亡霊たちの████アカデミア   作:炭火カルビ

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5.世に蔓延る偽物ども①

 

 サンタヒーロー・マジックサンタ。

 年齢は推定20代前半。出身校は中堅ヒーロー科高校。性別は男。常に身につけている白い袋が『個性』と関係あるらしいけど、肝心の詳細は不明。

 

 活動区域には、電車で30分もかからない。交通費も知れたもの。

 

 「凍火(とうか)ちゃん、今日の体育どうだった!?」

 「さっきもお話しなかった? 跳び箱、普通にたくさん跳べたよー。跳び箱の上をでんぐり返しするやつはちょっと怖かった」

 「……! あれはね、えっと、頭をこうして……」

 「出来たからやり方は大丈夫だよ。それより焦凍くん、足止まってる」

 「……ぁ、……うん」

 

 “帰りたくない”と顔に書かれているのを無視した。

 焦凍(しょうと)の笑顔が曇るのを見て見ぬふり。

 

 もしかしたら頑張ればエンデヴァーを倒せるのかも知れない。殺せるのかもしれない。

 『氷結』、『毒』、『肉体強化』。みんなの力を合わせて頑張れば。

 

 それでどうなるのか、凍火にはわからなかった。

 お金が入らなくなる。すると凍火だけじゃなく家族みんなが困る。

 あの女が帰ってきて、母親面してきたらどうすればいいの。

 そうして、周りで(ヴィラン)による事件が増えたら、凍火はどう責任を取れば良いの。

 

 凍火は子どもで、考え無しに動くけれど、どうしようもないバカではなかった。

 自分たちが家族(地獄)を維持していれば、外の平和だけは保たれる。ならそれでいいんじゃないか。

 怖くて辛いのはみんな。痛いのは焦凍くんだけ。ごめんなさい。

 

 「……えっと、ヒーローアニメの内容、明日の朝にまた教えてあげるねっ!」

 「…………うん」

 

 焦凍は酷く暗い声で返事をした。

 クラスの話題から浮かないように、訓練中に放送されている人気アニメの話を教える。確か凍火から言い出したことだ。

 (のぞむ)が言うには、残酷でズレた善意らしい。

 彩葉(いろは)が言うには、やらないよりはマシらしい。

 別に焦凍がそれでクラスの輪に入れているわけではない。どちらかというと孤立気味。でも何かしたとくらい思わせて欲しかった。

 

 「おかえりっ!」

 「ただいま、お姉ちゃんっ!」

 「ただいま」

 「おやつに凍火ちゃんの好きな抹茶のクッキーあるよ! あ、焦凍も良かったら一緒に――」

 「訓練する」

 「そっか。……頑張ってね」

 

 出迎えたのは冬美(ふゆみ)だけ。昼間に忙しいヒーローのエンデヴァーがいることは少ない。

 でも、事務所と家は車なら近いからスキマ時間に家族の様子を――正しくは焦凍の訓練を見に帰ってくることはたまにある。

 前に夏雄(なつお)が遊びに誘って、焦凍も喜んでそれに応えて。運悪くエンデヴァーが早く帰ってきた。

 

 「焦凍はヒーローになる仔なんだ!! 邪魔をするな!!」

 

 エンデヴァーが怒りに燃やす――フロストゲイルとして対峙した時のことを思えばとろ火だけど――炎に、みんなとても怯えていた。

 あの時。凍火は確かにエンデヴァーを殺してやりたいと思ったけど、姉兄(両親)の手前、行動にも表情にも表すことはなかった。

 それで学習してしまって、冬美と夏雄は遊びに誘えないし、焦凍も自分も兄弟の輪に加わりたいと言うことがなくなった。

 

 「お姉ちゃん。ちょっと遊びに行くね」

 「どこに行くの?」

 「図書館。ちょこっと遅くなるかも」

 「気をつけてね」

 

 最寄りの駅から電車に乗って、緊張しながら切符を買う。電車から景色を見るのは楽しい。

 駅の改札を出て、キョロキョロ辺りを見回していると声をかけられた。

 

 「あれ? 凍火ちゃん、迷子?」

 〈うっひょ〜〜〜〜〜っ!!!!!〉

 〈巨乳美人がコイツに近寄っちゃいけない法案、そろそろ通らねえかな……〉

 〈あっ!!!!! レディ・ナガンだっ!! サイン!!〉

 (望お兄さんを通してね)

 〈サイン貰えって彩葉ちゃんが言ってるぜ〉

 (貰えたら貰う……)

 

 芽愛(めあ)と彩葉が歓喜し、暴れる。

 レディ・ナガンが屈んで話すと目線とポーズの関係で、彼女の豊満な胸が凍火の視界を占めた。

 

 「迷子じゃないよ!」

 「でもこの辺、別に普段使わないだろ? 小学生が遊べるところでもないし、あー……塾とかだった?」

 「塾に行かなくても凍火は賢いから! 九九のテストも90点取れたんだ……ですよ」

 「おー……ん? どこ間違えたの?」

 

 都合の悪いことには答えない。

 

 「あのね、ここのヒーロー見たくて来たの! ナガンお姉さんは、ここのヒーロー知ってますか? サンタさん」

 「サンタ……サンタ……?」

 

 ナガンは考え込む。

 

 〈ぴょー!!!!! おっひょっ、うっへぇ、ありゃすげぇですよ兄貴ぃ〉

 

 腕を組んで胸を持ち上げるものだから、芽愛が狂乱した。頭が割れる。

 

 〈うるさい……うるさい! やめろ!〉

 〈望さんがっ、お口にシーツ詰めてくるっ! もがっ〉

 〈やめてあげて! ヒーローは何もしてない女の子に酷いことしないし……羽衣(うい)ちゃんへのアレは普通に悪だけど〉

 (芽愛お姉さん、ちょこっとで良いの。我慢しようね。凍火たちもうるさいの我慢したからね)

 

 望による暴行を見過ごしながら、凍火は悲しそうな顔をした。

 

 「サンタさんのヒーローさん、わからないの……?」

 「思い出した。マジックサンタだっけ?」

 「そう! あのね、サイン貰うの! わざわざ電車で会いに来たんだよ!」

 「そっか。貰えると良いね。ちょっと待ってな、地元の人ならどの辺りで活動してるか知ってるかも……すみませーん」

 

 ナガンは駅員を捕まえて尋ねる。

 なるほど、そう聞けば良いのか。勉強になった。

 

 「きゃっ! レディ・ナガンだぁ! ファンなんです、サインしてくださぁい!」

 「ふふっ、いつも応援してくれてありがとう」

 「わあっ! ありがとうございます!!」

 

 駅員は女子高生みたいにはしゃぐと、急に真面目な顔に戻った。

 

 「それで、何かありましたか……?」

 「事件とかじゃないから安心して。この子がさ、わざわざ遠出してこの辺りのヒーローに会いに来たって言ってるんだけど……マジックサンタってどの辺りで活動してるか、わかる?」

 「ちょうど、今くらいの時間に駅前あたりでよくパトロールしてますよ!」

 「ありがと」

 「ありがとうございます、ナガンお姉さん、駅員さんのお姉さん」

 「いえいえこちらこそ! 何もないところだけど、楽しんで行ってくださいねぇ!」

 

 凍火が駅前まで行こうとすると、ナガンが着いて来た。

 

 「お姉さんも用事あるんですか?」

 「いや、凍火ちゃんが迷子になったり、何かに巻き込まれるとマズいと思って」

 「もう小学生なんだから、迷子にならないですよ」

 「ちなみに、家族の人にはここ来るって言ったの?」

 「近所の図書館行くって言いました!」

 

 〈さすがヒーロー!!〉

 

 ナガンはわざとらしくため息をついた。

 彩葉の声に、凍火もそうしたくなった。

 

 

 

 「ヒーローは治安の悪いところをパトロールする!」

 「そうだね」

 「だから向こう行こうと思ったんです……」

 「危ないからやめときな」

 

 シオシオと、凍火はナガンに連行されていた。

 夕方から飲み潰れてる人もいる飲み屋通り。前を通っただけで異臭漂う裏路地。

 そこへ行こうとする度にナガンからの妨害。

 

 「あっちが何か騒がしいな……」

 「(ヴィラン)かも……お姉さん行って来て良いですよ」

 「その間にまた変なところ探検するつもりだろ? それに、(ヴィラン)いるならヒーローもいると思うし、一緒に行くよ」

 「怖い(ヴィラン)じゃないと良いなぁ」

 「私がすぐ仕留めるから大丈夫さ」

 

 ナガンが笑う。

 頼れる背中で、安心できる笑みだ。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 指先から細いレーザービームを出す(ヴィラン)が、人質片手に暴れている。

 ビームは細く、破壊力はそこまでじゃない。けど、躊躇なく何発も連続に、同時に撃つから十分な脅威。

 

 (ヴィラン)から少し距離のあるところでナガンが足を止めた。

 

 「ナガンお姉さん? あっち行かないの?」

 「ああ……ちょっと待ってな。今アイツを仕留めるから」

 「え?」

 

 〈すごぉい!! 見て見てっ、レディ・ナガンの狙撃術!!〉

 〈ええ、肘の穴に指突っ込みたいですね。あ、エンジニアとしての観点ですよ?〉

 〈小賢しい〉

 

 針穴を通すようだった。

 野次馬にも人質にも一切当てず、ナガンは髪を千切って銃弾にすると、肘の銃口から放つ。

 (ヴィラン)の足に当たり、倒れた。

 それまで何も出来ていなかった地元ヒーローが即座に確保。

 

 「今アイツを捕まえた爺さん……? がマジックサンタじゃない?」

 「本当だ! サンタさん! でもお仕事の邪魔しちゃダメだし、あれが終わったらお話しに行くー! ナガンお姉さんは、(ヴィラン)を捕まえましたって言わなくても良いの?」

 「あー……多分弾でわかると思うけど」

 

 2人はマジックサンタの方へ歩く。

 

 七色のサンタ服。わざとらしいつけ髭と毛量の多い白髪のウィッグ。根本やこめかみから地毛らしき黒色が見えている。機械で加工しました感のある嗄れた声。

 遠目から見たらお爺さんに見えたから、前情報の年齢が間違っていたのかと思った。

 

 〈お腹も詰め物してサンタっぽい体型にしてありますね〉

 〈動きにくそう……もしかしたら凄いサポートアイテムとかかも!!!〉

 

 マジックサンタが背負った白い大きな袋に(ヴィラン)を入れる。

 警察が来るまで捕まえとくのだろうか?

 

 同じように思ったのか、ナガンは小走りでマジックサンタへ。

 

 「なあ、アンタ。その中って……」

 「これはワシが仕留めた(ヴィラン)じゃ!」

 「その中って窒息しないの?」

 「これはワシの功績じゃ! 後から来た者風情が横取りしようとするでない!」

 

 ナガンは頭を抱えた。

 

 「凍火ちゃん」

 「はい」

 「私……撃ったよな?」

 「撃ってましたよね?」

 

 見つめあって、お互い頭に「?」を浮かべる。

 事後処理に警察が駆けつけて、マジックサンタに袋から(ヴィラン)を出させた。

 

 「レディ・ナガンさん、(ヴィラン)の捕獲に協力していただきありがとうございます!」

 「当然のことさ。礼には及ばないよ」

 「事件を解決したのはワシで――」

 「え? ああ、あなたもですか。ご協力感謝します」

 「う、うむ…………」

 

 ネームバリューの差もあって、マジックサンタはそれ以上自分だけの功績と主張出来なかった。

 

 「……アイツのサイン、本当に欲しいの?」

 「どっちでも……」

 「ならもう帰りな。送ってやれないけど、遠くまで来て何も無しは可哀想だし、ジュース代くらいはやるよ」

 「知らない人には物貰っちゃいけないんだよ」

 〈でも、ヒーローからの物は信用できるよ!!〉

 

 それと着いて行くのもダメ。

 凍火の人生で、9人の友達の命と普通の生活を代償に得た教訓だ。

 

 「サインはいらないけど……個性だけ知りたいの」

 「アイツの個性? わざわざどうして……」

 「ええっと……」

 

 知りたいから! だと、子供っぽすぎる。

 凍火は『将来のためのノート』を出して、照れ笑い。

 

 「ヒーローの個性について、色々調べてるんです」

 「へー……よく書けてるじゃないか。将来ヒーローになるための?」

 「……。ううん」

 

 ナガンは驚いたように目を見開いた。

 

 「凍火は……ヒーローが苦手だから、それを克服して、将来普通の子になるためのノート」

 「ヒーローが苦手、か……。ま、そういう子もいるよな」

 〈……へん、〉

 〈はい、彩葉ちゃんストップ〜。それ以上言ったらキスしますよ〉

 〈ヤダ!!〉

 

 彩葉が言いかけたように変で、圧倒的に少なく、学校で浮く存在。

 言わなくてもナガンはわかってくれたらしかった。

 

 「ヒーローは嫌いだけど、個性調べるのは楽しくって。エンデヴァーとかの個性って誰でも知ってるでしょ? だから、みんなが知らないようなヒーローについても調べたかったんです」

 「そっか、頑張れ。調べるのが楽しいなら良いけど、でも、ヒーローが苦手だからって無理に克服する必要ないと思うけどな」

 「変な子だといじめられちゃうもん……」

 

 ナガンは悲しそうな顔をした。

 

 「サイン? 今ワシのサインと言ったかのう?」

 「うわっ」

 「ちょっ、何するんだいアンタ!」

 〈ひ、ヒーローは人から物を奪ったりしない……あれはヒーローじゃない偽物……〉

 〈思想変な方に行ってね?〉

 

 しんみりした空気をぶち壊し、マジックサンタが凍火からノートを奪う。最後から開いてすぐの見開き。デカデカと欲しくもないサインが書かれた。

 

 ナガンはイラつき、すぐにでも凍火たちを引き離したそうにしている。だが、仕事を済ますため、凍火はマジックサンタを引き止めた。

 

 「あの……今ね、あんまりまだ有名じゃないけど、強い個性のヒーローを探して、個性について色々調べてるんです! サンタさんの個性、聞かせてください!」

 「それでワシに? フォッフォッフォッ、見る目があるのぅ。どれ、いくらでも話してやろう!」

 

 個性『異空間』。

 ポケットやカバン。外から隔離された空間に手を突っ込むことで、視界内の人や物を仕舞うことが出来る。

 ただしカバンのサイズが仕舞いたい物より小さければ、カバンが破れて中から出てきてしまうため、ヒーロー活動ではキャラ作りも兼ねて大きな白い袋を使っているそうだ。

 凍火は個性の内容をメモしながら聞いた。『思考誘導』を使うまでもなく、過不足ない情報。

 

 「ずぅっと仕舞いっぱなしも出来るの?」

 「もちろんじゃ。期限もないのぅ」

 「……出来るのか」

 「ワシの袋の中では時間が止まるから食料供給も心配せんでいいし、袋のサイズさえ確保すれば何人でも入るのじゃ。中で(ヴィラン)同士が喧嘩しおったら困るから、1人分のサイズにしておるがのぅ」

 「食べ物とかも腐らない?」

 「おう。便利なのじゃが、基本(ヴィラン)の捕獲に使うからのぅ。何を出来る個性かもわからんから、下手な物は置いとくべきではないのじゃ。その気になれば出来立ての札幌ラーメンを沖縄で食えるのじゃが」

 「お腹減って来た……」

 

 お腹をくぅくぅ鳴らすと、ヒーロー2人は笑った。

 

 「後ね、もう1個だけ! どうして、ナガンお姉さんが(ヴィラン)を倒したのに、最初、自分がやったって言ってたの? 教えて!」

 「…………」

 

 痛いところを突かれたように、マジックサンタは黙る。

 でもどうしても気になる。まさか、ヒーローが功績の横取りなんて、子供っぽいことしないだろうし。

 

 〈あれはヒーローじゃない偽物だよ!〉

 (ヒーローだよ)

 

 『教えないといけない』と、『思考誘導』。

 マジックサンタは俯き、プルプル震える。顔は真っ青で、握り拳を作っていた。

 ナガンが凍火たちの間に割って入り、

 

 「子どもの言ったことだからあんまり不快に思わないでくれよ。……そろそろ帰るだろ? な?」

 

 と、凍火を引き離した。

 

 「……わかっとる」

 「え?」

 「厚顔無恥なのはわかっとる。パゥワーもワシにはないのもわかっとる。でもな、痛いんじゃ」

 「痛い……?」

 「ワシの個性で『異空間』に繋げた袋と、ワシの体内は繋がっとる」

 

 マジックサンタは説明を続ける。

 繋がりは一方的。

 何かを食べたからと言って、それが『異空間』に入るわけでもない。

 『異空間』に入れた(ヴィラン)が、マジックサンタの胃酸で消化されるわけでもない。

 

 ただ、『異空間』に(ヴィラン)を捕まえ、それが袋の中で暴れた時。

 殴る、蹴る、個性攻撃。ダメージはマジックサンタの体内に行く。

 不思議と傷にはならない。故に、個性のデメリットは医者にも理解されないものだ。

 

 「これだけ我慢しとるんじゃ。遠くから楽にヒーローを仕留めたお前さんより、ワシの方が上じゃ」

 「……。そうかもしれないね」

 「やってないことをやったって言うのはダメだよ……」

 〈そうだよ!! ヒーローは、そんなことしない!〉

 「それは……」

 「確かに悪いことだけど、コイツも嫌なこと我慢して頑張ってるんだよ」

 「うーん……うん。痛いの我慢して、凍火たちを守ってくれてるんだよね? ありがとう! 嫌なこと言ってごめんね?」

 「わ、ワシこそ……話しすぎたわい。そちらの麗しきレディも、すまぬ」

 

 凍火もマジックサンタも、ナガンが何か言うのを待ったけど、何も言わない。

 

 「凍火ちゃん、許してあげれるなら『良いよ』って言ってあげな」

 

 どころか、真面目な顔してこんなことを言い出す始末だ。

 

 「ワシには幼子をレディと呼ぶ趣味はないぞい!」

 「へ? あ、私か? ……私は大丈夫。というか、どうせ警察の現場検証とか監視カメラとかで私が仕留めたっていうのはバレるんだ。そういうの、やめといた方が良いよ」

 「わかっとる……わかっとるんじゃ。ワシが虚言癖サンタコスプレクソジジイと思われとるのもわかっとる」

 「だ、誰もそこまで言ってないよ!?」

 

 もしかして、言われているんだろうか?

 上手いこと功績を盗み取れたとして、評判としてはほぼ手遅れでは?

 

 「あのヒーローさん、痛いのないと良いね」

 「そうだね」

 「辛いの我慢して頑張れるの、すごいなぁ」

 「……そう言ってくれると、きっとアイツも救われるよ」

 「ナガンお姉さん、あのね、サインください」

 「ちょっと待ってな。……はい」

 「ありがとう!」

 

 ナガンが最寄り駅まで送ってくれた。

 通りがかったファンへのサインや握手なんかを合間に挟むから、普通に帰るよりは少し遅れたけど。ヒーローが送ってくれるのを断るのもおかしい。

 

 「それじゃ。今度から遠出するときはきちんと家族に伝えるんだよ?」

 「気をつける……」

 

 凍火が手を振ると、ナガンも控えめに振り替えしてくれた。

 

 〈何ですかあの動きは! もっと幼女のように大きく手を振りなさい! そしてお胸の肉まんを揺らしなさい!〉

 〈ナガンさん、ここに性犯罪系の(ヴィラン)がいまーす〉

 〈にへへ……ワタシにじゃないけどサインもらえた……〉

 

 3人になると色々うるさい。

 彩葉とは気が合わない分なおさら。

 凍火は彼女の緩んだ顔に、1発デコピンでも叩き込みたくなった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 家の門に立つと、あの男から焦凍への怒号が聞こえた。

 

 (…………)

 

 氷の耳栓を作って、耳を塞ぐ。

 お金。みんなが困らない分のお金を稼いだら、あの男とあの女を殺して助けるから、待ってて。

 自分に言い訳して、「ただいま」とだけ言って、自室に。

 

 借りてきた本を夕飯の時間まで読むのはよくあることだ。冬美も夏雄も不審に思わない。

 図書館で読書にのめり込みすぎて帰りが門限より少し遅いのもよくあること。夕飯の時間に居間へ行くのが遅れるのも。

 多分、今日も夕飯の時に軽く注意される。

 

 部屋でするのは読書――ではなく、マジックサンタの個性まとめ。

 ノートにシャーペンをたくさん動かして、記憶がまだ新しいうちに出来るだけ白紙を埋めた。

 見開きにマジックサンタのイラスト、個性の情報、プロフィールを。

 

 個性の用途は、人質の安全確保、(ヴィラン)の無力化、荷物運び、後はヒーローらしくないけど誘拐。

 ちょっと考えて、入れたものの重さはどうなるのか疑問、と付け足す。サンタに聞いておけば良かった。

 重さも内臓に重りを入れられているような負担になるの? 荷物運びとかは無理?

 

 後日、オール・フォー・ワンに調査結果を尻込みしなから知らせた。

 

 「個性の名前だけなら非常に良いものに感じたんだが、デメリットが大きいね。もっと良い個性がありそうだ」

 「あの……調べた結果は、これで大丈夫ですか?」

 「初めてにしては上々さ!」

 

 凍火はほっと息を吐く。

 

 「先生。出来るだけ早く、他のヒーローについても調べて来ますからね!」

 「ああ。君の時間さえあれば、1度の観察で全て書き切ろうと思わなくて良いよ。好きなペースでやってくれ」

 「ありがとうございます! ええと、その……ご褒美は」

 「ん? ああ……これが何かわかるかい?」

 

 2つ折り。ノートよりもかなり小さい。

 

 「手帳……?」

 「これは通帳さ。見てごらん、この日付がお金がこの口座に入った日で、今回の報酬がこの数字」

 「口座……?」

 〈でっかくて目に見えない貯金箱みたいなもんだ。後で辞書引いてみな〉

 「口座というのは――」

 「ありがとう望お兄さん! あ、もう大丈夫です」

 「……そうかい」

 

 説明してくれようとしたらしいオール・フォー・ワンを遮って、凍火はわざと声に出して望にお礼。

 気まずかったのだろうか。オール・フォー・ワンの目付きが少し鋭くなった。

 

 「いち、じゅう、ひゃん、せん、まん、じゅうまんえん!? 良いんですか!?」

 「ああ、初めての仕事だからね」

 

 〈今後はこれより報酬少なくなるってことだよな〉

 〈……(ヴィラン)からお金をもらうなんて〉

 

 望と彩葉が言ったから、凍火のテンションは少し下がった。

 

 「大切にします!」

 「そうしてくれ。それと、口座の名義はこちらで勝手に偽名を作ったよ」

 「名前? あ、凍火で作ったらバレちゃうからですね」

 

 偽名は特に目立たない名字と名前だ。

 使うといけないから、溜まった時に相性番号を聞こうと決めた。

 

 後日、サンタヒーロー・マジックサンタが亡くなったけれど、無名ヒーローのニュースは特に報じられず、新聞の誌面をほんの少しばかり削って終わった。

 

 

 

 

 




マジックサンタはコンプレスの下位互換、レーザー敵はネビルレーザーの相互互換です(破壊力はネビルレーザーが圧倒的に上、継戦能力はレーザー敵の方が上)

その他では凛(『毒』)が、マスタードの上位互換です。マスタードが毒ガスだけなのに対して、気体液体固体どの毒も出せます。
後は凪(『吸音』)が耳郎ちゃんとマイクの個性を完封出来る。でも身体能力に差があるので、本当に戦うと負けます。

オリキャラ・オリ個性等の設定まとめ

  • 欲しい(各章の最後に、その章でのまとめ)
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