 

 「物を壊す個性? 凄いね! 生き物は壊せないの?」

 「壊せるけど」

 「じゃあ、さっきのは……うっかりさん?」

 「殺す気で握手した」

 「……。そ、そっか!」

 〈は?〉

 

 凍火は絞り出すように「凄いね!」と続けた。

 自分でも意味不明。案の定、弔も不審そう。

 

 「ん、と……何だっけ。病気とか辛い人を殺してあげるやつ」

 〈安楽死?〉

 「そう! 安楽死とかに良さそう!」

 「は?」〈マジ?〉

 

 望も弔も嫌そうな声。

 凍火は気にせずに続ける。

 

 「優しい個性だね!」

 

 治崎(ちさき)と離れてちょっと不安だったけど、これなら大丈夫。

 もしも、人を生き返らせる個性がないとわかっても、(なぎ)のところに行ける。妹を寂しがらせずに済む。

 

 少しの沈黙の後、弔はうめき始めた。

 露出している首筋だけじゃなく、袖を捲って腕を、服に手を突っ込んで胸や腹を掻く。

 顔を掻こうとした弔の手が勢いよく当たって、手のアクセサリーがズレた。瞼を強く掻くのは、失明しないか見ていて不安になる。

 

 「ぁぁ……ごめんなさい、お父さん……」

 「大丈夫?」

 

 小刻みに震えて下を向く弔。

 それで、背の小さな凍火からは彼の顔がよく見えた。

 皮膚へのダメージが積み重なり出来たおでこのシワ。片目と唇にある傷。細かい傷まみれの肌。

 血を煮詰めたような色の瞳。

 

 ──最後の方のあの子のシワだらけの肌。

 ──美味しそうなお菓子みたいな色から変わった、あの子の白髪。

 ──死ぬまで綺麗だったルビーみたいな目。

 

 途端に世界が煌めく。

 この子は凪だ。

 守らないといけない子。凍火がいなくちゃ、ダメな子。凍火の、特別。

 

 弔と仲良くするのは、オール・フォー・ワンが蘇生出来る個性を得た時、凪に早く使ってもらうための打算も入っていた。

 一度あの子と重なると、もうどうしようもない。計算なんていらない。感情のまま動けば良い。

 何だか弔がとっても可愛く見えてきた。

 

 〈どこが? あほ芽愛の方が兆倍可愛い!〉

 

 望から大反対。

 

 でも不気味で挙動不審で情緒不安定な、本来嫌悪感でも抱くべき相手に対しての好感が止まらない。

 

 〈このお化け野郎のどこが可愛いんだよ……〉

 (何だか猫ちゃんみたいじゃない?)

 〈仮に猫だとしても全身ハゲの可愛くねえ品種のやつだ〉

 (そんなのいるの!?)

 

 「ごめんね、何かしちゃった? 大丈夫だよ」

 

 掻いたところが痛そうだ。凍火はほのかに冷気を出して冷やし、手のアクセサリーを元の意味に戻す。

 

 「マシになった?」

 「冷たくて気持ち悪い。勝手にそれ触るんじゃねえクソガキ」

 「ごめんね! でも、可愛いお顔なんだから、隠さなくても良いのに」

 「頭おかしいのかこのガキ……」

 

 弔はきょとんと目を丸くして、心底忌々しそうに言った。凪の同じ表情を思い出す。

 怠そうに荒い息を繰り返している弔の背中をさすり、凍火はもう片方の手で頭を撫でた。

 

 「……。冷たいのだけやっとけ」

 「気持ち悪いんじゃ……?」

 「やれ」

 「わかったよ」

 「2人とも、仲良くするんだよ」

 「はい! 先生!」

 「しない」

 

 その日から、微弱な冷気で弔の肌の炎症を和らげるのが日課に入った。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 弔と暮らすのには気長で、強靭な精神がいる。

 テレビでヒーローの活躍を見る。ゲームで負ける。ヒーローニュース。テーマパークオープンのような平和なニュース。

 それらに対して、体力を使い尽くすかのような癇癪。

 モニターもゲーム機も毎日のように壊れて買い直し。オール・フォー・ワンのお財布に打撃。

 

 「何がヒーローだ……どいつもこいつも、平和ボケしやがって、辛い目に遭ったやつなんかいないみたいに暮らしてやがる……」

 「うんうん、そうだね。ヒーローは子どもがたくさん死んでても助けてくれないもんね。わたしも、助けてくれたのは(ヴィラン)だったよ」

 

 また愚痴の時間だ。

 こういう時には痒みがマシになるよう適当に、でも寒くならないように冷気で冷やしてあげる。頭を撫でるのも効果的。弔は嫌がるけど。

 冬美のような優しいお姉ちゃんになりたい。凪に出来なかったことをしてあげたい。

 

 「アンタも先生に?」

 「ううん。初めに助けてくれたのは、先生じゃない(ヴィラン)だったんだ。えへへっ、妹も、『ヒーローは暇な時に助けやすい人しか助けてくれません』って言ってた!」

 「妹いたのか……気が合いそうだな。今度紹介しろよ」

 「うん! 今はお空の上だから、生き返ったらね!」

 「このガキやっぱイカれてやがる……」

 

 夏雄から受け継いだ愚痴聞き遺伝子と、黒霧というクッション。そして何よりも、『冷気装甲』のおかげで、凍火は弔と奇跡的かつ比較的円滑にコミュニケーションをとれた。

 

 「そうだ。妹で思い出したんだけどね」

 「下らないことだったらぶっ壊すぞ」

 「出来ないでしょ。あのね、先生に、弔と兄弟みたいに仲良くねって言われたの。どっちがどっちだと思う?」

 「……俺の方が年上だから、俺が兄貴か? ハァ」

 「わたしの方がしっかりしてるから、わたしがお姉ちゃんだと思う!」

 「どうでも良い……結論決まってるんなら聞くなよ」

 「ごめんね!」

 

 謝りながら、凍火は期待した目で弔を見た。

 

 「クソ姉貴」

 「えっ!? あのね、クソはいらないよ」

 「おいクソ」

 「ええっ!?」

 

 弔は面白そうに笑う。この顔を見るのは初めてだ。手のせいでほとんど隠れちゃってるけど。

 

 「姉貴なら弟の世話しなきゃいけねえよなぁ?」

 「そうなの?」

 「そうだよ。とりあえず面倒くせえメシとトイレと風呂、代わりにしてくれ」

 「ご飯とトイレは無理だよ……あっ、『ワープゲート』でご飯の穴とおしっこの穴を繋げてもらえばっ!」

 「は……、うわ……。気色悪いこと言うなよ」

 「ごめん……」

 

 冷静に考えると汚い。凍火は本気で謝った。

 望がゲラゲラ笑っている。

 

 「お風呂も代わりに入るのは無理だけど、お姉ちゃんが洗ってあげるよ! お風呂上がりのワセリンとベビーパウダーも!」

 「ちょっとでも染みたら殺すからな」

 「えぇ……? 『冷気装甲』破れないのに……?」

 「…………」

 〈無理ゲーじゃん……、凍火ちゃん、こんなヤツに世話焼くなよ〉

 

 結局染みたので、5本指で全身をペチペチ触られた。

 もちろん崩壊はしなかった。

 

 「ご飯もっと食べなよー、黒霧さんのおいしいよ?」

 「恐縮です」

 「野菜は口の中でチクチクする、肉は噛むのが面倒くさい、米は粘りが気持ち悪い。味噌汁は具が多くて飲みにくい」

 「そうですか……」

 「そんなことないですよ、おいしいです」

 

 食事の時にはいつも偏食。しかも、偏り具合が日によって変わる。

 今日はかなり酷い。肉も野菜も米も無理って、じゃあ何なら食べれるんだろう?

 凍火は黒霧のモヤのところにトマトを入れる。

 

 「えっ?」

 「ごちそうさまっ! お手伝いします!」

 「え、フロストゲイル……今何を?」

 「黒霧さん、わたしが何かすることはない?」

 「今トマトを私の中に入れましたよね? なぜそのようなことをするのですか?」

 「してませんけど……?」

 「きちんと食べないと大きくなれないと、先程自分で仰っていましたよね? ……洗った食器を拭いてからしまってください。そうしていただければ今回のことは許しますし、次からあなたのサラダに盛り付けるトマトはお1つだけにしますので」

 「わかりました! あの、トマトは0個で良いんですよ?」

 

 たまに黒霧の家事のお手伝いをして、弔の世話を焼く。

 久遠(くおん)と凪と別れた辛さも、凪との最後の約束を守ってあげられなかった苦しさも紛らわすことができた。

 

 そう短くない日数を弔と過ごしたある日、凍火は宣言。

 

 「そうだ。そろそろわたしお家に帰るから、お風呂とか歯磨きしっかりするんだよ」

 「…………家?」

 「うん。えーっと、お姉ちゃんとお兄ちゃんと、一応双子のお兄ちゃんと、一応お父さんが住んでる」

 「一応が多いな……ソイツら嫌いなの?」

 「……うん」

 

 エンデヴァーは嫌いだ。焦凍(しょうと)くんには、複雑な思いがある。

 『半冷半燃』がずっと生まれなければ少しはマシな家だったのかな。兄の存在を否定するようで、そう考える自分が嫌だ。

 凍火があの個性じゃなくて良かった。そう思うのが後ろめたい。

 

 「家出中?」

 「ううん、お家には氷の分身がいるの。だから家出じゃないよ!」

 「ふーん」

 「あっ、ひゃわ、待って、よし……勝て、あー!!」

 「もう1戦するぞ」

 「やだ……!」

 

 凍火の動かすキャラクターをボコボコにしながら、弔は無関心そうに呟く。

 

 「そろそろ先生とのお電話の時間だよ。ゲームやめよう」

 「これ以上負けたくないだけだろ」

 「だって、初めてやるゲームなんだから仕方ないじゃん! 弔、コマンドとか教えてくれないし……」

 「やって覚えろ」

 「ゲーム自体初めてだもん」

 「……先言えよ」

 

 テレビに繋ぐ周辺機器を黒霧に変えてもらい、接続がされるのを待つ。

 

 『久しぶりだね』

 「先生! わたし、大分ぷっくりして来たので、そろそろ帰りますね! 今までありがとうございました!」

 「先生、コイツ勝手すぎるだろ。何か言ってくれよ」

 『そうだな……家に居づらいのだろう? 弔や黒霧とも仲良くやれているみたいじゃないか。勉強なら僕が教えてあげられるから、もうしばらくここにいないかい?』

 

 オール・フォー・ワンの話す内容自体は普通だった。

 酷い家庭環境の子どもを心配する、優しい先生とも思える。

 

 (……?)

 〈ひっ、何だこれ……〉

 「……っ、先生?」

 

 凍火という存在自体を飲み込むカリスマ。

 優しく包み込む久遠のそれとは違う──まさしく、帝王に相応しいもの。

 オール・フォー・ワンの声からは、有無を言わせない雰囲気が放たれている。

 

 「ダメ、です!」

 『うん?』

 

 それでも凍火は恐怖を振り切って言う。

 オール・フォー・ワンは画面の向こうで首を傾げた。

 

 「お兄ちゃんとお姉ちゃんのところに絶対帰らないとダメなんです!」

 『絶対に? なぜ?』

 「2人が育ててくれたから……2人の宝物で世界の何よりも大事で可愛い天使な妹のわたしがいないと寂しくなるから……」

 「コイツヤバいな」

 〈芽愛のせいか……?〉

 

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔を一瞬だけして、オール・フォー・ワンは笑う。

 

 『下の子は上の子のところに必ず帰らないといけない。その通りだ。よくわかっているね。それに、手塩にかけて育てた妹がいなくなれば、上の兄弟は悲しいものさ』

 「先生もですか?」

 『うん? そうだね、僕もだったよ』

 〈……誰に対してだ?〉

 

 望が訝しげにした。

 

 『弔が寂しがるからすぐ帰って来て欲しいのだけど、『氷分身』はどれくらい維持できるんだい?』

 「……別に寂しくない」

 「2週間くらい、です。でも、学校が始まるのでもっと短くなります。他の子がいっぱいで体力を使ったり、記憶の同期もしないとダメで、学校で学んだことで同期することも多くなるので」

 『なるほど。なら一晩くらいなら余裕だと思って良いのかな?』

 「それくらいなら全然平気です」

 『そうか……わかったよ。週に3度は顔を見せてくれ』

 「良いのかよ先生」

 『ああ。上の兄弟の気持ちは僕にもよく理解できるからね。今は見逃してあげるよ』

 「……? えっと、それじゃ、火曜日にまた帰ってくるね」

 「来なくて良いぞ。とっとと出てけ」

 「いや、わたし今日はここ泊まるけど……」

 

 凍火の回答に、オール・フォー・ワンは何か満足したようだった。

 「寂しくなりますね」と言ってくれたのは黒霧だけ。弔は凍火が帰ると言った時から、ずっと機嫌が悪そうだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 気持ち的には何年かぶりに(とどろき)家に帰った。

 無駄に大きな和風建築の屋敷。

 無駄に大きな庭。

 無駄に大きなエンデヴァー。

 全てが凍火の気分を下げる。

 

 〈有意義に大きな冬美ちゃんのおっ──ちょっと、痛っ、天才美少女に何するっ、むっ、やめっ〉

 (芽愛お姉さんに痛いことしないで!)

 〈ハァ、ハァ……コイツが、コイツが!〉

 

 望と芽愛を仲裁しながら自室に入った。

 道中聞こえる焦凍くんの泣き声とエンデヴァーの怒鳴り声。気分が悪い。

 

 氷分身は見た目こそ凍火そのものだが、材質は氷。

 『色塗り』で質感は誤魔化せど、触ると硬くて冷たく、人肌とは全く違う。

 それを隠すため、分身を動かす芽愛は「肌がチクチクするの」と人との接触を避けていた。そのせいだろう。

 凍火の部屋には冬美と夏雄が揃えてくれたスキンケア用品があった。

 必要ないけど、無くならなくてもおかしいし、今度弔用に持って行こうか。

 

 〈人の体質は難しいですからね。アレルギーなどが無いか聞いてみてはいかがでしょう〉

 (わかった!)

 

 芽愛と話していると、ちょうどスマホが震える。

 持っていることが姉兄(両親)にバレるとマズい。凍火は慌ててミュートにした。

 

 『テスト』

 「…………」

 

 待てど本題らしきメッセージは来ない。

 どうすれば良いのこれ?

 

 〈セキュリティが脆弱な初期アプリですし、細かいこと話すのはやめた方が良いかもですね〉

 〈じゃあどうすんだよ〉

 〈暗号でも決めれば良いのでは? それか対面での会話オンリー。あっ、凡人にはわかりませんよねぇ〉

 

 とりあえずお姉さんに従って、個人情報を出すのはやめておく。

 

 『よんたよ わたしたよ』

 『まちかえた わたしたよ なんにもわたしてません』

 『てんてんかうてません』

 

 『今度変換と句点教えて差し上げますね』

 『今度(こんど)変換(へんかん かんじにかえること)と句点(くてん 、←こちらです)と濁点(だくてん ゛←こちらです)教(おし)えて差(さ)し上(あ)げますね』

 『フロストゲイルはまだちいさいので、しかたないです』

 

 〈可愛い〜! スマホの打ち方教えなくて良かったです〉

 〈ハッキングは教えたのにな〉

 

 わたし、黒霧さんにバカにされてる? 優しい人だと思っていたのに。

 読み仮名振らなくても読めるもん。難しい漢字はわからないけど。漢字変換が出来なかっただけで。

 凍火はモヤモヤした気分を抱えた。




認知を狂わせるのが得意な凍火ちゃん。姉兄は両親だし、弔は凪。凪ちゃん天国でびっくりしてそう。

芽愛は分身を動かしているので、オール・フォー・ワンたちとのシーンでは不在でした。
ちなみにまだ凍火は6歳です。どっかで数年雑にスキップしたい。
最後の会話をLINE風にしたかったけど、技術的に出来なかったし、なんかちょっとLINE使う凍火と黒霧が解釈違いでした。ヴィランでも使うと思うけど、なんかこう、嫌です。

オリキャラ・オリ個性等の設定まとめ

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