亡霊たちの████アカデミア 作:炭火カルビ
カウカウのスキャンダルが放送された後の
大嫌いなヒーロー主導で悪事を行い、しかも多くの無辜の民の人生を狂わせた。それは愉快だろう。
「またあの牛のやつみてえなニュースやらねえかな」
「そんなに悪いヒーローがたくさんだったらやだよ」
「そういえばさ、あんた」
「なに?」
「何でアイツ……カウカウを殺さなかったんだ?」
手に隠れた顔。指の隙間から片目をギラつかせて弔は尋ねる。
フロストゲイルがカウカウたちの悪事を暴いた。
とある出版社が『Frostgale』と刻まれた溶けない氷がUSBと同封されていたことをバラし、インターネットを中心に広まっている。
ちなみに、
「うんとね、あの人たちはたくさん悪いことをしたでしょ?」
「だから生きて償えって?」
嘲るように弔が言う。
「巻き込まれて死んじゃった子、たくさん怪我した子、事故起こして刑務所に行った運転手さん、クビになった運転手さん、いっぱい被害者がいるよね?」
カウカウたちが起こした直近の事故の運転手。彼は幸運だった。
車こそ壊れたが、死人はゼロ。寄りついたサービスエリアやコンビニなどの監視カメラの映像もまだ残っている。
彼が業務中に酒を買った事実はない。
ならあらかじめ買っておいて持ち込んだのではないか?
疑念はあるものの、普段の勤務態度は極めて真面目。アルコールに極めて弱く、新卒で入社してから飲み会で酒を飲んだことがない、一口飲んだだけで潰れたというある種の信頼によって、彼は無罪を勝ち取った。
それ以外の事故を起こした運転手たちはどうか?
監視カメラの映像は時間が経てば削除される。酒を業務中に買っていないという証明はとうに出来ない。
先の運転手のように、『彼は絶対に飲まない』とまで信頼されている者はそうそういない。
死人を出して精神を病んだ者、事故で障害が残った者、クビになり自殺した者、離婚した者、家族に絶縁された者、すでに数年を刑務所で過ごした者。
特に最後については扱いをどうするのかかなり揉めているらしい。
「お前を信じていた!」なんて言って周りが手のひらを返したり、反対に「ただの事故に違いない」と頑固だったり。
どちらにしても、2度と人を信じられなくなってもおかしくないと凍火は思う。
「治療とか慰謝料にとってもお金がいるでしょ? それで……カウカウさんは異形型で力が強いから、多分力仕事でお金稼げるよね」
「日雇いとかの肉体労働だと人生何回分で返せるんだって金額になるけどな」
「日雇い? アルバイトみたいな? もっと稼げる仕事すれば良いのに……」
「こんなに有名になっちまった目立つ見た目のやつが、まともな仕事に就けるわけないだろ」
「うう……でも他のチンピラさんたちは目立たない顔の人もいたし、カウカウさんよりは目立たないもん。みんなで協力してお金を稼げば」
弔は心底愉快そうに笑った。
〈気持ちはわかるけど凍火ちゃんを笑うな!〉
〈まあ……無理ですよね。旧友とかならともかく、利害関係で結ばれただけの人に協力なんて……〉
「出来るわけねえだろ! 連中、責任押し付けて殺し合いでもするんじゃねえの? ああ、そもそもタルタロスから出れないか」
「タルタロス? 刑務所じゃなくて? だって、どれがあの人たちの仕業か証明出来ないなら、何人があの人たちのせいで亡くなったりしたかもわかんないのに」
「そこまで詳しくは知らない。自分で調べろよ」
〈ヒーローへの信頼は落ちましたからね……そのせいでタルタロス行きなのでしょうか? 特に彼と活動区域が被ったり、出身校が同じ方はご愁傷様です〉
〈超法規的措置とか?〉
〈
〈でも社会的混乱ヤバいだろ。ヒーローへの信頼も、異形型への信頼もなくなったし〉
〈で、でも……あの人やエンデヴァーが例外でヒーローはみーんな正義のはずだから……〉
「弔、そういえば北海道のお土産食べた?
「食べた。口の中がベタベタした」
「美味しかった?」
「甘かった」
「ええと、くどかった?」
「甘かったって言っただろ。耳悪いな」
生キャラメルの感想は、良かったのか悪かったのかイマイチわからない。
とりあえずベタつかないものの方が良いのかな。
〈ゲームするんならスナック系もアウトかな?〉
〈お箸で食べればコントローラー汚れませんよ?〉
「キャラメルみたいなの、好き?」
「嫌いじゃないけど。……期限が短いから早く食べろって急かされるのは嫌いだ」
「あー……」
言ったのは黒霧とオール・フォー・ワンのどちらだろう。とにかく、生菓子はやめた方が良いみたいだ。
「今度は長持ちするの買ってくるよ! どんなのが好き?」
「美味しいやつ」
凍火は閉口した。
美味しいって言っても色々あるじゃないか。甘いのとかしょっぱいのとか、辛いのとか。
「フロストゲイル、少しお手伝いを任せたいのだけど良いかい?」
「あっ、はい! 頑張ります! 弔、またね。お姉ちゃん美味しいの買ってくるからねー」
「……」
弔は何か言いたそうにしながらこっちを一瞥だけして、ゲームを取り出した。
◇◆◇
スマホのニュースサイト。テレビのニュース。新聞、週刊誌。
ありとあらゆるメディアがカウカウの悪行を取り上げる。
ヒーロー社会への信頼は──レディ・ナガンが手を汚しながら積み重ねた土台は崩された。
北海道のヒーロー。動物系の異形型。カウカウの同期やサイドキック、かつての上司ヒーロー。カウカウの通っていた学校の教師陣。果ては、彼への免許交付を許したヒーロー公安委員会。
無責任な罵詈雑言が、ネットの海を飽和する。
ナガンは偽りの平和を守るため、尽力してきた。
どんな嫌なこともしてきた。
『他人の功績を掠め取ろうという姿勢が、ヒーローへの信頼を揺るがす』と上に言われたから。会話して同情してしまったマジックサンタだって始末した。
こんなに簡単に崩れるなら、私の我慢は何だったの?
ヒーロー公安委員会の情報部はこれまで、普通に調べるだけではわからない、裏に巧妙に潜む
でも、その仕事に少しでも不備があれば、ナガンが仕事をこなしていてもこうなるのだ。
今までの我慢も、これからの我慢も、到底続けられそうにない。
──『痛いの我慢して、凍火たちを守ってくれてるんだよね? ありがとう!』
──『辛いの我慢して頑張れるの、すごいなぁ』
エンデヴァーの娘。父親に似ず線の細い純粋無垢な、深雪のような子ども。
自分に宛てた言葉ですらないものを思い出し、ナガンはエンジンを燃やす。
「そういや……」
エンデヴァーの家庭環境については、公安内で何度か話題になった。
個性婚。長兄の死亡。妻の精神病院入院。末の息子に対する身体的虐待。他の子供に対する精神的虐待。
公安はアホではない。どれだけエンデヴァーが誤魔化していても、それくらいのことは気付く。ましてや、トップヒーローのスキャンダルになりそうなこと。隠蔽のために把握するのは当たり前。
ちょっとでもあの子を助けたい。
他の大人のように手を握る権利も、頭を撫でてやる権利も、ナガンにはとうにないけれど。
「……電話?」
また仕事か?
ナガンはため息を吐く。
『
「……っ!?」
『子どもをたった4人犠牲にするだけで、彼のネームバリューが保たれるのだ。おまけに、末の息子に至っては彼が勝手にトップヒーローに育ててくれる』
「あんな育てられ方されて、
『……? その片鱗が見えれば、その前に君が始末するだけさ。それに、君の交友関係が把握されていることを忘れるなよ。私達はあの、『温度操作』の娘が
そうしたらきっと、ナガンに始末させるのだろう。
少しでも言い返したくて、願野の柔らかいところを突く。
「去年行方不明になった息子さん、見つかったの? 確か望くんだっけ?」
『ああ。どこかで死んでいるかもしれないな』
「……なんで平気な声でそんなこと言えるんだ?」
『聞いたのは君だろう? そうだな……妻も毎日泣いているし、慰めるためにそろそろ次の子を作るべきだろう』
「……は?」
『あの子はそれなりに頭が良くて強個性だった。似たような子が生まれれば、妻も喜ぶはずだ。女性の視点を聞きたいのだが、君はどんな子供が理想だい? 望の上位互換が生まれれば、それに越したことはないからね』
「……アンタ、本当最低だね」
言い返そうとするんじゃなかった!
そういえば、アイツの家も個性婚だという噂を聞いた。息子も妻も可哀想だ。
『それで、レディ・ナガン。本題に入ろうか』
「まだ本題じゃなかったのかい……?」
『これまでのは場を暖めるアイスブレイクさ。フロストゲイルを捕えるため、福岡に向かいなさい』
「福岡……? どうして? あの子の活動場所は静岡周りと北海道だったろ?」
『私の勘だ。これが違えば、長野、山口、埼玉、高知、岩手のどれかに現れるな』
「……共通点は?」
『優先度が低いため、君へ仕事を回すのは後回しにしていたが……小さめの悪事を行ったり、素行の悪かったりするヒーローのいる県だ』
「とりあえず全国回って、フロストゲイルを捕えれば良いんだね?」
『ああ。では、失礼するよ』
普段行かない県に行けてテンションが上がるとか。良い機会だから美味しいものや観光地を調べようとか。まるで心が凍りついたように、そんな欲求は湧いてこない。
カウカウほどのヤツはなかなかいないだろうけど、ナガンの仕事も我慢も、しばらく終わらないことが決まったのだから。
◇◆◇
凍火は福岡の街に立っていた。
方言が耳新しく、少し落ち着かない。
道の端に寄って、スマホを開く。
オール・フォー・ワンから言われたのは、“ヒートストリング”というヒーローと、“バレットガール”という女ヒーローだ。
活動区域もお誂え向きに被っている。
「うーん……」
今日の髪色は濃い紫、目の色は淡くピンクっぽい紫にした。
マジックサンタは事故で死亡。
カウカウは前代未聞の不祥事を起こしタルタロス。
その両方に凍火が、『色塗り』で黒髪に変装し顔付きを変えた少女がいた。
たった2件を結びつける人がいるとは思わないけど、見た目を使い回さないで念には念を入れた方が良い。というわけで、変装のレパートリーを増やしてみた。
「ああ、あの子たち。多分市外じゃ知名度ないでしょ。よく知ってるね」
「えっと、この辺りに住んでる親戚に聞いて……この土日で遊びに来たついでに、サインとか貰おうかなって」
「貰えると良いね。多分夕方ごろにパトロールしてることが多いのかな? 駅周辺でヒーローの出勤多い気がするし、あの辺の駅員さんや警察のがお兄さんより知ってると思うよ」
「そうなんですか! ありがとうございます!」
得た情報を元に駅員に聞き込み。“交番のお巡りさん”には嫌な思い出があるし、警察署には大した用事でもないのに入りにくい。
「あー……あの若い子たち」
駅員は苦々しい顔で言った。
ヒートストリングとバレットガールは18歳と19歳。学年は同じ。県内では偏差値の高いヒーロー科高校を卒業後、すぐに独立し、現在ではプロヒーロー歴1年にようやくなったところだと調べてわかっている。
ローカルヒーロー雑誌ではそれぞれ、イケメンヒーローランキングと美人ヒーローランキングで1位。並んでいる姿が絵になるヒーローたちだ。
「何ていうかなぁ……繁華街とかデパートの前とか、そういう目立つところばっかりパトロールしとると。この地図のこの辺りを……夕方4時から6時ごろに行けば1番会いやすいと思うばい」
「ありがとうございます! あ、後おすすめのお土産とかお菓子ってありますか……? お土産は日持ちするので」
「そうやね……本州から来たならまずこれを食べとかんと損。県内でしか食えんからね。それと──」
ヒートストリングたちへの少し苦々しい口調とは変わって、駅員は心底自慢そうに紹介してくれた。
(明太ソフト……辛そう)
〈意外とマイルドで美味しいですよ? でも凍火ちゃんは辛いの食べるとお腹壊しますからね〉
〈やめた方が良いよな〉
おすすめされた一口サイズのバームクーヘンに目星を付けておく。
ヒートストリングとバレットガール。
どうやら彼らもあまり良い評判のあるヒーローではないらしい。
家が金持ちで、裏口入学した噂。ヒーロー免許すら試験官に金を渡したという噂。学校の成績も金で買ったという噂。
ここまでなら真偽不明。金持ちなのに嫉妬した誰かが流したただの噂とも捉えられる。
昔から仲の悪い地主の家同士。在学時代から2人の仲の悪さは有名。
これは真実らしい。
「あそこの焦げ跡。見えるったい?」
「あれですか?」
「そ。
「でもヒーローが
ヒートストリングたちを見なかったか。
凍火が尋ねると、おばさんは答えてくれて、さらなる問いに目を丸くする。
「すまんね、誤解する言い方だったばい。ヒーロー同士が個性の相性悪かったと。油と火ぃは危なか。火ぃだけなら良かったとに、油飛ばしたから大変よ。だから無理に一緒に戦わんでほしか。嬢ちゃんも怪我しんよう気をつけぇ」
「火……」
火は怖い。嫌だ。
凍火はすくむ足を無理やり動かして、おばさんに強張る笑顔でありがとうと言った。
場所はコンビニ。典型的な強盗だ。
店員はマニュアル通り大人しく金を渡して無傷。腰が抜けたらしくまだコンビニの中。
以上、野次馬の雑談から得た情報。
「アンタが!! アタシに合わせないからでしょう!? 馬鹿ね本当愚図!!」
〈肉まんは見事なのに、腐ってます……〉
〈確かに性格悪そー〉
〈ひ、ヒーローは、性格悪くても、正義なの……〉
艶やかな橙の髪が目立ち、整った顔立ちと芽愛の喜ぶ体つき。
それを帳消しにするのは甲高い声のヒステリーと、憎悪に歪められた表情。
指先から油の弾を跳ばす個性、『オイルバレット』のヒーロー、バレットガールと。
「お前が俺に合わせりゃ良いだろ! 俺が先に到着した!! お前が後から個性を使った!! どうしてくれんだよこれ、女なんだからしゃしゃるなよ……」
〈正義……正義……〉
優男らしい見た目だがきちんと筋肉はある、ちょうどいい細マッチョの男。
唾を跳ばす怒鳴り声と、目をたっぷり見開きおでこに皺を作る表情で優しげな顔立ちは台無し。
糸状の炎を操る個性、『
「え……何……え……?」
「……うわー……」
「ヒーロー辞めろよ……」
「アイツがありなら俺も受かるだろあれ……」
「あのキモい牛みたいな賄賂とかやってんじゃね?」
「とりあえず逃げないとまずくない?」
「ハンカチとかした方が良いんだっけ……ヒーローまだかな……」
目と記憶を疑う惨状。
凍火が来てから起こったという意味でも、野次馬や望たちが凍火と似た反応をしたという意味でも、疑いようのない現実。
〈さすがに、色々な意味でなしなのですよ?〉
〈最悪じゃん……カウカウのニュース見て、ちょっとは品行方正にしようとか思わねえのか?〉
まず、ヒートストリングが『火糸』で
次に、バレットガールが「アンタだけに手柄は寄越さないわ!!」と叫び、『オイルバレット』を放った。
運の悪いことに、『火糸』を伸ばした先に着弾。火は勢いを増して一気にコンビニへ着火。糸状でなくなった火はヒートストリングの操作下にはないらしい。
バレットガールが慌てて消火器を持ち出すも、「テメェ何するつもりだ」と怒るヒートストリングが消火器を破壊。どうやら何か、『オイルバレット』の威力を上げるためのサポートアイテムだと勘違いでもしたらしい。
青ざめるヒートストリング。罵倒するバレットガール。逃げる
「…………」
(良いよね?)
〈他のヒーローも警察も来ないし良いだろ。というか煙い……〉
フロストゲイルの『
「フロストゲイル!? なんで、北海道にいたはずじゃ……」
「もしかして、アイツらも制裁してくれるのか!?」
何か誤解されている気がするし、『ワープゲート』がなくともこの時代、北海道から福岡まで1週間も空けば十分移動できる。
凍火は燃え盛るコンビニに入ると、人影を見つけた。
倒れている。背負うついでに手首を抑える。脈はあった。
小柄な女性で助かった。凍火は苦労しながら彼女を背負い、未だ撮影を続ける野次馬の女性の1人に押し付ける。
「救急車と消防車は誰か呼んだ?」
「えっと……僕、警察なら呼びました……」
「……。一応呼んどいて。わたしは火を止めるから、この人をお願い」
凍火はコンビニを炎ごと凍らせた。
『シェルター』の防御属性とでもいうもの。それを付与した、溶けない氷。
でも凍火が福岡を離れて時間が経てば恐らく溶けるはずだから、迷惑にはならないはず。
カメラのフラッシュが眩しい。
さすがに火事になったから逃げたんだろう。凍火が来たばかりの頃より人は少ない。そう思っていたのに結構いる。
でも、ヒートストリングとバレットガールはいない。もしかして逃げたの?
凍火は思いっきり舌打ちしたいのを我慢した。
「ヒャハっ、骨、骨見せろ……!!!」
暴れ回るのは『髪刃』の男。
凍火は野次馬に優先順位をつける。まずは中学生くらいの子たち。次に倒れたコンビニ店員。残りの大人は最後で良い。
「もう大丈夫!」
青、赤、黄色の原色が眩しく、それでいて目に痛くはないヒーロースーツ。
カウカウの影響で揺らいだヒーローへの信頼も、彼だけは例外。
「私が来た!!」
快活に笑うNo. 1ヒーロー・オールマイトが。
瞬きの間に『恐怖』と『髪刃』の
「……!」
〈逃げ──〉
オリキャラ・オリ個性等の設定まとめ
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欲しい(各章の最後に、その章でのまとめ)
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欲しい(最新話段階でのまとめを第1話)
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どちらでも良い
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いらない