亡霊たちの████アカデミア 作:炭火カルビ
「弔、お目目が悪くなるよ」
「悪くならない」
「むぅ……ほどほどにね」
弔が見ているのはオールマイトの映像。
もちろん彼の熱心なファン……というわけはない。
ヒーローアンチの恣意的な編集の入った、オールマイトvsフロストゲイル。
『6歳児に逃げられるトップヒーローwww』という字幕が見えた。
当然動画は低評価まみれ。オールマイトファンの掩護のコメントと、それにいちいち反応するアンチとのレスバトル。
この動画がアップロードされたのは一度だけではない。ファンからの通報で消され、アンチによる復活を繰り返す、通称不死鳥動画。
「これ……本当に作ったの弔じゃないんだよね?」
「は? なんで俺が動画なんか作らないといけないんだよ」
「ごめんごめん。なんか弔みたいな性格の人が作ったのかなって」
〈つまりは年齢に対してガキってことだよな〉
「どういう意味だよ」
「んーっと、ヒーローが嫌いな人……?」
「ヒーロー好きがこんな動画上げねえよ。見なくてもわかるだろ」
ヒーローは信用出来ない。
オールマイトが嫌い。凍火はそうだし、弔も筋金入りだ。
あの日までは違った。出会って、何か巡り合わせが違えばこの人は本当にわたしたちを助けてくれたと。ただオールマイトの笑顔を絶やさない姿勢だけでわからせられた。
でも、でも、でも!
それで救われるはずがない!
凍火が生まれた意味はオールマイト! オールマイトを超える子どもを作る副産物!
凍火も
何か巡り合わせが違えば助けてくれた。なら何で助けてくれたかったの? 不運で片付けないで!
そうだ。1年も放ったらかし。凍火が有名な
「それ消して」
「なんで?」
憎たらしい笑顔のオールマイトがアップで映る。凍火は氷みたいに硬く言った。
「その人の笑顔が気持ち悪いの。見せないで」
「ふーーーん、でもほら、このコメント。『オールマイトの笑顔はやっぱり安心するよね!』だって」
「しないったら。助けてくれなかったじゃん……もっと反省して、わたしみたいなのがいるの、辛いって思ってよ……なんで笑えるの?」
「なあ、フロストゲイル」
弔は歪な笑顔をした。
口角を無理やり引っ張ったような笑顔。
〈キモっ〉
(可愛い……!)
〈えっ〉
「俺さ、今初めてアンタを本当に妹みたいに思えたよ」
「お姉ちゃんでは……?」
「無茶言うな。九九言えたくらいで喜ぶガキを誰が姉扱い出来るかよ」
「頭は弔より悪いかもね。でも個性は強いし、精神年齢も上!」
「自分が上っていう辺りがガキっぽい」
「弔も自分が上っていうところ子どもっぽいね」
「ハァ……カウンターのつもりか?」
「ふふん」
「何笑ってるんだ」
弔が五指で凍火の顔を包む。『冷気装甲』のおかげで崩れない。目の前にドアップで手の平があるのが面白くて、凍火はさらに笑った。
『オールマイトは偽物ではない』
『フロストゲイルが偽物のヒーローを炙り出したのには感謝するが、所詮
『偽物も
〈うわ、思想強……〉
〈偽物……! そうだ! 今のヒーローは正義じゃないんだ! オールマイトも、みーんな偽物! ワタシたちを助けなかった偽物! 偽物は正義じゃない、悪!
ありがとう、ネットのセンパイ!!〉
〈や、やばい思想芽生えてねえか彩葉ちゃん〉
放っておかけたパソコン画面。コメント欄が更新されて、同じアイコンとユーザーネームの人が立て続けにコメント。
凍火はその人と
「偽物……偽物かぁ」
「どうした?」
「オールマイトも、エンデヴァーも……カウカウや福岡で火事起こしたヒーローも、みーんな偽物だったんだなって」
「偽物っていうか、最初から“ヒーロー”なんかいないんだよ。なぁ?」
「かもね。うーん、凍火がもしも偉い人で、ヒーローに点数付けれるんなら……個性の強さなんてどうでも良いから、子どもに優しくって
「1位になるためにそういう演技をするやつも出そうだな」
〈それは悪!〉
「なんでそういうこと言うの……?」
凍火が嘆くと、弔は楽しそうにした。意地悪だ。
「わたし宿題やるから静かにしててね」
「なんでお前が勝手に後から始めたのに、俺が気を遣わないとならないんだ?」
「なんでこれだけでイライラするの……?」
凍火は道徳の教科書を開く。
指定された話を読んで、感想を書いて、次の授業でグループディスカッション。感想をまとめるのが難しく、「んぅ」と呻いた。
「お前はさ、最近学校とかどうなんだ?」
「弔が普通のお話した! えっとね、……普通だよ」
「せっかく人が聞いてやったんだからまともに話そうとか思わねえのか?」
「あうぅ……。成績は問題ない、かな。体育とか図工とかだとよく学校の先生に褒められるの。えっとね、体育は跳び箱やって、図工は絵の具でお絵描きした」
「あっそ」
興味が無さそうな返事だ。
「それ、何やってんの」
「道徳の予習……。このお話を読んで、感じたことをまとめて、次の授業の時にクラスの子とお話するの」
「見せろ」
弔はさも当然のように、凍火の教科書をひったくる。
1本指を浮かして持ってくれたことにほっとした。
「この話?」
「うん」
意外と読むのが早い。……興味のないだけかも。
弔は読み終わると、つまらなさそうにあくび。
「ようするに、異形型にも良いところがありますよ仲良くしましょうっていうのが教師的には正解の回答かこれ」
「異形型の子と仲良くするのは普通じゃないの?」
「そう思うガキばかりなら教科書には載らないだろ。ディスカッションだっけ、練習付き合ってやるよ。
「もういじめられてるけど……」
「…………」
「あの子たちは遊びって言うけど、わたしはいじめられてると思うんだよね。どっちが正しいんだろ?」
〈
「さあ? お前の個性ならソイツら簡単に殺せるだろ? 何でしないの?」
「子どもだし……わたしは個性をたくさん持ってないことになってるから……」
「面倒くせえ……」
弔は頭をぽりぽり掻く。雪みたいなのが落ちた。
〈……〉
〈汚〉
(……)
「弔、何日お風呂入ってないの?」
「5日より後は数えてないな」
「ちゃんと洗わないと……もう、何で入らないの?」
「面倒。湯が染みる。怠い」
「お湯が染みて痛いのはわかるけど、ちゃんとしないとばい菌が掻いたところから入っちゃうよ! ほら、わたしが洗ってあげるから!」
「自分で入る」
「信用できない……」
弔に任せたら3分で出てきた。頭からシャワーを被っただけだろう。
「
「しかしフロストゲイル、私の役目は
「弔の健康を守るためだよ」
「かしこまりました」
「おい黒霧! てめえ何しやがる!」
黒霧は秒で裏切った。
『ワープゲート』でお風呂まで直送。
頭も体も徹底的に洗う。保湿やトリートメントは弔が嫌がるからやめておいた。
「えへへ……痒いところはありませんか〜?」
「全身」
「頭限定で!」
「……つむじのとこ」
洗ってドライヤーをしている間も、なんだか弔はぶすくれた顔をしている。
不快だったのかもしれないけど、石鹸の良い匂いになった彼を見て凍火はとりあえず満足した。
「えへへ」
「何笑ってんだよ気持ち悪い」
「気持ち悪くないもん」
〈凍火ちゃんは気持ち良い子だぜ!〉
〈その表現気持ち悪いよ〉
凍火は頭を撫でて笑う。
「ほら、ふわふわで良い匂いだよ! こっちの方がさっぱりして良いでしょ!」
「……黒霧、コイツどっか飛ばせ」
「え!?」
「すみませんフロストゲイル……死柄木弔が落ち着きましたら迎えに参りますので。頑張って生き抜いてください」
「待ってわたしどこに飛ばされるの!?」
『冷気装甲』では『ワープゲート』を防げない。
怖がりながら目を開ける。どこか見覚えのある風景。確か、弔が前に絡んできた人たちを壊した道。
凍火は記憶を辿って歩く。少し迷ったけど、弔の家に着いた。
〈生き抜くも何もなくない?〉
〈死柄木へのアピールだろ。多分〉
(すぐ戻っちゃうと黒霧さん怒られるかなぁ?)
〈人に勝手に個性使うのは悪。でも黒霧さんのご飯は美味しいからギリ正義〉
〈判定ガバガバ……〉
パトロールがてら散歩。
とは言っても、好きで揉めてる大人同士はノータッチ。子ども──高校生くらいの子同士も。
大人と子どもが喧嘩してるけど、子どもが優勢。ならこれも大丈夫。
「なあ、あのガキなかなか可愛くねえか?」
「さすがにガキすぎるだろ」
「パカ、俺たちが遊ぶんじゃなくて、売り飛ばすんだよ」
自分にくる火種だけいなして、凍火は歩く。
(お、お兄さぁん……)
〈ごめん、俺もわからない〉
(彩葉ちゃん……)
〈あれ? 彩葉ちゃんとは俺経由でしか話さないんじゃなかったっけ?〉
〈そんな意地悪は悪!! あはは、ワタシも道覚えてないや……。スマホもあるし、連絡したら?〉
(もうちょっと探検する)
〈えー……〉
まずい。普通に迷った。気付いたら日が落ちている。
何か目印のある方が黒霧も迎えに来やすいだろう。でも暗いから目印はなく、コンビニなんかがあっても『ワープゲート』の移動の時に目立ってしまう。
『
コンビニで落ち合って、人目のないところで黒霧に個性を使って貰えばいいのだが、凍火はその発想に至らなかった。
望たちは散歩したいという凍火の意見を尊重。
「ひぇええええ!!!」
子どもの悲鳴だ。
凍火は反射的にそっちに走った。
◇◆◇
いつも通りの仕事だった。
公安の指示通り、悪徳ヒーローを殺す。
カウカウを見逃した時点でもう、ナガンから公安への信頼は薄れたけど。これ以上の混乱を招かないために必要なこと。
──本当に?
普通の芸能人や政治家。
薬物、不倫、賄賂、
清廉潔白なヒーロー像を守るために。
誰もそれをおかしいと思わない。思ってるかもしれないけど、声を上げない。
歪んだ世界を回す歯車がナガン。
でも、段々とその歯は他の歯車たちと噛み合わなくなっている。ナガンは他の公安職員のようには居られない。そもそも、初めから公安に入りたくてそうしたわけじゃないから、当然なのかもしれない。
ヒーローを撃ち抜く。
弾丸一発。無慈悲に、抵抗も遺言の1つも許さない。代わりに、無駄な苦しみは与えない。
繋がっている
賄賂の証拠は公安が消してくれる。
ナガンのやることはもうないはずだった。
「ひぇええええ!!!」
個性『千里眼』。
遠くの景色を見るのが趣味の少女。たまたま塾帰りに趣味をしながら歩いていただけ。
そんな個性を持つ者がナガンによる殺人を視たのは、互いにとってこれ以上にない不幸。
そして、声の遠さから、ナガンはその悲鳴を自分の犯行を目撃したせいとは思わなかった。
足音が近づく。そこで、ようやく不審に感じた。
少女たちはビルの隙間を恐る恐る覗く。
「あの……、この子の個性で遠くを見れるんですけど……、あなたが人を殺したって、さ、さすがに嘘ですよね、ね? 全く、
「と、とりあえず警察……」
お揃いの鞄は恐らく塾指定のもの。
女子中学生らしくキーホルダーでデコられていて、構えたスマホにも可愛いキャラクターシールが貼られている。
ナガンはスマホを反射的に撃ち抜いた。
地面に叩きつけられ、画面が割れる。
──見られた。
──公安に指示を。
公安の仕事の時に付けているインカムから男の声。
『ふむ、見つかったのか。これで盤面は整った。……『千里眼』は確保しなさい』
もう1人は生死を問わないということだった。
逃げようとする少女たちの足を撃ち抜く。
焦りはあるのに、公安の訓練のせいで感情が切り離されたような正確無比のスナイプが出来た。
「ナ、ナガンお姉さん……?」
凍火がいた。
おかしい。ここは轟家から離れている。なぜ?
ナガンは量産品の銃を構える。サポートアイテムの一種は、やっぱり自分の体とは違って手に馴染まない。
中にあるのは麻酔弾。有益な個性の人間を確保するため、公安に支給されたもの。
『千里眼』の少女を撃ち抜き、続けて凍火も撃つ。『千里眼』の友人をどうするか迷い、まだ麻酔弾に余裕があったから彼女へもそれを使った。
「『千里眼』とフロストゲイルの確保ご苦労。レディ・ナガン」
オーダーメイドスーツに身を包んだ、茶髪にピンク色の瞳の男。目の色が可愛いのすら気に入らない相手。
公安職員の願野
「労いのため、共に食事でもどうかね? そちらのフロストゲイル嬢も一緒に」
「……麻酔弾を撃ち込んだから、半日は起きないよ」
「起きているはずだろう。フロストゲイル嬢には毒への耐性もあるのだから」
凍火がピクリと動く。明らかに願野の言葉に反応した。
狸寝入りに気付かなかった。どうやら最近の疲れでよっぽど鈍っていたらしい。ナガンは軽く恥じながら、凍火の出方を伺う。
「食事……凛お姉さんのおかげで毒が大丈夫だから良いけど。焼きそばは出る?」
「懐石料理屋にあると思うか?」
「……こんな小さい子、そんなのわからないだろ」
「懐石……うん、鯛とかあるの? わかった。なら行く。まずかったら帰るよ。あなたたちが嫌なお話しても帰る。捕まえようとしても。それと、その子たちを帰してあげないなら暴れる」
「『千里眼』は惜しいが……これくらいなら他の公安職員へ隠蔽出来るか」
願野は部下に連絡し、子どもたちを帰すよう指示。
「これで良いだろう。私の要件は2つ。要求が2つと、情報伝達が1つ」
「……何?」
「1つ目の要求は私の息子と──望と1度だけで良いから話させて欲しい。5分……あれが嫌がるなら1分でも構わない」
「……〈情報が何か聞いてから〉って」
「そうか。情報はヒーロー公安委員会現委員長が行っている『人工複数個性保持者実験』の後追い人体実験についてだ。そして、重ねての要求は、」
2人の話に着いて行けない。
何より、願野の息子への思いは『代わりを作れる』程度の物。それをあんな殊勝な態度で会話を頼むのがわからない。
凍火に亡くなった息子との会話を頼むのもわからないし、凍火が彼の言葉を代弁したようなのも意味不明。
『実験』は成功していて、『イタコ』みたいな個性でも得たのだろうか?
「ヒーロー公安委員会現委員長の暗殺。公安という立場から色々便宜を計る代わりに、フロストゲイル嬢にはそれを行って欲しい」
「……は?」
1番大きな“わからない”が、唐突にナガンの耳へ飛び込んだ。
オリキャラ・オリ個性等の設定まとめ
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欲しい(各章の最後に、その章でのまとめ)
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欲しい(最新話段階でのまとめを第1話)
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どちらでも良い
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いらない