亡霊たちの████アカデミア 作:炭火カルビ
自分ならナガンにも
〈……。父さんが何かやらかしても俺に遠慮しないでくれ。アイツはクズだから〉
〈ヒーローの上の人が悪いこと企んでるから、コーアンは悪? ならヒーローも悪……偽物!〉
「この1年、ずっとお前を探してたんだ。望」
〈凍火ちゃん、口だけ貸してくれ〉
(うん……)
「〈ごめん、父さん。でも、まさか父さんが俺の心配のためだけに、フロストゲイルを確保しに来たって訳ないだろ?〉」
「さすが、私が英才教育を施した傑作だ。心配したのは事実だ。願野家の遺伝子、そして母さんの遺伝子を継いだ子が何をされたか、不安で夜しか眠れなかったよ」
「〈寝れてんじゃん。お前はほんと、俺のことを母さんの子どもとしか見てねえんだな〉」
「父親に向かってお前とはなんだ。死んでもその悪癖は治らないのか。全く」
〈……望センパイはお父さんのこと嫌いって言ってたけど、普通の人じゃない?〉
(エンデヴァーよりは良いお父さんだと思う……)
口が自分の意思以外で動く。
それはとても不気味なことのはずなのに、なぜか怖いとは思わなかった。
「〈それで、凍火ちゃんを捕まえないのか? わざわざ公安直属のヒーローまで使って接触したんだろ?〉」
「……知ってたの?」
「〈俺は父さんから聞いただけ。凍火ちゃんには教えてない〉」
焦った様な声のナガンに、望が説明した。
「公安より早いフロストゲイル嬢との接触が最大の目的だ。レディ・ナガン以外のどのヒーローよりも、どの警察よりも早く接触しないといけなかった。オールマイトとお前が交戦した時には肝が冷えたよ」
「〈……アンタも公安の一員だろ? てか
「人体実験か、あるいは我らが銃の後継か。そんなものに息子をさせたくないと思うのは親として当然だろ?」
「〈あれー、おかしいなー? 俺がヒーローになりたいって言ったらネチネチ叱ったくせに〉」
「お前には公安の備品としての役目以外認めていないからな。公安は今、1つの派閥争いをしていてね。現委員長と、副委員長の戦いさ。というわけで、お前には平和のために現公安委員長を殺して欲しい」
「こんな小さい子に何させるつもりなんだ!? 私にさせれば良いじゃないか!」
「子どものしたいことをさせるのが良い親なのだろう? 私はそれに則ったつもりだが」
望の父は顔色1つ変えない。何を話していても平常心だ。
対してナガンは怒りからか声を荒げた。よくわからない。
〈コイツと話すと疲れるんだよ……〉
〈
〈……僅差でクソ親父。凍火ちゃん、ごめん。戻る。あんまり凍火ちゃんの口を借りるのも良くないし〉
(でも、久しぶりのお父さんとのお話だよ……? 望お兄さんが満足するまで、長い時間でもいいよ?)
〈俺の親父は、凍火ちゃんにとってのエンデヴァー並みに嫌いなの。それに普通死人は話さねえんだよ〉
「〈そろそろ俺がこの子の体操れる限界だから。中で話だけは聞いてる。この子に変なことはするなよ〉」
「しないとも」
凍火に口を動かす主導権が戻った。
「今の公安委員長は過激派。副委員長は穏便派。望にも教えたな? ……必要とあれば副委員長も殺人を命じるだろうが、彼女がトップを張れば公安が平和の犠牲にする人間はおよそ3割程度減る」
「たった3割か……」
「元が100人なら30人減るのだぞ。今の公安委員長が殺し過ぎなだけかもしれまいがな。本当にヒーロー社会への信頼を揺るがす情報を知ってしまった者や、汚職ヒーローだけが標的だったわけではない。派閥争いの一環で、副委員長やその他有力者の味方をレディ・ナガン、お前に指示して殺させたことも数え切れない」
「は……」
願野は流れるように言葉を紡ぐ。
「ヒーロー公安委員会も──正確には現委員長とその派閥主導で始末予定の者を用いて『実験』を行っている。全く無意味なものだ。成功どころか、薬品を投与されての生き残りすら存在しない」
「あ、先生から聞きました」
「先生? 学校のじゃないよね?」
「そうか。始末予定の者──有益な個性を持っただけの無辜の市民が多く犠牲になっているのだよ。もちろん私はそれに反対しているさ」
「待って。私そんなの知らない……」
「銃ごとき替えはいくらでもあるからな。お前はペンを使う時、いちいち『君はこれをメモするために使われてるんだよ』と教えるのか?」
「あ、あの……お姉さんってば車酔いしちゃったみたいので、どこかで止めて貰えませんか?」
ナガンの顔が紙のように真っ白。
凍火は心配して提案した。
「そろそろ着くから問題ない」
「〈はー? それ決めるのはお前じゃないんだが?〉ってお兄さんが」
「そうか。親に随分偉い口を叩くようになったものだな。『実験』のメインが優秀だっただけで、その強化パーツごときが強くなったつもりなのか」
「……えっと、〈息子にそれか。家柄が良かっただけで出世出来たくせに〉……あの、喧嘩しないでくださいね」
「ただの遠慮のない親子の会話だ」
「あの、でも、お兄さんはあなたが嫌いだって」
「照れ隠しだろう」
ナガンと望のため息が、凍火の中でだけ重なった。
車を降りて店に入る。
凍火はお上りさんみたいにキョロキョロしたかったけど、明らかに正気ではないナガンが車に轢かれずに駐車場を歩けるのか不安で、それどころではなかった。
「お姉さん、大丈夫?」
「……望くんだっけ? お父さんに騙されないで」
「えっと……?」
「アイツは息子のことすら道具としか思っていないの。……望が死んだなら代わりを妻に産ませようかって、そんなことを言ってた」
「〈そういうやつなのはわかってるから平気〉だって」
「…………」
お淑やかな着物の人に案内されて席に着く。
凍火が普段行くようなお店と違い、自分たち以外の音も気配も視線もない。落ち着くような、反対に落ち着かないような。
「レディ・ナガン。そもそも違和感を覚えなかったか? 最近、殺害命令ではなく捕縛命令の方が多いことに」
「……まさか、全員『実験』とやらに」
「その通りだ」
何か料理を頼んだ方が良いの?
思ったけど、大人2人は飲み物だけ。凍火は真面目な話だから、りんごジュースにしておく。ソーダと迷ったけど炭酸は子どもっぽい。
抹茶パフェ気になるな。頼んで良いかな。
凍火はソワソワする。願野に聞くタイミングがなかなかない。
「だが気にする必要はない。殺したのは君でなく別の人間だ。むしろ背負う罪が軽くなったのを──」
「そういう問題じゃないだろ!? ……ぁ」
ナガンが机を叩いた。
コップの中の液体が揺れる。危うく溢れそうだったそれを見て、彼女は僅かに冷静さを取り戻したらしかった。
〈あれ、親父なりに本気でおめでとうと思って言ってる〉
〈ヒーローが殺人して……偉いところが肯定してる……嘘……〉
(本当だよ)
〈ファンだったのに……あんな悪人なんて〉
(ナガンお姉さんも多分事情があったんだよ!)
「望、
「はい……」
「つまりは『実験』を試みる組織や繋がりのある者の存在は許せないわけだ。まあ、売人とチンピラへの襲撃理由には疑問が残るが。繰り返そう。我々全員に利益のある提案だ。フロストゲイル嬢、現公安委員長の暗殺をしてくれ」
「……その人が『実験』をさせたから。それで凍火たちには殺す理由がある」
「その通りさ」
異論はない。
むしろ、オール・フォー・ワンから公安が『実験』を行ったと聞いてから、ずっと心のどこかがムズムズしていた。
「凍火ちゃんがそんなことする必要ないだろ!?」
「あるよ。あれの被害者の凍火たちなら、やり返す権利がたくさんあるの」
「でも、殺人だぞ……?」
「初めてじゃないよ。みんなのお手手集めても足りない回数」
「そんな…………」
ナガンは押し黙ってしまったけど、気にするのはそんなことじゃない。
凍火は願野が始末対象が見極めるため口を開く。
「望お兄さんのお父さんが『実験』に関わっていない証拠は?」
「ふむ、関わっていない証拠は出せない。口ではもちろんいくらでも言えるが、それで信用出来るのか?」
「……出来ないよ。どうして証拠を出せないの?」
「君はしていないことの証明を出来るのか? そうだな……君の趣味は」
「読書。今日は教科書以外読んでないけど」
「ならばその証明をしたまえ」
「凍火は図書室にも図書館にも行っていないよ」
「その証拠は?」
「えっと、図書カードとかに借りたの書いてないもん」
「貸出手続きをしていなくともその場で読んだ可能性はあるな」
「司書さんが凍火が来てないって知ってるかも」
大勢が来たのに、『来なかった人間』を正答出来るのか?
防犯カメラが壊れていたら?
そもそも友人から何かしらを借りて読んでいない証拠は?
難しい質問をたくさんされて、凍火は頭をグルグル回した。
「〈凍火ちゃんに意地悪すんな!〉って、望お兄さんが……」
「意地悪はしていないだろう。『実験』に関わっていた以外にも公安委員長に死ぬべき理由はある」
「何?」
「己の私欲で情報部を動かした結果、カウカウの悪事を見抜けず、国民のヒーローへの信頼を低下させた無能。平和を守るためにレディ・ナガンを使い殺人までさせたのだから、守りきれなかった以上、命をもってこれまでの尊い犠牲に償うべきだ」
「己の私欲っていうのは……?」
「当然『実験』のことさ。人心掌握に読心、体を頑丈にする個性、治癒系の個性に、寿命増加。永遠の統治のため、おそらくはそれらの個性を自分に統合しようとしたのだろう。それらが出来そうな個性のピックアップと、個性の持ち主の捕獲理由をどうでっち上げるかに頭を回していたらしい」
前に望が話していたのと似たような内容だ。
きちんとした親子だと話すことも似るのかな? 凍火は思った。
〈凍火ちゃん、あんなクソ野郎の思い通りになる筋合いはない。どうせ委員長が死んで副委員長がトップになった方が操りやすいとか、そんな汚い考えだ! 地位が高いと危険だからって、わざと昇進しないような奴だぞ!?〉
〈出来るのにやんないのは悪だね! でも、殺人を勧めるのも悪だよ! 望センパイのお父さんはすっごく悪い人なんだね!〉
(……でも凍火も面倒だから図書係やるのやめたからなぁ。凍火も悪い子?)
〈ぐっ……なら、ワタシも悪人になる……!〉
葛藤する彩葉はさておき。
凍火の中では誰がどう言おうが、公安委員長を殺すともう決まっていた。
「とにかく、この件についてご検討願うよ。何か連絡があれば望に私の連絡先を聞きなさい」
「あっ……はい」
「凍火ちゃん」
ナガンが青ざめた顔で口を開く。『温度操作』で温めてあげた方が良い? 凍火は迷って、結局やめる。
「そんなこと全く考えなくて良いから。全部、ヒーローが……私が何とかするから、今日のことは忘れて」
「…………はい」
もちろんそんな大きなこと、凍火じゃ決められない。
ならば大人に相談。凍火が最も信頼できる大人といえば──。
◇◆◇
「そうだね……放っておきなさい」
オール・フォー・ワンからの回答はこうだった。
「でも、その、先生なら望お兄さんのお父さんや公安委員長って人が、本当に悪いことをしているのかわかりますよね!? 凍火はそれ聞いて自分で決めたいです」
「公安委員長については、彼の説明通りさ。平和を守るために悪事を行う。捲られたら終わりの見せかけのヴェールを保つだけにね」
「望お兄さんのお父さんは……?」
「公安委員長ほどではなくとも、それなりの悪事は働いているよ。特に、息子への扱いは僕でもドン引きさ」
「望お兄さんへの扱い……?」
「本人に聞いてみたらどうだい?」
オール・フォー・ワンの提案に従い、凍火は聞いてみる。
確かに息子の意思をあまり尊重していなさそうだったけど、口答えは許していたし、エンデヴァーよりはマシじゃないのか。
(望お兄さん……?)
〈あー……俺の親は、俺を絶対に公安に就職させようとしてた。ヒーローとかの命の危険がある仕事は絶対ダメって〉
〈お父さんなら普通じゃない? ワタシのお父さんもそうだったよ〉
彩葉の言葉に──凍火の父がそう思ってくれてるかはともかくとして──賛成。
望がプルプル頭を横に振ったように感じた。
〈俺の個性の話はしたよな?〉
〈ごめん望センパイ、ワタシ聞いてない……〉
〈あー……代償付きで、自分の身体能力──足の速さとか体力とか、知力とか自然治癒力を上げられるんだ。代償さえ受け入れられれば、無制限〉
〈凄く強い個性じゃん!!! なのにどうして、ヒーローになっちゃダメなの!!〉
(代償は辛いんだよ。望お兄さんは2年間もぐったりしてたのに、凄いって言うの?)
凍火が彩葉を叱ると、望に嗜められた。
〈凍火ちゃん、俺は気にしてないから喧嘩腰はやめてくれ。……俺の個性は他人の身体能力向上にも使えるんだ。ただし代償は常に俺に来る〉
〈つまり……?〉
望は一息溜めて言い放つ。
〈オールマイトがやべー
〈オールマイトはそんなことさせないよ!!〉
〈彩葉ちゃん、俺の個性には強化する相手の合意はいらないんだ。一方的にやって、『あなたのために1人の少年が犠牲になりました』とでも言えばさ、オールマイトみたいな優しい人は死ぬまでヒーロー続けるしかないだろ〉
〈それは……望センパイの命を無駄にするわけにはいかないって、思うだろうけど……〉
寿命の向上すら出来る個性。
凍火は不信感たっぷりに口を開く。正しくは念ずる。
(
出来なかったと言って欲しい。
じゃないと、凍火はもう、望を全く信用出来ないから。
〈わからない……。実現可能性が低いものほど、代償がデカいのは言ったよな?〉
(うん)
〈ワタシは初耳〉
〈今言った。凪ちゃんの容態はああだったから、個性を使えても代償で凍火ちゃんが死ぬ可能性があった。だから提案しなかった。……ごめん〉
(……そう)
出来たかもしれないんだ。
凪のためなら死んでも良かったのに。あの子の寿命をほんの少しでも伸ばしてあげられてたら、
〈……凍火ちゃんが死んだら、ワタシたちはどうなるんだろう〉
彩葉がぽつりと呟いた。そんな怖いこと言わないでほしいのに、耳を塞いでも意味がない。
〈俺らもまとめて死ぬのか?〉
(一生幽霊として漂っているのかも)
〈幽霊の一生ってどれくらいだよ……〉
〈やめて、怖い……〉
(彩葉お姉さんが言い出したんじゃん)
〈そうだけど……!〉
「大丈夫かい?」
「えっ、はいっ! 大丈夫です! ごめんなさい!」
そういえばオール・フォー・ワンと話していたんだった!
つい会話に夢中になっていた。凍火はハッとする。
「ええと……お兄さんに色々聞いてました……」
「体調が悪いわけじゃないなら良かったよ。彼が公安の備品であることは知ったんだね?」
「はい……」
縮こまる凍火の緊張を和らげるように、オール・フォー・ワンはクッキーを薦めた。
上にチョコが塗ってある。市販のでも似たようなものはあるけど、味や食感が全然違う。
「彼らが何をしているのか。どんな人物か。実際に自分で確かめて見ると良いさ」
「どうやって……?」
「君の個性ならそれが出来る。実際、
「あっ! 『色塗り』の……」
カメレオンのように背後の景色に溶け込む使い方。確かにやった記憶がある。
「これらが君の知りたいことを知るために行くべきところさ」
〈けっ、カッコつけやがって。『ヒーロー公安委員会の住所だよ』で良いだろ〉
「ありがとうございます……」
「1つ聞きたいのだけど……君は僕のことを疑っているのかい?」
「えっ!?」
また皮膚がゾワゾワする。
なぜそんな質問されるのかわからなくて、凍火は怯えた。
「公安が『実験』をしているのは、願野望の父からも、僕からも聞いた話だろう?」
「えっと……。でも、国の偉いところがそんなことしてるの、やっぱり信じられないし……もし偉いところの偉い人を殺して、大変なことになったらと思うと、怖くって」
言うと、オール・フォー・ワンはどこか納得行かなそうな態度だ。
「なら、君の目で存分に見てくるといいさ。公安の──ヒーロー社会の歪さを」
「ヒーローの悪いところなら、もうたくさん見ましたよ」
〈…………うん。偽物は悪だよ〉
彩葉が小さく呟いた。
彼女がヒーローなら◯◯しないと言う回数は減った。代わりに偽物だの正義だの悪だのうるさいけど。
どれが致命的なきっかけがわからないが、折れてくれたらしい。
今の彼女なら、前までより好きになれそうだ。
これまでのナガンさんの始末対象(全員殺害による始末)
→悪徳ヒーロー、公安の裏を知ってしまったジャーナリスト、ヒーローによる犯罪の目撃者・被害者
公安委員長が『実験』の成功を知ってからの始末対象(相手の個性によって殺害だったり誘拐だったり)
→これまでの始末対象の比率を少なめに、犯罪の目撃者ですらない個性が強い一般市民と、公安内敵対派閥の人間と親族(今後続く自分による永遠の統治のため)を追加。
公安の情報部を『ヒーローによる犯罪』を把握する方でなく、『有用な個性』の把握のために動かしたため、漏れが発生。
つまり、カウカウが放置されたのは大体凍火のせいです。
オリキャラ・オリ個性等の設定まとめ
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欲しい(各章の最後に、その章でのまとめ)
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欲しい(最新話段階でのまとめを第1話)
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どちらでも良い
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いらない