亡霊たちの████アカデミア   作:炭火カルビ

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2.トーカ・イン・クリーチャーワールド

 

 例年、入学式の頃には散り始める桜。今年は珍しく満開で新入生を迎えた。

 (とどろき)家の子どもがみんな通う、少し賢いらしい私立小学校。凍火(とうか)焦凍(しょうと)はその校門を初めて潜るところだ。

 

 お母さんは入院中で、お父さんはアレ。凍火たちに着いていてくれるのはお姉ちゃんとお兄ちゃん。

 

 「せっかくだから写真撮ろうよ!」

 「アイツいなくて良かったね。『時間の無駄だ!』とか言いそう」

 「もう夏ったら、お父さんも来たかったけど、事件が起きちゃったから来れなかったんだよ?」

 

 冬美の一声で入学式の看板の前に並ぶ。

 ちょっとうんざりしてきたところで順番が来た。

 

 「来なくて良いもん。冬姉、前の人終わったみたい」

 「あっ! すみません! 写真、お願いしても良いですか?」

 

 後ろに並ぶ家族は快く頼まれてくれた。

 優しそうなお父さん。元気そうなお母さん。同じ歳の子は、誰から見てもわかるくらい両親に大事にされている。

 雲泥の差を感じて、凍火は嫌になった。

 

 「凍火ちゃん、もうお肌のチクチク治った?」

 「うん、平気」

 「焦凍、もっと寄らないと入らな……寄りすぎ、離れすぎ! ハァ……」

 

 夏雄(なつお)はため息をついて、焦凍と手を繋いだ。

 

 「これで良いからな。ここから動くなよ」

 「うん!」

 「……写真撮り終わったら動けよ」

 「うん!」

 

 心配したように念押す夏雄。

 焦凍は話すことも隣にいれることも楽しくてたまらないとでも言うように、目を煌めかせて頷く。

 

 取られた。

 凍火はそう感じた。

 

 夏雄も冬美も凍火のことが好きだし、特別大事にしてくれるけど、唯一ではない。

 あの人のせいで普段はないだけで、機会があればこうやって奪われる。

 

 「じゃあ、撮るわね。はい、チーズっ!」

 

 家族4人の笑顔の写真。

 緊張した下の双子と、優しい姉兄(両親)

 写真の外の家族が、本当にいなければ良いのに。

 

 

 

 

 

 

 焦凍とクラスが一緒だった。

 嬉しいような嫌なような微妙な気持ち。何だか、やっぱり嫌な気がする。

 

 ((のぞむ)お兄さん、前に双子は普通違うクラスだよって言わなかった?)

 〈言ったっけ?〉

 (もうっ)

 〈あ、言ったのわたくしですね。見分けがつかないとかが理由なので、凍火ちゃんと焦凍くんには関係ないのでは?〉

 (望お兄さんごめんなさい……)

 〈良いって。でもクラス一緒のが楽じゃん。休んだ時とかさ〉

 

 「凍火ちゃん、凍火ちゃん?」

 「えっ!? わっ、ごめん、ぼぅっとしてて……」

 「そっか。元気なら良かった。調子が悪くなったりしたら、授業中でも入学式の途中でも良いから、近くの先生に言うんだよ」

 「うん、大丈夫」

 

 望たちと話していると、冬美(ふゆみ)を心配させてしまった。

 

 「お姉ちゃんたちは体育館に行ってるからね」

 「先生の言うこと、ちゃんと聞けよー」

 「うん」

 「凍火ちゃん、あのね、黒板(ここ)にぼくたちのせきがあって──」

 

 一丁前にお兄ちゃんぶりながら、焦凍が子どもらしい語彙で説明。

 望と芽愛(めあ)で入学式の動きや学校生活は予習済み。なんだかちょっと面倒な時間だ。

 出席番号は連番だけど、焦凍は1番後ろ。凍火は隣の列の最前席。焦凍がガッカリしていた。

 

 「ぼくがついてるから、またゲホゲホしたらいってね!」

 「う、うん」

 

 焦凍が誇らしげに笑う。

 彼の頬。殴られた痣を隠す大きなガーゼが持ち上がり、その異物感を目立たせた。

 

 

 

 

 

 

 怪我があるけどイケメンの焦凍くんの妹+弱個性+エンデヴァーの娘。

 幼稚園ではその相乗効果で友達は出来なかったけど、大丈夫かな。友達なんかいなくても望たちがいるか。

 

 〈趣味とか言えるようにしろよ。大丈夫、凍火ちゃんは可愛いからすぐに友達100人出来るさ〉

 〈ふふ、どうでしょう。儚げ超美幼女ですよ? ビビって凡人には話しかけることも出来ないかも〉

 〈可愛いから話しかけられるんだろ。それと、興味がなくても好きなヒーロー言っといた方が話題あっていいかもな〉

 

 「と、(とどろき)凍火です。個性は『温度操作』で、好きなヒーローは……オールマイトです。よろしくお願いします!」

 

 名前だけの自己紹介だった焦凍が、驚いた様子でこっちを見た。

 きっと、「そういうこと話すって先に言ってよ」とでも思ったんだろう。凍火から姉兄(両親)を奪ったんだから、2人に聞けば良かったのに。

 

 「凍火ちゃん、あのね、ぼくもオールマイト好きなんだ」

 「そう」

 

 入学式までの自由時間に話しかけられた。どうでも良い。

 

 「むかし、お母さんと見たテレビでオールマイトがねっ」

 「へぇ」

 

 母とテレビを見るの(それ)、やったことない。

 

 「凍火ちゃんはオールマイトのどこ好き!?」

 「えっとね……強いけど、優しそうなところ」

 

 本当は好きじゃない。

 オールマイトもエンデヴァーも、凍火たちを助けてくれなかったから。

 オール・フォー・ワンの方が百倍好き。久遠(くおん)の方がさらにその千倍大好き。

 

 早くこの話、終わらないかなぁ。

 (とむら)との方が隠し事が少ない分楽だ。

 入学初日にして、凍火は時計と睨めっこして時が経つのを待った。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 『本日は来れますか?』

 

 『今日は入学式だから、』

 『お姉ちゃんがごちそう用意してくれてるので』

 『早く帰りますけど、ちょっとお話したいです』

 

 『了解しました。いつもの場所でよろしいですね?』

 

 『はい』

 

 黒霧との連絡を済ませて、凍火は人通りを少なく()()道で待つ。

 個性『思考誘導』を無差別に使い、『この道は通っちゃいけない』『違う道を使うべき』と思わせることで、人の量のコントロールが出来るようになった。

 『実験』で凍火たちを騙した、(しずか)の『人払い』みたいで最初は嫌だったけれど、便利なのは事実。

 

 この道を選んだ理由は1つ。監視カメラが少ないから。

 数少ないカメラを『色塗り』で映らなくする。凍火自身も同じ個性で変装しているから、もし映っていても凍火とわからないだろう。

 

 「ご入学おめでとうございます。本日はご家族で食事なさるでしょうから、今度腕によりをかけて振る舞わせていただきます」

 「……ありがとうございます」

 

 担任の先生の定型文と比べて、何だか凄く照れ臭い。

 『ワープゲート』に入ると同時に、『色塗り』の変装もやめる。

 

 「ただいま、弔」

 「うわ来やがった」

 「来やがったじゃないよー! おかえりでしょ?」

 「……ハァ」

 「むー、おかえりは?」

 「…………、…………チッ、おかえり」

 

 消えるような声で弔は言った。

 

 「でね、どうしてれば良かったのかな……、いじめられたりしないといいけど……」

 

 エンデヴァーが父であることだけぼかして、凍火はクラスメイトへの不満を口にする。

 入学式の後、トイレからの帰り。唯一焦凍と離れた時間。

 そこで言われたのがこちら。

 

 『エンデヴァーがお父さんで、兄貴はすごいこせーなのに、そんなジミなこせーなの?』

 

 これを言ったのはいかにも強さ至上主義っぽい男の子。

 

 『エンデヴァーの子どもなのに、オールマイトがすきって、いいの?』

 

 こっちは鼻水を垂らしたアホ面の子。

 

 凍火はぷりぷり怒りながら、「嫌な子にこんな風に言われてねー」と話す。

 

 「お前なら全員ぶっ殺せるんだから気にするだけ無駄だろ」

 「もう、子どもにそんなことしたらダメなんだよ!」

 「じゃあ子どもじゃなきゃ良いのか?」

 「良いよ!」

 「……マジか」

 

 焦凍くんを傷付けたお父さんとお母さん。助けてくれなかったヒーローと、凍火の自白を嘘扱いしたお巡りさん。『実験』でお兄さんたちを殺した研究員たち。(なぎ)の骨を折った人間未満のゴミクズ男。

 ああ、あの子を造ったのだけがこの世に生まれた意味の大人たちも忘れちゃいけない。

 久遠やオール・フォー・ワンのような例外がなければ、大人とは子どもを傷付けるものだと、凍火は短い人生で学んだ。

 

 「好きなヒーローなんていないけど、誰言えば良いのかな……」

 「いねえなら言わなくていいだろ。というかムカつく話題出すなよ」

 「お姉さんとお兄さんは、みんな好きなヒーローはオールマイトって言うから、そう言った方が良いって。でもわたしは助けてくれなかったから嫌いなの。変かな?」

 「誰だよソイツら。別に変じゃねえだろ、むしろクソ姉貴がスタンダードだ」

 「クソじゃないもん」

 「カス」

 「カスじゃないもん」

 

 今日は珍しく弔が冷静で、凍火が愚痴を言う日だった。

 いつもは逆だ。弔が苦しそうにお話しして、凍火は頭や背中を撫でてやりながら聞いている。半分くらいの確率で突き飛ばされたりする。

 

 「おや、興味深い話をしているね」

 「せんせぇ! 先生が先生なら良かったのに。先生頼れなさそうなの」

 「先生……何の用だよ……。それとお前、」

 「うん?」

 「同じ単語で違う人間を指すのやめろ。絶対国語の成績悪いだろ」

 「うん……? 漢字テストは満点だったよ! 漢数字の一から百まで全部書けた!」 

 「それ満点じゃないやついるのか?」

 

 『ワープゲート』から、オール・フォー・ワンが顔を出す。

 

 「入学おめでとう。学校生活が有意義になるよう祈っているよ」

 「ありがとうございます! 良い個性の子がいたら、頑張ってお友達になって紹介しますね!」

 「良い子だ。もしいたらぜひ頼むよ」

 「えへへ……」

 

 「うわぁ」と白けた声を弔が出す。望も同じような感情を乗せて、凍火の中で言った。

 

 〈俺はソイツを信用できないからな。第3のお父さんみたいに見るなよ〉

 (えー……)

 

 ちなみに第1のお父さんは夏雄、第2は久遠だ。

 

 「ヒーローは誰でもは助けてくれないからね。その点を正しく認識しているようで良かった」

 「はい! それはもう、本当にそうだと思います!」

 

 オール・フォー・ワンは満足そうに凍火の頭を撫でた。

 

 「ぽっと出の癖してズルい」

 「ごめん……」

 

 弔にオール・フォー・ワンの手を譲る。それでも不満そうだ。

 

 「そうだフロストゲイル。明日はドクター……僕の友達に会ってもらうよ。研究のために少し注射して血を抜きたいらしいから、覚悟しておくようにね」

 「『冷気装甲』したままで針刺さりますか?」

 「その時は解除してね」

 〈針のとこだけ装甲に穴開けろ。じゃねえと万が一攻撃されたら防げない〉

 「わかった!」

 

 凍火は望の言葉に元気よく頷いた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 学校が終わり、冬美には「友達と遊ぶの」と言ってオール・フォー・ワンの元へ。

 

 「フロストゲイル、学校はどのような感じですか?」

 「どのような……?」

 「成績でもご友人とのことでも、何でも構いません」

 「うーんと、成績は多分良い、けど、でも……」

 「でも?」

 「お勉強は出来てるの。でも、鉛筆とかノート、持って来てるのに、たまに授業の時には無くなってる……」

 「それは……。そうですね、予備をポケットに入れておいたらいかがでしょう?」

 「ノートは入んないよ」

 

 黒霧と楽しく話していると、「うがあぁぁ!!」と弔が叫んだ。またゲームで負けたとか、ヒーローのニュースがムカつくとかで癇癪だろうか?

 

 「どうしたの弔?」

 「いかがなさいましたか死柄木(しがらき)弔」

 

 凍火と黒霧はほぼ同時に尋ねる。

 

 「ムカつく!」

 「何に?」

 「お前に!」

 「何かしちゃった?」

 「どうして大人しくいじめられてんだよ、やり返せよ」

 「そんなこと言われても……」

 

 弔は体を掻きむしり始めた。

 

 「そんなに掻いたら血が出ちゃうよ」

 「……教えろ」

 「え?」

 「学校の場所と、そのクソどもの名前」

 「絶対壊す気だぁ、教えないよ」

 

 クラスメイトが減ってしまう。まだみんなの個性を知らないし、凪を取り戻すのに有益な個性の子もいるかもしれないのに。

 

 弔は不機嫌そうで、空気がピリついている。

 

 「やあフロストゲイル、迎えに来たよ」

 「先生、弔が辛そうなの何とか出来ない?」

 「後でドクターから薬を貰おうか」

 

 それだけ言って、弔の方を一瞥だけすると、オール・フォー・ワンは凍火を『ワープゲート』に押し込んだ。

 『ワープゲート』を潜る前見た弔は、こっちを見ることもなくゲーム機に手を伸ばしていた。

 

 「受容器ちゃん。待っておったぞ」

 「わたしはそんな名前じゃなくて凍火だよ! あ、フロストゲイルですよ!」

 

 よくわからない名前で呼ばれた。

 白衣を着ている小さいおじいちゃん。

 凍火の知るお医者さんとは違うのは、何だか息が荒くて興奮しているところだ。

 

 「しかし忌々しいのぅ。『実験』のマッドサイエンティストどももオール・フォー・ワンに協力してくれれば、さらなる発展に繋がったものを」

 「…………」

 

 部屋が冷たくなる。凍火は無意識に『氷結』で壁と床を凍り付かせていた。

 

 「ドクター、凍火も。それくらいにしなさい」

 「え? わっ、ごめんなさいっ! 『実験』のこと聞いたら、なんだかイライラして……」

 「いやぁ、すまんの。興味深いものだったから、つい」

 〈それで人が死んでるんだけどな〉

 

 凍火も望に賛成だ。オール・フォー・ワンのお友達でも、ドクターとは仲良く出来ない。

 

 「血、これだけしか取らないんですか?」

 「子ども相手ではこれしか取れんわい。貧血で倒れられたらオール・フォー・ワンに怒られてしまう」

 

 注射器に溜まりつつある血を見て質問する。

 捌いて治してで、1日に莫大な量の血を回収していた治崎(ちさき)の個性はやっぱり凄いんだ。

 

 「そういえば──」

 

 研究が省略できた方が楽だろうと、治崎に聞いた話を語る。

 凍火から個性強化剤が作れること。

 上手いこと『実験』の薬物を吸収して、害になる成分だけ発散したのだと言われたこと。

 凍火の個性因子はよくわからないけどぐちゃぐちゃで、上手く解析出来なかったこと。

 

 「つまり、その若造に解析出来なかったから、ワシにも出来ないと?」

 「そうじゃなくてね、ええと、やるだけ無駄かもって……」

 「つまり、ワシを舐めていると?」

 「そうじゃないです。……うぅ、せんせぇー」

 「ドクター、彼女は善意で教えてくれたんだよ」

 「だが友よ。このような子どもにコケにされては、ワシの気持ちが落ち着かん! 学問を齧っただけの若造には出来なくとも、ワシなら出来る! こうしちゃおれん、早く解析をせねば」

 「邪魔しちゃ悪いし、僕たちはもう行くよ。研究が落ち着いたらゆっくり話そうじゃないか」

 「え、もう行くの……?」

 「特にこれ以上用もないからね。黒霧」

 

 それまで存在感を消していた黒霧が「はっ」と返事。『ワープゲート』で、弔が待つ家に帰る。

 血を抜いた短時間でわかったことは、ドクターさんは変な人ということだけだった。

 

 「次行く時も着いてきてくれますよね?」

 「都合が合えば。……そんな嫌そうにしなくとも、ああ見えてドクターは恵まれない子どもたちのために活動しているんだ。例えば孤児院の運営とかね」

 「なら良い人ですね! 今度謝らないと」

 〈ガバガバ……〉

 

 その必要はないよ、とオール・フォー・ワンは凍火の頭を撫でた。

 反射的に個性を確認する。……うん、全部ある。

 

 「フロストゲイル。少し授業をしようか」

 「え? はい。……弔の家じゃないの?」

 「授業に集中してほしいからね。ほら、弔はゲームで負けたりすると暴れるだろう?」

 「確かに近くでお勉強は出来ないかもです……」

 

 座り心地のいいソファーと、蜂蜜入りの甘い紅茶。

 何だか眠くなってきた。真面目なお話じゃなくて雑談だといいけど。

 

 「君は、ヒーローをどう思う?」

 「……お口だけの人。わたしが(ヴィラン)になってから助ける、保護するって言うなら……『実験』の時に来て欲しかった。まだみんな、死んでない時に」

 〈…………死んでごめんな〉

 (お兄さんたちは悪くないもん)

 「そうだね。ヒーローが全て助けると言うのは口だけさ」

 「ねえ、もしも保護してもらってたらどうなってたのかな? 兄さん……治崎さんは、実験動物にでもされると思うって言ってましたけど」

 

 “兄さん”の単語にオール・フォー・ワンがピクリと反応した気がした。

 

 「だろうね。ヒーローだって必ずしも正義じゃないんだ。殺人だってするんだぜ」

 〈…………〉

 「えっ!? ヒーローが……?」

 「以前話しただろう? 色々あったから覚えていないのも仕方ないか。ヒーロー公安委員会のことについてさ」

 

 オール・フォー・ワンは仕方ない子を相手にするように笑う。

 

 「願野(がんの)望くんならわかっているかもしれないね?」

 「あっ、はい。先生にたくさん説明させちゃいけないし、お兄さんに聞いてみますね!」

 

 (望お兄さん? えーっと、凍火ね、公安委員会も『実験』やってた悪い人たちっていうのは聞いたの覚えてるよ!)

 〈他には?〉

 (国を守るためには、嫌なこと知った人を殺したりするって……まさか)

 〈それをヒーローにやらせてるんだ。あ、もちろん公安直属のやつにだけだぜ。普通のヒーローはそんなこと知らない〉

 

 「……って」

 

 望から教わったことを口に出して、合っているか確認。

 凍火は続けて、動揺を覆い隠すために紅茶を何度も飲んだ。

 

 「紅茶を気に入ってくれたのかい? お代わりを用意させよう。お茶菓子はクッキーで良いね?」

 「は、はい……。あの、どうして望お兄さんはこんなこと知ってるの……?」

 「彼の父親が、ヒーロー公安委員会の重役だからだろうね」

 〈後継者として、色々教えられたから〉

 「どうして望お兄さんが知っているってことを、先生は知ってたの……?」

 「まさか。僕はそこまでは把握してないよ。君に話したが忘れられていた内容を、彼なら覚えているのではないかと考えただけさ」

 〈やろうと思えば、俺ん家も調べられるってことだろ。フルネームバレてるもん〉

 

 2つの回答が同時に耳に入る。

 凍火は、俯いた顔をゆっくり上げた。

 

 「先生、あの──」

 「次の話をしようか。ヒーローについてどう思う? これでは漠然としているね……エンデヴァーは好きかい?」

 「嫌い! 大嫌いです!」

 

 反射的に答えた。紅茶もクッキーも、何だか一気に苦くなった。さっきまでも素直に美味しいとは思えなかったけど。

 強さは尊敬する。事件解決数がトップなのも凄いと思う。

 

 「エンデヴァーは……ヒーローは自分が満足するために、家族を犠牲にするから」

 「ああ! その通りさ! よくわかっているね。僕がわざわざ教えなくても良かったようだ」

 「でも……ヒーローのみんながみんな、そうなんでしょうか? No.3以下のヒーローがどれだけ品行方正でもあの人以下だから無意味ですけど、オールマイトは……」

 「オールマイトだって君たちを助けてくれなかったじゃないか。公安の暗躍すら止められていない。そうだろう?」

 

 そうだ。それで行き場のない憎悪を向けていた時期もある。

 でも。

 

 「でも、探知系の個性……とかじゃないんですよね? なら仕方ないとも思います」

 「そうだね。どこでどんな悪事が為されているか、彼に事細かく知る手段はないのかもしれない。でも、それが苦しんでいる人間を助けにいかない理由になるのかい?」

 「なり、ません……」

 

 氷柱のように冷たく突き刺さる気配と、炬燵みたいに暖かく包む声。

 もっとも、凍火は冷たいも暖かいも知らない。

 感じる矛盾した2つに半分混乱しながら、オール・フォー・ワンと話していた。

 

 「そうだろう。いやぁ、理解が早くて助かるよ。どうやら僕と話すのはほとんどの人にとって疲れるらしくてね、凍火はどうだい?」

 「ちょっと、緊張しました……」

 「なら、今日の話はここまでにしようか。続きは今度。残りの時間は君の話を聞きたい。そうだな……弔に話していたような日頃の不満を、僕に聞かせてくれ」

 「えっと、……はい」

 

 エンデヴァーへの、家族への不満を訥々と語る。

 オール・フォー・ワンの相槌と雰囲気作りが上手く、話そうとしていたことより過激なことまで話してしまった。

 

 「それで、これも凍火が悪いんです。多分」

 「そんなことはないさ! むしろその体質は、ろくに面倒も見てくれない両親からのプレゼントと思いなさい」

 「お姉ちゃんとお兄ちゃんからが良かったです」

 

 凍火は完璧な耐熱、耐冷体質を持つ。

 そこまでなら焦凍以上の最高傑作だ。

 何せ、昔誰かに酷いことをされた時だって──誰かと言っても多分エンデヴァーだけど──火傷1つ残らなかったのだから。

 

 「……もうこんな時間か。今日はどうする?」

 「……。今日はお家に帰ります。明日くらいに、また泊まっていっても良いですか?」

 

 入学を機に、父が焦凍に課す訓練の負荷が上がった気がする。そのため、家にいると怒号と悲鳴がうるさい。

 それが嫌で、『氷分身(芽愛)』を家に置き、弔のところに外泊する頻度が増えた。

 

 その日は家に帰り、姉兄(両親)と家族3人でご飯を食べた。

 いつもより量の多い食事をぺろりと平らげると、冬姉に褒めてもらえた。

 

 「凍火ちゃん凄いねー! もう小学生のお姉さんだもんね」

 「えへへ。あのねっ、お勉強も頑張ってるんだよ! それにねっ、凍火、クラスでもすっごく足早いんだよ!」

 「そっかそっか。凍火ちゃんは運動も勉強も出来て可愛い天使さんだね〜!」

 「ちょっと姉ちゃん。チクチクするんだから撫でたらダメだって」

 「えへへ……今日は調子良いから大丈夫だよ!」

 〈冬美ちゃんからのナデナデ、羨ましいです〉

 〈お前さぁ……〉

 

 冬美と夏雄に揉みくちゃにされる、何より幸せな時間。

 少し前に巨悪と話していたとは思えない普通の子どもがそこにはいた。

 




ヒロアカ原画展後期抽選当たりました! 最後の方なのでグッズはないかもですが楽しみです。
後はカフェも当たって欲しいです。

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