亡霊たちの████アカデミア 作:炭火カルビ
エンデヴァーが耕した土壌に、『実験』の大人たちが種をまき、オール・フォー・ワンがせっせと水撒きをした結果だ。
ヒーローの父親が作った、妻子にとっての地獄。
オール・フォー・ワンが“良い個性のヒーローを探す手伝い”という名目で導いた、悪徳ヒーローたちとの出会い。
マジックサンタは反省こそしていたものの、レディ・ナガンから功績を奪い取ろうとした。
カウカウは、自分の功績のために事故を作り続け、多くの人生を狂わせた。
ヒートストリングとバレットガールは、互いにいがみ合うことを優先して、救助も
そしてエンデヴァーは家族を苦しめ続け。
あのオールマイトですら、『実験』の時助けに来なかった。
「フロストゲイル! 君、いくつだい?」
「……今年で6歳」
オールマイトは笑みのまま、凍火に視線を合わせて尋ねる。野次馬がどよめいた。
「私には君の事情はよくわからないが……それでもきっと、大人に頼れないのに1人で頑張ってきたんだろう?」
やめて。
凍火は1人じゃない。
「もう大丈夫だ。なぜって?」
やめて。
「私が来た!」
やめて。
「君はそれほど強い個性を持ちながら、
「気のせいです。わたしが、悪い研究所の人を殺したの、知らないんですか?」
「だが、カウカウたちや彼らは殺さなかっただろう」
オールマイトは彼ら、のところで『恐怖』と『髪刃』の
目を合わせる。声を聞く。対話する。
たったそれだけが、まるで太陽を肉眼で見た時みたいに痛い。
「私はそれを、君が根っからの悪ではないからだと思っている」
「ははっ、人殺しが悪じゃないって?」
空笑いが出た。
勝てる気がしない。
個性を使った戦いも、逃亡だけでも、会話でも。
存在として格の違いを感じる。
こんなに違うなら、エンデヴァーが超えられるはずがない。
「助けに来た、とでも、いうつもりですか……?」
「ああ。私が来た!! だから、もう苦しまなくて良いさ。罪を償って、普通の生活に戻れば──」
「そう。あなたは、助けられなかった人はいないの?」
オールマイトの視線が逸れる。
周りにある多くの目を意識したように凍火には見えた。
「私の手が届く範囲では、いない」
「…………そうなんだ」
〈…………〉
きっと嘘ではないんだろう。
凍火が、
たまたまオールマイトの2つしかない手が届かなかっただけで、きっと、知っていればいとも簡単に助けてくれたんだろう。
それがわかってしまった故に、ただの不運で取りこぼされた事実が辛く、憎い。
〈生で初めて見ました。そうですか……助けてくれたんですね〉
〈……遅いよ〉
〈オールマイト………………〉
望に強く同意する。
あの日に全てが終わった。凍火は本当は終わっていたはずの物語を無理やり延命して生きている。
「なんであの時助けてくれなかったの?」
「……っ!」
オールマイトが傷ついた、気がした。
凍火は『
「なんでお兄さんやお姉さんを見殺しにしたの? ……あなたが何にも知らないことは知ってるよ。なんで知っててくれなかったの? 知ってたら絶対、助けてくれたんだよね?」
「ああ!! きっと、助けたさ!!」
オールマイトは力強く最後の問いを肯定した。
「君のお兄さん、お姉さんたちを助けられなくてすまない!」
「何をされたかは知らない。だからこれから君を助けるために教えてほしい! そのために私が来た!!」
「やめてよ!!」
オールマイトの伸ばした手に、氷塊をぶつけた。家庭用冷蔵庫くらいのサイズの氷に、怯んですらくれない。
これ以上こいつの言葉を聞きたくない。自分が惨めになる。こんな奴がずっと上にいたら、エンデヴァーもおかしくなるはずだ。
捕まったらマズい。『氷結』で氷柱を飛ばす。ちっとも当たらない。イライラするし、野次馬から軌道が逸れるようにするのに頭を使う。
とりあえず、人がいないところに移動したいのに出来ない。野次馬、カメラリポーター、みんながみんなオールマイトに釘付けだ。
足を凍らせて地面とくっつけた。
普通に歩くのと同じように氷は割られた。
『毒』をオールマイト周辺の空気に溶け込ませた。
ふらつく様子も、苦しそうな様子も全くない。
『シェルター』と合わせた氷の壁で、絶対防壁を作る。オール・フォー・ワンの個性与奪すら防いだ『シェルター』。これならオールマイトでも破壊できない──
「──え?」
「凄い固さだなこれ……! ヒビを入れるのに1000発もかかったよ」
「こ、この10秒くらいで、せん……?」
〈天才芽愛、時速どれくらい?〉
〈はい天才芽愛です! 時速たくさんです!〉
〈役立たずがよ〉
パリン、と。
絶対防壁が破れた。
有象無象の銃も、エンデヴァーの炎も、治崎の『オーバーホール』も、オール・フォー・ワンの個性与奪も、弔の『崩壊』も、全てを防いだ『シェルター』が、『氷甲』が、ただの超パワーの前に。
「〜っ、凄い個性だね。ヒビを入れてから壊すのにさらに1000発もいるなんて」
「…………」
「人を守るのに優れた……本当に素晴らしい個性だ」
褒められている気が全くしなかった。
ヒビをいれるのに10秒で1000発。
そこから完全破壊するのにさらに1000発。動きが洗練されたのか、今度は10秒未満で済んだ気がする。
どちらの時でも、オールマイトの腕の動きがまともに見えなかった。気付いたらパンチが終わっていて、気付いたら防壁が壊れていた。
『肉体強化』、ぶり返しが即時に来ないとは限らない。却下。
『超器用』、『白鳥』、『光合成』、『色塗り』、……全部戦闘向けじゃない。『毒』は一般人を巻き込んだら困るし。
『思考誘導』。さすがヒーローだ。効かない。
──やめろ!! 冷たちに近寄るな、この化け物!!
“何か”を思い出しながら、凍火は『温度操作』を使う。
1000℃、絶対零度、3000℃、絶対零度。
はちゃめちゃに、際限なく。オールマイトの体温を上げて下げて上げて下げて。
それでも彼の歩みは止まらない。息切れ1つも、表情を歪めることもない。
熱波地獄と寒波地獄の中、
汗はさすがに出てるけど、体も震えてるけど。
「君は──」
『そこまでだよ、オールマイト。フロストゲイルは僕が先に拾ったんだ。横から泥棒するのはやめてくれないか』
「先生……?」
「貴様……! この子を何に利用する気だ!!」
『僕はヒーローに助けられなかった可哀想な子どもを保護しただけさ。さあ、フロストゲイル。僕がまた助けてあげようとも』
オールマイトは低温で悴み、同時に沸騰した血液で体内から火傷した手を伸ばして。
「オール・フォー・ワンっっっ!!!!」
手がその中に入る前に、モヤは無くなり、辺りには普通の風景が広がるのみだった。
◇◆◇
「まさかあの場面にオールマイトが来るなんてね」
顔面を蒼白にし、吐き戻す凍火を見てオール・フォー・ワンは呟いた。
「黒霧さん、……ごめんなさい」
「いえ。
凍火に黒霧が袋を差し出して、背中を摩ってやっている。少し甲斐甲斐しすぎやしないかと思いつつ、
このヒーローの個性を調べるように。凍火にそう伝えたのは、全て悪徳ヒーローだ。
カウカウはもはや言うまでもなく。マジックサンタは気弱なヒーローの功績を奪った実績がある。
ヒートストリングとバレットガールも、彼らがまともにチームアップをしていればなかった街や人の被害が数え切れない。
「凍火、どうして気持ち悪いのか僕に教えてくれないかな?」
とは言っても、凍火が車酔いならぬワープゲート酔いしたわけじゃないことも、食べ過ぎていないことも、悪いものを食べていないこともわかっている。
エンデヴァーが植え付けた『温度操作』の個性への忌避。それが原因だ。
一卵性の双子は個性も同じであることが多い。
対して、二卵性の双子は同じ親から生まれても遺伝の差で個性が違うように、異なる個性がほとんどだ。オール・フォー・ワンと弟もそうだった。
凍火と轟
個性──『温度操作』と『半燃半冷』も、似てこそいれど別物。
轟焦凍が出せる炎程度の、あるいは氷程度の温度なら、凍火も『温度操作』で操れる。
問題なのは凍火の個性のコントロールが悪かったこと。視界に映る全ての物を、たとえ触れなくとも対象に出来たこと。
何よりも、個性事故で家族を巻き込み、火傷させたこと。
発現したばかりの3歳児の起こした事故だ。
自分の『炎』じゃなくとも『熱』が家族を怪我させた。それも女の子に一生癒えない傷。
エンデヴァーは傷付いたのか、はたまた動揺したのか。大きくなって記憶は薄れども、凍火にこれまた生涯残る言葉の刃を投げ付けた。
『温度操作』と『半燃半冷』。
『半燃半冷』の個性事故の方が対処法がわかるだけマシだと、オール・フォー・ワンですら思う。火事なら消火、凍ったのなら溶かすだけ。もちろん火事も火傷も凍傷も悲惨だけど。
『温度操作』はそうは行かない。人体の温度を数千度もどう下げれば良い?
火傷させられた後、怒られて慌てた妹に絶対零度まで体温を下げられたなんて、
「気持ち悪い、んです。……オールマイトは、多分、凍火たちを知ってたら助けてくれた、こととか」
「そうだね。……でも、知らなかったから助けられなかったじゃ済まないこともわかっているね?」
「はい……」
「憎たらしいとは思わないかい?」
「オールマイトも……助けて貰えた子も、憎いし、辛いし、気持ち悪くて苦しいです」
『温度操作』を本領発揮して使った忌避感による吐き気を、憎しみ由来とすり替えて、オール・フォー・ワンは凍火の洗脳を続ける。
「凍火の個性……何も効かなくて。ずっと守ってくれた『シェルター』も壊されたの」
「君を守ってくれなかったヒーローに、死んでも個性だけになって守ってくれたお友達の個性が破られたんだね。辛かっただろう」
「……『思考誘導』も使ったんです」
「ああ。本人の思考の選択肢にあれば、行動を強制出来る個性だったか」
「はい」
個性によらない洗脳や恐怖政治の方が使い勝手は遥かに良いが、オールマイトに効いたのか、あるいは効かなかったのか。オール・フォー・ワンにも気になる個性だ。
「オールマイトに、『凍火から離れるように』、『目の前の子を助けようと思わないように』って……」
「オールマイトにはその選択肢が頭の中になかったと?」
「はい……」
「今更、あの『実験』から1年以上も経って、そこまで強固な意思で君を助けようとするなら、なぜ当時助けなかったのだろうね?」
「…………」
凍火は俯いた。涙と鼻水と、吐瀉物混じりの唾液で、せっかくの
でも、与一も幼い頃あんな感じの顔のことがあった。
あれは確か、自分たちより年下の子どもが良い異能を持っていたから奪って殺した時だ。
与一は彼らに異能で害されたというのに庇うという、意味のわからない行動をした。手っ取り早く与一と彼らを遠ざけるため、与一を蹴飛ばし、子どもを殺す様子を見せてやった。
素直に喜べば良いものを、泣きながら汚くも愛らしい顔で文句ばかり垂れていたっけ。
やっぱり凍火は与一に似ている。オール・フォー・ワンは少し嬉しくなった。
「凍火。疲れただろう? しばらく休みなさい。そうだな……弔と話すと良い」
「……何を?」
「何でも。彼もヒーローに助けてもらえなかった子どもだからね、きっと気が合うだろう。それと、君の中のお兄さんやお姉さんは、オールマイトの行動に何か言っていたかい?」
「……もう遅いって。ヒーローのことが大好きだった子もずっと黙ってて、〈知らないのは悪いこと〉って……」
オール・フォー・ワンは笑うのを堪えた。
それはそうだ。生きている凍火でも手遅れと思うのだから、亡くなった彼らは尚更そう思っただろう。
そういえば、彼らのことを知った時、ヒーローは死人も助けようとするのだろうか。助けられるのだろうか。オール・フォー・ワンは柄にもなく、そんな疑問を感じた。
◇◆◇
スナイパーに必要なもの。
観察力、銃を支える筋力、我慢強さ、視力、その他諸々。
ナガンは個性以外にも、スナイパーとしての才能を兼ね備えていた。
しかしこの状況では、才能を有していることはただの不運。
「……嘘」
悟られてはいけない。
どこかから見ている公安の誰かにバレる可能性がある。
オールマイトとフロストゲイルの交戦は、援護射撃すら許されなかった。
ビルの屋上に陣取り、いつでも撃てる状態でいた。けど、オールマイトの別格の動きにはナガンの動体視力がついていけない。そんな状態でフロストゲイルを撃って、読み間違えてオールマイトに当たったらどうする。
それに──。
ナガンの心理的動揺も大きかった。
フロストゲイルもオールマイトも現れる前。
ナガンは、フロストゲイルが出てくるところを見てしまった。
不気味なくらい人気のなく、誰も覗き込もうともしない路地裏。
そこには幼い少女が佇み。
彼女が個性を使うと、フロストゲイルの氷アーマーが作られて。
そしてさらなる問題は。
フロストゲイルの体格が轟凍火と同じで。
頑張っていつもより低い声を出しているみたいだけど、フロストゲイルの声はまごうことなく凍火の声。
動き方や歩き方すら、記憶の彼女と一致する。
髪の色は違ったけど、いくらでも誤魔化せる。
もしも匂いや、目を合わせずに胸を見て話すところまで同じなら。
公安に調べさせて、フロストゲイルの活動時間に凍火が家や公園にいなければ。
いや、仮にいても変身系個性の協力者もありえる。
──凍火ちゃんを捕まえるか?
登下校中を狙えば、ナガンの社会的信用も相まって簡単。
双子の兄の方ならともかく、他の子どもならエンデヴァーもそうは騒がないだろう。
1度話して見て、確証を得てからでも遅くない。
ナガンは暗い瞳で
次はここへ行くようにと、送られた座標は以前話されたどの場所とも違った。困惑しているとまたメール。
『FGのついでに、AFOについても調査せよ』
暗号というにはあまりにも簡単。でも、知識がなければ何の件かわからない略語。
フロストゲイルとオール・フォー・ワン、どっちがついでなんだよ。
ナガンが心中突っ込む間に、再びメール。
『とある『実験』の被験者リストを手に入れた。フロストゲイルの正体を暴く材料にするように』
リストはたったの10行。それが裏のマッドサイエンティストどもに犠牲にされた──ヒーローが間に合わなかった子どもたちと悟り、ナガンの胸は締め付けられる。
| 番号 | 氏名 | 性別 | 年齢 | 個性 |
| 1 | 男 | 13 | シェルター | |
| 2 | 女 | 7 | 白鳥 | |
| 3 | とうか | 女 | 5 | - |
| 4 | 男 | 10 | 幽体離脱 | |
| 5 | 男 | 11 | 光合成 | |
| 6 | 女 | 12 | 超器用 | |
| 7 | 女 | 9 | 色塗り | |
| 8 | 女 | 14 | 毒 | |
| 9 | 男 | 8 | 思考誘導 |
『資料の追加情報について説明しよう。恐らく君が疑問に感じていることだから、聞き逃さないように』
「言われなくてもそんなミスしないよ」
今度は電話。
一度に全部連絡済ませろよ。ナガンは内心イラつきながら返答した。
とうかという名前の被験者がいる。まさか。違う。灯花とか、透佳とか、同じ音の名前なんていくらでもあるだろう。
『被験者番号4番……失礼、3番だが、彼女は幼い故、フルネームを漢字で書けなかったそうだ。それが理由で名前のデータが欠けている』
「個性の方は?」
『ああ。それを答えるためにまず情報の出所について説明してやろう。これは研究所跡地に残されていた、被験者リストの入ったメモリーカードを、非常に小さな物質しか直せない役立たずの『復元』個性の親戚に直させた物でね』
「世話になったくせして、良くそんな口叩けるね」
『本来は、ポストリカバリーガールが生まれる配合で個性を掛け合わせたのに、そのような失敗作が生まれたからな。生まれ損ないを有効活用したのだから感謝してほしい』
「……。それで?」
『そのデータには被験者の氏名・性別・年齢しか無かった。氏名を元に個性を調査したため、被験者番号3番の個性は不明だ』
「そう」
『被験者番号8番以外の被験者は行方不明者として届けが出されている』
「8番……辺呑凛って子か。その子か、“とうか”が怪しいな」
『しかし、被験者番号8番は以前より家族に虐待……ネグレクトを受けていたと有名だ』
「届けをわざわざ出す関心もないってこと? とうかって名前の行方不明者はいるの?」
『何人かは。年齢まで一致する者はいない』
最悪の答え合わせだ。ナガンは頭を抱えた。
「仮に『実験』で生き残っても、頼れる大人がいるなら普通家に帰るだろ? 凛って子以外で家に帰らない理由がある子はいないの?」
『学内での暴行及び窃盗脅迫の被害者が、
「……要するに、いじめられっ子か。親が解決に動かない場合もあるらしいし」
『個性が原因で周囲との人間関係が良好でないのが、
「……」
『
「問題のある子しかいないんだね」
『生活が充実していて、友人や家族に相談出来るのならばおかしな『実験』には巻き込まれまい』
ナガンは初めて願野の言葉に同意した。
「れ、レディ・ナガンさん!? 俺ファンです!! オールマイトを見れてナガンさんにも会えるなんて! 今日はなんて良い日だ!」
「お前、電話中だろバカ!! 仕事のやつだったらどうするんだ!!」
一言言って切ろうとしたところ、その前にぶつ切りされた。
「いや、今終わったから大丈夫さ」
目を煌めかせた中学生くらいの子ども。どうやらヒーロー志望らしい。
かつての自分が重なって、次に顔も知らない被験者たちが重なった。
上司への苛つきだけでないドロドロの感情を覆い隠し、ナガンは引き攣った笑みで何とか応対した。
『シェルター』、AFOの個性与奪もオールマイトのパンチもノーダメの個性として設定していましたが、書いてるうちにオールマイトに破られてしまいました。
全盛期オールマイトには何させてもいいのでまあ良いか。
オリキャラ・オリ個性等の設定まとめ
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欲しい(各章の最後に、その章でのまとめ)
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欲しい(最新話段階でのまとめを第1話)
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どちらでも良い
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いらない